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53「ありふれてるからお約束-1」

王道って大事ですよね。

フィルからの依頼を改めて受けた俺はまずは東へと進むことにした。


理由は特に無い。


敢えて言えば東には日本的島国があるらしいことが

地図に記載されていたからだ。


明日早く出る事をあわせて伝えたところ、ジェームズは元より、

クレイやコーラルもすんなりと賛成してくれた。


そのさっぱりとした受け答えには別れを惜しむような物は無く、

冒険者はそんなものかな?と若干の寂しさを感じながらも俺は宿に戻る。


イリスは早速研究だ!と言い残していったが、

キャニーたちはいつのまにかいなくなっていた。


幾ばくかの寂しさを胸に、なんとはなしにキャンプを起動させて中に入る。


なじみのある空間を目にしたとき、

いい事を思いついた俺は掃除がてらにあちこちをひっくり返し始める。


『へー、こうなってたんだっけ?』


「なんだ、キャンプの中は見たことが無いのか?」


意外そうなユーミの声に、俺は目的の物を探しながら聞いてみる。


『基本の造りは知ってるわよ。でもここはもうカスタマイズしきってるじゃない』


確かに、この空間は既に俺の趣味の姿だ。


と、目的の物を見つけた俺はそれを手に取る。


手にしたのはアイテムボックスにしまうのもおっくうで、

当時作ってすぐにキャンプ内にしまっておいた武器の1つ。


名前はストライクソード。


火をふくだとか、雷を呼ぶといったような特別な能力は無く、

評価は分かれる一振り。


ある程度の回数使っていると、唐突に特殊能力に目覚めるのだが、

その中身はほぼランダムだ。


性能そのものは武器の質に依存する。


その上、一度特殊能力に目覚めると目覚めたときの使用者専用になるという、

ロマンあふれる一品である。


この先、どんな相手に出会うかはわからないがきっと面白いことになる。


そう考え、溜め込んであったソレを10本単位で回収することにした。


そして、そのうちの1本を手に、炉の前に座る。


『誰の?』


「明日にはわかるさ」


俺は懐から金色に輝く玉を取り出し、ストライクソードに添えてハンマーを握る。


MDのプレイヤーが見たなら、そのもったいなさに叫ぶことだろう。


素材は叱られるほどレア、というわけでもないが、

それでもHPが3桁なのに完全回復薬を使うようなものではある。


そんな事を思いながら、俺はストライクソードを鍛えなおすべく、手を振り下ろした。


最初は白銀に近かった刀身が、だんだんと金色を帯びていく。


思い浮かべるのは少年の顔。


目の前の背中をあきらめず追いかけ、横に立つ少女を守る事を考えられる子。


世界はほとんどの人には優しくない。


貴族が豪華な生活をする傍ら、質素な生活を強いられる人もいる。


団欒を過ごせる人もいれば、モンスターの凶刃の前にその命を散らす人もいるだろう。


皆を守りたい!とある人は言うだろう。


だが、人の手が届くのはその長さだけだ。


1人が守れるものには限度がある。


きっと、彼ならそれをしっかりわかってくれる。


そんな事を思いながら作り上げ、

出来上がりに満足した俺は、出発の朝を迎える。



どこか寂しさも覚えながら出立の朝。


まだ朝靄も見える頃、俺が馬に外に出しておいたほうが良い最低限の荷物をくくっていると、

覚えのある気配が建物の脇から現れる。


それは、クレイだった。


「本当にもう行くんだ」


その声はどこかさびしそうな弱いもの。


表情も、理解はしているが納得はしていない、そんなものだ。


「ああ、先は長そうだしな」


俺も手を止め、彼と向き合う。


見れば、クレイは出会った頃を思えば立派になっている。


手に持った刃が命を容易に奪いうるものだという自覚もあまりなく、

ただ剣を持っていただけの体も、いつしか――男らしく、なっていた。


いつもはジェームズやコーラルと一緒にいるから見えていなかったのだろう。


やがて自分の中で気持ちはまとまったのか、

引き締まった顔でクレイは俺を見つめ、口を開く。


「さよならは言わないよ。必ず!」


出発までに、ジェームズたちには俺の目的はある程度話している。


世界の脅威があるなら、それを打ち払えるだけの英雄を探すのだと。


そして、その手助けをしたいのだと。


突拍子も無い、気の長い話だが、誰も笑うことはなかった。


目の前のクレイもまた、俺の話を馬鹿にせず受け止めてくれたのだ。


その上で、自分も英雄になるのだと、思ってくれているのだ。


「ありがとう」


それがわかっているから、俺も短くそう答え、手をとる。


まだ子供らしい、それでも男の手になったその硬さに内心微笑み、握手を交わす。


「ジェームズはなんだかわかってるさ、みたいな感じだったよ。

 後、コーラルは泣くのが我慢できないからだってさ」


クレイのその言葉は、少しの寂しさを生み出していた俺のしこりを取り払ってくれた。


「そっか……よし、これをやろう」


俺は思い立ち、背中に手をやると1本の長めの剣を取り出す。


それはキャンプの中で作り上げた武器。


ストライクソード改め、ストライカーブレイド。


形はなぜか俺の知っているMDの同じ武器とは少し違うが、

感じる印象は同じようなものなので、効果も同じだろう。


必要能力を満たし、その上で必要な条件のうち1つを満たせば良い。


簡単なのは一定回数使うことだ。


他にもいくつかあるし、なぜか見えない条件もあるのでクレイ次第では

意外と早く発動するかもしれない。


本当は後から手紙と一緒に荷物として送ろうとしたものだが、ちょうどいい。


「え? いいの?……って抜けないんだけど」


喜び勇んで受け取ったクレイの顔が曇る。


そう、必要能力であるSTRに相当する値がまだ足りないのだろう。


「うむ。それが抜けるようになったら一級ってことさ」


俺はそういって、馬に飛び乗る。


「コーラルには杖はまだまだ先があるっていっておいてくれ。

 ジェームズは……なんだかわかってそうだからいいや」


「う、うん! またね!」


最後は年齢らしく、思い切り手を振るクレイに自分も手を振り替えし、

薄くなってきた朝靄を書き分けるように馬を進める。


歩を進める馬の足音が響き、だんだんと人の気配が背中から遠ざかっていく。


姉妹には会えず仕舞だったなと考えながら馬を進めていたときだった。


『あら、おまけみたい』


「なんのことだ?」


出立から30分ほど経過しただろうか?


