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54「ありふれてるからお約束-2」


(せめて苦しまないようにしてやる)


俺は短くそう思いながら、目の前の男の背中に剣を突き出す。


突撃してきた攻撃をあっさりと回避し、姿勢の崩れた

無防備な背中への一撃だ。


生身を貫く感触と共に、相手の命が尽きるのがわかる。


元からこの世界の常識で生きていなかったせいだろうか。


モンスター相手では感じない物が、【人間】が相手だと胸に飛来する。


それは嫌悪か、自分自身への非難か。


「キャニー、ミリー! 1人は残しておけよ!」


そんな感情を振り払うように、俺は声を張り上げる。


相手の装備は汚れたものだが、どことなく統一性がある。


ただの荒くれの集まりではなさそうだ。


少女を狙った何かの刺客、という可能性も出てきた。


「どこ見てんのよ!」


俺の声に、2人ほどがこちらを向く。その顔は何かを気にしたものだ。


その隙をキャニーは逃さず相手へと切りかかり、武器を持った手にその攻撃を集中させる。


慌てて間合いを取る男達だが、それは馬車からの距離をとることに他ならない。


「……」


その彼らに追いすがるように動く影はミリー。


姿勢を低くとり、地面を這うようにする彼女へと

振り下ろされる荒くれの無骨な手斧は彼女の飛び上がりざまの攻撃に

あっさりと弾き飛ばされ、その肩口へとダガーが深く突き刺さる。


ミリー曰く、武器をはじくのには腕力が全てではない。

要は力の入り方を見切ればいいのだと。


瞬く間に仲間が倒されたのを見てか、男達に動揺が走り、

陣形らしきものを組もうという動きが見える。


「こいつら!? くそっ、前倒しだ!」


悲鳴のような男の叫びに、俺は周囲の林の中に気配が生まれたのを感じ取った。


男達の動きは、明らかに目的を持った動きだ。


そう、何かに巻き込まれないための。


(ますますきな臭い)


その気配の様子に、俺はわざと目立つように

背中からスカーレットホーンを抜き放つと魔力を込めてスキル発動の準備をする。


見た目はただでさえ赤い長剣が魔力を基にした赤いオーラをまとっているように見えるはずだ。


「悪いな。運が無かったと思ってくれ。赤き暴虐の角(スカーレットホーン)


できるだけ冷たく言い放ち、目の前の男達ではなく、気配のした林へと向かって

スキルを発動させる。


轟音と共に、赤い光が解き放たれ、林の一角が赤く染まる。


慣れないであろう悲鳴。


対人でこれを使うのはかなりオーバーキルではあると思うのだが、

甘い事も言っていられないだろう。


怪我をしている騎士の肩や、馬車に矢が刺さっている割に

目の前の集団には弓を持った人間が1人もいないのであれば理由は明白だ。


伏兵として弓兵を潜ませていたのだろう。


正面の男達は今起きた事が信じられないのか、固まっている。


視線を変えれば、たまたま当たらない位置にいたのか、2人ほどの男が林から転げ出てくるところだった。


手にはやはり、弓。


それもかなり大きく、威力は言うまでも無い。


林の中に何人いたのかはわからないが、男達の切り札の1つであった人数なのは間違いないだろう。


「少年、こちらは任せた。彼女らと共にがんばってくれ」


俺達3人の動きに、動けないでいた少年、アルスの肩をたたきながら俺は弓兵の元へと走った。


俺が迫ってくることに気がつき、慌てて構えるのがわかるが、遅い。


1人は震えからか、矢を取り落とす。


となれば向かってくる矢は1本。


俺のステータスをもってすればこの程度、はじくのは容易だ。


「向かってこずに逃げるべきだったな」


相手の顔がはっきりわかるほどの距離に肉薄し、

恐怖に染まる相手の顔を見ずにスカーレットホーンを振りぬき、その体を刻む。


「あの嘘つきめ! 何が雑魚しかいねえだよ……」


致命傷を受け、静かになる直前のひとりがそう言い、息絶える。


口ぶりからして、こいつらの頭目が嘘つき、という感じではない。


依頼主……か?


