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41「戦いの狼煙-1」

2章最終部の始まり・・・のはずです。


高い太陽。


地面を歩き、視線の先にいるであろう互いをにらみ合う集団に

自らを誇示するように、容赦なくその光を注いでいる。


暑さよりもまぶしい日差しに俺はうめき、

気晴らしにステータスウィンドウを開き、日時部分を確認する。


数字そのものは読めないままだが、

秒数と思われる物が恐らくは一秒ごとに明滅し、分と思われる部分が時折姿を変える。


この場にいる人間の多くが見つめている先、

細長い建造物の先から、煙が一筋、立ち昇った。


色は、赤。


それは、その場に緊張と、興奮を呼び起こす。


「総員、構え!!」


名前も知らない軍のお偉いさんが指揮下の軍勢に指示を出すのがわかる。


演説のような言葉が続いている。


野太い声、時折拳を振り上げる性か、聞こえる金属音。


声の響き方からして、そういった魔法を使っているに違いない。


合間合間に、兵士達の怒号が響く。


「ファクトは無理すんなよ。コーラルの護衛頼むわ」


「ああ、そうさせてもらおう」


声がかかったのは俺が自らの属している集団、傭兵や冒険者の陣取っている一角で、

想定されるモンスターの情報を頭でまとめていたときのことだった。


ジェームズのありがたい提案に乗る形で、自身も栄光の双剣を手に取る。


背中には何本もの武器が装備できるよう、特別にあしらえたベルトのようなものを背負っている。


そこにスカーレットホーンや、耐久度抜群の一振りなどを収め、いつでも抜けるようにしている。


いつかの襲撃を思い出しながら、俺は事の起こりに思いをはせた。


始まりは俺とコーラルが白い涙集めから戻って一月程経過してからのことだった。








「ありえないだろう」


俺はそう、断言した。


視線の先には、テーブルに広げられた何枚もの紙。


端にはほつれた糸のようなものが多く、

布のはぎれのような印象を受ける。


「私も最初はそう思ったよ。でもね、僻地の小さな町ではあるけど、

 既に同じ形で襲撃されているんだよ」


俺はその言葉に、テーブルの向かいに座っている男性、

教会幹部の1人、クリスへと驚きの視線を向ける。


「そんな馬鹿な。モンスターが人の言葉をしゃべるというのは聞いたことがあるが、

 わざわざ人の言葉で襲撃の予告状を送るだなんて」


場所は教会のとある部屋。


街には話が広まり始めているのか、建物だけでなく外でも

人があわただしく走り回っているのがわかる。


キロンと共に、教会からの依頼の品を納品に来た矢先、

ちょうどいいとばかりにクリスに誘われた先での衝撃の情報だった。


「ああ、勿論コレは写しだよ。それでも近隣の街には既に出回っているし、

 確実に軍が出てくるだろうね。犠牲も出ているようだから、面子がかかってる」


クリス曰く、一週間ほど前にだがとある街、偶然かどうかは置いておいて、

地竜を倒した街に予告状が届いたのだという。


――『次に月が満ちた翌日の昼、この街の命をすべて頂く』と。


その予告状を無視することは、できなかった。


なぜなら、その予告状は既に首から切断された男性の頭部の口にくわえられていたのだから。


その上、犠牲者は僻地のとある町の住人であることがわかった。


理由は、ガイストールを含みグランモールなどを領地として含めている国から

その町へと派遣されていた軍人だったからだ。


慌てたのは現場と国である。


なぜなら犠牲者である軍人が派遣されていた町から、

こういう予告があったので念のために援軍を請う、

という内容の手紙は既に国に届いていたからだ。


ところが、そんな馬鹿なことがあるはずが無いと国が放置した結果、

町は通常の戦力のまま襲撃されるという形での惨劇となり、

その犠牲者が新たな襲撃先の予告状と共に無残な姿で表に出てきたのだ。


今度こそはと手早く援軍の手配、指示が国内を走っているのだという。


武具、人、そしてそれらの運用。


勿論、予告状がガセで、まったく違う場所を攻めてこないとも

限らないのである程度の戦力は各所に残しておかなくてはならない。


