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58「赤い息吹の根元で-2」

火山系モンスターって切りあうだけで凄いことになりそうだなあと思う今日この頃。

俺達の前に見える光景は自然そのものだった。


視線の先には山々と、その中央付近にそびえる

存在感あふれる頂。


この距離からでもわかる赤い先端。


あの場所では今も灼熱の世界が広がっているのだろう。


「あれがムスペル火山……」


(変わらないな……いや、少し荒々しさが増してるか?)


その光景に、馬車から顔を出してどこか魂を奪われたかのように

つぶやくキャニーの言葉へと俺は胸中で付け加える。


シンシア達と旅を続けてはや2週間。


途中、いくつかの街に立ち寄り、アルスとの訓練に付き合いながらの日々。


シンシアはこうした旅に慣れているのか、

御者が交代でほぼ走りっぱなしの旅でも体調を崩していない。


急ぎの旅に馬は元より馬車も傷みが早い。


これが普通の冒険者であったなら、使い続けるところだがそこはシンシアとの旅路。


馬どころか、馬車ごと道中で次々と交換するという形で急ぐ道だった。


それは事態への本気の度合いとも見れるし、

王族らしい姿ともいえる。


ともあれ、通常の旅路では到達不可能な距離を走破し、

最初は見えなかった火山達が視界に入ってきた頃、大きな街が見えてくる。


火山からはそれなりに距離があるようだが、火山に向かうにはちょうど良い補給地点になりそうな位置だ。


「あちらが件の将軍がいる街ですわ。ファクト様達はこちらで一度……」


含みを持たせたシンシアの言葉に、俺は頷くと

道中にこっそりと用意していたいつぞやの閃光を生み出す球と、

微妙に色の濃い紫色のリングを布袋から取り出す。


リングのほうはファンタジーなゲームであれば確実に存在するであろう物。


毒耐性をある程度上げるリングだ。


途中で遭遇したモンスターの中に毒を持つ蛇タイプがいたので、

その牙を使って作ったものだ。


この世界でもちょっとお金を積めば比較的容易に手に入るが、

意識しないとついつい後回しにしがちな部類に相当する。


「変な罠に巻き込まれるといけないからな。これは毒対策。

 こっちは何かあったときにでも魔力を込めて適当にたたきつけてくれ。

 ものすごく光る。ほら、エイリル達も」


都合人数分、途中の合流も含めて8名ほどに増えた騎士達へと俺は同じものを渡した。


怪訝そうな顔をしていたエイリル達だが、シンシアが頷くのを契機に

渡されたリングを身につけ、球を懐にしまう。


「では明日のお昼ごろ、使いとしてアルスを向かわせますわ。

 宿は火竜の足跡亭にどうぞ。エイリルの叔父が経営してますの」


「わかった。昼ごろだな?」


俺は布袋の口を閉めて腰に下げると、

キャニーとミリーと共に馬へと移動し、シンシア達と別れて別の方向から街へと向かう。


直に街の様子の確認と、話を聞いて欲しいということだからだ。






「活気は……あるわね」


「うん。子供たちも元気そうだよ」


「確かにな……」


街に入って1時間ほど。


行き交う人々の表情には特に影は無い。


露店もにぎわっており、時々見える酒場からは喧騒が聞こえる。


走る子供達も何かの煤なのか黒い汚れがあったりもするが、

元気よく走っている。


単純に武力で街を制圧し、圧迫している、ということはないようだ。


だが……。


「何かが……なんだ?」


一見、平和そうな光景に俺はどこか違和感を覚えた。


立ち並ぶ露店、路上で語りあう男性達。


木の枝か何かでチャンバラごっこをする子供達。


(……そうか!)


