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43「戦いの狼煙-3」

ちょこっと寄り道です。

あれから三日。


作業は新規の作成から、既に各人が持っている武具の

打ち直しや改良へと、全体の作業はシフトしていっている。


修理などだけなら現地の施設でやったほうがいいだろうという判断で、

人員もある程度移動するようだった。


また、一人であまり量産しすぎても他の職人のためにならないという

キロンの助言も受け、俺は先行して出来上がった武具を馬車に積み込み、

現地での作業場所確保を行うべく、一緒に移動する面々と馬上にあった。



「あの街か……もう大丈夫だろうか?」


何が、とは言わずに俺は同じ馬車に乗っているジェームズに話を振る。


3人の見た目はほとんど変わっていないが、

なんとなく感じるものが違う。


恐らくは別件で、レベルが少し上がったのではないだろうか?


「今度は軍まで出てきてるみたいだしな。まあ、直接使者がやってくるかも、しれないな」


こればっかりはわかんねーさとジェームズも半ば投げやりに言う。


「クリスさんはちゃんと教会が認めたみたいなお触れを出してるって言うし、

 多分大丈夫なんじゃないですか?」


馬車の中、入り口に近い部分に座って長めの髪の毛を

ブラシのようなもので手入れしていたコーラルの声に振り返り、うなずく。


そう、先日の依頼を終えた後、クリスはガイストールから

各所へとこんなことがあったよ、という流れで俺のことを通達してくれたのだった。


(うまく引っ込んでくれればいいが……ならばこそ、とくるかもしれないな)


「そうだな……」


俺は人の限りない欲求に少々の不安を覚えながらも、

近くに迫った事態に対処すべく、意識を切り替えることにした。


例えば、時間制限がつく手法、各種作成だ。


そのうち消えてしまうので、理由の追求はあっても、

戦争への利用、ということは難しいのではないだろうか?


ちょっと強引だが、魔法の1つのように扱えないだろうか?


鍛冶魔法、なんていうのは少々ナンセンスではあるのだが。


ふと、俺は視線を景色に戻す。


今のところモンスターの襲撃もなく、今のところは平和そのものだ。


俺は次に、今度戦うであろう敵に考えを移していた。


――オーク


丸みを帯びた太った中にも、筋肉質な手足が垣間見れる相手。


ファンタジーな作品以外でも、アダルトな題材ではよく使われる醜悪な姿だ。


MDにおいてはHPは高いが、特定の攻撃には弱く、

狙う場所さえ間違えなければ効率よくダメージを与えられる相手だ。


反面、リーチの短い武装であったりすると苦労する相手である。


ある程度の知能を持ち、中には簡易な武具を作る存在もいるというのが

MDでの設定だったが、詳細はわからない。


少なくとも、しゃべることはできなくても、人語を理解することができる、

というのははっきりしていた。


獣扱いすれば痛い目を見ることは間違いない相手であり、

戦闘となれば、力と少々の技を組み合わせた、侮れない相手となる。


「オークか、数がいると厄介だな」


思わず漏れる声。


単体ならばたやすい相手ではあるが、数がいるとそのタフさ、

思ったよりも動きがいいところなどから、苦戦は間違いない。


「俺、オークはちょっと苦手なんだよなぁ。なんかいい手段無い?」


「坊主、よっぽどのことがない限りは自分の得手で勝負するもんだ。

 避けるのはともかく、切りかかるときのコツなんてものはな」


クレイのつぶやきに、横から答えたのは見覚えのない男だった。


見た目は山賊の頭、と言ったほうが正しそうな、

実用性重視の身の回り。


使い込まれた皮鎧に、棍棒、そして槍。


槍だけはすべてが金属製で、鈍い輝きを放っている。


一般的には木製の柄である槍の中、目をひきつける。


本人の肌は日焼けし、赤黒いが髪の毛はかなり短い。


角刈りといえばいいだろうか?


