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45「人の手のひら」

今回は説明会話が多くなりました。





「王子だったんだな」


「何、末弟だがね」


幾度目かの祝勝会というべき喧騒が周囲を包み、

老いも若きも冒険者も関係なく食べ、飲み、騒いでいる。


そんな中、2階席のテーブルの一角に、

俺は最後の一手に協力してくれた騎士と座っていた。


なぜ2人だけかといえば、話は戦闘直後にさかのぼる。




マテリアルドライブ実行後、なんとか戦闘は終わった。


軍主導ですぐさま遺体の収容と弔いが行われ、数時間程の警戒の後、

襲撃を防いだものと判断されたのだった。


モンスター……と思われる存在によって、アンデッドと化してしまった

人間は、武器の攻撃を受けた箇所はそのまま損傷しているが、

そのほかは人間本来の姿に戻ったようで、

大きな布などによって手厚くくるまれ、運ばれていっていた。


また、一斉攻撃に儀式を行ったモンスターが巻き込まれたのか、

いつの間にか撤退していったのかは定かではない。


俺は前回の教訓を生かし、すぐさま魔力回復用のポーションを飲み干し、

前のような気絶は回避している。


体力回復用と比べ、魔力回復用は数が少ないので注意しなくてはいけない。


とはいえ、あくまでゲームの感覚で言えば少ない、というだけで

恐らくはこの世界で言えば小国の在庫にも匹敵するのではないだろうか。


今、現場は襲撃を防いだことと、大きな勝利により

参加者の多くがレベルアップしたことによる興奮に包まれている。


これまで特別意識したことはなかったが、数値そのものはわからずとも

レベルアップ時には自身に燃え上がるような実感があるそうなのだ。


勿論、いきなりむくむくと筋肉が盛り上がるといった変化ではなく、

体力であったり、体つきの精悍さが増すといった様子だ。


(俺の体をそういうのがわかる人にマッサージさせたりしたら……驚かれそうだな)


そして、誰からともなく勝利を祝った催しが始まり、

街は騒がしくなっていく。


そんな騒ぎに満たされたとある酒場へと例の騎士に俺は呼び出され、

時間まで待っているように告げられる。


適当に飲み物を口にしながら、俺へと変な視線や来客が増えるかと思ったが、

勝利の宣言をしてくれた騎士の言葉に大方は納得したようで、

大きな騒ぎにはなっていない。


曰く、皆で奇跡が起こせたのだと。


だが、俺のやっていたことを近くで見ていた冒険者達は、

当然俺が何かをしたことを見ているし、聞いている。


中には地竜の時にも戦っていた人もいただろう。


俺としてはそういった人々からの質問攻めを覚悟していたのだが、

思い出したように見覚えのある冒険者が話しかけてくるぐらいで、

想像していたような事態にはならなかった。


不思議で仕方がなく、ジョッキを持って訪ねてきた初老の冒険者、

コーラルの魔法の正体をつぶやいていた魔法使いに聞いてみたのだった。


俺のやったことを皆は気にしないのか?と。


「そりゃ気にするじゃろう。今はそうでもないが、そのうち

 調子に乗った馬鹿共が脅しにでもくるかもしれんなあ」


笑い、ジョッキの中身を飲み干しながら言うその内容に俺はどきりとし、

慌てて口を開こうとする。


「だがな、ほとんどはわかっとる。冒険者なんぞ、所詮は身一つ。

 力にせよ、魔法にせよ、自分の力が全ての種。

 仮にお前さんがアレを自在にやれるとしよう。

 だが、それを聞いてどうなる? 自分にも同じことができるかどうか。

 自分に扱いきれるかどうか。そういうのを考えてしまうんじゃ」


赤くなった顔と違い、瞳は真面目な魔法使い。


「扱いきれるか……」


「そう。自分が一番、楽をしたい、あるいは世界を自分の手に!なーんて

 考えとるやつは別かもしれんがの。お前さんに面と向かって言うのもなんだが、

 あんなのができるようになったところで、周りが怖くて

 何もやれなくなってしまうじゃろう。いつ、国から危険人物として追われるかもしれん」


男性は中身がカラになったことに気がつき、ウェイトレスを呼んでおかわりを頼んでいた。


匂いからしてオレンジにも似た果実酒のようだ。


「教会からの奇跡の認定に加えて、その中身。

 こいつは、師弟関係で教わる技術やら、ちょっと良い武器、

 なんてものとは話が違う。試してみたい、とは思うかもしれんが、

 ぜひ自分のものに!と思う連中は冒険者には少ないじゃろうよ」


国は知らんがな、と最後の最後に物騒なことを加え、魔法使いはどこかに立ち去っていった。


「人の手に……余る……か」


この世界に魔法はある。


恐らくは、攻撃のスキルもある。


では、作成のスキルは?


そのほかのさまざまなスキルはどうなのだろうか?


そして、マテリアルドライブは俺だけのスキルなのだろうか?


