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47「掘って進んでまた掘って-2」

基本はまったり風味。


物事は意外なところから変化することがある。


発明家の長年の悩みが何気ない素人の一言から解決するようにだ。


そこまでの物でもないが、今の自分はそんな気分だった。



「あら?」


2人を連れて再びの現地。


さて入り口の瓦礫を改めてどかすかというとき、

キャニーが脇に避けてあった何かの像らしき破片の1部を手に取っていた。


「ん? 何の像だかわかるのか?」


俺は手を止め、しげしげと手の中の破片を見るキャニーに近づく。


「多分だけど……ねえ、聖女の像じゃないかしら? これ、聖女のブローチだもの」


「え? あ、ほんとだ。お姉ちゃんとよく読んでたよね」


キャニーから破片を手渡された少女、妹であるミリーがどこかのほほんとした声で答えた。


彼女は腰に届きそうな長い髪のキャニーと違い、肩に届くかどうかという髪をポニーテールにしている。


装備は両者とも、布製と思われる上下に、薄い皮鎧とダガー類だ。


音からして、中にかたびらのようなものを着込んでいると思われるが、

それよりも気になるのはスカートだ。


冒険者として、あるいは戦闘するものとしてどうかと思ったが、

譲れないこだわりなのだ……そうだ。


「聖女? 聖女っていうと、こう……癒しとか? いや、よく知らないんだけどな」


MDのゲームとしての設定には特に覚えがなかった単語に、

俺は世間知らずと言われるのを承知で2人に聞いてみる。


「男の子はあまり読まないのかしら? 簡単に言うと、

 とある国がドラゴンに襲われて王子率いる軍勢が危機!

 そんなときに光の中から現れた聖女様が、不思議な光で癒しと鉄壁の防御を行使した。

 その後はその力を使って王子と旅に出て、国を狙う悪玉を成敗! 二人は結婚して

 幸せに暮らしましたっていうお話よ」


(ボーイミーツガールなお話の視点が女の子側、といったところか?)


話の内容としては、聖女様が聖女様が、という感じで

戦い抜いた王子すごい!というような感じではないようだった。


「癒しと防御ねえ。今は失われた古代魔法みたいな物なのか?」


「多分、そうじゃないかなー。ファクトくんはどう思う?」


キャニーに似た顔で、友達に話すかのように話題を振ってくるミリー。


そう、彼女は俺をくん付けで呼ぶのだ。


歳は10離れているかどうかぐらいだと思うが、

キャニーに呼ばれたとおりおじさん呼ばわりされても不思議ではない。


2人ともまだ現実世界で言えば未成年であるのは間違いないのだが、

事情は詳しく聞いていないが年齢をちゃんと考えられる環境にいなかったので、

まだ20歳ではない、ぐらいしかわからないそうだ。


これまでに聞いた限りでは両親の不幸や、その後の環境的に

誕生日を祝う、というものではなかったようだから仕方ないのかもしれない。


ともあれ、最初の挨拶の頃からミリーは俺の事をくん付けとなっている。


対してキャニーは呼び捨てが基本だ。


おじさん呼ばわりは確かに嫌だし、ここでお兄さんなどと呼ばれるのも

何か誤解を招くので問題はないといえばないのだが……まあいいか。


「さすがに死者の蘇生とかはないだろうけど、大怪我がすぐに治る!とかだったら見てみたいな。

 魔力消費も大きそうだし、かけられた側も何か問題がありそうだけど。

 あ、何か発動に媒体が必要とかもありそうだな」


俺はあごに手をやりながら、MDにもあった強力な回復魔法を思い浮かべ、

当たり障りのない単語で答える。


「ファクトは見たことがあるように言うのね」


俺の口調に何かを感じたのか、キャニーが戦闘時のような瞳で問いかけてくる。


その瞳に、一瞬硬直する。


これが、女のカンというやつだろうか?


