表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
84/292

67「王都へ-1」

あれ、王様とキャッキャウフフの予定だったのに?


人は力を持ったとき、その影響を自覚しなければならない。


半端な哀れみは時に嫌な結果を生み出すものである。


それは、剣であろうと魔法であろうと変わりは無い。




「う……あ……」


自覚して伸ばされたものか、あるいは終わりに近づいた命の本能か。


恐らくは後者であろうあらぬ方向に手を伸ばす男の背中に向けて無言で剣を突き立てる。


声とも空気の抜ける音とも取れるうめきとともに、男は力尽きる。


その右手は肘あたりから無く、恐らくは失血死直前だったのだろう。


身に纏うものは清潔さとは無縁の物。


実戦用の動きやすさを考えた皮鎧だ。


手入れも甘そうで、適当さを感じさせる。


俺とキャニーとミリー、そしてアルスによって討伐された10名ほどの人間だったものに

視線を向けながら、俺はいまだに慣れない人間を殺すという感覚と付き合っていた。


人形の屋敷を出た俺達は街に戻り、依頼の報告と、

元屋敷の扱いのために砦に向かった。


将軍に事情を話し、国から担当者が来るまでの暫定的な管理の願いと、

軍馬の貸し出しを要望したのだ。


思ったよりも時間を食っているので、

できるだけ早くシンシアに追いつきたいという考えもあった。


将軍は快諾し、所有している軍馬の中でも

良質の物を貸してくれたのだった。


そして一路、シンシアが向かっている王都へ向けて数日、

かなりいいペースで進んだというところで遭遇したのは盗賊の集団だった。


モンスターも出てくるであろう街道で盗賊を行うというのは、

かなりハイリスクな気もするが、街にいられない存在というのはそういうものなのかもしれない。


ともあれ、討伐に成功した俺たちだが、

それぞれに思うところはあり、すっきりというわけにはいかないようだった。


俺は人間を殺すという行為に半分ほど気をとられているが、

アルスは違うようだった。


頭目と思われる男の外套の裏地にあるポケットから出てきた何かに目を奪われている。


「それ、何かの紋章?」


「ええ、ボクの記憶が確かなら、シンシアに……第二王女の身ででしゃばりすぎだといつも苦言を口に出す大臣兼任の貴族のものです」


手元を覗き込むキャニーの声にまさに苦虫を、といった表情でこたえるアルス。


いわく、王も病床ながら存命で第一王女もいるのに、

第二王女とはいえ、国政に口を出しすぎではないか、と。


俺はふと力尽きたまま大地に転がっている男の死体脇にしゃがみこみ、

改めて確認する。


伸びきったひげに日に焼けた肌、と予想していたが、

よく見れば盗賊暮らしをしていたにしてはきれいな肌だ。


(そういえばアルス達と出会ったときも盗賊に扮したどこかの手のものだったな)


