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59「赤い息吹の根元で-3」

一緒にすると1万文字を超えそうになったので、

とりあえず前後編状態でわけて投稿します。


後半となる「-4」は加筆の上、近日投稿予定です。




その日の朝は爆音と共に始まった。


「な、なんだぁ!?」


俺は突然の爆音に真っ白になった思考のまま、

半ば無意識に窓を開け、外を見る。


まだ早朝といっていい空気が開けた窓から室内に入り込み、一瞬身震いする。


外へ乗り出したままキョロキョロと辺りを見渡すと、

煙突が立ち並ぶ一角から黒い煙。


ただし、火事のようではない。


「ありゃーあっちの工房でいつもの実験してる奴だよ、兄ちゃん」


下からかけられた声に向けば、朝の配達の途中なのか、

リヤカーのようなものに野菜らしきものを積み込んだままの男性。


その表情に焦りがないことから、言葉どおり日常の1シーンなのだろう。


「なるほど。朝っぱらとは良い迷惑だな」


「なあに、目覚まし代わりさね」


男性はそのまま、重そうにリヤカーもどきを引いて路地へと消えていった。


しばらくそのままでいると、あちこちからドアを開ける音が聞こえ、

本当に目覚まし代わりであることがわかってくる。


「目が覚めてしまったな……」


俺は部屋に戻り、ベッドに腰掛けて体をひねりぽきぽきと音を立てる。


(鳴らしすぎると体に悪いんだっけか?)


ぼんやりとした頭でそんな事を考えながら、俺は今日の行動予定を考えていく。


シンシア達は下手に街中を動くわけにもいかないので、

将軍を一応警戒しながら砦を中心に準備を進めるらしい。


俺にできることは……いろいろある。


むしろ有効な手段や準備が多すぎて、

どれを行っておくとより効果があるか、悩むところだ。


(だが、まずは……)


