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65「ドール・ジャングル-3」

何か、話が進んでいない……。


(この気配……なんだ?)


庭に一歩足を踏み入れた時点で、俺は異様な気配を周囲から感じていた。


無数の何かに見られている、そんな気配。


だが庭には動くものはほとんどいない。


わずかに蝶が舞い、虫らしき羽音はする。


『全部中身が歪なことになってるわ。大元をどうにかしないと……』


見た目には何の異常もない草花や庭木だが、

ユーミがいうからには何かあるのだろう。


横を見ればキャニー達も各々、警戒したまま屋敷に近づいていく。


「何もいないですね……」


「そうね。さっきの変な人形が襲ってくるかと思ったんだけど」


木陰や死角から何かが襲ってくる様子は今のところ、無い。


人の背丈よりわずかに高い庭木の間を潜り抜け、

敷地の中央あたりにやってくる。


屋敷の周囲に広がる庭は、一般的な屋敷より庭木の数が少々多い気がするが、

静かなものである。


「……入り口?」


冷静な表情の中にも困惑の混じった顔で、

ミリーが指差す先には重厚な扉。


「……行くぞ」


俺の言葉にうなずいた3人は、おそらくは俺が慎重に侵入すると思ったことだろう。


だが、それは少しばかり違う。


「? ちょっと!?」


「えええ?」


「……」


驚愕の2人の声、ミリーが静かなのは驚きなのか悟っているのか。


そう、俺はおもむろに武器生成を実行していた。


作り出したのは大槌の1種。


無駄に大きく、黄色い原色の色に陽光が反射する。


威力はそこそこ、メインの能力はそのインパクト時の姿にある。


「ふっ!」


息を吐きながら一振り。


ピコーーーン!!


独特の音を立てながら、大槌の1種、ピコピコハンマーは屋敷の扉を吹き飛ばしていた。


(こういうときこそ景気良くいかないとな)


俺は自身の考えが少しずれていることには気がつかず、

ピコピコハンマーを振りぬいたままでポーズを決めていた。







「これは予想外だな」


「実は何もなかったとかは勘弁してほしいところね」


勢いよく吹き飛んだ扉。


開けた空間に舞う埃……はなく、

視線の先には広い空間が広がっていた。


少しの埃もなさそうなシャンデリア、

たるみの無い絨毯。


今にも誰かが降りてきそうな螺旋階段。


立派な空間である。


仮に今も人が住んでいるとしてもありえない。


俺たちの立てる音以外、無音だ。


扉を吹き飛ばすことで中にいるだろう何かがあわてて出てくるかと思ったが

当てが外れてしまった。


「ボクが前に出ます」


「了解した。相手はきっと数で攻めてくる。点より線、面を意識したほうがいいかもしれない」


武器を両手剣から片手剣に切り替えたアルスが前に出て剣を構える。


隙も少なく、対応に問題はなさそうだ。


4人で固まった状態でエントランスホールへと歩を進めと、

じゃり、と足元で扉の破片が音を立てた。


「……何か、いる」


「そうね。嫌な感じ」


警戒を続ける姉妹の声を聞きながら、俺はふと視線を上げる。


そこにあるのは豪華なシャンデリア。


これだけのガラスの生成技術がこの世界にはあるのか、と

場違いなことを思い浮かべたとき、視界が揺らいだ。


陽炎のような揺らぎ。


その正体に思考がたどり着いたとき、俺はとっさにスカーレットホーンの柄に手をやり、

迷わず上空へと振りぬいた。


何もいないはずの空間に手ごたえ。


そして何かがちぎれとぶ。


「見えてないがいるぞ!」


突然の物音にあわてた3人が、俺の叫びに武器を構えなおすも動揺は隠せない。


無理も無い。現に俺が迎撃に成功した人形以外、何もいないからだ。


切り裂かれてちぎれた人形がうつろな瞳を向けてくる。


動く様子は無い。


だが、気配だけは周囲に満ちている。


(感じろ! 何かの魔法のはずだ)