「アンタ、見たことあるな。どこかの傭兵団にいなかったか?」


ジェームズは彼に覚えがあるようで、普段はしない顔つき、

何かを探るような冷たい目で男を見ていた。


「いたさ。冒険者なんてそんなもんだ」


続けて男がしゃべった名前に、勿論俺は聞き覚えはなかったが、

ジェームズにとっては十分な答えだったようで、

その体の緊張が少し解ける。


「悪い。古巣だったら面倒だなって思ったんでね。むしろ、俺が好きな面々だったぜ」


「あ、じゃあジェームズが時々言ってたあの人たちなの?」


話に食いついてきたのはコーラル。少し意外だった。


俺も姿勢を変え、いわゆる聞くモードだ。


「ああ、そうだ。ほら、モンスターが溜め込んだ財宝をどうするかでもめた相手って話したろ?」


「もめた? そういやあん時に兄さんみたいな目をした若いのがいたっけなあ」


男の側も思い出したようで、なにやらうんうんとうなずいている。


曰く、近隣の村々を襲ったモンスターを退治する依頼が、

それぞれ別ルートでいくつかの傭兵団にあったときのことだという。


その数3組。


まとまりの違う別集団同士での依頼には困難もあったが、

とりあえずモンスター退治そのものは無事に終えたそうだ。


ただ、予想外の出来事として、光るもの、つまるところは

宝石や金目のもの等を溜め込む性質があった相手だったということだった。


ジェームズが昔所属していた傭兵団側は、振って沸いたようなボーナスだ、と

山分けを提案したが、男の所属する側は、まず報告の上で

いくらかを分けてもらうべきだと提案した。


どちらも当然といえば当然で、既に奪われ、なかったはずのものなのだから

もらっても問題ないという考え方もあるし、人為的な面からも

報酬として交渉すべきだという考え方もある。


話し合いは紛糾し、危うく同士討ちか?というところで、

3組目の集団は男の所属側を支持し、人数でも劣勢となった

ジェームズの所属する側は折れたらしい。


「俺も下っ端だったからな。何も言い出せなかったんだが、

 相手の先頭に立って叫んでるアンタの姿はよく覚えてるぜ。

 できることなら賛同したかったんだが」


ジェームズがそういうと、男は照れたようにひらひらと手を振った。


「昔のことだ。それに、集団の中にいるっていうのはそんなもんだ。

 俺の名前はキール。よろしくな」


ニカっと笑う笑顔は、独特の凄みがあった。


現にコーラルは微妙におびえているし、クレイも緊張している。


「おいおい、本当にあの発言の主か? すごい迫力だな」


「……おお、またやっちまったぜ。酒場の姉ちゃんも引くんだよな。うん」


ジェームズの指摘に、自覚はあったのか

慌てたように自分の顔をぺたぺたと撫で回すキール。


少し、お茶目なようだ。


その後は簡単な自己紹介となり、俺も名乗りを上げる。


「おお、アンタがあの? 聞いてるぜ。今度も期待してるからな」


どうやら俺の噂は聞いているようで、期待に満ちた目で見られてしまった。


「こればっかりはな。奇跡頼りってのも危なっかしい話さ。それより、

 その槍、見せてもらってもいいか? 気になるんだが」


俺は話を途中でそらし、自身の興味へと向ける。


「おう。わかるか? 俺の相棒さ」


慣れた手つきでキールが俺に手渡してくる。


そっとその槍を持つと、予想外の重量に一瞬声を出す。


(こいつは……いい物だ。ん?)


