35「暗闇よりの叫び-2」
前と構成が同じ様な感じですが、次ではっきりする予定です。
教会への報告途中、工房の前を通ると何故かミストは工房にいた。
ずっと待っていたのだろうか?
それにしても職人達と仲がよさそうだ。
たまたまミストと会話していたキロンがこちらに気がつき、
手を振ってくる。
「戻ったか。無事……なようだな」
「まあな。なんとかなったさ」
俺も手を上げて答え、ミストに向き直る。
「早いな。どうだった?」
変わらぬ表情のまま、問いかけてくるミスト。
感情が顔に出るタイプには見えない。
俺達は無言で遺品となる手斧だったものなどを入れた布袋を差し出し、首を振る。
「彼は駄目だったよ。その代わり……にはならないが、教会関係と思われる場所はあった。そばに彼の遺体もある」
「そうか。……冒険者とはそういうものだと、彼も納得してくれるといいのだが。ああ、場所はどこだ? 遺体回収と確認に行かねばな」
何かに書き出すしかないか、と思ったときに
コーラルが手馴れた様子で羊皮紙のような紙を取り出す。
どことなく茶色い、半端な再生紙のような紙だ。
「覚えているうちに書き出しちゃいましょうか」
「そうだな。クレイ、任せたぞ」
「もう覚えてないの? ジェームズも年寄、イテッ!」
きっと俺と出会うまではこんな感じだったのだろうと思われる掛け合いが繰り広げられ、
俺も含めて4人での地図作成がすぐに始まる。
曲がり角の位置や、崩落した穴、行き止まり等。
ちなみにペンは無く、何か練りこまれた様子のクレヨンのようなもので書いている。
インクのような物を持ち歩かなくても良い分、便利に思える。
太さの分、出来上がる地図は大分荒いが、現地で確認しながら使うにはまったく問題ないだろう。
「なるほど。これならすぐに行けるな。助かる」
ミストはそれを懐にしまうと、すぐに教会のほうへと歩いていった。
恐らくは捜索のチームが組まれるか、また依頼が出るかということなのだろう。
直接再度回収用の依頼を頼まれなかったところから、
教会の人員で自ら行うのではないだろうか?
「さて、俺達はまた稼ぎに行って来る。ファクト、そのうち頼んでもいいんだろう?」
ニヤリと、自らの剣の鞘を叩くジェームズに俺は頷く。
「勿論。しばらくはここに……いられるからな」
途中でキロンを見ると、頷いてくれたので力強く答える。
「やった! よーし、次は討伐でも、掃討の依頼にしよう!」
「クレイ、私達3人なんだから、そこまでは出来ないと思う……」
俺がいない間、討伐するタイプの依頼を良く受けているのか、
良く見ればクレイの体つきも、変化している。
実践に勝る経験は無いということだろうか?
(……待てよ? 俺自身にはレベル表記があるみたいだが……)
経験が貯まったら、はい、レベルアップ、などということは
この世界では聞いたことが無い。
ただ、冒険者はこうしているわけだし、各国の首都等にはギルドもちゃんとあるらしい。
この街にあるかどうかはともかく、地方にはほとんど存在せず、
支部のようなものを依頼を集めている酒場が兼任していることがほとんどだと聞いている。
力量を測るモンスターが各地にいるわけでもなく、そもそも冒険者の強さはどうしているのか?
今の今まで、どうして確認していなかったのか。
「クレイも頑張れよ!」
自然な形で、クレイの肩を叩きながら虚空のウィンドウに視線を走らせる。
結果は、微妙なものだった。
人間であったり、健康体であることを示す部分、
体力や魔力であろうバーなどはあったが、数値設定がされていない。
まさかゲームのようにシステムがあるわけはないので、
きっと相手の力を何かしらを媒体に読み取っているのだと考えた。
瀕死かどうかはわかるし、状態異常もわかりそうであるから、
非常に便利ではある。
レベル表記はあるにはあったが、何故かぼんやりしている。
表記はぼやけているのだが、なんとなく、どのぐらいだというような感覚だけ伝わってくる。
かなり自分と差があることだけは伝わってきた。
今度しっかりとこの世界での強さの比較方法を聞いておくことにしよう。
「これと、こいつだな。駆け出し冒険者の依頼というか、お願いってやつは」
3人と別れ、工房に戻った俺はキロンからいくつかの作成依頼を受ける。
条件は、お金が払いにくい駆け出し冒険者の相談事。
簡単に言えば、自分が何を使ったらいいかわからない、というような次元の話だ。
当然のことながら、この世界にまともに養成学校などあるわけもなく、
貴族の私兵、国所属の軍人等になるにもお金や準備が要る、となれば
何人もの若者がグランモールにあったような自警団に入ったり、冒険者を目指してフィールドに旅立っては、時に戻ってこないという。
親としても、安全な職についてほしいというのは共通なようだが、
往来の護衛であったり、モンスター退治などにより生活は維持されているのだから、
その担い手である冒険者等になりたい、という意思は無下にはしにくいようだ。
とはいえ、早々強くなれるはずも無く、何より武器というものは扱いは難しい。
自分に使いやすい武器を求めて結局は工房にやってくる、ということだそうだ。
「やっぱりよ、子供を亡くす親ってのはいないほうがいいからな」
キロンの言葉に、俺も頷く。
誰かがいなくなるということは無いなら無いほうがいいに決まっている。
「依頼内容はこの記載どおりでいいんだな?」
