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マテリアルドライブ  作者: ユーリアル
閑話群(設定にあるゲーム時代の小話です)
8/292

閑話「ある日のMD。変革の時(三か月後半)」

時間軸はバラバラです。


ゲームであるマテリアルドライブ(MD)としての描写なので、

本編中とは描写、設定に差異があります。

読まなくても問題ありません。


ファクトはこんな奴だ、スキルはこんな感じなんだ、という参考やお楽しみになれば幸いです。

「鉄鉱石がこの値段か……」


プレイヤーたちの露店がひしめくとある街角。

作成用の素材を買うべく、露店めぐりをしていた俺はその値段に思わずうめく。


周囲を見ても3倍とは言わないが、2倍は当たり前という感じだ。


「嫌なら他にってアンタか。アンタなら言わずともわかるだろう?」


俺のうめきに、店主である青年は肩をすくめてそう答える。


確かに、彼の言うとおりである。


とあるアップデートを境に、このゲームのアイテム作成は一変した。


今まではメニューからアイコンをクリックし、

おもむろに適当に素材にハンマーなりを振り下ろせばよかったのだ。


素材とシステムに従い、決まったものがシステムによる成功率に従って出来上がる。


あるいはポーションなどなら材料を用意して専用の小さな器で適当に混ぜれば良い。


ところがである。


「まあな。Cランクですら半減。B以上となれば出来上がりまでに

 必要な回数は今までの3倍4倍当たり前だからな」


俺は鉄鉱石を10個単位で30個購入し、話を続けるべく店の横に座る。


「普段戦ってレベル上げしてるほうとしちゃ、収入が増えるからラッキーだけどさ。

 作るほうとしちゃどうなんだ?」


虚空に販売用のウィンドウを表示させたまま、こちらを見る青年に俺も苦笑で答える。


「どうだろうな。前の成功率が鍛冶職人を狙うには異常すぎた。

 アイテムの性能を考えたらこのぐらいが妥当なんじゃないか?