「いいわ。良い男には秘密が多いものなんでしょ?」


静寂の後、キャニーがウィンク1つ、すぐさま体の向きをかえて入り口に歩き出す。


「え? ファクトくんにはああいうの以外にまだ何か必殺技があるの?」


袖を掴んで聞いてくるミリーを適当にごまかしながら、俺も入り口の瓦礫をどかす作業に入る。







「へー、面白そうね」


「どきどきするよー。今のところ気配なーし! お宝もなーし!」


「最近は探索されてない場所だからな。何があるかわからない、注意してくれ」


当然切れていた灯りの魔法を例のショートソードにかけなおすと、

好奇心が先に出ているキャニーに、真面目なのか天然なのかわからないミリーと、

どちらもちょっと不安を覚える姉妹の声が返ってきた。


ただ、身のこなしに油断は無い様なので、

彼女達なりの平常なのだろう。


改めて3人でフロアを探索すると、大きな通路以外には

隠し扉などはなく、通路をいくしかないようだった。


さて、そうなると……。


「俺が先頭に立つ。キャニーは後ろを頼む。ミリーは真ん中で、警戒を全体的にしてくれないか?」


2人がうなずいたのを確認し、既に見られている2人の前ならいいかと、

俺は変哲のない木の棒、ただし3mぐらい、をぽんっと生み出す。


なぜ3mなのかは、古来より伝わるダンジョン探索の最高の相棒だからとだけ言っておこう。


落ち着いたところで見たのはほとんどお初だったせいか、

2人から驚きの気配が伝わってくるが、視線は変なものではない。


「それって何でも出せるの?」


「秘密だ。賢者は世界の全てを知った時に死ぬというしな」


ミリーの質問に、俺はどこかで読んだ一説を口に出す。


あれは確かどこかの街の老賢者の日記だったか?


「古典的ね。されど全てを知るまで賢者は死ねない、故に全てを知ろうとするのだ。

 後半は後付けかしらね?」


どうやらマイナーではないようで、キャニーが俺の後に続けてきた。


そう、極めたが故にほぼ不老となり、自殺以外での死ぬための方法を捜し求めた

老賢者の皮肉のきいた世間への忠告なのである。


短いながらも冒険者としての経験からそれ以上問わないことを考えたのか、

その後ミリーからの追撃はなく、俺は生み出した棒で怪しい場所をつつきながら進む。


高さがあるのは入り口部分だけのようで、

通路を進むごとにだんだんと普通の建物ぐらいの高さしかなくなっていく。


「罠は無し……か、自然にできたものか、元はそういう場所ではなかったのか」


落とし穴や落石などはなく、時折ある部屋のような空間も

朽ち果てた何かがあるばかりで敵の気配もなければ、お宝の気配もない。


どれだけ進んだのか、はずれの部屋を10ほど引いた後、

大き目の扉の前に着く。


灯りの消え方からして、まだ2時間も経過していない。


「これまでのはお試しでここから本番ってとこかしら?」


「……するよ。イヤな臭いがする。あいつらみたいな」


「……ミリー?」


からかうようなキャニーの声と対照的に、冷徹な空気が混じったミリーに思わず声をかける俺。


「え? ううん、ファクトくんは初めてだよね? 私、こうなっちゃうんだ。ごめんね」


恐らくは件の組織にいたときに染み付いてしまったものなのだろう。


変わってしまった自分の雰囲気に、申し訳なさそうに言うミリー。


(彼女は別に、悪くない……)


「かまわないさ。ミリーはミリーなんだろう?」


少女として落ち込んだ様子のミリーの肩をたたきながら、

キャニーの方を向けばうなずく彼女。


「ええ、そうよ。貴女は貴女なんだから、気にしないの」


ミリーが落ち着いたところで、改めて扉と向かい合う。


「さて……どうするかな」


「こそこそしてもすぐわかるし、蹴り飛ばしましょうか?」


言うが早いか、武器を構える姉妹に俺も覚悟を決める。


棒をしまいこみ、戦闘用の長剣に持ち変える。


扉はおおよそ俺2人分。


素材からして石材でも金属製でもなく、

なぜか腐食した様子のない木製だ。


(さすがに蹴りで、というのは怪我が怖いな。タックルでいくか)