キャンプを起動させようとしたところで、ノック。


「ファクト? いい?」


「ああ」


扉を開けて入ってきたのはキャニー。


ミリーはいない。


まだ着替えていないのか、寝巻きに上着を羽織っただけの姿だ。


「ちょっと薬とか買ってこようと思うんだけど、どうする?」


ちゃりんと、お金が入っているであろう布袋を揺らして聞いてくるキャニー。


少し眠たそうな表情からすると、キャニーたちも先ほどの爆音で起こされたのだろう。


「俺は例の中で有効そうな武具を作ろうと思う」


ベッドに座ったまま、俺はそう答えて靴をはく。


了解、と小さくキャニーが答え、また1人になる。


さて……。


俺は一人キャンプを起動し、中に入る。






燃料が何なのか、不明なままの暖炉が時折揺らめき、

薄暗い室内を照らし出す。


俺は椅子に座りながら、作るべき物を考えていた。


向かう場所と敵の傾向からすると、

用意すべきは耐火、耐熱。


前に試したときから考えると、そういった装備をしたからと

単純にお湯に手を突っ込んでも大丈夫、というわけではないようだった。


恐らくは装備に込められた精霊の力が、戦闘の際の意識に反応して効力を発揮するのだろう。


防具としての鎧などでは防御の面で不安が残る事を考えると、

やはりここはアクセサリーだろうか。


俺は以前ジェームズたちに見せたことのある指輪をまず取り出した。


「そのまま装備してもらっても良いけどなあ。目立ちそうだな……」


見た目からしてレアすぎるものがいつも目に見えるというのもよろしくなさそうだ。


アイテムボックスに乱雑に入ったままの様々なアイテムから、

アクセサリーに使えそうな銀のチェーンを選び出し、指輪をそれに通した。


一度これを首から提げる形で身に付け、意味があるか試してみることにする。


これなら装備の中にしまいこむことができるので、

一緒に戦うかもしれない冒険者などから隠すことができるだろう。


その後も手持ちの材料でいくつかのアクセサリーを作っていき、

次は武器か、というところで手が止まる。


材料はあるにはあるのだが、どうも微妙なのである。


俺自身は様々な武器を一通り使えるが、

一緒に戦うメンバーはそうもいかない。


近接で戦うであろうアルスやエイリルに急に新しい武器を渡したところで、

間合いや使い勝手を考えると逆に危ない予感もする。


単純に質の良い武器、ということであれば容易なのだが、

それでは危険を冒して使ってもらうほどのメリットは無い。


武器が要求する使用者のステータスの問題もある。


強い武器ほど、何かしらの条件があるものだ。


特殊能力を持たせた武器ほどクセも強い。


今の手持ちで、メンバーに見合うちょうど良い武器……はすぐには思いつかない。


「……少し、歩くか」


煮詰まりそうになった頭を切り替えるべく、

俺はそっとキャンプから顔を出して部屋を確認し、そのままキャンプを解除する。


そして、喧騒にあふれてきた街へと歩き出した。






到着したときと同じように、むしろ

襲撃が近いだろう事が影響してか、

前よりも活気に満ちている気がする街。


その道に立ち並ぶ露店を俺は冷やかしながらすごす。


並ぶ武具は標準以上と思えるもので、

値段相応の価値があるものばかりだ。


時折、よく見ると粗悪品だとわかるものを売っている店もあるが、

それでも使えないことは無い物が多い。


(一般市民すら武器を眺める。良いことなのかどうかは判断が付かないな)


俺は箱に積まれた鞘に入ったままの短剣を1つ手に取りながらそう考えていた。


「兄ちゃん、そんなに見つめてもまけられねえぜ」


「ん? ああ、すまん」


かけられた声に謝罪し、特価だったその短剣を額面どおりの値段で購入してその場を去る。


そろそろ広間か、というところで前方で人が集まっているのがわかる。


何か揉め事でもあったのだろうか?


芽を出す好奇心にしたがって、俺は人ごみを掻き分けてその中央に目をやる。


そこには、木箱に乗って自らの商品をアピールする商人達がいた。


服装からして、あちこちを行商して回っている旅の商人だと思われる。


1人は食料、1人は衣服……とそれぞれの物品を売りさばいている。


俺の視線の先に積まれた商品は、一目でわかる微妙なものから、

俺から見ても、よく集めたと思える貴重品があった。


雑貨担当というところだろうか?


人が集まってきたのを感じ取ったのか、

俺の正面にいた商人はメインとばかりに一際大きな木箱の蓋をあけ、中から何かを取り出す。


「さあ! いよいよ本命たちの登場だ。

 こいつは南の王国御用達の暑さを凌ぐ一品だ!

 少ない魔力で爽やかな風を生み出す団扇さ!」


そういって取り出されたのは土台に設けられた板が自動的に風を送り出す機械。


ぱっと見は手作り感が満載の一品だ。


サクラなのか本物なのかはわからないが、

手招きされた1人の女性がその風に驚き、値段を聞く。


が、すぐさま周囲の熱気は冷めかけてしまう。


その値段が、高かったからだ。


金貨1枚とは暴利すぎる……のだと思う。


その後も、恐らくは珍しいであろう物品が次々と取り出され、紹介されていく。


いくつかは売れるが、多くは周囲の人間が手を出すには高い値段だ。


と、反応の鈍さに業を煮やしたのか、代表と思われる商人の一人が、

大げさにも思える仕草で小さな箱を手に取った。


(ん? この感じは……)


いくつかの商品にも感じていたが、今取り出された箱の中からは

一際精霊を感じるような気がする。


「いよいよ最後、こいつは大物中の大物だ!」


商品説明より先に取り出された中身。


明るい日差しの中にあって、全てを吸い込みそうな透き通った拳大の青。


まるで水晶球を持つかのように下に敷かれた布に漂うもや。


(あれは、冷気か?)


