ベイルアウト
「こちら空中管制機。方位080より急速接近中の機影あり。まもなくミサイルの射程に到達する。応戦せよ。」
「こちらワスプ・ワン。了解。旋回して応戦する。」
「こちら二番機。どういうことだ?敵討ちに来たのか?」
「こちら三番機。そういうことさ。俺たちは恨みを買いまくってるからな。」
「おい。おまえたち、無駄口たたいてる暇があったら計器をチェックしろ。」
「こちら二番機。おい、デッカーどうする?燃料が少なくなってきてるぞ。」
「仕方ない。巡航速度で会敵まで燃料を節約だ。速度を450ノットまで落とすんだ。会敵後もできるだけ巡航速度を維持しろ。よし、旋回して方位080に向かう。」
帰路に向かっていた機体を旋回させ、小隊は080に進路を取った。その後、速度を落とし、敵に向き合う形で飛んでいる。そのときだった。
「ロック警報!こちらワスプ・ワン!敵にロックされている!各機、散開だ!」
上下左右に小隊は散った。しかし、イオリアのロックオンはそう簡単にかわせるものではない。
「白鳥、攻撃を許可する。」
「了解。ミサイル発射。」
彼女は機体下部に搭載されているセミアクティブミサイルを発射した。これは長射程で誘導性能が高い。
デッカーはミサイルに正面から突っ込んでいく。セミアクティブ式ミサイルは誘導性能が非常に高いので通常の回避行動ではまず逃げきれない。そこで大尉はミサイルに正面から突っ込んですり抜けるように回避する方法を選んだ。
ミサイルがすり抜ける瞬間、わずかに機体を傾けてた。
その横をミサイルが通り過ぎていく。
ミサイルの誘導装置は弾頭にあるため、前方のわずかな範囲しか敵を探知できない。すれちがい目標を見失ったミサイルはそのまま虚空の彼方へと飛んでいった。
「小手調べのつもりだったけど、やはり腕は立つようね。接近戦に持ち込むしか勝ち目はないようね。」マスクの下でイオリアは一人ごちた。
「こちら管制機。敵の速度が格段に上昇した。増槽を捨てて身軽になったようだ。接近戦になりそうだ。」
「ワスプ・ワン、了解。よしこのまま接近するぞ。ミサイルはロックしたらすぐに撃つんだ。」
二番機がイオリアに向けてミサイルを放ったがあっさり回避されてしまった。その後、彼らの真上を背面飛びで通り過ぎていった。
「速い!なんて機動だ。」
「スホーイ33か。俺たちじゃ分が悪いぞ。」
「こちら4番。たしか、F-15で奴に勝てる確率は40%以下だぞ。」
「こちらワスプ・ワン。数ならこっちが上だ。何とか押し込めないか?」
「こちら三番!奴のケツを追ってるが、ヤロウ、上下左右に揺れやがって、ロックできん!うおっ!なんだ!?」
「おい三番!ギャズ!どうした!?」
デッカーはマスクの中で叫んでいた。
「ヤロウ、オーバーシュートのような動きをして、今じゃ俺が追われている!」
「待ってろ!助けにいく!」
「よせ!ウィル!正面からは危険だ!」
デッカーの制止も聞かず、四番機が正面からイオリアに突進していく。
「もらった!」
すれ違いざまに機銃をイオリアは浴びせた。機首におもいっきり弾を喰らい、コックピットが爆発してしまった。
「くそ!ウィルがやられた。一瞬だったぞ!」
「リー!行くな。」
「黙って見ている訳にはいかんぞ!」
「違う。いつものやつだ。」
「オーケー。行くぞ!」
三番機と一番機が入れ替わり、二番機と三番機がイオリアの背後に回った。その瞬間、イオリアは急旋回し、ぶつかるぎりぎりで右に抜けた。
「くそ!なんて機動だ。ヤロウ、最小旋回面を維持して飛んでやがる。」三番機がグチる。
「まだ負けた訳じゃない!有り弾全部ぶちかますんだ!」
「くそヤロウが!」
二番機が機銃をイオリアに向けて放ったが、急下降し、回避してしまった。
「くそ、見えねえぞ。どこに消えた!?」ギャズは混乱してしまっている。
「右だ!下だ!ギャズ!お前だ!」キャノピーの反射を見つけたデッカーが叫ぶ。
しかし、次の瞬間、ミサイルが彼の右下から飛来してきた。
「くそっ!だめだ避けきれねえ!脱出する!」
「やめろギャズ!下は海だ!」
結局、ベイルアウトする暇もなくミサイルが爆発し、エンジンと翼の燃料タンクが引火して四散してしまった。
「ギャズ・・・。くそっ、デッカー、どうする?」
「いつものだ・・・。敵は取る。」
「了解。」
一番機はわざと鈍く飛び、イオリアを後ろにつかせる。イオリアの後ろから二番機が飛来してきたが、次の瞬間、機首を持ち上げ、地面と垂直にしたまま維持した。
「何だ!?あの動きは。」
リーはそれに見とれてしまっていた。しかし、イオリアはそのまま方向を変え、二番機の方へ機首を向けて短く機銃を放った。
後ろで爆発する二番機を見たデッカーは、必死で対抗策を考えた。さっきの機動といい、性能と腕ではまず勝てない。ここは機体を捨ててまで攻撃を仕掛ける必要がある。
そのためには、これしかない・・・。
デッカーは急上昇した。イオリアもそれに追従する。ある角度、高度に達するとデッカーは機体に急ブレーキをかけて失速させ、急激に落下した。一瞬だけ機首がイオリアの方向に向いた瞬間に短く機銃を放った。
「ストール・ターン!?捨て身ね・・・。まずいわ、左エンジンが炎上してる。白鳥、ベイルアウトします!」
そう言うと座席下のレバーを引いた。座席が勢いよく射出され、パラシュートが開いた。
一方、デッカーの機体は制御不能に陥り、対応を迫られていた。
「操縦桿が効かない!速度も保てない・・・。ワスプ・ワン、脱出する!」
次の瞬間、彼の体は大空へ投げ出された。遅れてパラシュートが開く。さっきまで彼が乗っていた機体は、はるか前方へと飛んで行ってしまった。
足下には緑の大地が広がっている。南米の密林地帯だ。リゾートにはもってこいだが、ゲリラが潜んで居るとなると話は別になってくる。陸地から外れないようにパラシュートの向きを調整しながら大尉はゆっくりと降下していった。