そのため、冒険者や傭兵が積極的に雇われているという話だ。


「私たちにも治療薬の提供やらの要請が来ているよ。

 勿論、各方面の工房には武具の提供が依頼されるだろうね」


クリスの視線にそちらを向けば、

既に思考をめぐらせていたのか、押し黙ったままのキロンが深く息を吐く。


「ああ、そうだろうな。それで、相手はわかっているんだろうか?」


クリスはキロンのその言葉にうなずき、懐からもう1枚のカードのようなものを取り出す。


「何十枚とそれが一緒に咥えられていたそうだよ」


テーブルの上に差し出されたのは赤く染められたトランプほどのカード。


その表には奇妙な紋様。


俺は見覚えが無いが、キロンには心当たりがあるようで

驚愕に顔が変わる。


「オーク……だと? 奴らにそんな知能があるわけが無い。どういうことだ!」


「オークってあのオークか? ぶよぶよしてる割に強力で、

 タフで、その上に臭い、さらには馬鹿なのかよく他のモンスターに利用されているあの?」


キロンの叫びに俺も思わず口に出す。


「そのとおり。この紋様はオーク達が鼓舞や脅しのつもりか、

 自らの旗なんかにいつも刻んでいるものだね。

 それでも彼らはカードで予告するなんてことはしやしない。

 いつのまにか襲撃し、暴れ、去っていくだけだ」


クリスはどこかおどけた様子でそう言い、一転、真顔になる。


「ところが今回はこんな手の込んだことがするわけが無いオーク直々の宣言。

 それゆえに方々も慌ててるのさ。上に何かがいるのか、オークの中に

 異常な個体が出てきたのか、とね」


クリスの発言に瞬間、部屋に沈黙が下りる。


しかし、俺はその沈黙を破るようにわざと音を立てて椅子を下げ、立ち上がる。


「やれるだけのことはやらないとな」


「そういうこった。じゃ、行くぜ」


キロンも俺に続き、席を立つ。


そう、作れるだけのものは作らないといけない。


次の満月はほぼ一ヵ月後だからだ。






「あ、どこに行って!……これのことですよね」


工房に戻った俺とキロンを怒ったような表情で出迎えた

若い職人が、言葉途中で思い直したのか、活気に満ちた工房内を指差す。


既に屈強な肉体を持った冒険者とわかる人物や、

揃いの鎧を着込んだ、軍関係者と思わしき人物達で工房の受付はあふれていた。


「おう。必要な時間を考えて、受けれるもの受けられないもの、分けていくぞ」


キロンの指示の元、明らかに無謀な量や中身の依頼には説明をし、

妥協案を提示するなどして次々と修理、調整の依頼が確定していく。


俺も例外ではなく、少しでも良質な物を作り上げるべく、

いくつもの依頼を担当することにした。





騒ぎが起きてからはや一週間。


俺はいくつもの依頼を手早くこなし、

今も20本の槍をジガン鉱石を使って作成していた。


しかし、出来上がったばかりの槍達を前に俺は沈黙していた。


別に失敗したわけではない。


その穂先は鋭く、素材の性能を可能な限り引き出していると自負できる。


ほのかに光を帯び、攻撃の際には少し普段よりダメージが多かったり、

壊れにくかったりと、さまざまに少しお得な結果を出してくれることだろう。


だが……何かが足りない。


具体的にどうというわけではないのだが、

もう少し、踏み込んだ結果を出せそうな手ごたえばかりだ。


最高位の特殊効果がつけられそう、というわけでもない。


もとより、素材によってはその付与できる特殊効果には限界がある。


そこらにあふれる鉄素材で麻痺攻撃の強力な物は付与できない、

といった具合だ。


正体のはっきりしないもやもやした感触に首をひねっていると、

横から槍を手に取る人影、キロンだ。


「良い具合じゃないか。どうした、難しい顔をして」


俺は問われるまま、胸にわだかまるその感触をそのまま口に出す。


一通り聞き終えたキロンは、ひとつうなずく。


「聞いたことがある。俺の爺さんもそうだったんだがな。

 同じ素材からは同じものしか作れない。当たり前のことだ。

 そのままでは鉄が銀になるわけでもない、それは間違いない。

 だが……」


そこでキロンは言葉を切り、視線をとある方向へ向ける。


(? 確かあっちには……)