そう考えながら振り返れば、ここからでもわかる筋の良い動きで、

アルスが最初に叫んでいた荒くれの1人を切り伏せたところだった。





「結局、生き残りは3人か」


俺は縄で縛り上げられた男3人を前に、横に立つ騎士を見る。


恐らくは馬車の護衛だったのであろう騎士の中で、アルスを止めていた男性だ。


キャニーたちは、怪我をした御者や騎士の治療に当たっている。


とはいえ、先日のポーション類をいくつか使えば大事には至らないだろうが。


「助かった。礼を言わせてもらう」


自らも怪我をした腕に当て布をしたままの姿で、その騎士は俺に頭を下げた。


「何、気まぐれさ。で、こいつらどうする? 首だけでいいか?」


俺は無造作にスカーレットホーンを男の内、1人の首にそばに向け、引くように動かす。


「ひぃっ! しゃ、しゃべる、しゃべるから命だけは!」


青ざめ、身じろぎする男を見やりながら、俺はしゃがむ。


「そうか……。じゃあ、雇い主は誰だ。知らないっていったらまずは指だ」


ここには地球の道徳もなければ、世間体などありやしない。


自分の味方は守るが、無力な状態とはいえ、敵までそうする必要は無い。


騎士は表情を少し変えたが、止める様子は無い。


どうやら奇麗事だけの騎士道というわけではないようだ。


他の2人も、次は自分だと感じたのか3人そろって口を開く。


俺はその中で出てくる名前に覚えは無いが、

騎士はそうではないようだった。


顔がゆがみ、表情も赤くなったり青くなったりと忙しい。


「だからよ、今日はここに小旅行に通るっていうから準備したんだ」


まとめると、男達は少女、あのアルスが守りたいといっていた彼女が

この地方に少数の護衛でバカンスに来る情報を得、奇襲をしかけたということだ。


報酬は俺の感覚から言っても破格。


あわせて騎士の反応からすると……。


「お家騒動ってとこか? 雇い主は国のお偉いさんじゃないのか?」


確認を取るように、隣の騎士へ問いかける。


「馬鹿な。いくらあの方でもこんなことまで……いや、思えば?」


どうやら騎士には思い当たる節があるようだった。


「な、なあ。もういいだろ?」


こちらを伺うような男の声。


「……」


俺は考える。


皆殺しもたやすいし、見逃すのも簡単だ。


ここは街道そば、安全ではないがすぐに危険でもない。


「よし、いいだろう」


俺の答えに騎士は何かを言おうと口を開き、

男達は歓喜の表情を浮かべる。


「が、縄は解かない。運がよければ生きるんだな」


今の男達は両手両足をそれぞれ縛られ、

芋虫のように転がることはできるかもしれないが、普通には動けない。


「そんなっ」


「解いた後に襲い掛かってこないなんて保証は無いだろう?」


非難の声をあげる男に剣を突きつけ、そう言い放つ。


モンスターが常にいる様子は無いが、来ないとも限らない。


まさに運がよければ、だ。


横を見れば、納得した様子の騎士。


いちいち叫ばれるのも面倒なので、

麻痺を与える剣を取り出し、3人とも浅くきりつけて麻痺にさせる。


驚愕のまま、息はできても声は出ない様子の3人に満足した俺は立ち上がる。


「いこうか」


「ああ……」


立ち去る背中に声は無い。


だが男達もこの世界に生きる人間。


こうなる可能性はどこかで感じていたに違いない。







「あ! お帰り!」


俺の姿を認めたキャニーが声を上げ、ミリーやアルスもこちらを向く。


傍らには服は血まみれのままだが、生き延びた様子の御者の男性も見える。


歩み寄ると、少女、恐らくは護衛対象だろう相手が1歩、こちらに歩み出る。


「危ないところをありがとうございます。ファクト様」


少女の声に無言で背後のキャニーたちを見ると、てへっと舌を出して頭をかいている。


どうやら何かの拍子にさっさと自己紹介は済ませたらしい。


「いえ、女性を守るのは全ての男の務めです。レディ」


「まぁ! お上手ですね。楽にしてください。ここは野原ですもの。

 私はシンシア。他は秘密です。よろしくしてくださいね」


なんとなく、相手の空気を感じ取った俺は口調を変えて片膝をつく。


彼女も笑顔でそれに答え、口元に手をやって上品に笑う。


どうやら箱入り……ではないがそれだけでもなさそうだ。


「それでは失礼して……この場を離れたほうが良いと思うが、俺達の馬でも大丈夫か?」


彼女らの馬車は壊され、馬も矢で射抜かれている。


だが立場がありそうな相手を歩かせるのも問題だ。


「あら、よろしいのですか? 私もそうですけど、御者の方も歩きというのは大変そうですから」


彼女、シンシアは怪我は治ったがぐったりした様子の御者を心配するように言う。


「問題ないわ。貴女と、御者の人と、ちょっと怪我が重かった騎士さん、3人は馬でいいんじゃない?」


「そうそう。私たちは元気だし!」


キャニーとミリーもそれぞれ承諾し、シンシアと代表格らしい例の騎士、

御者をアルス、怪我をした騎士は仲間のもう1人の騎士がサポートする形で馬に乗り込んだ。


「このまま東に向かってくれ。小さいが村がある」


騎士の言葉に従い、俺達は歩を進めるのだった。







数時間後、俺達はまだ街道を進んでいた。


道中、様々な質問を受け、あるいは質問をし、話題は尽きなかった。


「そうですか。モンスターの調査に」


「ああ。どこの国でも問題らしいからな」


馬上からのシンシアの質問に俺は答える。


騎士の面々も俺が見せた封書の中身に、納得した様子だった。


「この辺りは国の……いや、保養地があるからな。定期的に対処されているので

 モンスターの襲撃は心配しなくて良いんだが……まさか人に襲われるとは」


騎士の1人が語る内容は少し無理がにじみ出ている。


彼女、シンシアの素性になんとなくアタリはついているが、

口に出して場を引っ掻き回すほどでもない。


必要なときにそう動けば良いだけだ。


「なるほど。村についたら少し話を聞いても?」


「ああ、改めて礼もしたいしな。あれだ」


声にそちらを向けば、確かに村。


だがいくつかの煙が立ち昇っているのがわかる。


「まさか、火事?」


「ん~? でもあれは燃えてる煙じゃないよね?」


慌てた様子のキャニーと、疑問を浮かべたミリー。


「ふふ、行けばわかりますよ」


「そうそう、楽しみにしててください!」


品のある笑みを浮かべるシンシアに合わせるように、

ずっと俺達を見て何か考えていた様子のアルスが、

少年らしい若干高い声で元気よくそう答えてくる。



そして村にたどり着いた面々を迎えたのは、独特のにおいだった。

後半はほのぼの風味、純情系(意味不明)


次回はお約束です、ええ。

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