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「とめーとめー」
その頃おばあちゃんはいなくなったとめを探していた。
おばあちゃんがとめを捨てたのではなかったのだ。
「春美さん、とめをしらないかい?私がでかけてる間にとめがいなくなったんだ」
おばあちゃんは、リビングで茶を飲みくつろいでいる春美に言った
春美は、おばあちゃんの息子の嫁で同居をしている。
春美は、その言葉に少しマズい表情をしたがすぐににこやかに返事をした。
「しりませんけど?」
春美は、そう言い茶を飲み、テレビの中のドラマに釘付けになる。
「おかしいねぇ…春美さん、私が函館に行ってる間ずっと家にいたんでしょう?とめの世話も、春美さんに頼んでたじゃない」
「…あぁ…そういえば私が洗濯物を干している間に逃げたのかもしれないですね」
「逃げた?とめが??」
「えぇ。犬だって野性的な生き物ですから外の世界で自由に暮らしたいと思うんじゃないですか?」
「…もしかして春美さん」
おばあちゃんがそう言いかけた時春美は立ち上がりせっせと掃除機にスイッチをいれ掃除をし始めた
「春美さん!!」
おばあちゃんが言うが、春美はまるで聞こえぬふり。
「春美さん!!」
再度呼びかける。だが反応は同じだ。
おばあちゃんは掃除機のコンセントを抜き、春美につめよった。
「春美さん!!とめを捨てたんじゃないだろうね?!」
春美はたじろぎ、暫し沈黙を続けていたが痺れをきらしたのかついに口を開いた
「…おばあちゃんだってわかってるでしょ。生活が苦しいんですよ…犬一匹の世話するの、どれだけ大変な事か。それにねおばあちゃん。あの犬おばあちゃんがいなくなったら吠えてうるさいんです。そのせいでご近所から苦情がでて私に被害がくるんですよ。」
春美の口から吐かれたことばはまさに開きなおりだ。
「っとめは何も悪くないじゃないか!!」
「私も悪くありませんよ。まったく…これだから年寄りは自分の事しか考えないの…」
春美は、残酷な言葉をおばあちゃんに浴びせた。
「…この悪魔っ!!」
おばあちゃんは春美の足を力のある限り握った。
「痛っ!!離してよ!!」
春美は、足を振り回しおばあちゃんを蹴りつけた。そのせいでおばあちゃんはお腹を強打し、抱えこんだ。
「そんなに犬と暮らしたいなら一人で住めばいいじゃない!!」
春美は乱れた髪を整え怒鳴った。そして、ふん!!と息をちらしリビングを出ていった。
「返せーっ!!とめを返せー!!返せー!!!!!」
おばあちゃんはうずくまりながらも、叫んだ。春美はその言葉を無視し二階へと上がっていった。
「うっ…ううっ…とめ…ごめんね」
虚しく、おばあちゃんの泣き声がリビングに響いた。
とめは、おばあちゃんが知り合いからもらった子犬だった。
特に楽しみもない毎日を過ごしていたおばあちゃんが唯一見つけた【楽しみ】であり【安らぎ】だった。
寂しがりやのおばあちゃんはとめを寝る時も一時も離さなかった。
愛していた夫も早くに亡くし孤独だった。
心にぽっかりあいた穴を、とめが埋めてくれたのだ。
とめは、まるでおばあちゃんの言葉を理解しているようだった。
おばあちゃんが悲しい時も
慰めるようにして傍にいて手を舐める。
おばあちゃんが笑っている時は
尻尾を振り一緒に笑っているかのよう。
とめはおばあちゃんの、全てだ。
そんなとめが、いなくなった。
おばあちゃんは、絶望感に襲われた。
「とめ…私しゃもう、とめなしじゃ…」
おばあちゃんはポツリと力なく呟いた。
おばあちゃん。
ぼく、ケンていう友達ができた。だから、おばあちゃんにも紹介するよ。
『とめ〜腹へった』
ケンはごろりと芝生に寝ころんだ
あれからどれだけ進んだのだろうか。それはとめにはわからない。
『ぼくもおなかすいた』
とめはケンの隣に寝ころんだ。
『肉〜肉肉〜』
ケンは、リズムにのせて言った。
『にく〜♪にくにく♪』
とめは楽しげにケンと一緒に歌いだす。
『『にく〜♪にくにくっ♪にくにく〜にく〜♪』』
だがそれは逆効果だったらしい。
2人のお腹が同時にぐぅ〜と鳴った。
『…いい加減肉ほしいよな』
『うん』
そんな2人の前に、カラスが舞い降りてきた。
2人は目をみあわせ、ごくりと唾を飲み込んだ。
『…グルメだぞ』
ケンが言い、2人は立ち上がりそろりそろりとカラスに近づき、そしてタイミングよくはさみ打ち!
カァカァカァ!!
しかし、カラスは一瞬にして飛びたった。
『『はぁ〜』』
2人は同時に肩を落とした。
おばあちゃん、お腹へったよ
おばあちゃん、ぼく
おばあちゃんのおはぎが食べたいな。
すっごくおいしいの
おばあちゃん、
でもね、
ぼくね、
わがまま言ってたら
おばあちゃんに会えないから
ガマンするよ
だから、
早くおばあちゃんに
会いたい。