俺の脳裏には、衝撃の名前が刻まれた壊れた武器を含んだ、例の倉庫が浮かぶ。


「うむ。あの中には、明らかに既存の素材であることは間違いないのに、

 どうしてもありえない強度や、性能だったらしいものもある」


一度見てくるといいと言い、例の剣の入った箱の鍵も貸してくれた。







小さな音を立てて扉が開く。


中は以前訪れたときと同じく、どこか冷たく、

それでいて張り詰めた空気が漂っている。


まずは壁に立てかけられた武具達に手を触れていく。


わずかな感触とともに、精霊と思われる光が俺の手と、武具の間を行き交うのが見えた。


時折破損しているものもあったが、そのほとんどは無事だった。


そして、半数ほどは素材には見覚えのある名前が記載されている。


そして、性能を見ると……。


「ほとんどがプラス品……ひとつランクが違うということか」


名前の後ろに、単純で、見方によっては微妙に思えるが

+1とついている。


一番わかりやすい、今もよく使われている素材を使った斧ですら、

その性能は別の高位素材を使ったものに匹敵している。


同じ素材の武器とぶつかれば、幾度かぶつけ合ううちに、

相手の武器を容易に砕いてしまうことだろう。


性能の詳細はわかっても、そうなった理由や、

その工程等は当然、わかるわけではない。


それでも何かのヒントになればと、キロンは促してくれたのだろう。


キロンの心遣いに感謝しつつ、俺は悩む。


「……」


と、俺は何かに導かれるように、ふらふらと

古老の庵の名前が刻まれた剣の入った箱を開けた。


光を受けた壊れた剣は、残った刃の部分に

その光を反射し、強さのある輝きを放っている。


ゆっくりと手に取ると、その重さ、強さに改めてまじまじと視線を向けることになった。


なぜか、所有者はフリーになっていなかった。


通常、どの武器でも手に持っているか、身に帯びていれば所有者となり、

地面に転がっていたり、仕舞われている時には所有者なしとなっている。


それゆえに俺は戦場跡に転がっている武具を素材、フィールドに還元することもできるし、

武器をそうすることで相手の脅威を減らすこともできた。


だが、目の前の剣は俺以外の誰かを所有者としたままだ。


所有者の名前は文字化けしており、不明の状態だ。


それでも、俺は誰かこの武器を最後に託された人物の名前だと直感していた。


武器が意思を持つ、ということは実際にはありえないだろうが、

それらしきものには心当たりがある。


MD時代にも、詳細には公式の発表は無いが、ゲーム中のNPCの発言にいくつか、

そういったことに対する言葉がある。


曰く、伝説級ともなれば使い手を選ぶ。


曰く、幾度も修理し、幾度も共に戦い、使い続ければ恩義を感じる。


曰く、無念にも倒れたもの、強い思いで願ったものには使い手の願いが強く残る。


実際に、使用回数が一定数を超えるとボーナスがつくというシステムも

数値としては明示されていなかったが、あるらしいという話も聞いたことがある。


「お前も、そんな中の1つか?」


返答があるはずも無く、手の中の剣は沈黙を持って答えるだけだった。


俺は何をしようとしているのか?


何のために武器を作り、生きるのか。


古老の庵の名前に、MD時代に交わした言葉を思い出しながら、

その頃に思いをはせる。


ふわふわとした、漂うような感覚が俺の体を覆っていくのがわかったとき、

――俺の意識は途切れた。








静かな部屋、使い手を待つ武具達が棚に並ぶ中、

青年の手にあった壊れた剣がわずかに脈動し、

その刀身を淡く、輝かせた……。

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