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36「暗闇よりの叫び-3」

はっきり・・・・・しなかったよ?

何か膨らみました。


精進です。



事件はいつだって唐突だ。


慌しく目の前に現れ、そして立ちふさがる。


わかっていれば対処できたのに、と人は思うが

仮に未来を見通せたとしても、そこにあるのは絶望だけに違いない。


自分の未来が、可能性がわかってしまうなど、つまらないことこの上ない。


何事も、結果がわからないからこそ先を目指せるのだから。






その日は朝から、受けた依頼の武器を工房のカウンターに収め、

道具の手入れをしていた。


そこにやってくる3人、ジェームズたちだ。


3人はこれまでにも時折顔をだし、特にクレイとコーラルはどこにいった何をやったと

俺とお茶をしながら語っていた。


今日も例に漏れず、工房の入り口付近で談話となっている。


「でも、最近こっちでも討伐や護衛の依頼が多いんだ」


「そうなのか? それでもこの辺りは前から多いそうじゃないか」


クレイの言葉に、俺はぬるくなったお茶の渋みに苦労しながら答える。


お茶の選択を間違えたな、こりゃ……。


名前は忘れたが、紅茶のような色でそれっぽい味だ。


今更だが、意外とこの世界での食事は充実している。


肉や野菜、果物なんかも、見た目や名前は全然別物だが、

世界は変わっても味覚はそう変わらなかったのも幸いしている。


時折、リンゴサイズもあるブドウのようなものが出てきたりして驚くが、

ほとんどに問題は無い。


だが、やはり工業的な大量生産は出来ないようで、

手間のかかるタイプの料理や作物は貴重なようだった。


「それがですね。以前より自警団や軍による討伐、巡回を増やさないと街道からすぐにも見える距離に出てくるらしいんです」


コーラルが可愛くマグカップを手に、そんなことを言う。

彼女の肩甲骨付近まで延びている髪は亜麻色のように見える。

光の具合で少し色合いが変わるのだ。


少し金髪でも混じっているのだろうか?


