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64「ドール・ジャングル-2」

文中、一部想像すると切ない箇所があります。グロ……ではないですが、苦手な方はご注意ください。


「話によるともうすぐのはずです」


「ふむ……」


小さな紙片、地図であろうそれを手にアルスが視線の先に広がる森を指差す。


俺はその声に馬を止め、周囲を見渡した。


元々街道として整備されたらしい道。


あまり荒れた様子も無く、道中も順調なものだった。


馬の疲労も少なく、本来であれば冒険者や商人の移動でそれなりに人通りがありそうな場所だが、

今は人が通る様子は無い。


少し離れた場所に、こちらよりも細いながらも同じく街道はあり、

最近はほとんどの人間がそちらを通っているのだという。


理由は目の前に広がる森と、その中にあるという噂の屋敷のせいだ。


この街道は元々はその屋敷への立ち寄りも考慮されていたのか、

森のすぐそばを通っているようで、

嫌な噂が広がってからは誰も通りたがらない、ということなのだ。


「ちょっと相手を確認しておこう、こいつでな」


俺は腰に下げたままの物体、双眼鏡もどきのマジックアイテムを手に取る。


例の遺物なのかマジックアイテムなのかははっきりしなかったあれである。


幸いにも、少し離れた場所に小高い丘と、いくつかの巨大な岩が重なっているのが見えたので、

そちらに向かうことにした。


「うーん……」


「どうしたの、お姉ちゃん」


振り向けば、馬を降り、その首を撫でて様子を伺っているキャニーと

そんな彼女がつぶやく声に声をかけているミリー。


「何か馬に問題でもあったか?」


俺も気になり、声をかけるがキャニーは首を横に振る。


「なんでもないわ。ただこう……なーにか嫌な予感というか、こう、ね」


本人も明確に言葉にできない予感に襲われているのか、首をひねっている。


「それは大事にしたほうが良いと思います。エイリルもいつも言っていました。

 カンというのもはあてずっぽうじゃなく、経験者が積んだ経験が何かを見つけているからだと」


アルスはそう答えながら、奇襲に備えてか、背中にぶら下げた両手剣の柄を握る。


ちなみに彼の両手剣は背中に背負いながらも、柄はしっかりと固定はされておらず、

抜き方にあわせて向きを変えるようになっている。


「ここまでは多分来ないだろう。来ているようなら襲われた話が出ているはずだ」


俺はそういって緊張しすぎないようにとアルスの肩をたたき、

岩へと上る。


(さて……いきなり変なものが見えたりしないと良いけどな)


俺は双眼鏡もどきを手に取り、魔力を集中させて効果を発揮させる。


拡大されていく景色。


まずはと向きを合わせたのは屋敷。


ミニチュアの家を眺めているような距離感で視界に入った屋敷は綺麗なものだ。


清潔感あふれた白い壁。


カラフルとまではいかなくても、鮮やかな色を日差しを浴びることで放っている屋根。


窓も汚れた様子は無い。


庭らしき空間も手入れが絶やされていないように見える。


人影は無いが、モンスターがうろついているとか、あらされているといった様子は無い。


「でもそれ……おかしいよね?」


報告した俺に、ミリーは真剣な瞳のままで答えてくる。


そう、おかしなところが無いところがおかしいのだ。


シンシアからの書状にもあったが、屋敷が朽ちていない、のがおかしいのだ。


既に住人はいない。


倒壊はなくても、壁は汚れ、庭は荒れるのが普通だ。


貴族の関係者がいつかの栄光を思って手入れしている?


そんなわけはない。


何かが、あるのだ。


「森も、瘴気が出ているとかそういったことはないな」


「行くしかないってことね」


キャニーの声に俺は森を眺めたままで頷く。


双眼鏡もどきをしまい、馬も敵から隠すように岩場の影に繋ぎ、ここからは歩くことにする。


街道から伸びる細い道が森へとまっすぐに続いている。


「どきどきしてきました……」


緊張した様子で周囲をうかがうアルスの手は剣を握ったまま。


キャニーとミリーはいつでも手を短剣に伸ばせるようにしているものの、

両手はあいたままだ。


俺もスカーレットホーンと麻痺効果付の長剣、パラライザーを腰に下げたまま、

真新しい姿の小手の表面を撫ぜる。


防具は先日装備した一式だ。


本当は新しく選びなおすか、作り直したいところだが素材が悩みである。


専用装備ではないものの、今の装備もこの世界の人間が見れば驚くだけの性能を持たせてある。


見た目は派手すぎず、性能は十分に。


依頼の条件の1つがそうだったため、じっくり調べないとわからないとは思うが……。


森に足を踏み入れて10メートルも行かないところで、

目の前の光景に俺は足を止め、しゃがみこむ。


無言で俺を囲うように警戒してくれる姉妹に感謝しながら、

アルスを手招きし、耳元で口を開く。


「アルス、見てみろ。道は整備されているように見える割に、森は広がっている。

 これをどう思う?」


そう、森の木々はうっそうと生い茂る割りに、俺が調べていた地面は

荒れた様子もなく、整った姿をしていた。


恐らくは新緑の雫を採りに来るためのルートであろうことがわかる。


「森には手を入れないで道だけ整備している……ということはなさそうですね。

 人間が歩くには枝とかが邪魔すぎます。敵が、いますよね」


アルスが指差す先には、道の割りに俺の胸元付近ぐらいまで延び放題の木々の枝。


「そういうことだな。いくぞ」


「……ファクト」


そっと俺の死角を補うように寄り添ってきたキャニーがおもむろにアイスコフィンを抜き放つ。


つまり、本気ということだ。


「ああ、わかってる。ミリーもアイスコフィンを使うんだ。遠慮するな」


「……了解。警戒を続行」


知覚することがスイッチであったかのように、森の空気が一瞬で変わる。


木漏れ日すらも怪しい視線にすら感じる。


俺は宣戦布告とばかりに目の前の枝達をパラライザーでまとめて切り裂き、

奥への道を切り開いた。





(何もいなさすぎる)