流れからして、将軍ではなかったようだが、何のことは無い。


お膝元にこんな手を使ってくる相手がいるということなのだろう。


そうなると状況は思ったよりもシンプルだ。


今、俺達が襲われたことに大きな意味が出てくる。


シンシア達が襲われているとしたら、

成功したならば俺たちを襲う必要性は無く、

失敗しているならばもっと別のアプローチをかけてくるだろう。


つまりはシンシアたちと合流されたくない、別の策があるということ。


「急ごう。どうもきな臭いぞ」


「ファクトくんが到着したら騒動が向こうからやってくると思うよ!」


剣にこびりついた血を払い、馬に飛び乗った俺にかかるミリーの声に、

間違いない、と肩をすくめることで答える。


道中、少しでも時間を縮めるべく、いつぞやに使ったような

体力回復用のアイテムを馬の首に布で巻きつけることで4人は

驚異的なペースで駆け抜けた。





「あの丘を越えると見えてきます」


何日目かのお昼ごろ、盆地の底辺りでアルスは前方の丘を指差してそういった。


途中、立ち寄った村での話によればシンシア達らしき騎士の集団は先に向かったらしい。


そして、丘を越えた先には……白があった。


決して城があった、の間違いではない。


そういう造りなのだろう。


奥に見える王城と思われる建造物のほか、周囲に立ち並ぶ町並みは全体的に白い。


「うわー、綺麗ね」


「本当だ~」


やはり女の子というべきか姉妹はこの光景に歓声を上げている。


俺も目の前に広がる光景に、馬の足を思わず止めていた。


「夕暮れの姿は見事ですよ。後は夏の日差しの暑さを少しでも和らげるんだとか」


横に馬を並べたアルスはそう誇らしげに言う。


この光景を作り上げたシンシアの祖先たちに驚きの感情を抱きつつ、

4人は街を覆う城壁の一角、大きな門へと近づいていく。


さすが王都というべきか、頑丈そうな壁に、巨大な木の門。


今は明るいからか、門番となる兵士達が両脇にいる以外は

開放された状態で、俺たちが近づく間にも馬車が何台か行き交っているのが見えた。


「そういえば、身分証明なしで入れるものなのかな?」


「あ、それは大丈夫です。ボクが持ってますから」


ミリーの疑問に、ボタン付のポケットからアルスが取り出したのは、

銀製と思われる短剣を模したアクセサリー。


「それを見せれば大丈夫!ってわけね」


身分証を持ったアルスを先頭に、俺達はすんなりと街に入ることができた。






街の中は、活気あふれる中にも落ち着いた、文化水準の高い印象を受ける。


冒険者の行き交う酒場等は相応の乱雑さというか、

独特の空気があるが、それ以外の街中はどこか小奇麗だ。


「こっちからなら隊長達のいるだろう詰め所まですぐです」


案内を受けて大通りから少し離れた道を行くと、

広い訓練場が見えてくる。


その先にあるのが兵士たちの詰め所であり、

裏手に伸びた坂を上った先が王城のようだ。


いざというときに駆けつけるための専用道といったところか。


厩舎も併設されており、近づけば馬の世話をしている人員が

こちらを見て挨拶をしてくる。


アルスは慣れた様子でそれらの人たちに答え、軍馬を預るためか馬を降りる。


俺たちもそれに従い、馬を預けて徒歩で進むべく荷物を持つ。


アルスはその間にも、エイリル達がすでに戻っていることを聞き出していた。


訓練場を抜け、建物に近づいたところで入り口に数名の姿。


「ん? 迎えか?」


「そのようですね。あ、隊長!」


数名の先頭になじみの姿を見かけたアルスは、

勢い良く駆け出していった。






「おお! アルス、無事だったか。……ふむ、ファクト殿にはいい経験をつませてもらったようだな」


「何、本人の資質の問題さ」


駆け寄ってきたアルスを一瞥するなり、エイリルはその変化を見て取ったようだった。


俺は左手をポケットの中に入れながら、指先でアルスから返してもらった指輪をいじりつつ、大したことはしていないと答える。


「ここにいるのはみんなアルスの同僚なの?」


あたりを見渡していたキャニーの声に俺も見れば、

こちらが気になるのか動きを止めて視線を向けてくる騎士達。


その数は思ったよりも多くない。


「いや、ここにいるのは近衛となる立場の兵士だけだ。一般の王都勤めは反対側にいる」


「道理で1人1人が強そうなはずだね~」


ミリーの指摘のとおり、見える兵士の1人1人が十分な強さを有していることがわかる。


スキルなし、特別な武具なしで正面から戦うとなれば、

俺1人では何人も相手にするのはなかなか困難だろう。


結局、俺の強さは鍛え上げたスキル、アイテム、そして経験なのだ。


地力という点では本職にはかなわない。


「ところで隊長、シンシアに変わったことは?」


「おお、そうだ。姫がお呼びだったのだ。ファクト殿、こちらへ。

 申し訳ないが連れのお二人にはここで待機していてほしい。

 相手が相手なのでね」


「構わないわよ。そういうことでしょ? せっかくだし、皆さんとお手合わせでもお願いするわ」


「そうだね~。ファクトくんも気にせずいってきて」


俺が視線を向けると姉妹は笑顔でうなずき、

それはそれで、とやる気に満ちた返答を返してきた。


「ははっ、無理はするなよ。じゃあ、行こうか」


俺を挟むようにエイリル、そしてアルスという形で案内を受け、俺は王城へと歩き出す。







(表じゃなく、業務用みたいな感じか)


装飾の少ない、若干狭い感じを受ける通路を進む。


「こちらは謁見用ではない城内の人員専用の通路になる。

 姿は見せないが、監視はいるので注意してくれ」


「了解した。まあ、馬鹿をする意味もないからな」


振り返らないままのエイリルの助言に俺は肩をすくめて答え、

服にごみでもついていないかと気にしながら歩く。


アルスは緊張しているのか、伸ばされた背筋のまま、歩みが固い。


「ところで、俺みたいなこの国じゃ身分がなさそうな人間を城に入れてよかったのか?」


「オブリーン王家に伝わる遺物の1つにそれを解消するものがあるのだ。

 使用者に悪意を持った相手が効果範囲内に入るとすぐにわかるという、な」


エイリルの背中に問いかけると、そんな答えが返ってきた。


(パーティー作成用のものか、そういったものか?)