「生活に必要な露店、が少ないんだ……」


「あっ……」


俺のつぶやきに答えたのは姉妹のどちらだろうか。


その答えが示すように、立ち並ぶ露店のほとんどが武具か、

戦いに必要そうな素材であったり、道具達だった。


よく見れば立ち話をしている男性が持っているのは、

杖ではなく手槍。


だがこれだけでは正解にはならない。


「酒場に行くぞ」


俺は答えを求めて、そういって姉妹を引き連れて手近な酒場に入る。





「ここが儲かるって噂はそれが答えだったんだな」


「ああ、そうさ。将軍は俺たちの参加を認めてくれるからな。

 みんなで倒してみんなで成果を得るってわけさ」


俺は同じテーブルに座る、かなり出来上がった様子の男性に追加の酒をおごり、

自身も度数の軽い酒を口に含む。


爽やかな酸味のある果実のにおいのする酒だ。


酒場に入った俺達は二手に別れ、姉妹はマスターなどの店員と、

俺は客とで話を集めることにした。


俺は流れの冒険者だと言って儲け話があるって聞いたんだが、と話を切り出した。


すると、返ってきた答えは―火山から出てくるモンスターを倒す―というものだった。


どうも火山では多くのモンスターが生活しているようで、

不定期にある程度の集団となってふもとに分散してくるらしい。


その規模は放置しておくには大きく、軍が常に出撃するほどではない、

微妙な規模であることが多いのだという。


そこで、流れだったはずの冒険者や、自発的に組織された

自警団のような町の住民による戦闘集団が主に撃退してきたのだそうだ。


当然、危険もあるが倒せば手に入る牙や毛皮は特産品のような扱いとなり、

この地を潤しているらしい。


火山のふもとに近いということもあり、近くからは鉱石類も産出があるようで、

それらが組み合わさって街は回っているのだという。


軍としては自分達が倒しては街にそういったものが還元されないと考え、

冒険者の参加や住民の武装に寛容なのだと男性は言う。


そして、規模が大きければ軍は全力で相手をしてくれているのだという。


(……と、言う理由であれば強くいえない……ってとこか)


なおも雄弁な男性の言葉を半分聞き流しながら俺は考えをまとめていく。


小規模の場合は戦力を温存しながらも住民を味方につけ、

必要なときは戦力を惜しまずその力を試しながらも軍をアピール。


モンスターの襲撃が尽きないからこそ行える手法だ。


「それによ。軍への臨時登用もあるんだ。そうなりゃ根無しの卒業さ」


傭兵や才能のあった冒険者を軍属にしているという話は本当だったようだ。


「なるほどな。俺も運がよければそうなれるかもしれないな」


答えてジョッキを傾けたところで、男性から無視できない言葉が飛び出す。


「そうだな。5日後ぐらいには機会がやってくるさ」


まるでチープななぞなぞを答えるかのように、なんでもないように言い放たれた言葉。


だが、その内容は衝撃的だった。


「なんで、わかるんだ? 5日後って」


俺は動揺を隠し切れず、そう聞いていた。


すると男性は一瞬、キョトンとした様子だったがすぐに合点がいったようで、

陽気にまた口を開く。


「簡単さ。月が満ちるからさ。何故だかわからないけど、モンスターは満月と新月、この2つのときによく火山から出てくるのさ」


『定期イベントってとこかな』


耳元でささやかれるユーミの声。


その姿は小さく、かつどこか薄い。


今ここにいるのはユーミの分身である。


どこにユーミが見える程度の実力を持った相手がいるかわからないことに加え、

強すぎる精霊の力はむやみに街中にいて良いものではないのは間違いが無く、

ユーミも普段は周囲の精霊とのんびり語り合ってるほうが楽だとの事で

ユーミ本体は街の外であちこちをうろついているのだ。


ここにいる分身は言うなればユーミの目であり耳である。


いざというときには分身を頼りにたどってきてくれるというので問題は無いだろう。


「そうか……もうすぐ満月か」


俺は男性に答えるように、見えるはずも無い空を見るように天井を見上げた。






「こういった店や露店もモンスターの移動があるであろう満月に備えて稼ぎ時、ってことみたいね」


「なんでも、規模を予想する賭け事まであるみたいだよ?」


姉妹からの報告は俺の聞いた話を補強するものでもあり、

この街がどこかゆがんでいることとの証拠でもあった。


「命のやり取りを楽しむ、か。戦い続けるには必要なことかもしれないが、

 どうもおかしいな」


モンスターの移動が不定期にあるというのは別にして、

街全体が何か誘導されているようにも見える。


そう、まるで育ちの良い野菜畑のような……。


モンスターと戦える実力のある人間を育成する場にしているような印象を受ける。


将軍の求心力は相当なもののようだ。


(シンシアやアルスが無事だといいが……)














