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32「先に見える物-3」

寒い寒い寒い! 皆さんも体調にはご注意を。


今回は戦闘なし、です。


少しでも楽しんでいただければ幸いです。


腕前を見せてもらうと案内された場所は建物の奥まった場所にある一角だった。


既に何名かの職人がそれぞれに炎と、

赤くなった金属とに視線を向けて作業をしている。


「さて、これで何か作ってみようか」


さらりと言い放ったキロンが、腰にぶら下げていた巾着袋に手を入れたかと思うと、

グレープフルーツほどもある輝きを持った何かが2つ出てきた。


シルバーの輝きにも似た、ゴツゴツとした表面。


だが、俺は別のことに意識を奪われていた。


(!? い、今のはアイテムボックス!?)


「そ、それは?」


明らかに大きさがあわない。


巾着袋はそれこそ塊1つ分ほどしかないし、2つも入っていたならもっと膨らんでいるはずだ。


「ああ、これか? いいだろう? 同じ素材なら部屋一杯分ぐらい入るんだ。何か武具にしちまうと別の種類になるみたいで入らないけどな」


この工房の宝物の1つである遺物さ、と加えてくる。

持ってると腹が減って仕方がない、というのがデメリットのようだ。


遺物はあるところにはあるものなのか?


それとも、何かが起きて俺の周囲や行く先々だけ何か確率が変動しているのだろうか?


(実は俺も似たようなのを持っていました、っていざという時にはいえそう……か?)


感心するフリをしながら、俺はそんなことを考えていた。


「で、何が出来そうだ?」


キロンに塊を渡され、我に帰った俺は考える。


まだ代償は残っているので、武器は作れない。


素材の情報を虚空で確認すると、マジックシルバー、とある。


MDでは設定上、魔力が濃いとされる地点でいつの間にか

筍のごとく顔を出す形で地面に転がっていたり、

そういった場所を掘るとそこそこ塊ごと出てくるような、

普通の金属とは厳密にはいえそうにない何かだ。


精霊の活動による副産物ではないかとは思うが、詳細はわからない。


ともあれ、素材的にはこれは武器に向かない。


衝撃に余り強くないのだ。


同時に、受け止める形になる防具にも向かない。


装飾品、が妥当だろうか?


しっかりと磨き、適切な処理をすればそれなりに光る。


やり方によっては魔力を増幅したり、逆に魔法に対する抵抗力を上昇させられる。


初心者から熟練者まで、長く付き合うことになる素材だった。


「それなりの大きさだからな……メダリオンで行こうかと思う」


「おう、じゃあここ使いなよ」


そばで作業をしていた職人が、手に作品を持ったまま立ち上がり場所を変わってくれる。


満足そうな表情から、完成したところなのだろう。


お礼を言いながらマジックシルバーを受け取り、一角に座る。


抱えたままのアイテムボックスから小さめのハンマーを取り出し、

握ったところでそのままスキルを発動することにためらいを覚える。


良く考えなくてもこのまま作るわけにはいかなかった。


「キロン、実は……」


不思議そうな顔をするキロンに、自分自身はあまり技量がないこと、

遺物のおかげで作っているということを伝える(実際には嘘ではあるが)。


説明が終わった後、キロンはなんでもないように頷いた。


「何も問題はない。素質は素質、物は物。技量なんてのは後からついてくるものだ。戦士や魔法使いなんかにも、加護を受けた存在だっている。そいつらに卑怯だ、生身で戦え、なんて言いやしない。大事なのはそれをしっかり使い切ることだ」


俺の肩をポンポンと叩き、「さあ、見せてみろ」と力強くキロンは言い放つ。


「わかった。見ててくれ」


座りなおし、発動予定のスキルの準備をする。


使うスキルは道具生成。


どちらかというと雑貨全般、といったスキルだ。


店売りしている普通のアイテムも素材によっては作成可能な、

奥深いスキルでもある。


「しっかし、お前さんもいい歳だろうに。どっかで定住しないのか?」


「なかなか良い人がいないんだ。冒険もしてたいしね」


背格好から大体の年齢を当てられた俺だが、

世間一般で言う大人、にはなりきれていないと思う。


つける特殊効果をどうしようかを考え、シンプルに1つだけ付与することにした。


熱する必要は無い素材なので、塊のまま作業台の上に乗せてハンマーを構える。


道具生成(クリエイトマテリアル)!!)