それにしても、以前酒場で聞いた噂は本当のようだ。


世界中で増えているらしいという話。


「それでもよ。最近まで平和だっただけで、前はこんなもんだったっていうしな。皆、慣れたものさ」


ジェームズはコーヒーと同じ様な苦味のある飲み物を飲んでいる。


新調した装備達に細かい傷があるところからも、

彼らがこなしている依頼が物運びや戦闘の少ないものでないことはわかる。


「そうか。戦いがある分、経済は動いて武具は売れ、そのためにいろんな商人が行き交って賑わう……か。適度な刺激を市場は望む、か」


「難しいことはわかんないけどさ、強くなれそうなのは歓迎!」


クレイが元気良く叫び、剣の柄を掲げて見せる。


良く見ればクレイの装備している鎧や服にも細かな汚れ。

髪の毛も最近は冒険続きなのか、ぼさぼさだ。


「おいおい、身だしなみも注意だぞ?」


「そうですよ! ジェームズもクレイも、いっつもほうって置くとすぐこうなんです」


からかい半分で言ってみたのだが、どうやらアタリだったようでコーラルが膨れる。


その姿はぱっと見はその辺りに一般人としていても不思議じゃない容姿なのに、

こうして冒険者をしているというのはいつ見てもファンタジーだ。


勿論これは魔法使いのような肉弾戦をしないタイプだからであって、

武器で殴りあい、斬りあうタイプは大体は見た目に比例する。


俺自身は意外と引き締まっているのさ、と答えることにしているが

ジェームズやクレイに限らず、どの冒険者も大体は

一目見てどの程度鍛えられているかわかる体つきだ。


「いーんだよ。依頼と戦いに問題がなけりゃーな」


ジェームズが苦笑し、飲み物の残りを飲み干す。


「ま、程ほどにな。おお、そうだ。コイツ、使ってみてくれないか」


俺は腰に下げた3本のナイフ、そして缶ジュースほどの大きさの塊を懐から取り出す。


「何々? 新しい武器?……ナイフじゃん」


「ナイフは大事だぞ。ま、ナイフが役に立つ状況にはなりたくないがね」


手元を覗き込み、あからさまに落胆したクレイを見やりながらも、

俺は3本のうち1本をコーラルに手渡す。


すると、すぐさま驚いた表情になるコーラル。


予想外の感触と、力を感じたのだろう。


やはり、魔法使いと特殊な武具達は相性がいいのかもしれない。


「お守りには、なりそうだろ?」


「ええ。結構高いんじゃないですか?」


一言、コーラルに言うと彼女もわかっているようで、そんな心配をしてくる。


「意外と溜め込んでいるのさ。ほら、ジェームズも」


「ん? コイツはどっかにぶら下げて置きゃいいのか? 使うには向かないだろ?」


俺とコーラルの会話で何かを感じたのか、

ジェームズもそんなことを言ってナイフを手にとって眺めている。


「え~? 何、素材が違うの?」


「その通り。これに使ってる素材は、すこーしだけど魔力を溜め込んでおける。ついでに、それを元にしてそばの生き物が少し活性化するんだ」


簡単に言えば、魔力をエネルギーにする健康装置である。


この素材が埋まっている辺りでは草木も生長しやすく、

庭の維持や農作業にもあると便利だが少しお高い、そんなものだ。


ゲームで言う自動回復の可愛いものだ。


それを基にしたナイフの効果も試しに作ったものなのでたいしたことは無い。


それでも……。


「命のやり取りをするときには、一回の回避、一回の耐久が決める時もあるからな。助かるぜ」


ぽんっとナイフをしまった辺りを手のひらで叩き、ジェームズが笑う。


気に入ってくれたようで何よりだ。


ゲームではスキルなどを持たなくても自動回復はあるし、

この素材の話も聞いたことは無かった。


もしかしたらMDでは素材の扱いを受けるほど希少ではないような、

ありふれた存在だったのかもしれない。


「で、これは魔力をぐぐっと込めてたたきつけるとものすごく光る。それだけだ」


再びコーラルの手に筒のような、缶のようなものを渡す。


MDだと画面範囲内のMOBを一定時間気絶させ、無防備になるアイテムだ。


相手が強すぎると効果が無かったり、すごく短くなる、そんな奴だ。


「……はい!」


戦いにおいて、前衛は当然戦線を維持し、戦い続ける必要がある。


後衛となる弓や魔法を使う人間は、なんだかんだと全体を見ておかないといけないものだ。


そんなところをコーラルはわかってくれたらしい。


別に爆音が出るわけでも、ダメージがあるわけでもないが、

使い道は色々あることを考えて使って欲しい。


その後、3人は補給のために市場に行くと言い残し、去っていった。



俺は俺で、受けている依頼の目処をつけながら

その日の作業を終え、そろそろ日が暮れてこようかという頃、キロンに呼び出される。


「悪いな、変な時間に」


「別にかまわないさ。それで?」


何でも依頼品を届ける予定だった職人に、名指しで別件の用事が入ったらしく、

誰かに届けてもらおうということになったらしい。


丁度手があいたのが俺だったということだ。


「時間も時間だ。届けたらそのまま適当に上がってくれて良い」


キロンのありがたい言葉に頷き、依頼品となる荷物を預かる。


中身は見ないのがマナーってものだ。


届け先を確認し、徐々に夕焼けに染まる街へと繰り出す。





届け物自体はすんなりと終わった。


活気あふれる街中をのんびりと歩きながら、ふと店の途切れた空間に目を向けると

なんでもないような町並みの中に、ポツンと違和感のある影。


影といっても怪しいものではなく、低い塀に座り込んだ人間が生み出した影だった。


髪は長く、どう見ても女の子だ。


それに、雰囲気からして楽しい待ち合わせ、という様子でもない。


(ほうっておくのもなんだかなぁ)