よく見るとつるりとした表面はまるで真球のようであり、

中に紋章のような模様が回転している。


最低でも何かの儀式で作られたであろう物だ。


だが、俺の記憶が確かならばアレは……。


「これはかのスノーフェアリーが生み出したというアイスマリン!

 酷暑でもこれを置いた部屋は涼しく、永遠に溶けないといわれる一品だ!」


商人が声を張り上げ、注目を集めようとする。


どこからか、商人の護衛と思われる冒険者が立って不埒な輩がいないかガードをするほどの本気度のようだ。


アイスマリン。


名前は確かそれで合っている。


だがアレは確か、スノーフェアリーが住むといわれる雪山の奥地で

魔力が異常に高まったときに自然にできるという設定のレアな採掘アイテムだ。


中で動く紋章は、雪の結晶のように美しく、青白い輝きを放っている。


そばに彼女らが生息しているので、スノーフェアリーが生み出したように考えられているのだろう。


MDではスノーフェアリーの女王の王冠を作るのを手伝うクエストにおいて、

目標のアイテムとして使われる。


現場の難易度もさることながら、再現された寒さにどこまで耐えられるか?も

入手条件に加わっているアイテムだったと記憶している。


こうしていても漂ってくる冷気からして間違いないだろう。


(こいつだ!)


俺は降って沸いた幸運に笑みを押さえられず、

アイテムボックスとなる布袋に片手を突っ込み、その手にいつぞや回収した金貨をつかみとる。


視線の先では、十分に注目が集まったのを感じた商人が、

豪華な台の上にアイスマリンを置いて、手を振り上げるところだった。


「本来ならば国に持ち込むのが一番のこのお品。

 共同購入もありで……金貨20枚!」


瞬間、沈黙が訪れる。


それもそうだろう。


金貨1枚ですら現実で言えば100万単位の世界なのだ。


共同購入ありとは言うが、誰がそれだけ集められるというのか?


周囲の空気が「ただの話題作りか」というところに一致しようとしかけた時、

俺は1歩踏み出す。


「買った」


「はい?」


俺の言葉が信じられなかったのか、間の抜けた表情で問い返す商人に歩み寄り、

先ほどから支払い金額を置くために使っていたテーブルへと金貨を無造作に置く。


重厚な音を立てて乗せられる金貨、20枚。


(最初になんとかして銀貨を手に入れていた頃がだいぶ昔のようだ)


そんな事を考えながら、俺は商人を見る。


「どうだ? 本物か確かめてくれても構わないぜ?」


俺はそういって半歩下がって確認を促す。


慌てた様子で目の前の商人はテーブルに駆け寄り、金貨を手に取り始める。


重さを量ったり、硬さを確かめたり。


その行動1つ1つの度に、その顔が驚きに染まる。


「本物だ。いえ、本物ですね。いや、しかし……」


俺、金貨、アイスマリン、を交互に見やる商人。


どうも売れるのは想定外のようだ。


恐らくだが、これを客寄せに各地を回っていたのではないだろうか?