「ファクト殿、こちらへ」


俺が思考の海に沈みかけていたとき、聞き覚えのない声がかかる。


「ん?」


振り返れば、身なりの良い男性が1人。


執事のようにも見えるし、ただの使いのようにも見える。


騎士からの連絡だと判断した俺は、案内されるままに酒場の2階へ。


空間の奥ばった場所にあるテーブルに、甲冑のままの騎士が1人、静かに座っていた。


「待たせてすまんな。おい、私と彼だけでいい」


騎士はここまで案内をしてくれた男性にそう声をかける。


男性側は一瞬、動揺した様子だったが最後には頭を下げてどこかへと移動した。


「……国が何の話だ?」


「おや? 誰かが先に話したかな?」


椅子に座るなり発した俺の言葉に、騎士である青年はわざとらしく首をかしげる。


「別に推理でも誰かが話したわけでもないさ。あの現場で指揮権なんかを持てるのは

 それだけの立場の人間ってだけだ。それで? 国に仕えろっていうならお断りだが」


一息に言い放った俺に対して、青年はお手上げとばかりに両手を上げて苦笑する。


「つれないことだ。一緒に死闘を潜り抜けた仲だというのに。いや、それは別の話だな。

 今回はただの礼さ。君がいてくれたおかげで犠牲者も少なく、迎撃できた」


さりげなくテーブルの上に置かれる、こぶし大ほどに膨らんだ布袋。


音からして硬貨が入っている。


「これは私個人からの謝礼だ。想定された被害の中で浮いた分だからね。

 誰の懐も痛まない。受け取ってくれたまえ」


「もらえるものはもらっておくが……ただの礼に呼ぶのも信じられないな」


袋を自分のほうに引き寄せた後、俺は青年の目を見て続きを促す。


「まあ、そうだな。まずは自己紹介といこうか。私はフィル。

 この街も領土に一応含んでいる国の末王子さ」


兜をかぶっていない青年の髪は金。


まさにファンタジーの王道だが、瞳は緑だ。


肩にかかるかどうかという長さの髪はさらさらとしており、

子供の頃は中性的な雰囲気を持っていたのだろうと推測できる。


甲冑のままなので詳しくはわからないが、

見える範囲での体つきからは後方でふんぞり返っているようなタイプではないようだ。


「王子だったんだな」


「何、末弟だがね」


深い意味もなく、目の前の事実に口を開いたが、

王子、フィルのほうは皮肉と受け取ったようだった。


「すまん。別に深い意味はない」


「いいさ。私も城にいるより剣を振るっているほうが好きなのでね。

 騎士のような真似事をしているということさ」


自分の格好を見やり、フィルは自嘲気味に笑う。


「それで、王子となるとますますこの場の意味が気になるんだが?」


そう、国に直結している人物と同席となれば、色々と蠢いていそうなのが世の中だ。


「ここにいるのが父だったり、長兄達であれば、

 拘束の上で恭順を迫ったかもしれんな。ただ、私には別の考えがある。

 そもそも、君の力は教会認定の奇跡なのだから、

 人からどうこう言われて、はいそうですかと使えるようなものでもあるまい?」


フィルはそう言って、腰に下げていた剣を鞘ごとテーブルに載せる。


「確かに、今目の前でやれといわれてもできないし、

 誰かの欲のためだけに使うのもお断りだな」


俺は剣に視線をやりながら、敢えてストレートに返答する。


変な嘘を言っても、得が無い様に思ったからだ。


「それで良いのだと思うよ。

 さて、これは教会の神秘の1つである祝福を抱いた一振りだ。

 とはいえ、王族なら必ず持っているがな。それでも世間で言えば

 重要なお宝、といった扱いをされるものだ」


俺の視線に気がついたのか、フィルは剣の鞘を撫でながらそう言い、

また腰に戻す。


(ふうん……NPCの騎士が持っていたやつに似てるな)


見ただけでは性能はわからないが、鞘の装飾や

雰囲気から、何かしらの補助がついていることは推測できる。


「戦いで最後に出てきた槍。あの場でもいったが、アレはかなり稀に見られるものだ。

 この剣と同じ、教会の神秘の1つ。

 歴史上も作られたという話も聞かなければ、

 授かったという話も少ない理由はわからなかったが、今日の戦いで納得した。

 使えば消えるのであれば、そう世の中に出てくるものでもないな」


「少し、意図が見えないんだが?」


剣を見せた理由、そして槍との関連性がわからず、

俺はせかすようにフィルのほうを見る。


「ん? おお、すまない。私は、君を国で抱えようとは思っていない。

 無論、他の国に仕えてくれ、というわけでもないがな。

 私は人間、ひいては世界の安定のために力を振るってくれれば良いと考えている」


俺は、フィルの言葉に考え込んでいた。


国の人間が、自分の国だけじゃなく、全体のために戦えと?