すばやく俺は意識を集中させ、周囲を探る。


なぜかフィールドや街中と違い、意識しても精霊はその姿をはっきりと見せてくれない。


だが、視界の隅に妙によどんだ空間を見つけた俺は投げナイフを3本、

立て続けにその場所に向かって投げつけた。


1本じゃなかったのは単純に自信の無さだ。


なんとか1本は当たりだったようで、

何もいないはずの空間にナイフが止まる。


かと思うと、小さな杖を構えた人形が姿を現し、音も無く倒れこんだ。


同時に周囲の景色が揺らいでいく。


魔法が、解けたのだ。


「!?」


「そんな……」


「参ったわね……」


4人の視線の先では、今の人形が行使していた魔法で隠れていたのか、影影影。


その正体はもちろん、人形だ。


大きさは手乗りサイズから三歳児ぐらいまで様々だ。


村人のような姿をしたものから、物語に出てきそうな王子、お姫様などのドレス姿をしたものや、

なにやら兵士のような格好をしたものまでいる。


共通していることは、武器だ。


手には果物ナイフから手斧、小さな槍のようなものまで。


人数?は今のところ10体程度。


どれもじりじりと間合いを詰めてきている。


つまりは……。


「敵はやる気のようだな。屋敷のどこかに力の源があるはずだ。

 魔法生物の核みたいなやつがな。それを探すぞ」


最初に倒した人形には何もそういった中身が無かった。


恐らくは魔法の源がどこかにあるはずなのだ。


「それはわかったけど……やりにくいわね」


「……両断するのが一番」


「まずは主の部屋、ですかね」


敵が見えたことで緊張が和らいだのか、自然な動きでアルスが動き出すのを見、

俺もその後に続く。


こういった家の構造には俺よりアルスのほうが詳しそうだ。


進みだした俺たちに、人形は無言で襲い掛かってくる。


右上から無防備に飛び掛ってきた執事風の人形の首元へと、

俺は赤い刃を突きつけた。


当然ながら無表情な相手に理由のわからない苛立ちを覚えながら、

そのまま剣を横に薙ぎ、両断する。


生物相手と違い、血も体液も残らない、輝いたままの刃に目をやりながら、

階段の上にいる大き目の人形へと剣先を向ける。


「遠慮なしなら屋敷ごと吹き飛ばしてしまえば終わりだけどな、そうも行かないか」


その後も相手の悲鳴も何も無く、

こちらの声と物音だけが空間に響き、4人は進む。


俺が数えれた範囲での人形の討伐数が30体を越えたあたりで、

通路の奥に豪華な装飾の扉を見つけた。


千切れた人形だったものが周囲に積み重なる中、

道案内のように絨毯はまっすぐにその扉へと伸びている。


「多分、あれです」


「あそこにあるかはともかく、いくだけいってみるか」


俺たちと扉の間をふさぐようにどこからか現れた大き目の兵士姿の人形たち。


手に持った小振りの刃はぬめり気のある輝きを放っている。


毒でも塗られていそうだが、確かめるつもりも無い。


さて、どう蹴散らすかと考えたところで、アルスがおもむろに背中に背負ったままの

両手剣に武器を変え、腰だめに構えるのが見えた。


ただし、刃で斬る角度ではなく、腹でたたきつけるような角度だ。


両手剣でのその構え、そしてアルスのこれまでの動きを考えたとき、

脳裏に浮かぶのは……。


「この広さならっ! ブレイド・パニッシャー!」


とっさに足を止めた俺の前で、轟音。


アルスの叫びとともに、不可視の衝撃が前方に恐らくは横薙ぎとなって飛んでいく。


俺たちの正面に立っていた人形たちはその衝撃波に押され、布であろうその体を千切れさせながら扉にぶつかった。


本来ならば、かまいたちのように飛ぶ不可視の刃が前方の空間を切り裂いていくスキルだ。


それを剣の腹を向けて発動することで、性質を変えたのだろう。


(アルスはきっかけをつかんだみたいだな。後は勝手に進むだろう)


「やるじゃない!」


「……今っ!」


左右から姉妹がすばやく駆け抜け、守るものがいない扉へと肩口からぶつかるも、

扉はわずかに音を立てただけだった。


「ならばこれでどうだっ!」


「いっけぇぇーー!」


構えを戻したアルスと視線を交わし、俺もスカーレットホーンを前に突き出すように構えると、

2人で扉へと全力でぶつかる。


木材を貫く手ごたえとともに、豪華な扉に深々と剣が2本突き刺さり開いていく。


奥に何かが光るのが見えた瞬間、俺の体は浮いた。







――???


