71「大地の輝き-1」
ファンタジーで宝石って聞くと某ロマンシングな2を思い出す私です。
鉱山の街、スピキュール。
あるとき、オーガの頭ほどもある大きさの魔力の塊ともいうべき原石が産出し、
一躍有名になったという鉱山を抱える街だ。
宝石以外にも銀等の金属類も多く産出され、
街はそれらを掘る鉱夫と、加工する職人が多いという。
街の情報は出発までに仕入れた話が半分、
そしてMDにあったとある街の今の姿だろうというのが半分だ。
(確かMDだと普通に山だったんだがな……)
ドワーフや人間の職人たちが行き交う、俺のような鍛冶タイプ御用達の狩場だった。
アクセサリーに主に使う宝石類のほか、
武具への特殊効果付与に使いやすい素材が多く掘れる場所だった。
山の上のほうが前半で、クエストを突破することで
転送ポールから後半戦、恐らくは今、
目の前に広がっている丘の下へと進めるダンジョンだったはずだ。
モンスターのドロップ内容も場所に見合った物で、
後半戦最深部にあるホールのような空間で戦うボスからのドロップは、
オリハルコンにも匹敵する値段だった記憶がある。
そうでなくても、雑魚のドロップはNPC売りでも
それなりのお金になるので、浅い場所でもよく稼ぎに来たものだ。
ただの鉱山ではなく、ポールがあったように、古代の遺跡か何かだとMDで設定があった気がする。
『該当クエストは24件。全部攻略済みじゃなかったかしら?』
「半分ぐらいはパーティーに助けてもらったけどな」
同行した商人たちとの話をしているキャニーたちを横目に、
俺はユーミとひそひそ話である。
「……しかし、どういうことだ? 山はどこいった」
『ずっと地下にいたから細かい世界事情はわからないかな。でも何かいつだったか大きいゆれがあったような……あ、魔法的な意味でね』
(揺れ?……そういえば何か噴火でもしたような感じだな)
俺は街の周囲に広がる岩肌や小高い丘の歪な形を見てそう考えた。
勿論、ここは火山ではないので溶岩が回りにあふれた!とか
そういった話ではないのだろう。
「この辺りは街で聞き込むかな」
戻ってくる2人へと手を振り、俺はそうまとめて背を預けていた馬車から離れるのだった。
「お待たせ。お勧めの宿とか聞いてたらつい話し込んじゃったわ」
「後はね~、お屋敷かな? この前あわてて戻ってきた領主みたいな人の話だよ」
どこかガイストールのそれにも似た街を歩きながら、2人の話を聞く。
道に並ぶ露店も、大なり小なり、アクセサリーが多い気がする。
よく見ると、看板代わりに店の上部分に妙な紋章のようなものが刻まれている。
チェーン展開でもしてるのか?
気になった俺は、関係がなさそうな果物売りの露店のおばちゃんに聞いてみることにした。
「おばちゃん、それ3つ……ありがとう。
ここには初めて来たんだが、あの紋章みたいなのは何か意味があるのか?」
りんごにも似たそれを受け取り、3人で口をつける。
おばちゃんは少し驚いた様子でこちらを見、何かに納得したように頷いた。
「あれはどこで学びましたって証さ。この街にはいくつも流派というか、
装飾品の模様に対して権利を持ってる集まりがあってね。
宝飾ギルド、とでもいえばいいかねえ? そこでちゃんとお金を払って、
ウチの模様を使って良いよってなったらああやって掲げられるのさ」
暇だったのか、おばちゃんは所属するメンバーが思いついた模様の買取なども行っていることを教えてくれた。
(売れる模様を考えてもそのままだと勝手に使われる。だとすればどこかに所属して保護してもらうのがってとこか)
現代でいうブランドのようなものだと解釈し、再び街を歩く。
「えーっと、この辺りに……あった、あれみたいね」
キャニーが指差す先にはなにやら窓の少ない建物。
俺の気のせいでなければ、普通ではないような……。
そう、あまり疲れを癒す場所ではないような……。
「……お姉ちゃん、どんな宿を探してるって聞いたの?」
ミリーは何かを感じたのか、姉に向かって問いただす。
「え? 安くて3人部屋でも大丈夫で、汚れてないところ」
何か問題でも?とこちらを見るキャニー。
(……ああ、うん。キャニーは悪くないな、うん)
俺の予想通りなら、中の人間も干渉はしてこないだろう。
「ま、安いに越したことは無いさ。行こうか」
腰が引けた様子のミリーを誘いつつ、俺は左右に2人を連れ立って建物にすばやく入る。
中は少し薄暗く、階段の上にいる人間の表情を伺うのは難しい感じだ。
宿屋にありがちな酒場のようなものは無く、受付といくつもの出口に通じるだろう通路、
受付の壁には料金などがかかっている。
「3人で。どっちかというと観光気味だから備え付けは簡単な部屋でいい。
出来れば明かりが入ってくるほうだといいな。一週間ぐらい頼む」
俺は一息に言い放ち、手から表記の料金よりも
3割ほど上の代金を一括で受付の女性、こういう場所の割りに妙齢の相手へと渡した。
ちらりと、こちらを見た女性は渡された銀貨を確認し、にこやかに微笑んだ。
「ようこそ。掃除が必要ない場合には部屋の専用板を外に出しておいてください。
何も出ていなければ部屋に入って、朝からお昼にかけて掃除をさせていただきます。
補充品が必要な場合には赤い札を同じように出しておいてください」
出てくるのは簡潔な返答。
こちらの身分を確認したり、どういう関係だとかも聞かない。
聞きようによっては普通の宿よりもいいサービスを行っているようにさえ聞こえるから不思議だ。
2階の一番奥です、と鍵を手渡され、やっぱり、という感じになっているミリーと、
あれ?という感じになっているキャニーとで階段を上がる。
思ったよりもしっかりしている建物の奥へと進むと、
偶然にもとある部屋から出てくる2人組と出会う。
見覚えは無いが、身なりの良い感じの男女だ。
ちらりと向けられた視線に深い意味は無く、
互いに道端に転がる石のように気にせずすれ違う。
「え……」
キャニーの何かに気がついた声だけが静かに残り、目的となる部屋にたどり着く。
鍵をあけて中を見ると、普通の宿と比べればわずかに小さいか、と思える窓から
日の光は十分に差し込んでいる。
水の入った桶がいくつも部屋の隅にあり、
体を洗うような部屋まであった。
「よし、荷物を置いたら聞き込みに行くか」
「そうだね~。お、香油みっけ」
適当なところに外に出しておいても良いような荷物を置いた俺が声をかけると、
ミリーはベッド近くの戸棚の中からいくつかの陶器製の器を取り出していた。
蓋を開けると、独特のにおいがする。
「ほう……複数あるのか。なかなかいいな。……どうした?」
部屋に入った途端、荷物を取り落とし、固まったままのキャニーに声をかける。
心なしか顔が赤いような気がする。
まさか恥ずかしがっているのか?