俺は助走の距離をとると、迷わずに肩からぶつかっていく。


予想に近い大きな音と手ごたえと共に俺の体は中の空間へと少し進み、

よどんだ空気が広がるのがわかった。


視線をすばやく前に向けながら魔法の灯りを放つと、

妙に整った空間に、石材で作ったと思われる柱たち。


そして、最奥で光を放つ小さなポールを守るように立ちふさがる2つの石像。


あふれる気配が、石像の擬態が失敗であることを伝えている。


「私達、右ね」


「了解した」


俺達が既に正体を見抜いていることに気がついたのか、

石像がにわかに動き出し、怪しい紫の光を持った瞳が輝く。


その姿は甲冑騎士。


体躯にあった大きめの両手剣を構え、鈍重とはいえないが、

早いというわけでもない速度で駆け寄ってくる。


こういった相手の場合、生物相手の攻撃をしてもひるまないことが多いし、

意味のないことがほとんどだ。


やるならば攻撃手段を奪うか、移動手段を奪うといった結果が必要だ。


おおよそ俺の2割増しと言った様子の高さから振り下ろされる、

重量の乗った一撃を余裕を持って回避し、俺は手に持った長剣を

人間で言う小手、から手首の辺りにかけて力いっぱい振り下ろす。


大根のような野菜を思いっきり包丁で切ったときのような、

快感にも近い手ごたえと共に石像の手が壊れるのがわかる。


返しざまの刃で、人間で言う腿のあたりへと斬りつけると、

これまた若干の手ごたえと共に刃はしっかりと通ってしまう。


(もろいな。やはりこんなものか)


この動き、強さからして恐らくはノービススタチュー。


動く石像として有名なガーゴイル類とは違い、

何らかの魔法や儀式によって生み出された擬似生物だ。


魔力の密度が濃い場所で稀に自然発生することもあるというが、

目の前のこれは過去の魔法使い達が使役するために生み出された個体のはずだ。


実力は最低クラスで、下手をすれば今の俺ならば、

素手でも砕くことが可能だ。


現に姉妹の攻撃であちこちはひび割れ、ついには腰に大きくヒビが入った

ノービススタチューは半ばから崩れ落ちた。




「なんだろ……嫌な気分になった割りにあっさりというか、うーん?」


悩んだ様子のミリーの頭をぽんぽんとたたき、

俺は無言で剣先を石像の心臓部分に突き刺す。


圧縮された空気が漏れ出すような音をたて、

何かが剣先で光り、それもすぐに収まる。


俺が剣を抜き取ると、ずぼっと音を立てて小さな玉が不思議そうな顔の

姉妹の前へと掲げられる。


「こいつが核だ。なんだったかな、周囲の魔力を取り込むというより

 循環させて、動力にしてるらしい。これを壊さずに放って置くと、

 何日かすると復活するんだったかな? だから防衛にはもってこいの仕組みさ。

 効果は違うが、ミリーがつけられていたアレと同じ原理だからな。

 嫌な気分がして当然だろう」


俺は姉妹に口を挟まれる前に、つらつらと意見を述べてしまう。


ぽかーんとした様子の姉妹だったが、

俺が突き刺していないほうの石像がカラカラと音を立て、

破片が動き始めているのを見ると慌ててキャニーが俺と同じように

心臓部にダガーを突き刺し、沈黙させる。


他にこの部屋に敵がいないことを確認した上で、

3人は光るポールの前に立つ。


俺はこいつの正体に見当がついているが、

そこまでペラペラとしゃべるのもあまりよくない。


どうしたものかとポールを調べた振りをしながら考えていると、

キャニーが立ち上がり、腕を組むのがわかった。


「お姉ちゃん?」


念のために警戒の姿勢をとったままのミリーが、

姉の動きに気がついて思わず声をあげる。


「これって……空間を渡るっていう希少な奴?」


俺は言葉に悩んでいた。


なぜキャニーがそれを知っているのか?


他にも疑問は尽きないが、少なくとも

ほぼ間違いなく、飛んだ先から帰ってくることができることは

俺から明言して良い話ではない。


未知にも近い希少なものを前にした冒険者、こうでなくては。


そこで……。


「そうだとして、どうする? 行ってみるか? 戻ってこれないかもしれないぞ?」


卑怯だと半ば自覚しながら、俺はそんな質問をキャニーに投げかけていた。


ゲームやSFでもよくある転送システム。果たして転送された先の人間は

元の人間足りえるのでしょうか?


同じ体組織、同じ考えを持っているだけで別人なのかもしれない。

そんな事をたまに考えてしまいます。

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