「また夢の世界か?」


コンビニの2倍ほどの空間に俺は立っていた。


薄暗く、足元の感触からは絨毯であることがわかる。


家具は無く、扉も見えない。


『違うわ。その証拠に私もいるもの』


「そうか。じゃあ罠ってことか」


聞こえたユーミの声に妙に安心したところで、

視界内に何かが動いた気がした瞬間、悪寒が走った。


覗かれている。


目で、では無く、中身が覗かれている。


『! させない!』


「っ! やらせるかっ!」


そのまま覗かれ続けるかというところでユーミの声に俺は我に帰ると、

気合を込めて叫んだ。


魔力とともに、体の中心から外へと、俺の気合がはじけ飛ぶ。


と同時に、覗いていた悪寒の元も出て行くのがわかった。


視線の先で何かが固まり、形を取る。


その姿は、見覚えのある姿。


正しくはMDで見覚えのある姿、蜘蛛タイプのモンスターだ。


この世界ではまだ遭遇したことが無い。


「ええい、厄介な!」


真っ白になりそうな思考を無理やりまとめ、

動きを止めそうになる体に活を入れてスカーレットホーンを突き出す。


お世辞にも良い攻撃とはいえないはずのその一撃を相手は無防備に受け、

その姿を四散させた。


(どういうことだ? 罠……のはずだな)


構えを解かないまま、周囲を見渡すと先ほどまでは無かった小さな丸机。


そこにあるのは小さな本と、座った姿の人形。


「どうして、見えないの?」


「!?」


小さく、か細い声。


それは間違いなく目の前の人形から発せられていた。


『これも本体じゃないわね』


「見えないっていうのはなんのことだ? ここで何をしている?」


俺は動く様子の無い人形に剣を突きつけ、問いただす。


「アナタの嫌いなもの。怖いもの。会いたくないもの。起きてほしくないもの。

 少し見えたけど動かなかった」


人形は一息にそう言い放つと、その顔をぐいっとこちらに向けた。


無機質なその動きに内心動揺しながらも、俺は視線をはずさない。


「約束を守ってるの。ずっと」


そうして人形は沈黙した。


(約束? 契約でもあるというのか?)


ゴーレムのような魔法生物が、門番などの役目を

契約で結ぶことは珍しくは無い。


融通は利かなくなり、連れ出すこともできなくなるが

領域を守るための力は増す、といった設定のはずだ。


俺をどうにかすることはあきらめたのか、次なる一手を考えているのか。


沈黙した人形を尻目に、俺は机の上の本らしきものに左手を伸ばす。


その表紙に触ったとたん、何かが流れ込んでくる。


『メッセージ保存の魔法ね。気を確かに!』


(頭に……何かが聞こえてくる……)


聞こえてくる男の声。


張りは無く、疲れた様子だ。


最初は何を言っているのかわからなかったが、

徐々に話の内容が見えてくる。


(なんだと……キャニー! ミリー!)


俺はこの屋敷の、人形たちの正体を悟り、その凶行を理解する。


この人形たちの真の力は、その姿を利用した攻撃ではない。


(これが本当なら、事前準備なしに抵抗するには分が悪い!)


なおも聞こえてくる男の話を聞きながら、

俺は机の上の人形をにらむ。


人形が、笑った気がした。


その姿に俺の感情が高ぶるかというとき、

足元がゆれる。


ひび割れる部屋。


その隙間からあふれるのは、赤い炎。


「シンシアを、返せぇぇええええ!!!」


(アルスか!)


炎の源が、指輪を貸したままだったアルスだと気がついたとき、部屋は完全に崩壊していた。


種から芽が出たらお別れの合図……です。

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