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39「彷徨う影-1」

ほとんどお使いクエスト状態なので

短い予定です。


その日、俺は工房で持ち込まれた破損した武器を鍛えなおす作業をしていた。


ただ同じ素材、性質のものを作るには、一度素材に戻して再度、

武器生成で作ってしまえばいいのだが、

よく見ると持ち手の付近に家紋のようなものが彫りこまれており、

スキルでは再現できないことがわかったのだった。


ただ通常、剣なりを鍛えなおす、というのは

あくまで研ぎなおしを含めた事を指し示す。


破損した物を、短くならばともかく正常な姿に戻したり、

ましてや新しいものになる、というようなことはまずありえない。


ところが、この世界ではある程度認知された技術として、

折れた物を修復する、あるいは特定の素材と組み合わせることで

別の物にするということが行われている。


もちろん、MDも剣と魔法の世界をベースにしたオーソドックスなゲームであった都合上、

壊れても直せるし、普通の武具に属性を付与したり

なんらかの上位武具への変換等も行うことができた。


とはいえ、攻略サイトのような虎の巻があるわけでもなく、

この世界では工房内部や、付き合いのある職人同士で細々と

情報が共有されるという形のようだ。


当然といえば当然のことで、強い武具、特別な付与効果のある

装備のレシピともいえる組み合わせが公表されれば、

それは戦争に使われることになる。


強力なものは秘匿され、選ばれた人間しか持てないようだった。


今日持ち込まれたのは、そこまではいかなくても、

それなりに手柄を立てたときにもらったということだった。


「勝手に気力が充実する……ねえ」


俺はそばにいる職人に聞こえるように、あえていつもの声量でつぶやく。


実際のところは、その短剣を手にした時点で

虚空に浮かんでいる情報から詳細は確認できている。


だが、ろくに調べた様子も無いのにいきなり鍛えなおしを始めては不自然である。


そこで、素材やらを実益を兼ねて確認する作業から入ったのだ。


短剣は━壊れたリヴァイ・マインド━と表示されている。


見た限り、メインとなる素材は確かに良い素材だが、

すごく貴重、というわけではない。


体力ではなく気力ということと、短剣の情報からは

士気のようなものに補正があることがわかる。


本来以上の力を発揮したり、いつも勇気を持って戦えるといったところか。


名前は違うが、MDにも同じような武器はそれなりにあった。


近い効果では地竜との戦いがあった日に使っていた双剣もそうだったはずだ。


この特殊効果にはメインとなるものの他に、別の素材がいる。


その素材は、確か特定のモンスターからのドロップだったはずだ。


それがどうしてそういった効果を生むか、に関しては

火の様なわかりやすい属性と比べて、いまいちわからない。


鍛えなおす方法そのものは学んだので問題は無い。

しかし……ちょっとした問題がある。


確かこれはゴースト、それも人型の物だけがドロップしたはずなのだ。


「キロン、この辺りに幽霊、不定形のそんなモンスターが出る場所なんてあるか?」


「彷徨えるスピリット達の事か? なくはないなあ」


受付付近で依頼を吟味している様子のキロンにだめもとで声をかけると、

俺の予想外なことに心当たりがあるということだった。


曰く、外壁の外側にある共同墓地、その周りにある森には

月が満月に近づくと怪しい影が出てくるらしい。


幸いにも墓地や森の辺りから出てくることは無く、

夜にわざわざ出歩かなければいいので、実害はないそうだ。


正体はまさに墓地の亡霊とも、たまたまそういう物が集まりがちだとも言われている。


不定期に攻撃手段を持った冒険者に依頼が出たり、有志で浄化をしているそうだ。


「そうか。ちょっとこの依頼に白い涙が必要だから行ってくる」


白い涙、MDでも同じ名前だったそれは

前述のモンスターらからのDROPで、片栗粉を水で溶いたような液体である。


MDでは勝手に出てきた透明な容器に入っており、

最初は濁った状態だが放って置くと透明な部分とそうでない部分に分かれる液体だ。


アイテムとして使う場合には、ちゃんと振って混ぜないといけないという、

よくわからない性質を持っている。


「なるほどな。じゃあ空瓶を持っていけば勝手にそれに集まってくるから楽だな」


キロンの言葉にうなずき、俺は10本ほどの

栄養ドリンクの瓶サイズの空瓶を荷物に加える事を決める。


聞くところによればこの世界風に言えば彷徨えるスピリットらを倒すと、

近くに適した入れ物があればそこに白い涙がたまるようなのだった。


大きな入れ物でも溜まるようだが、なぜか小さめのほうが

溜まりやすいというのも謎である。


落ち着ける場所を探しているのか、なんなのかはわからない。