俺は槍の秘密の1つにそのとき、気がついた。


この世界の人々では具体的な数値はわからないだろうが、

体の頑丈さをあらわすステータスであるVITに相当するステータスが

それなりに上昇している。


俺が今まで戦ってきたような、レベル差のある状況ならばよくわからないだろうが、

同格、あるいは普通の人々であればかなりの効果が目に見えてわかる。


フライパンで頭を殴られても手のひらで全力でたたかれた程度になる……はずだ。


まあ、痛いものは痛いのだが。


「ありがとう。いいものだな」


俺はそういって槍を返す。


「おう。俺の父親が、母親に殴られてでも手に入れたっつーモンでよ。

 古物だが、かなり高かったらしいぜ?」


誇らしそうな声。


確かにこの性能なら稼ぎのいい冒険者でもそうそうは手が出せない金額になっていそうだ。


その後も何かしらの話をしているうち、

戦いの場となるであろう街が見えてくる。


「なんだか、ピリピリしてます」


「ジェームズ、なんだろう?」


若い二人が何かを感じたのか、馬車から顔を出し、

街のほうを向いている。


「そんだけやばいってことだ。よし、準備するぞ」


ジェームズの実感のこもった声と共に、

街へ入ってからの動きや行動方針などを確認しあう。




街に入ると、どうも予想していたものとは違う熱気に包まれている。


さあ準備だ!というより、既に始まっているような気配だ。


「なあ、予告まではまだ結構あったんじゃないのか?」


「何を!って、外から来たやつらか?」


近くにいた荷台を運ぶ人を捕まえ、声をかけると

怒った様子の彼は、馬車と俺たちを見て納得したようにその声を戻す。


「ああ、そうだ。どうにも騒がしいじゃないか」


「ああ……どうもよ、襲撃に刺激されてか、周囲のモンスターたちの動きが

 なんだかんだであるらしい。散発的に騒ぎがあるんだ」


詳しいことは酒場やお仲間にでも聞いてくれ、と言い残して彼は去っていった。




「襲撃そのものとは関係がなさそう……ってことか?」


「おうよ。数も少ないし、連携らしいものも無い」


馬車とその荷物を予定されていた場所に置き、

既に職人たちが仕事を始めている場所に

増援予定を伝えた後、酒場に寄るとマスターからこんな答えが返ってくる。


既にジェームズも、同じような答えを聞いた後に

2人を引き連れて冒険者同士の会議に参加するために

別の方面に出張っており、ここには俺だけだ。


「皆も、まさかモンスターが額面どおりに約束を守るわけが無いと思ってるからな。

 さあ、襲撃か!ってぴりぴりしながらの生活さ」


マスターは、ここでも愚痴ばかりだと少し疲れた様子で俺に語ってくる。


見れば、休憩と思わしき人間もどこか落ち着かない様子だ。


と、入り口付近でどこかの母親と思わしき女性が、

誰かを探すようにキョロキョロとしている。


気になった俺は、マスターにお礼を言ってその女性に近づいていく。


「何か、あったのか?」


「え? あ、はい! ここにこのぐらいの兄妹来てませんか?」


自分の背丈よりやや上に手をかざし、必死な様子の女性。


「その兄妹は冒険者か何かってことでいいのか?」


質問に質問で返してしまうが、探している相手があまりにもぼやけている。


「は、はい! 街が騒がしくなる少し前になったばかりです。今日は薬草を探すって、

 街を出て行ったっきり。もう戻ってる時間のはずなんですが……」


青ざめた表情の女性。


髪は長く、体つきも華奢だ。


母親、というにはまだ若々しい感じである。


顔も童顔で、しっかり化粧すれば未婚でも通用しそうだが、

子供が冒険者になるだけの歳となればそれなりということなのだろう。


「ちょっと待ってろよ」


俺は女性に言い残し、マスターのいるカウンターへと戻って事情を話す。


「あいつらか? まだ戻ってないな。だが採取先は町から10分も走ればすぐの

 雑木林だ。そう危険な場所でもないはずだが武装もなしで出歩くにのは……な」


ちらりと、俺を意味深に見るマスター。


その視線に込められた意図を読み取りながら俺は思案する。


万全を期すなら誰かと一緒がいいのは間違いない。


だが、この状況で1人だとしても冒険者を減らすのはあまりよくない。


最悪、逃げるだけなら俺がアイテムを遠慮なしに使えばなんとかなるだろう。


そう考えた俺は、母親に捜しに行く事を伝える。


「ありがとうございます! 帰ったらしっかり言い聞かせないと!」


「無事に連れ戻すから、しっかりしかってやってくれ」


必死に頭を下げる母親に約束し、俺は駆け足で採取先だという現場へと走る。




「もしそんな兄妹が戻ったら、酒場に顔を出すように伝えてくれ」


「わかった。気をつけてな」


門番に念のために言伝を頼み、俺は改めて外に走り出す。





(投擲用の投げナイフに、回復ポーション、後は……)


小走りの間、必要になるかもしれない装備を選びながら俺は走る。


そして、それらしき林が見えてきたところで、気配に気がつく。


人間ではない、ある意味慣れ親しんだ物。


「ちっ! いるじゃないか」


小さく愚痴りながら、移動するその気配のほうへと方向を変える。


オークではない。


だが、ゴブリンでもない。


この甲高い鳴き声を犬の遠吠えのように叫びながら襲い掛かる相手、コボルトだ。


声の量から、数は多くないようだ。


と、コボルト以外に人間の悲鳴と思わしき声が聞こえる。


近い!