「ああ、この依頼主はまだそこにいるぜ」
中身の確認をしていると、キロンはそう言って工房の隅を指差す。
そこには少女にしては背格好のある、猫科を思わせる体つきをした子がいた。
ただの街にいる娘、にしては十分鍛えられているようだ。
「おい、そこの、アンヌだったか? お前さんの依頼、こいつが受けてくれるってよ」
「え? やったっ! すぐなんて幸運に感謝しないと!」
壁にかかっていた武器を眺めていたらしい少女、アンヌは振り向くや否や、こちらに駆け寄ってくる。
そして無遠慮に俺のほうをジロジロと見た後、何故か頷いた。
「うん、お願いするわ!」
「……今ので何を納得してくれたかはわからないが、全力を尽くそう」
アンヌの発する甲高い声に、一瞬いないはずの人間を思い浮かべるが、それも一瞬のこと。
今は目の前の依頼に集中するべく、依頼書に目を通す。
「今持っている剣だと動きにくい、そのために動きやすい武器を?」
「そうなのっ! これだと、いちいち振り回さないといけないじゃない? 私、森の中にいることが多いのよね」
曰く、自分は家族と街のために周囲で薬草などを集める仕事をメインに過ごしているらしい。
自然と林や森など、木々の多い場所が多く、安い長剣では戦いづらいのだという。
確かに、引っかからないように戦うのは大変だし、空振りが多くなれば体力も消耗するだろう。
「なるほどな。キロン、少し庭を借りるぞ」
「うむ。じゃあ頼んだぞ」
キロンの許可を取り、工房のそばにある庭へとアンヌを連れ出す。
「とりあえず、その剣で動いてみてくれ」
「これで? うん、わかった」
アンヌは俺の言葉に特に疑うことなく、自己鍛錬の時の動きなのか、
次々と剣を振りぬいていく。
(剣が使えない……わけじゃあないな)
第一印象どおり、思ったより鍛えられているようで、危なっかしい動きは無かった。
俺自身も特に剣術を修めているというわけではないのでそこまではわからないが、
MDでの剣士等の動きを思い出す限りでは特にそこから外れている様子も無い。
動きと動きのつなぎなどはぎこちない部分もあるが、それゆえの駆け出しだろう。
「そこで止めてくれ。ちょっと待ってろよ」
俺は建物に入るフリをして物陰で武器生成を実行、3本ほどの武器を作り出して持ってくる。
カウントは3000。十分な時間だ。
「じゃあ、これらで同じ様に動いてみてくれ。変だな、と思ったら次に変えてくれていい」
「??? 良くわからないけど、うん」
アンヌは素直に頷き、律儀に同じ様に動こうとする。
だが、上手くいかないようだ。
今作った3本の武器は、叩きつける、斬り裂く、貫く、をそれぞれ重さやステータス的に意識したものだ。
自然と、武器に適した動きというものがあり、それがやりやすいかでその武器が使いやすいかになる。
思ったとおり、最初は変な動きだったが次では普通に、最後は嬉々とした様子で武器を振り回している。
「これ、良いな! これなら木の向こうにいる相手にも上手くやれそう!」
「そうだな。だがあくまで貫く攻撃だけにしないように、他の攻撃方法も使うようにな。ああ、これは試作品だから返してくれ。依頼料金から素材を見繕って作っておくさ」
よろしくね!と元気良い声を耳に残して、アンヌは走り去っていった。
(元気だな。リム……ペインもあんなノリだったな)
未練か、思い出か、脳裏をよぎった友人の幻影を払い、建物に戻る。
依頼の武器を作らなければいけない。
「さて。ん? 風か」
葉擦れに振り返れば、庭に生い茂る木々の上のほうが揺れている。
特に気にするでもなく、俺の意識は依頼に向かっていた。
――地下水路
「おかしいですよ、先輩」
「何がおかしいんですか?」
ファクト達が発見した部屋を調べている教会の面々。
入り口には一応警戒してか、棍棒や長い棒を持った男性信徒。
皆一様に同じローブをまとっている。
そんな中、部屋を確認していた若い信徒が疑問を口にする。
「この場所、例の人達が発見してくれたんですよね?」
「ええ、そうですよ。犠牲は悲しいことですが」
答える女性の先輩信徒は、歳若い少女の信徒の疑問が何なのか、わかりかねていた。
そんな内心を表には出さず、とにもかくにもと犠牲となった冒険者であり、
信徒でもあった男性を思い浮かべて祈りをささげる。
「なら、おかしいです。なんで、所々、埃も何も無いんですか?」
静寂、そして動揺の気配。
少女の指摘に、面々は慌てて足元や棚の上などを見る。
勿論、ほとんどの場所は埃まみれだ。
手で触れば、服でなぞればごっそりと埃がくっついてくる。
だが、確かに自分達が通っていない場所に埃がまったくない場所がある。
ファクト達、発見した冒険者が掃除したかと思ったが、そんなはずもないと思いなおす。
なぜなら、周囲を埃まみれの棚に囲まれた一角の中に綺麗な場所もあったからだ。
不気味な発見に、それでも先輩信徒は気を取り直し、誰かがこっそり来てたのよ、と誤魔化す。
少女は納得していない様子だったが、自分でも答えが出せないのは確かなので、
渋々と作業に戻っていく。
見るものが見れば、気がつけたかもしれない。
1番綺麗な場所は、身軽な特定の職業であればそこまで跳躍でたどり着け、
誰かがここに入ってきたときに1番到達が困難、かつ視認し難い場所であることに。
ファクトのあずかり知らぬところでいくつものピースが現れては組み合わさり、
予想外のパズルの絵柄がまもなく姿を現す。
寒い・・・!