「そうらしいな。期日も多少あるので、ついでに余分にいくらかとってくるよ」


そう告げて、俺は工房を後にして街に出る。




街に出た俺は即座には現場には向かわず、

依頼が集まっているであろう酒場に顔を出す。


ついでに浄化の依頼でもあれば一石二鳥だからだ。


まだ昼下がりだというのにかなり出来上がった様子の

冒険者で酒場はあふれていた。


依頼のやり取りも頻繁に行われており、

街の活気を表していた。


「マスター、スピリット退治の依頼は来てないか?」


俺はカウンターにもたれかかりながら、

適当にアルコールの薄いものを頼みつつ、聞いてみる。


壁の依頼書達を見た限りでは、今のところ張り出されてはいなかったのだ。


気になるところでは、ここからは相当距離がある様子の国々で、

兵士の募集がかかっていることだった。


一瞬、何人もの人間の兵士を倒す、つまるところ殺害する様を想像し、

嫌な気分になるがそれも一瞬のことだ。


「あるにはあるが、安いぞ? だから一度下げたばっかりなんだ」


冒険者と何かとやり取りをするのにふさわしい、

熊のような体躯のマスターが飲み物と一緒に持ってきた依頼内容には、

確かに他の依頼と比べればかなり低い金額が記載されている。


魔法を使うか、俺のように何かしらの武器を持っていれば別だが、

ただ殴りかかっただけではダメージを与えられないのだから

面倒なのは間違いないせいだろうか。


「ああ、それでいい。ちゃんと持ってるからな」


俺は背中に手を回し、外套の中からシルバーソードを取り出すように

出現させ、鞘ごとマスターに示す。


「おお、準備がいいな。最近の冒険者は、受けた後に攻撃手段で

 悩んだりするから困ったもんだ」


あごひげを撫でながらのマスターの愚痴に適当にうなずきながら、俺は依頼書に目を通す。


報酬はともかく、討伐数等に関しての確認だ。


見ると、討伐の証明として白い涙を提出してほしいらしい。


確かに、普段は見えない相手を倒すわけだし、普通に肉体のあるモンスターと違って

部位を持って帰るというわけにも行かない。


空容器は預けてあるということなので、マスターにそれを伝える。


「おお、そうだった。こいつさ、3本ある」


受け取った容器は自前のものより幾分か小ぶりだ。


どうやら現場に出てくる相手を全部討伐しなくてもいいようだ。


俺は空容器を普通の布袋に納め、腰に下げる。


姿勢を戻し、剣を同じく腰に下げたところで、

視界に覚えのある相手が入ったことに気がつく。


伸びた髪、独特の色合いを持った石が先についた杖、コーラルだ。


彼女は、酒場の中にある出来合いの食べ物を購入したようで、

あいているテーブルにつくとそれを広げ始めた。


量から、ジェームズら2人はいないことがわかる。


「コーラル、1人か?」


突然かけられた声に、驚いた様子のコーラルだったが、

俺を見るとほっとした表情になって頷く。


「はい。2人はまた何か男の依頼だ!とか言ってどこか行っちゃいました。

 私は私で修行ができますから問題は無いですけど……」


少し不満な様子のコーラル。


以前の依頼の顛末を考えれば、またああいう依頼だと思っても不思議ではない。


勿論、若干えぐい依頼であったり、むさくるしい男だらけの依頼だという

可能性も十分あるのであえて口には出さない。


「そうか。……あー、これから俺もとある依頼をこなしに行くんだが、来るか?」


歯切れの悪い俺の言葉にコーラルは首を傾げるが、

続けて示した俺の空容器を見て顔色を変える。


さすが冒険者。


空容器を見ただけでどういった依頼かは察したようだった。


この前と違い、今回は最初からモロな相手だ。


苦手らしいコーラルにはつらいに違いない。


「よ、夜ですよねえ?」


「そうだな。昼間には出てこないらしい。森は……出てくるかもしれないが」


聞いたところによれば、現場の森はかなり樹木が生い茂っており、

昼間でも結構暗いらしい。


コーラルは食事の手を止めて悩んでいる様子だ。


嫌だなーという感じではなく、自分の中の何かと葛藤しているように見える。


「やります。行きましょう」


しばし後、キッとした表情で顔を上げたコーラルははっきりとそう言った。


「おう。まあ、襲われてもなにやら周りをうろうろするだけらしい。

 何か怪我したとか、変なこととになったとかは無いらしいから安心だな」


俺が依頼書に書かれていた詳細な情報を伝えると、コーラルはいくらか

楽になったのか、少し力が抜けたように見える。


「まだ時間は早いが、現場の確認に行こうか」


「ええ、いざ戦いとなった場合には足元が危険かもしれませんしね」


冒険者としての思考になったコーラルも頷き、手早く食事を終える。


出口付近で馬を二頭借りて、俺とコーラルは街の外へと出発した。


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