「誰かいるか! いるならこっちに逃げて来い!」


届くかはわからないが、一度足を止め、大きく叫び、再度走る。


まばらな木々の間を走りぬけ、林の奥へと進むと、

前に人影らしきものが見えてくる。


数は2。


後ろになにやら小さな影も見える。


間違いなさそうだ。


見えてきた人影は大柄、というよりスタイルのいい、というべきな

少女と、若干やわな印象を受ける少年と、の組み合わせだった。


2人とも、こちらを発見すると喜びをあらわにし、速度を上げる。


後ろのコボルトの数はざっと10匹。


そのまま攻撃しては確実に取りこぼしが出る。


(ならば! 数を出せばいい!)


俺の横を2人が通り過ぎるかどうかというところで、

急激にブレーキをかけながらイメージを固め、叫ぶ。


盾生成(クリエイトシールド)!!」


ほぼ同時に生み出される何枚もの大盾。


1つ1つの耐久は平均的なもので、制約の時間は10数分と短い。


それでも1回の戦闘を行うには十分であるし、使い方次第である。


響くぶつかる音と悲鳴。


俺の目の前で、2人を追いかけてきていたコボルトが情けない声を上げるのであった。


「無事か?」


今の盾の軍団に質問が来たらどうしようかなあと思いつつ、

安否の確認をするために後ろを向かずに聞いてみる。


「はーはー……なんとかっ」


「もう、兄さんだらしが無い!」


俺の問いかけに、意気の上がった様子の少年、兄に

思ったより疲れていなさそうな少女、妹側。


ちらりと見えた先ほどの装備からするに、女戦士な妹に、魔法使い駆け出しといった様子の兄、というところか。


俺はコボルトの側を向いたまま、突然の衝撃から復帰し、

盾の合間をぬってこようとする何匹かに

投げナイフを投げつけ、けん制する。


「戦えるならやるぞ! 魔法は火以外なら何でもいい! ぶっ放せ!

 妹のほうは俺の後ろで相手がひるんだ隙をつけ!」


俺は叫び、2人が答えて構えるのを見てコボルトへと迫る。


時折、敢えてコボルトの前に飛び出ることで注意を引いたり、

ナイフを投げつけてけん制することでコボルトはその数をあっさりと減らす。





「……よし、よさそうだな。大きな怪我は無いか?」


動くコボルトがいなくなった事を確認し、2人に振り返る。


2人は各々、自分の怪我の確認を行っており、目立った問題は無いように見える。


「走るときにこすったぐらいです」


「こっちもよ。……貴方は?」


「俺の名前はファクト。とりあえず、薬草を集めに来た2人で間違いないか?」


構えをといた2人に、街での母親からの依頼を告げ、事情を確認することにした。


薬草を集めているうちに思ったより奥に来ていて、

迷ってる間にコボルトに遭遇、逃げていたということだった。


体勢を整える前の襲撃だったので、とにかく逃げていたということだった。


先ほどの戦いを見る限り、戦えなくはないようにも見えるので、

やはり経験の差ということだろうかと考えた。


「そうでしたか……ありがとうございます」


「お母さんに心配かけちゃったね」


反省した様子の2人に満足し、俺は彼らを連れて戻ることにした。


幸いにも、先ほどの現象は普通にまだ見ぬスキルの一種だと思ってくれたのか、

道中で質問を特に受けることは無かった。


街に戻った俺たちを待っていたのは、歓喜の母親と、軍到着の知らせ。


ついに、本番が目の前となったのだ。

鎧も作るとそのうち壊れます。


ある瞬間女戦士の鎧が消え去る。


などと考えるとちょっとアレです。

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