いくつかの見張りが立つ場所を抜け、

段々と豪華になる通路をしばらく歩く。


行き交う人間も、兵士だけからどこか身なりのいい人間も混じるといった変化がある。


俺はまともに出会ったことがないが、

ああいうのを貴族というのではないだろうか?


俺はエイリルが頭を下げる相手には軽く下げ、

道を譲る相手には習って道を譲る。


それだけを繰り返してついていく。


「……ファクトさんは落ち着いてますね」


「いや? 相手が誰なのかわからなければ緊張のしようもないというだけさ」


アルスの感嘆の混ざった問いかけに、俺はあっさりと種を明かす。


相手がどれぐらい偉いかわからなければ、

礼の尽くしようもないのである。


と、エイリルがとある部屋の前で立ち止まる。


周囲と比べ、一回り大きいその扉。


「シンシア様が中にいらっしゃいます」


エイリルのノックに、中から聞こえる聞き覚えのある声。


開いた扉の隙間から、少し暖かめの空気が廊下に流れる。


「おや、あのときの」


「お久しぶりです」


扉を中から開けたのは、騎士の装備を侍女としてのそれに変えた女性だった。


部屋に入ると、高い天井に整えられた室内。


視線を向ければ、椅子に座らずにたったままでこちらを出迎えるシンシアの姿。


以前の姿は旅先用のその意味ではまだ質素なものだったのか、

今の彼女はまさに王族、というパールホワイトというべき輝きを放つドレスを身に纏っていた。


「ご無沙汰しております。ファクト様」


華麗に挨拶をこなすシンシアはまさに堂に入っているといえる。


(当然といえば当然か。ん?)


俺はその微笑を浮かべる顔にある隠しきれない疲労が気になっていた。


「無事で何より……と終われたらいいんだが、何か問題がありそうだな?」


俺は部屋に俺の知っている相手しかいないことを見て取るや、

いいにくそうな気配のするシンシアに先を促す。


「さすが、と言うべきなのでしょうか?実は……ファクト様に折り入ってお願いが……」


シンシアはそこで言葉を切り、胸に詰まった何かを吐き出すようにさらに口を開く。


「こんなことをお願いするのは心苦しいのですが、ファクト様は不治の病を治療する術はお持ちではありませんか?」


「シンシア様! それは……!」


苦渋の表情とはまさにこのことか。


非常に言いにくそうに、つむぎだされたシンシアの言葉の中身に、

侍女が色めき立つ。


無理もない。


治らないから不治、なのだ。


ましてやシンシアは癒しの魔法を使える。


そんな彼女が治せない物を、一介の冒険者である自分に治せというのだ。


「……症状を見てみないとなんともいえないが、誰をだ?

 まさかとは思うが……」


シンシアの立場を考えれば一人しか候補はいないのだが、

迫りくるだろう厄介な出来事を考えると頭が痛い。


淡い期待を胸に、予想を裏切ってほしいとばかりに問いかける。


「そのまさかです。父、この国の王に会っていただきたいのです」


俺の願いもむなしく、現実はいつだって非情なのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ご覧いただきありがとうございます。その1アクセス、あるいは評価やブックマーク1つ1つが糧になります。
○他にも同時に連載中です。よかったらどうぞ
続編:マテリアルドライブ2~僕の切り札はご先祖様~:http://ncode.syosetu.com/n3658cy/
完結済み:兄馬鹿勇者は妹魔王と静かに暮らしたい~シスコンは治す薬がありません~:http://ncode.syosetu.com/n8526dn/
ムーンリヴァイヴ~元英雄は過去と未来を取り戻す~:http://ncode.syosetu.com/n8787ea/
宝石娘(幼)達と行く異世界チートライフ!~聖剣を少女に挿し込むのが最終手段です~:http://ncode.syosetu.com/n1254dp/
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