 難しいのを狙わなければ今のでもやっていけるだろうし、

 難しいのを狙えるのは……プレイヤーが限られてるからな」


俺はそう答えながらなんとはなしに自身のスキル構成を見る。


そのスキルは、アップデート前にほとんどのアイテム作成成功率が

ほとんど100%となってからもあげ続けていた結果だ。


「確かにな。なんちゃって鍛冶職人がほとんどだ。ゲームだから当たり前だけどさ」


彼が言うようにほとんどのアイテム作成スキルを持ったプレイヤーは

主体は戦闘である。


これは無理の無いことで、アップデート前はある意味供給過多であった。


確かに高性能なアイテムにはレアな素材が必要だったが、

それでもネットゲームという性質上、いつか素材はいきわたっていく。


そんな中で鍛冶職人の称号を得るレベルまで上げていくプレイヤーは……少ない。


「どうもレベルが影響してるみたいでね。俺は他の人ほどひどくない。

 まだ知り合いと試行錯誤中だが、めどはついたよ」


「本当かよ? 依頼が増えそうだな」


販売中のため、動きが制限される中で腰をあげそうになっている青年に向けて

俺はページのアドレスなどを記載したメールを送る。


「興味があったらこっちによろしく。じゃあな」


俺は立ち上がり、混雑する街中から立ち去る。


今も街中は値段の交渉や入手ルートの雑談、

パーティーの募集など様々な騒ぎに満ちている。


俺はそれに背を向け、街の路地を進む。


そして街と街をつなぐ転送用のNPCに話しかけ、

必要な費用を払って別の街に転送される。


浮遊感の後、俺の視界に広がるのは先ほどと違って、

どこかのどかな様子の村に近い町並み。


俺はマップで目的地を確認しながら歩を進めた。


向かう先はどこか煤だらけの建物。


鼻を突く独特のにおいは機会に再現されたものとは信じがたいしっかりしたものだ。


周囲には無数とも思える薪が積みあがり、

倉庫のような場所にはいわゆる石炭のようなものもあるはずだ。


いくつかの路地を抜け、開けた場所にそれはある。


「お邪魔しまーす」


「おう、今日も来たか」


俺の声に答えるのは鍛え上げられた上半身を持つ男性。


正確には、生業としている仕事の都合上、そうならざるを得ないわけだが。


男性の正体はこの街に住むNPCとしての鍛冶職人だ。


「ええ、今日もロングソードをお願いします」


俺は職人に答え、アイテムボックスから鉄鉱石を10個取り出して渡す。


と、画面となる視界の隅にあるメニューで文字が躍る。


─クエスト進捗率『後継者を探せ(2/4)』


そう、ここで俺がやっているのはクエストだ。


それも鍛冶職人にふさわしいもの。


俺がこのクエストを見つけたのは偶然だ。


MDに限らず、最近の仮想現実、いわゆるVRとしてのゲームたちは

華麗なグラフィック、こだわりの再現、その他もろもろにより

まさに第二の現実といえる。


自然に満ち溢れた場所は観光も同然であるし、

NPCの生活はファンタジーが現実になったといっても良いだろう。


ずっと同じ場所にいて同じ台詞だけを話すようなNPCはほとんどいない。


システム的に用意されたチュートリアルのようなもの以外は、

時間と共に生活し、場所も移動する。


俺はそんな何気ない設定も好きで、時折無意味であっても

こうしてNPCの鍛冶職人を訪ねていたのだ。


アップデート前は見た目以外に気にならなかった作業。


材料を熱し、たたき、形を作る。


その工程が今、目の前で命を持ったかのように見えている。


「昨日はどこまでだったかな。おお、そうだ。ハンマーを打ち付けるときのやり方だったな」


そういって自身の手を止めてこちらを見る職人の横に座り、

教えてくれることを忠実に再現するべくハンマーを握る。


現実と比べ、かなり軽減されているはずなのに

まるで炎系統のモンスターと対峙しているかのような熱さ。


炉は赤々と炎を上げ、中に入れた鉱石を溶かしていく。


もう十分だと思ったところで炉から溶けそうになっているソレを取り出し、

金床に乗せ、ハンマーを振り下ろす。


響く快音。


「うむ。そうだ、続けろ」


NPCである職人、クエスト中は師匠と呼ぶべき相手の声を耳にしながら、時間をすごしていく。






「……よし、いいだろう」


「スキル無しで出来た……」


ここに来たときにはまだ朝と呼ぶべき時間帯だったはずだが、

いつのまにかもう太陽は傾いている。


何度も失敗し、何度も挑む。


それだけの時間を費やした成果が視線の先で炉の炎に赤く照らされている。


何の変哲も無いロングソード。


性能も普通で、それこそどこぞの街に行けば苦労無く購入できる。


「その歳で良い腕だ。精進しろよ」


肩をぽんっと叩いてくれるNPC、師匠はそういって銘を刻むための小さな道具を貸してくれた。


俺は無言で頷きながらそれを受け取り、剣の鍔にあたる部分の裏手に名前を刻む。


初めての、一振り。


「……またくるよ、師匠」


「うむ。次に来たときはもっと成長してこい」


立ち上がった俺にかかる声に頷き、剣を仕舞いこんで建物を出る。


気がつけば空の端には夜がやってきていた。




「……ははっ」


普段ほとんど人がいない、微妙なフィールド。


経験的に美味しいわけでもなく、ドロップも平凡なものばかり。


モンスターもコボルトやゴブリンなど雑魚と呼べる亜人タイプのみ。


初心者が慣れるためなら他にも良い場所があるため、好き好んでくる人は少ない。


そんな場所で、俺は魔法の灯りに照らされながらロングソードを振るっていた。


数値的にはそう強いわけではない。


武器としては平凡だし、威力だって数値だけで見れば違いは無い。


だが、何かが違った。


握って力を込めるときの一瞬が。


突き刺して横に薙ぐときの手ごたえが。


全力で振り下ろすときの感触が。


数値としてはごくわずか。


だが、使うプレイヤーにとっては大きくかかわってくるだろう使い勝手というもの。


それが、違ったのだ。


「これが本物ってことか」


それは正解であり、間違いでもあるのだろう。


恐らくは俺以外が使えば違いはわからない。


だがこの剣は俺が自分の手で自分のために作ったものだ。


ゆえに、自分にとってはなじむ、のだ。


依頼として、誰かのものを誰かのものと意識して作ることが出来れば、

この感覚はその人も体験できるものになるのかもしれない。


アップデートのときに公式はこうアナウンスしていた。


─新しい力が新しい感動となる


と。


だが今のところ、これといって変化は報告されていない。


それはきっと、まだたどり着いているプレイヤーが少ないのだ。


きっと魔法を使うプレイヤーはいつか、自分の魔法がシステムのサポートを越えた先に

自身が詠唱しているような感覚を覚えることだろう。


武器を持ち戦うものは自身の動きがゲームのそれを超えたような感覚を味わうだろう。


キーボードとマウスで操作した旧時代のゲームと違い、

システムとしての動作の補助のほか、

VRとしての、自分が自分で意識して動くこと、の意味を持つアップデートになるのだろう。



俺は漠然とそんな感想を抱きながら、手にした新しい力を夢中で振るっていた。




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○他にも同時に連載中です。よかったらどうぞ
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