「理由を詳しく聞いても?」


「うむ。私は古来の文献を色々と見るのが好きでね。

 それが高じてダンジョンにももぐっている。

 そうなれば剣の腕も上がるし、呪いの物品に対する知識や

 対抗の手段なども手に入る。時には遺物もな。王族としては言うことなしだな」


語るフィルの顔は少年のようで、若々しい輝きを放っている。


「そんな中、古文書と言うわけでもないが、昔の日記や記録も多く見つけることができた。

 その中には様々なことが描かれていた。人間同士の争いのこと、神話のこと、

 モンスターのこと。そして、失われた魔法や武具、何よりスキルと呼ばれるもののこと」


「スキルだって!?」


思わず立ち上がった俺に、フィルはニヤリと良い笑顔をして

座るように促すしぐさをする。


(やっちまったな……)


これではスキルというものを知っているといったのと同じである。


「私が有用と思うものほど古い情報でね。断片的なものが多かった。

 だが、どれを見ても代償が必要であるということは共通していた。

 そして、振るうには相応の力が必要であるとも」


語り続けるフィルは真面目そのもの。


俺もその内容に耳を傾け、周囲の喧騒がどこか遠く感じていく。


そう、スキルを使うには魔法と同じく魔力がいるし、

ある程度のLvがなければ取得することも使うこともできない。


「それらを読んで私はやっとわかったのだ。語り継がれる英雄であったり、

 強力な者達は今は無い魔法を使い、スキルを使っていたのだと。

 そんな時、初めて聞く結果の奇跡の情報が耳に入り、

 そして、またその奇跡は起きた。世間は奇跡で納得するだろう。

 だが私は別の考えを持った。……だが、そんな真実はどうでもいい」


「どうでもいい?」


意味がわからない。


ついに目の前に自分が気にしていた事柄の真実を知っていそうな

存在が出てきたのだ。気にしないほうがおかしい。


「そう、どうでもいい。君が古代の魔法やスキルを全て身につけていたとしてもだ。

 大切なのは、それが人間を滅ぼすように使われるかどうかと、

 その力を持った人物がどういう人間なのか、だけでいいのだ。

 本当の歴史は1人で作られるのではなく、万人で作られるものだからな」


「王族の言葉とは思えないね。父親が聞いたら激怒するんじゃないか?」


とても王族の一員とは思えない、

特権階級の思考がないフィルの言葉に、俺は思わずそう口に出していた。


「だろうな。だが考えても見てほしい。王族以外に、王族を凌駕する力の持ち主がいて、

 それが英雄として活躍しだしたら、国の立場が無いだろう?」


確かに、そんな相手が出てきたら取り込むか、滅ぼすか、どちらかになることだろう。


俺は言葉に出さず、頷きで答える。


「つまり、君が人間に敵対せず、いざ力を明言するときに

 ちょっと声をかけてくれれば、それでいいのさ」


フィルは俺が何かしらのスキルを隠している事を確信した様子で、

俺に視線を向けている。


俺は頭をポリポリとかきながら、考えをまとめていた。


ここは乗っておくが吉か。


「それで? 俺は何もしなくて良いのか?」


フィルの目的が、俺の取り込みと侵略、というわけではないことはわかった。


だが、それだけではこの場所にいるには不十分だ。


「その意味では自由にしてくれてかまわない。

 ただ、この国や人間を相手に、力を振るうようなことがないに越したことはない」


フィルはそこで言葉を切り、テーブルに1枚の紙を広げた。


地図だ。


見覚えのある名前が記された街の位置関係のほか、

いくつものポイントが記されている。


「これは私が用いている探索用の地図だ。

 噂だけで、所在も不確定なダンジョンなども多く記載してある。

 君にはこれらの探索を平行して依頼したい。

 当然、内容に応じて報酬は支払おう。結果として君は、

 国公認の実績を得ることができるし、そこで得たのだと言い張れば

 大概の物品は怪しまれることはあるまい」


フィルはそのままじっと俺を見つめてくる。


おいしい話だ。


断る理由は見当たらない。


故に、確認をしなくてはならない。


「いいのか? 国に有用な物を全部隠して何もなかったって言うかもしれないぞ?」


「選んでくれるに越したことはない。選択されたということは、

 こちらに渡されるのはそれ1つで戦況を変えるような、人の手に余るものではないということだ。

 そのほうがありがたい」


大いに皮肉を混ぜた俺の問いかけに、フィルはむしろそれが狙いだといわんばかりに

大きく、うなずいた。


なるほど……。


(普段の言動が少々難ありだとしても王族は王族。

 下手に隠しきれるものではない……か)


つまり、フィルは俺にめぼしい発掘品達を預かってほしいのだ。


それなりの権力はあっても、人目に触れさせたくない物品を、

王族の生活の中で隠し続けるのは困難なのは間違いない。


「受けよう。詳しくは後日でいいのか?」


「ああ。しばらくはこの街にいる。後日たずねてくれ。

 正式に依頼書を用意しよう」




こうして、俺の決断を含んでまた世界が動き出していく。

終わりは決めているのですが、

どのアタリでそちらに舵を切るかが悩みどころです。

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