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38「暗闇よりの叫び-5」

一部、あらぬ方向にキーボードが走っているのは、気のせいです。


きっと、気のせいです。



広間でのジェームズとの合流は、落胆の報告から始まった。


「何も喋らなかったのか?」


俺の確認に、他の冒険者たちも頷く。


あちこち怪我をした様子のジェームズ達だが、

大きな怪我を負った様子は無い。


「ああ、偉そうなやつには逃げられちまったよ」


ジェームズの悔しそうな声に、

そのほかの冒険者もいきなり逃げ出したので追いつけなかったことを伝えてくる。


「あいつらしいよ。いつも厄介そうな話のときにも、あいつだけ戻ってきてた」


キャニーの話す内容に、一瞬周囲が色めき立つ。


だが、彼女が人を背負っていることから、敵ではないと判断したらしい。


「なるほどな。ファクト、その子は協力者か?」


「そうなるかな」


ジェームズもなんとなく、わかってくれているようで、

話をうまく誘導してくれる。


キャニーからの反論が上がる前に、話が固まっていくのであった。


廃屋を探索した結果、予備の武器や生活用の物資のほか、

各所での偽造された身分証明などが見つかったそうだ。


残念ながら直接の手紙などは出てこず、黒幕の正体は不明なままだ。


ただ、その内容、規模から相応のバックが無ければ無理だということになり、

依頼としては完了だが、恐らくは別途に何かしらの依頼が出てくるだろうということだった。


確かに、町外れとはいえこんな身近に、そんな行動をしている集団がいるとなれば

街としては楽観視できない状況である。


キャニーにさりげなく聞いてみるが、先に語った以上のことは知らず、

某国、というのも具体的な国名まではわからないらしい。


「きな臭い国っていうと、結構限られるからな。十分じゃないか」


ジェームズのそんな台詞の後、探索が終わったようで

ぞろぞろと冒険者たちも集まってくる。


「俺は2人を宿まで送ってくことにするが、問題無いか?」


「ファクトは別に依頼を受けたわけじゃないんだろう? なら、

 後からどこからか呼ばれるかもしれないが、大丈夫じゃないか?」


点呼をしているほかの冒険者を視界に納めながら、

俺とキャニー、背負われた妹の3人は廃屋を出る。





「さて。どこに泊まる?」


人通りが戻ってきたあたりで、俺は後ろのキャニーに声をかける。


なお、そのままだと目立ちそうな妹には適当に外套をかぶせてある。


「できれば目立つとこの方が良いわね。この場合、後ろめたいからって

 裏通りとかに宿を取るのはまずいわ」


俺は頷き、できるだけ表通りに面した、普通そうな宿を選ぶことにする。


見れば、一階が小さな酒場風な店を開いている宿があった。


ここなら食事のために出歩かなくても良いし、ちょうど良いだろう。


「あの宿にしよう。払いは、適当にやっておくさ」


陽気そうな親父がカウンターで待機していたので、

部屋を1つと頼むと、親父はなぜか俺とキャニー達を見、

にやにやしながら料金と部屋番号を提示してきた。


相場はよく知らないが、少し高い気もした。


こういった場所なら仕方が無いのか?と思いながらも俺はそれ以上疑問に思うことは無く、

すんなり料金を前払いする。


と、キャニーが何か声を上げようとしたようだが、結局は押し黙るのがわかった。


疑問を浮かべながらも案内された部屋に向かい、中に入る。


なぜか、巨大なベッドが1つ、という部屋だった。


「ひとつ……?」


思わずもれた声に、キャニーのため息が聞こえる。


「あんた、何も言わずに部屋取ったでしょ? 宿の人、妹と私見て、

 そういう関係だと勝手にやってくれたのよ」


「と、とりあえず寝かせようぜ」


だから止めようとしたのに、となおも愚痴ろうとするキャニーを何とかなだめる。


キャニーも確かに言い合ってる場合ではないと納得してくれたようで、

背中の妹をそっとベッドに寝かす。


静かに寝息を立てている様子から、大きな問題は起きていないようだった。


「んっ……あれ……ここ、どこ」


「ああ……おねえちゃんよ? わかる?」


俺は壁にもたれかかりながら、姉妹の語り合いを眺める。


聞こえてくる声はやはり、戦闘中の姿からは予想もつかない声だ。


この世界にあれだけ人を洗脳する技術、もしくは魔法的なものがあるということに

俺は内心恐怖し、見つけ次第なくして行こうと考えていた。


善悪というより、単純に自分が好きかどうかになるのだろう。


「寝たのか?」


「ええ、ぼんやりと何かしてたというのは覚えてるみたいね」


キャニーも疲れた様子で備え付けの椅子に座り、小さく息を吐く。