であったときはああいう店だったのに?
「あの店よりは地味なもんだろう?」
「あれは仕事だったし必死でよく見てなかったのよ!」
瞬間、間合いを詰めてくるキャニー。
と思ったところでもう馬鹿!と言わんばかりの張り手が俺を襲い、部屋に乾いた音が響くのであった。
「何も本気でたたくことは無いだろう」
「ごめんねって言ってるじゃない」
油断したところへの一撃は、手形とは言わなくても赤くなっていそうだった。
「まぁまぁ、そのぐらいで……あ、あれかな?」
視界に入ってくる大き目の建物。
見覚えのある紋章の入った旗が出ていることから、間違いないだろう。
王の復活の場にいた貴族、ワイマールの屋敷だ。
当然門には見張りがいる。
「ここは勝手に入ってもらっては困る。何か約束は?」
「約束は無いんだ。ファクトが来た、と伝えてもらえば良いんだが……」
左右に2人ずつ、計4名の門番のうち、1人がいぶしがりながらも建物に入っていく。
しばらくのにらみ合いの後、中から戻ってきた1名が俺たちの前に立った。
「お会いするそうだ。案内する」
「本当に君か。いや、すまない。まさかと思ってね」
案内された応接間でやわらかいソファーに腰掛けていると、
正面の扉が開き、ワイマールが入ってくる。
出てきた言葉は思ったより好意的だった。
「いや、自分たちがこっちにきたのは半分偶然だからな。来たからには話を通しておくのが良いかと考えたんだ」
「そうか。それはありがたい。わざわざ来てくれたということは、何か手伝いをしてもらえるということかな?」
王のいる場所で取り乱していた様子は無く、冒険者である俺たちに
高圧的な様子も無い。
相応に話のわかる相手のようだ。
もっとも、厳しいか、こうでなくては宝石の生まれる街など
仕切れないという事か。
「何が出来るかはわからないけどな。とりあえず、魔石を求めて鉱山に入ってみようと思うから、
それにちょうど良いものがあれば一緒にやる、ぐらいかな」
「そもそも、鉱山には厄介なモンスターでもいるの?」
道すがら聞いた話によれば、鉱夫達は武器を持っていると聞く。
それに、鉱山しかないような場所で冒険者がいるというのも妙だ。
MD通りの設定なら、様々な相手がいる場所ではあるのだが……。
「いるとも。もっとも、昔に主ともいえる水晶竜が飛び去って以来は
大型の物は出ていないらしいがね。それでもどこからかモンスターは出てくるのだ」
(そうか、水晶竜はいないのか……)
MD時代の大ボスだったそのドラゴンが、何らかの手段で山ごと吹き飛ばし、
外に出て行ったということなのだろう。
もっとも、いたらいたで今のメンバーで倒すのはほぼ不可能だから逆にいいことだ。
「君には敢えて説明する必要も無いが、アベルのことを調べた結果、
目撃者が複数いた。なぜか鉱山の中だがね」
どこからか地図を1枚取り出したワイマールは、
入り口からずずっとなぞり、とある場所を指す。
「この辺りに聖女をかたどった像がなぜかあってね。広間のようになっている。
個人的には昔から残る一種の休憩所だと思うのだが、
ともあれそこにはモンスターが居つかないのだ」
ワイマールの説明に俺はゲームとしてのフロアの扱いなどを思い出していた。
「ここにそのアベルって人が?」
ミリーの問いかけに、ワイマールは頷く。
「ああ。どの目撃情報もこの辺りだ。いつの間にかいなくなってたそうだがね」
(本当に幽霊のような状態なのか、もしくは隠し通路があるのか)
見た目には岩肌でも、手順を踏めばそうではない空間に入れるのは
俺が経験している。
「了解した。いくつか討伐や採取の依頼を受けつつ、そこに向かってみる」
「おお! ありがたい。下手に自分の部下は使えなくてね。困っていたところなのだよ」
ワイマールのうれしそうな声に俺は皆まで言うなと頷く。
こういった街では治安維持の問題があるし、
兵士を割けばその分目が届かない場所が増えてしまうものだ。
その後、報酬の相談をした後で俺達はワイマールの屋敷を出た。
外に出たころには日が暮れ始めており、
3人は露店を冷やかしながら買い物を続け、宿代わりの建物に戻ったのだった。
宿泊してる場所? ああ、そういう場所です(答えになっていない