――砦にて


「では、このまま今の動きを続けると?」


「勿論です。今も火山ではモンスター共が領土を狙って闊歩しております。

 最近では報告もさせていただきましたが、中腹に居座ったモンスターらが強力でしてな。

 組織だった動きさえ見せ始めております。

 本音を言えばすぐにでも直接乗り込んで全て討伐したいところですが、

 それはさすがにかないませんからな」


凛とした表情で問いただすシンシアへと、ある種不敬とも取れるほどの態度で答える男。


男が率いるのは独自に勢力を拡大しているという集団の1つ。


将軍、名をグウェインと言う。


「ですがグウェイン殿。先日は首都への騎士派遣や、逆に受け入れをお断りになったとか。何故です?」


「君にはここに余裕があるように見えるらしいがね。実情はそうではない。

 巷で噂になっているように、冒険者らに機会を譲っているといえば聞こえは良いが、

 まだまだ足りない、ただそれだけだよ。それもこれも、あの中腹にいる奴らのせいだがね。

 今ここでこの土地を知らぬ騎士が来た所で連携など取れやしない。そうであろう?」


問いかけるエイリルの声は硬いが、それをグウェインはあっさりと返し、

まさか街を危険にさらしてまで身を固めたいとは王も言いますまい?と続ける。


「……確かに、不用意な戦力の移動で民が危険にさらされるようでは父も悲しむことでしょう」


「おお! さすがはシンシア様。わかってくださるか」


顔を伏せ、静かに答えるシンシアに大げさなまでのリアクションで

感動を表すグウェインの姿に嘘は感じられない。


少なくとも、エイリルの目には多少芝居がかってはいても、

国の主力と合流できない悔しさすら感じられた。


「ええ。そんな将軍の憂いを少しでも減らそうと、私、良い案を持っておりますの」


だが、シンシアは違ったようだ。


王女の顔が上がり、グウェインを正面から見るその表情は

真剣なものではあったが、勝負を仕掛ける顔でもあった。








「ゴーレムとハイリザードか」


「目撃情報もばっちりです。溶岩の塊のような赤いゴーレムと、

 炎のような長い髪をもったリザードマンだそうです」


情報をまとめるためにも入った宿。


そこに時間通りにアルスがやってくるなりシンシアからの提案を聞かされる。


火山のモンスターのまとめ役を撃退するという話だ。


「その上に火山に住むモンスターたちも一緒なんでしょ?

 さすがに私達だけじゃ無謀すぎない?」


「火傷じゃすまなさそうだよね~」


姉妹の発言に俺も頷き、脳裏で2つのモンスターの情報を思い浮かべる。


――ゴーレム


これはオーソドックスな魔法生物の1種だ。


単純に魔法で生み出された土木作業を行うだけの物から、

自然発生的に産まれたモンスターとしての物、

攻撃を行うために儀式で生み出される物、様々だ。


中には今回の対象のように、激しい自然の中で生まれ、

その力を存分に振るう強力な物もいる。


大概はモンスターの中でも魔法に長けた物に半ば操られるようにされ、

前線を支える強力な駒となっている。


話を聞く限りでは火山らしい力を持った熱いゴーレムだろう。


そしてハイリザード。


元々は湿地や水辺に住むことの多いリザードマンが、

土地を移り住む間に生まれ出た亜種だという。


ハイリザード、と一括りにされるが、

あくまでリザードマンの上位、という位置づけであり、

寒い土地に適応したもの、乾燥した砂漠に適応したもの、

今回のように火山に適応したものなど、これまた様々だ。


どちらにせよ、ハイと名が付くにふさわしい身体能力、

そしてある程度の知能を有する強敵である。


「でてくる奴らだけならともかく……な」


「心配はいりませんわ」


つぶやいた俺の声に答え、少女の声が響く。


いつのまにか、部屋の前にはシンシア、エイリル、そして騎士の数名がいた。


「将軍には約束を取り付けました。次のモンスター迎撃の際には軍も出撃した上で、

 ほとんどの相手は引き受けてくれるそうですわ。

 その上で件のモンスターが出てきましたら精鋭で強襲をかけますの」


にっこりと、俺を見つめてなんでもないように言い放つシンシア。


「それには俺達も参加して良いのか?」


「ちょっとファクト!?」


前向きな俺の発言に、慌てて引き止めるように叫ぶキャニー。


確かに、ほいほいと参加して良いような相手ではないのは間違いない。


「そう言ってくださると信じていましたわ。

 ええ、むしろ将軍の度肝を抜くように勝って欲しいところです」


シンシア自身、それは相応に困難であることはわかっているようだった。


表情が、明確に物語っている。


「……何があった?」


俺も真剣な声で、決断した理由を説いただす。


恐らくはシンシアは最初はもっと穏便な手法で解決するつもりだったはずだ。


こんな、俺が嫌だといったら終わるような策をとるようには思えない。


「さすがです。将軍、グウェインの腰に下げていた剣は……魔剣でした」


場を沈黙が支配する。


俺以外の面々は恐らくはその伝説的とも言える強さ、性能、

語られる過去の物語に。


俺自身は、誰が、あるいはいつのか、が気になっていた。


――魔剣


文字通り、普通の剣ではない。


ファンタジーのお話でいえば代償を伴う諸刃の力。


それは魂を食らうものであったり、狂気をまとうものであったり。


時折、強すぎるが故にそう呼ばれているだけの物もあるが、

大体は碌な結果を産まない。


「将軍は、力に支配されている……のか?」


街で感じた空気や集めた情報、そしてこの土地での戦い。


そのピース達は、この土地に力が正義と言い放ちそうな

戦闘集団を生み出していることを示している。


「本当にそうであれば、象徴の1つであるモンスターが倒されればなんらかの

 反応があると見ているのです」


(確かに、言ってしまえば獲物を横から掻っ攫うようなものだ)


恐らくは将軍も、倒せやしないと高をくくっているのだろう。


あるいは、いざとなれば後ろからばっさりと、か。


「なるほどな。面白い。よし、さっそく準備に取り掛かろう」


俺の決断に、キャニーとミリーも覚悟を決めたのか頷いてくれた。


恐らくは勝負は五日後。


部屋の窓からは、不気味に光り続ける火山が見えていた。




今のところ将軍の剣はオーラとかは出ていないようです。

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