周りは既に自然あふれる姿になったところで、

唐突にユーミが言って肩から前方へと飛んでいく。


街道の脇にある木々になぜかくくられた2頭の馬。


そして、木の上から影が2つ、飛び降りてきた。


「やっとね。といっても、早く出るだろうと思って先回りしてたのだけど」


「ねむいよ~……」


現れたのはなぜか旅装束のキャニーとミリー。


「……ついてくるのか?」


「別に、ついてっちゃ駄目とも言わなかったじゃない」


あきれの混じった俺に、キャニーはニヤリとして答える。


確かに、ついてきてほしいとも言わなかったが、危険だから来るなとも言わなかった。


研究に戻っていったイリスのように、自分達の生活に戻ると思っていたのだが……。


「お姉ちゃんは素直じゃないから。自分達のいたあの組織が東の流れを持ってそうだというのと、後は心配だかr…ムグッ」


なにやら続けようとしたミリーの口を慌ててふさぐキャニー。


瞬間、3人の間に微妙な空気が流れる。


「ち、違うのよ? これには深い訳がね?」


『人間っておもしろーい』


「ユーミ、そこは混ぜっ返さないのがマナーってもんだ」


俺はそういって半透明のユーミをつまみ上げ、肩に乗せる。


そして、2人に向かい合う。


「ありがとな。行こうか」


言い放ってすぐ、若干のてれを隠して俺は馬に飛び乗り、手招きする。


「んっふー。ファクト君もまだまだだなー」


「……言い出せなかった」


ミリーの陽気な声に隠れるように聞こえたキャニーの声は聞かなかったことにした。


そして、時折襲い掛かるゴブリンのような相手を適当にあしらいながら、

旅は順調に1週間目を迎える。




世の中にはお約束という言葉がある。


あるいは、使い古しといってもいい。


それは最終決戦のピンチに駆けつけるライバルであったり、

駆けつけたと思えばぱかっと開く落とし穴であったり。


かくいう自分自身も振り返ればそれに類する経験はしているのだが……。


「いくらなんでもお約束すぎやしないかね?」


「そんなの知らないわよ」


「接近、迎撃再開」


現状への俺と彼女らの反応は三者三様、

だが1人を除けばどちらも恐らくはこの場にふさわしいとはいえなかった。


そう、壊れた馬車、倒れ付す馬。


血まみれの御者に、怪我をかばいながらも少女を守る数名の騎士風の男性。


そして、周囲を取り囲む10名ほどの荒くれたち。


「ま、世界はいつだって唐突だわな」


「いきなり飛び込んできて何言ってやがる!」


俺のつぶやきに、お約束すぎる台詞が届き、

音を立てる相手の武器と、膨れ上がる殺気。



そう、俺達は事件現場にいるのだった。


「この人たちは関係ないだろう! ボクが相手だ!」


その上、勇ましくショートソードを抜き放つ少年までいる。


クレイとはある意味正反対の姿。


身なりは兵士のものだが、なんだかまとう空気が一般のソレではない。


胸元に光るペンダントも、どこか高級そうだ。


「無茶はやめるんだ! アルス、下がれ!」


彼の上司か、先輩なのか? 男性の1人が叫ぶのがわかる。


「で、でも!」


少年はおろおろと相手と俺達を見比べている。


それはそうだろう。


大ピンチ!というところで唐突に3人が乱入してきたのだから。


その姿は旅人以上でもそれ以下でもない。


まだ武器を構えていない俺に、強そうな武器を持っている様子の無い姉妹。


戦力と考えにくいのも至極当たり前である。


「よう、そこのお嬢様はキミの知り合いかい?」


敢えて俺は陽気に語りかける。


荒くれどもは襲ってこない。


彼らは気がついているだろうか?


自分の動きをなぜか制限するプレッシャーが、

自分には見えない存在、ユーミから放たれていることに。


「え? あ、はい! 彼女は、大切な人です。最初に出会ったあの日から、

 ボクの中では彼女は……世界を相手にしてでも守りたい子です!」


聞いているこちらが恥ずかしくなるぐらい、きっぱりと言い切る少年、アルス。


「アルス……」


怯えて震えている様子の少女もその名前をつぶやいて目をキラキラさせている。


うむ、こちらも砂糖を吐きそうだ。


だが……。


「いいね、嫌いじゃないぜボーイミーツガールはさ」


俺はどこか高鳴る胸の鼓動に身を任せて、俺は荒くれどもに向き直る。


「ぼーいみ? 何よそれ」


「なんだか面白そうだねー」


顔をしかめるキャニーに比べ、彼我の戦力差にモードが一時的に解けたのか、

のほほんとした受け答えのミリー。


「終わったら話してやるさ。行くか!」


まずは目の前の哀れな荒くれどもを沈黙させてからである。


言い放って、俺は連中に飛び掛るのだった。



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