別に知り合いでもなく、差し迫った危機があるようでもないので、

本来声をかける必要はどこにも無いのだが、悲しい男の性も相まって

俺の足はそちらに向かっていた。


「なあ、大丈夫か?」


「え?」


近づくとはっきりとわかる。まだ若かった。


少女というには無理があるが、十分大人というにはまだ若さがある。


それでも服装は色街の住人であることを主張するような扇情的な物。


それにしては別に殴られたとか、貧窮しているとかそういう様子は無い。


となると、体調でも悪いのかと思ったが、向けられた顔は

泣いた跡はあっても、それ以外は無かった。


「いや、何。ずっと座ってる様子だったからな」


俺がそういうと、一応の納得をしたのか、彼女は不思議そうな表情を戻し、

あからさまなため息をついた。


「びっくりした。まあいいわ。せっかくだから聞いてよ、おじさん」


お、おじっ……まあ、そうか。


「ふーん? まあ俺に得があるかはわからんが、いいぜ」


適当に横に座り、先を促す。


ぽつぽつと出てきた言葉によると、

彼女はやはりそういった店の従業員らしい。


ただ、同僚がお金のために何でも要求を受け入れて体調を崩したそうで、

それで体を大事にする、しない、やらお金のことで大喧嘩したらしい。


「店はいいのか? 大体開いてる時間だろう?」


「まあね。でも、全員が同じ時間にいるとは決まってないお店だからいいの」


なんでも、今日は何々ちゃんがいる!と客を煽る一面もあるそうだ。


確かに、一理ある。


「なるほどな。まあ、心配してるのがちゃんと伝われば相手もなんとかするだろ。後は君が、自分が納得行くようにフォローするしかないんじゃないか?」


俺は若干冷たく言う。


実際、こういうときは何を言ったところでこじれるものはこじれるし、

熱くなっている時にはなかなか伝わらないものだ。


「そうよねー……うん。ちょっとすっきりした。おにーさん、お店来る?」


機嫌が戻ったのか、呼び方が接客用の空気を帯びた彼女の笑みに苦笑する。


どの世界も、女の子というものはわからないものだ。


「ああ。せっかくだしな。案内してもらおうか」


立ち上がり、陽気そうな彼女の後ろについていく俺。


いくつかの路地を曲がり、途中に点在する店達に

少し目を奪われながらも歩みを止めない彼女に慌てて追いつく。


そして、一軒の店が前に見えてくる。


魔法の灯りであろうもので灯されたあからさまな外見。


何故か普通の店より幼い感じのキャラクター?が形どられている。


看板脇の、宣伝が書かれているであろう部分の

文字そのものはわからないが、なんて書いてあるかはわかってくる。


―大人になりきれない、若い子ばかりです!―


多分、本来はこう、もっとちゃんとした内容なんだと思うが、

俺にはそう読めた。


もしくは文法やらを学べばもっと特定の方面に魅力あふれたキャッチコピーがかかれてるのかもしれない。


いずれにしても、何かマニアックだ。


「ここよ。私裏からだから、先に入っててよ」


「ああ」


彼女と別れ、何故か受付のいない入り口に入ると、奥へ、と矢印が。


幾ばくかの疑問を抱えながら、俺は奥へと進み、扉を開ける。


瞬間、まぶしいほどだった明かりが消え去る。


唐突な殺気。


その攻撃で直撃を受けなかったのは偶然といっていい。


もしくは、これまでの経験によるなんとなくなまさにカンか。


ともかく、俺は半ば無意識に前方へと飛び込みながらでんぐり返すことで、

左右から襲い掛かってきた刃の直撃を回避した。


「くっ!」


それでもかすったようで、鋭い痛みが両肩に走る。


魔法を唱えるのももどかしく、俺は魔法の灯りを発動させる。


何も無いがらんどうの部屋に、二つの人影。


ひとつは先ほどの彼女、二つ目は……男だ。


男のほうが近く、10mも無い。


どちらも動きやすそうな、言い換えればどこかはるか遠くの土地にいた忍者を思い出させる。


つまるところ……。


「暗殺者?」


俺のつぶやきに、2人が構えを改める。


俺も背後に右手を回し、隠していたかのように

アイテムボックスから適当にショートソードの類を取り出す。


「答えるわけ無いか。じゃ、いいさ」


俺は軽く言い、近かった男のほうへと無造作に見えるしぐさで距離を詰める。


見た目は冷静に、男は素早い動きで俺へと襲い掛かり、恐らくは

確実に仕留めるべく急所を狙ってくる。


訓練された、確実な攻撃だ。


だがそれゆえに、わかりやすい。


響く金属音。


俺の首や胸を狙った正確な一撃が、両手に持ったそれぞれの剣で反らされる。


俺程度でも受け流すぐらいなら出来そうだ。


暗いままなら危ないだろうが、こうして見えてさえいればなんとかなる。


『っ!!』


今度は2人での連携か、女も動き出す。


互いの隙を縫った丁寧な、いい連携だ。


そのまま受け止めては無事ではすまないかもしれない。


俺は懐からあるものを取り出し、床へと無造作にたたき付け、

同時に片腕で目の前をふさぐ。


そして、あふれる光。


恐らく建物の隙間からも漏れ、周囲に一瞬だが昼間のような明るさが生まれたに違いない。


それでも、外からはたまたまこちらを見ていない限りは

この建物が原因だとはわからないだろう。


だが、見ていた側からすれば?


余分なことを口に出さず、俺は先ほどまでと変わらず

魔法の灯りが照らす室内でうめいている男と、

気絶した様子の女を見やる。


気絶まではいたらなかったということは、それなりには実力があったということか。


「ふっ!」


それでもまともな動きが取れていない男のその体へと剣を突き出す。


俺の気配を感じたのか、身をよじる男。


肉を貫く感触が剣を通して伝わり、くぐもった声が部屋に響く。


床ににじむ嫌な液体。


わき腹を少し切れた程度か。


幸いか、最悪か、即死はさせられなかったようで、

すぐさま男は目を閉じたまま飛び上がり、窓を破るように外に飛び出していく。


拠点としても使っていたのか、迷いの無い動きだ。


後に残るのはまだ光、コーラルに渡したものと同じアイテムによる

突然の発光に視界を奪われた女がそのショックで倒れているだけだった。


動き出す様子も無い。


本来なら目的を聞き出すべく拷問でもするか、

話す訳がないと殺すべきだ。


それこそ男女的な意味で手をつけるという手もあるだろう。


だが……。


「人……か」


モンスターとそう違わない、それでも何かが決定的に違う

感覚に俺は追撃や、女へと何かを行う気力が一時的にうせていた。


ともかく、怪我の手当てをし、彼女をどうするかは少し後で考えるとして、

いきなり動きださ無いように、適当に縛り上げる。


どこにそんなものがあるのかといえば、ロープだ。


冒険やファンタジーにはロープは必需品だ。いつも腰に巻いている。


馬に荷物を縛ったり、木に登ったりとどこでもお役立ちだ。


ともあれ、無事に縛り終えた俺は壁に背を預けて息を吐く。


灯りの魔法が切れたのか、周囲には

男が破った窓からの月明かりだけがあった。



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