森に踏み込んで数分、俺はそう考え、周囲を見渡していた。


たとえモンスターの住む森だとしても、ある程度は動物はいるものだし、

何かあったとしても逃げる鳥の声ぐらいはするものだ。


むしろ、そういった声や音でモンスターの襲撃がわかるといっても良い。


だがこの森には動物がいない。


あるのは濃密な緑の匂いと、生い茂る木々たち。


そして、陽だまりの花々。


「いたっ!?」


アルスが叫び、茂みの一角に踏み込んで剣を一閃。


だが、何もいない。


いや、何かがいたのだろう。


「……帽子?」


アルスの足元に転がっていたのは、子供サイズにしてもさらに小さい帽子だった。


「とりあえず持っていこう」


頷くアルスを見ながら、俺ははっきりしない敵に意識を向けていた。


さらにしばらく歩く。


変わらぬ光景。


屋敷までは半分ほどといったところか。


「そこっ!」


キャニーの声とアイスコフィンが発動した音。


正確にはアイスコフィンの発動が先で、声が後だったが。


鋭い氷の槍が俺たちの頭上、重なる枝葉をまとめて貫き、

落ち葉のように舞い降りてくる。


そんな中、ぽとりと地面に落ちる何か。


「服……ね」


シャツとズボン、そしてワンピース。


いずれも中身は無い。


そしてサイズは小さい。


「この大きさ、女の子の遊ぶ人形みたいですね」


アルスが服を回収し、そういう。


俺は無言で頷き、警戒を続けるミリーに目だけで答え、前に進む。


そして正面から何かが飛んでくる気配。


「……!」


ミリーが俺の前にすばやく立ち、アイスコフィンをそのまま振るう。


小さな音をたて、地面に落ちたものは、靴。


「どうやら敵は小さな強者のようだ。油断するなよ。接近されたら怖い」


(恐らくは魔法生物の一種。だがそんな奴いたか?)


『ゴーレムタイプ、と考えるには材料が足りないところね。

 それに、この感じからすると私は下手に手が出せないみたいよ。

 狭い場所で私が力を使うと変に暴走し始めるかも』


俺だけに聞こえるように調整してあるユーミの声に、

俺はわずかにうなずく。


「建物が見えてきたわ……」


「あれ? ウサギ……じゃないですか?」


道の先、ぽっかりとあいた空間に屋敷が見えてきたとき、

アルスがそういって草むらを指差す。


確かにそこには茶色い毛並みのウサギが顔を出している。


「普通の動物もいるのかし……ひっ!?」


思わずもれるキャニーの悲鳴。


無理もない。


どの世界でも共通ともいえる小動物の癒し。


そんな相手が、ころりと音を立てそうな動きで……首だけが草むらから転がった。


つぶらだと思っていた瞳はよく見れば光がない。


うつろな黒い瞳が周囲を、俺たちを写しこむ。


ミリーも目に見えた動揺はないものの、表情は硬い。


「ひどい……」


「……? エア・スラスト!」


しゃがみこみ、ウサギを供養しようとしたのか、歩み寄るアルスの頭上に何かを見た気がした俺は、一息に魔法を発動し、枝葉ごとその空間を風で飲み込む。


俺の感情が乗ったのか、本来より幾分か荒れた様子の風が葉っぱや枝ごと

影を飲み込み、その姿を日の光の下にさらす。


「やっぱり、人形か」


「私、見たことあるわ。ほかの家の子だけど、持ってたもの」


4人の視線の先には、某アリスのようなエプロンドレスを着た小さな人形。


その手には小さなナイフ。


不釣合いなそのナイフが日の光を反射し、襲撃の合図となる。


人形、アリスはそんな感情があるかはわからないが、

迷わず俺にその体を大きく跳躍させてきた。


その速度は異常だ。


まるで人間のように一気に間合いをつめ、

正確に首元を狙ってくる。


「甘い!」


俺は叫んでパラライザーを横なぎに振るい、アリスをナイフごと両断した、はずだった。


甲高い音をたて、アリスのナイフは俺の剣を受け止め、

勢いは殺しきれなかったのかそのまま屋敷のほうへと吹き飛ぶ。


そのままくるりと空中で回転したアリスは、追いすがるまもなく、屋敷へと走っていった。


その姿は人間そのものだが、

速度と行動が明らかにミスマッチだ。


おそらくは移動にすらなんらかの魔法が影響しているのだろう。


「厄介ね」


「……人体みたいな急所もない模様」


「首をはねるしか……ないんでしょうか?」


「かもな」


それぞれの感想を胸に、俺たちは森を抜けた。


目の前に広がるのは静かな庭と、人の気配のない屋敷。


きれいで、整ったその姿が今の俺たちには舌なめずりをして獲物を待つ獣に見えた。


それでも、いかなければならない。


俺は3人を鼓舞するかのように、先頭に立ってまずは庭へと歩を進めるのであった。



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