「色々と、ありがとう。貴方をどうにかしようとした相手なのに、物好きね」


「世の中、こんなこともあるもんだ。お店で楽しむ前だったのは残念だったけどな」


少し落ち込んだ様子のキャニーをからかうように、

俺はわざとおどけてみせる。


小さなランプが1つ、部屋を照らし、油らしきそれが燃える音が小さく聞こえる。


「な、何よっ。確かに今は返せるものは無いけど、それで返せって言うわけ?」


どこをどう勘違いしたのか、キャニーは急に赤くなったかと思うと、

俺と妹の間に割って入りつつ、自分の体を抱きかかえるような姿勢をとる。


見ようによっては体を隠しているような……ああ。


「そうだなあ。外で出会ったときみたいな感じでやってくれよ」


できるだけ顔に出さないようにしながら、俺はさらにからかってみる。


「っ!! ここじゃ……無理よ」


ちらりと後ろを見て、ささやくように言ったキャニーの口調に、

俺はこじれてもまずいなと思い、ネタばらしをする。


「何、冗談だ。たいした出費でもないし、怪我もしてないしな」


瞬間、俺の言ったことがわかっていないのか、

キャニーがポカーンとした顔になり、固まる。


「~~っっ!!」


真っ赤になって、唐突に音も無く飛び掛ってきたキャニーの攻撃?を

あわてて受け止め、それぞれの手をふさぐような形になった。


「本気になって、損したわっ!」


「静かにしないと、起きるぞ」


小さく、それでも抑え切れていないキャニーの声に、俺はぎりぎりと押し切られそうな

キャニーの腕力に愕然としながらなんとか喋る。


「誰のせいだとっ! もうっ」


ふっと力が緩み、キャニーのほうに体が動く俺の頬にやわらかい感触。


「感謝は本当だから、そのぐらいでね」


するっと滑らかに椅子に戻ったキャニーが、

もじもじとした様子で俺を見る。


「なんだ、慣れてると思って……すいません」


キャニーの唇が当たった側の頬に手をやりながら、俺はつぶやいたが

途中でキャニーの鋭い視線を受け、思わず謝ってしまう。


「それとこれとは別に決まってるでしょっ」


確かに、そりゃそうだ。


「これからどうする?」


俺も椅子に腰を下ろし、真面目な口調に戻って聞いてみる。


「私も何もできないわけじゃないから。この街で堂々と冒険者でもやるわ。

 この子が目を覚ましたら、動けるのか聞いて、一人でやるのか、

 一緒にやるのか決めるつもりよ」


目立つ場所にいれば、相手が戻ってきてもなかなか手が出しにくいでしょう、

とはキャニーの弁。


変にこそこそ隠れるよりは安全そうである。


「そうか。俺はいつまでいるかはわからないが、何かあったら言ってくれ。

 ……それと……」


俺は言葉を区切り、虚空からそれ自体は何の変哲も無いダガーを1本取り出す。


「できれば、これのことは言わないでほしいな」


既にキャンプは見られている都合上、ごまかすことは難しいと判断し、

戦闘ではどこからか武器を取り出すことをしっかりとやっている。


魔法でも不可能な行為に、疑問を覚えないはずは無いのだ。


「そうね。理由に想像もつかないことを誰かに売ろうたって、売れないもんよ。

 それに、妹がそばに戻ってきた。それで十分よ」


俺のお願いに、キャニーはいい笑顔で答えてくれた。


「なるほどな。じゃあ、俺は戻るよ。ああ、これよかったら」


俺は去り際、キャニーと男が食らったマジックアイテムになるだろう

閃光を発するアイテムを1つ手渡し、宿を出る。


背中に微妙なキャニーの視線が刺さった気がしたが、気のせいに違いない。



数日後、廃屋の集団は詳細不明の荒くれ集団だったということにされ、

裏の詳細は不明なままで依頼は表向きには完了となったことを聞かされる。


こちら側の推測どおり、街の代表者達も候補が候補なだけに

あまり表沙汰にはしないほうがいいと思ったようだった。


その代わり、現地で依頼を受けていたジェームズを含む面々には、

以後何かしらの情報を得た際には報告を行う追加依頼が発生したようだった。


また、元気になった様子のキャニーと、その妹が

商隊の護衛の際に、奇襲しようとした盗賊を事前に撃退したりといった、

いくつかの話を聞く機会もあり、ガイストールの町外れで起きた事件は

一応の解決を見たというところだろう。


世界は広く、今もどこかで何かしらの火種は生まれていることは

噂などで感じているものの、俺自身の手の届く範囲には無く、

もどかしさと、やれるはずのことを隠している罪悪感にも似た何かが

胸中を渦巻く以外、おおむね、平和なのは間違いなかった。

来年も赴くまま、書きたいものを、という形ですが

お楽しみいただければ幸いです。

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