最終的には金貨20枚を超える利益のための見世物、ということなのだろう。


「どうした? つけた値段を守らないなんて事は無いよな?」


「……はい。お買い上げありがとうございます」


俺の言葉と、集まる無言の周囲の圧力に、商人は頷き、アイスマリンを箱に戻して手渡してくる。


「よし。じゃあな」


俺はトラブルに巻き込まれるのも嫌だったので、すぐさま外套の中にそれをしまいこむようにしてアイテムボックスに入れながらその場を立ち去る。


しばらくはシーンとしてしまった空間だったが、

すぐさま正気を取り戻した商人たちの声に、活気が戻っていく。


俺はその騒がしさを背中に感じながら、

付いてくる人間がいないかに注意しつつ宿に戻る。


そして、キャンプ内。





「よし。コイツなら……」


俺は出来上がった二本の短剣を前に笑顔でそうつぶやいた。


できた武器は、名前をアイスコフィンという。


本来は二本で対となる装備だ。


そのまま使っても十分な氷属性の追加攻撃を行えるほか、

特殊効果として、魔力消費の投擲がある。


これは刀身のコピーが飛んでいくという、ある種無限の飛び道具である。


俺が他の武器ではなくこれを選んだのには理由がある。


一度に装備して扱うとなると相当の熟練とステータスが必要だが、

1本であればその限りではないようなのである。


キャニーとミリーにそれぞれ使ってもらう分には条件を満たしてくれることだろう。


その後、帰ってきた姉妹に武器を手渡し、宿の庭で慣れるための訓練を始める。


途中、アルスたちも合流し、にわかに騒がしくなる宿の庭。





そして、その日はやってくる。


「先ほど見張り台より、火山に動きがあったことが報告されました。

 シンシア王女、いかがしますかな」


砦の一角で、俺達と将軍、そして兵士達が集まっての話し合い。


その場で知らされる襲撃の始まり。


「それでは事前の打ち合わせどおりに、通常の襲撃は街の希望者と冒険者を中心に、

 軍が支援、迎撃してください。その間に将軍やファクト様達は……」


シンシアの指示に従い、人々が動き出していく。


俺も馬に飛び乗り、火山へと向かう集団に混じる。


シンシアの護衛に件の女性騎士らは残る形で俺達は火山に向かう。


メンバーは俺、キャニーとミリー、アルスにエイリル、そして数名の騎士。

将軍と将軍配下と思われる兵士達。


周囲に冒険者達をまとうかのように進軍し、

途中で出会うモンスターの小さな集団は冒険者や街の志願者達が迎撃を担当する。


そして、周囲から木々が消え、

ごつごつとした岩肌になってきた頃、

先頭を行く将軍の馬が止まる。


「ここからは歩きだな」


今は特に目立った問題の見えない将軍の声に従い、

全員が馬を降りて火山へと駆け出す。


そして……。


「来た!」


アルスの甲高い声が示すように、

俺達を迎え撃つべく影が岩場から躍り出てきた。


その影は赤いゴブリン。


火山に適した体質を身につけた亜種なのだろう。


「邪魔よ!」


「障害は排除……」


叫び声をあげて襲い掛かってきた2匹のゴブリンは姉妹の攻撃にそれぞれあっさりと倒される。


斬りつけられた箇所が火山の中でありながらも凍りついており、

狙い通りに効力を発揮しているのがわかる。


「ふふ……来るぞ。本番はこれからのようだ」


同じように襲い掛かって来たゴブリンを一刀の元に切り伏せた将軍が前を見やる。


ゴブリン、オーク、スライム等等。


いずれもどこか体は赤い。


どの個体も、普通の相手よりの手ごわいことが予想される。


「アルス、無理はするなよ」


俺は緊張にか、剣を握る手が硬くなっているのがわかった少年へと声をかけ、

安心させるようにそばに立つ。


「ファクトさん……」


アルスはほっとした様子で俺を見上げてくる。


(俺は師匠キャラじゃないんだがな)


そう思いながらも今はこの英雄になれそうな少年に何かあってもらっては困ると

意識を引き締めなおして口を開く。


「自分の戦い方をしていればいい」


それだけ言って、先頭で剣、魔剣を構えてモンスターを威嚇する将軍の横に立つ。


「では、戦力の薄いところから突撃ってとこで?」


「ぬるいな」


一応は気を使った俺の提案に、将軍は一言そう答えた。


(はい?)


思わず顔を横に向けた俺の視線を、将軍が受け止める。


「ぬるいといったのだ。正面から以外に何も無い!」


将軍はそう叫ぶと、俺が止める間もなくモンスターの集団に突撃していく。


「将軍に続けぇぇええええーー!」


部下である兵士達も、なぜかそれについていく。


「お、おい!?」


「なんなのよ、もう!」


なし崩し的に、火山での戦いははじまることとなったのだった。


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