使う人、使われる状況、そんなことを思い浮かべ長く使われるといいな、と

一叩きごとに魔力を注ぎ込む。


この世界に来た頃の、一度叩いただけで勢い良くできてしまうような、

出力過多、のような感覚は薄れている。


ホースから出る水の量を自分で調整できるようになったかのように、

何かを調整している手ごたえがそこにはあった。


段々と円盤と化していくマジックシルバー。


入り込んでいく精霊の姿からも、段々と圧縮しているような感覚さえあった。


流れに手ごたえを十分感じた形で、表示されている情報が変化したのを見て、手を止める。


アイテム名がちゃんとメダリオンに変わったからだ。


付与したのは睡眠耐性。夜にも強い、長い冒険には必須である。

一応、徹夜にも効果を発揮するようだが、付けっぱなしだと

夜も寝たくても寝られなくなるので注意が必要だ。


勿論、状態異常に耐性があれば問題なく寝れてしまうが、

そこまでしなくても装備から外せばいいのだ。


「これでどうだ」


「……なるほど、何故か出来上がるわけだな。面白い。俺の爺さんみたいだな」


俺が渡したメダリオンを見ながらキロンは聞き捨てならないことを言う。


「そんな昔からここはあるのか」


俺がさりげなく話に乗っていく。


内心は、スキル持ちがいたのか?と気が気でない。


「ああ、もう100年はあるんじゃないか? 俺の爺さんも遺物持ち……だったらしい。俺がガキん時にどっかに旅に出たきりだからわからんがな」


メダリオンを撫でながら、キロンは考えるような表情で続ける。


「遺物が神話時代とかにある技術や、魔法、その他なんかを限定的に再現できる存在だっていうのは知っているだろう? 世界各地に結構話はあってな。そういうのは自然と特定の場所に集まって来るんだ」


遺物の武器を持つ精鋭で作られた騎士団や、失われた魔法で国を従える大魔法使い。


植物と会話するエルフ顔負けの人間や、遺物の力に魅入られて魔の道に落ちた者etc……。


世界中で見れば稀な遺物も、こうして局地的に固まってくることが、

歴史上、なんだかんだでいつも繰り返されているらしい。


「色々、あるんだな。勉強になった」


「ああ、俺の爺さんは勝手に強力な火の力が武器に付与される作業台を持っていたよ。火山には一生誘われんわい、って笑ってたな。代償はなんだろうな、面白くない洒落を口に出すようになることかな?」


そのときのことを思い出しているのか、キロンは笑い、メダリオンを服のポケットにしまった。


「こいつは問題ない出来具合だからな。工房の商品として販売してみよう。そうだ、まずはウチの手伝いから始めてみるか? 力仕事が多いが、いろんな箇所を回れるし、勉強にもなるだろう」


「問題ない。ぜひ頼む」


俺としても、自分以外のちゃんとした職人の生活を見られるというのは魅力的だ。


住み込みとなる建物はすぐそばにあるようで、空き室の内の1つを借りる形となり、

俺の工房での生活が始まる。





起床。


ガラスらしい透明の窓枠から差し込む陽光に目を細めながら、

俺はベッドから体を起こす。


寝起きのボサボサとした髪を整えながら、作業しやすい服へと着替えて工房に顔を出す。


「おう、おはよう。飯はあっちだぜ」


昨日も見た覚えがある職人の1人が気さくに声をかけてくれ、俺もそちらに向かう。


そこは勝手口のような入り口のそばにいくつもテーブル、水場が用意された場所だった。


職人達がテーブルに集まり、思い思いに語り、食事をしている。


外には小さな台車に食べ物たちを乗せたものが数台。


どうやら毎朝の事と言うことで屋台のように相手から出向いてきてくれているようだった。


俺も適当に果物とパン、乾燥しているベーコンのような肉を買い求め、テーブルに戻る。


パンに肉を乗せて一口。


思ったよりも堅い。


フランスパンとまではいかなくても、

それなりに堅かった。


だが、このぐらい歯ごたえがあるほうが食べている感覚がしていいなとは思う。


肉はなじみのない味だ。


豚でも牛でもない。この世界独特のものだろうか?


よくよく考えれば牧羊や牧畜といったものは見たことがない。


(まだまだ世界そのものには知らないことのほうが多いな)


生活環境は特にまだ知らないことが多そうだと考えながら、

話しかけてくる職人に、これからよろしくという意味を込めて答えていく。


若い職人からかなり老齢の職人までいる。


ここは豪快なものから、繊細なものまで結構幅広くやっているようで、

単独の工房というよりは個人個人の職人が寄り集まっているような形らしい。


買う側からしても、あちこち廻らずにすみ、依頼も安全にしやすい、ということだ。


売り手としても出し抜くということは難しいだろうが、

安定して過ごせるという点ではメリットが多いのだそうだ。


食事を終え、今日は何をするのかとキロンの元へ行くと、

一抱えほどある木箱を運ぶことを指示される。


「中身は燃料さ。毎日使うからな、大切なものだ。ああ、持って行けるだけでいいからな」


キロンはそういい残して、どこかに出かけていった。


残された俺はメモとして乗せて合った運び先へ向けて台車へと必要な数を乗せていく。


気になって少しあけてみると、石炭のように見えて少し違う。


どうも普通の化石燃料のようには見えない。

あまり追加で入れた覚えがないからである。


普通に石炭だとすると、燃やし続けるのに結構量がいるはずだ。


1つだけ黒い欠片を手に取ると、植物の果て、と出る。


文字だけ考えると、石炭でよさそうだが……。


こんな状態でも精霊がいるのか、はたまた何かがあるのか。


また調べるものが増えたなと思いつつ、台車を動かしていく。


道中、職人や客と思われる相手に挨拶をしながら、到着。


何故か何人かは不思議そうに俺を見ていたが何故だろう?


見慣れない顔だからか?


「燃料持ってきたぞー」


「おう! えーっと……左の奥に頼むわ! 同じ様なのあるだろ?」


まだ歳若い職人が作業台に向かったまま、叫ぶ。


見れば確かに同じ様な木箱。


「わかった。3箱でよかったな?」


「ああ、たの……む?」


振り返った職人の動きが止まる。


しかもごしごしと自分の目をこすっている。


「ん? どうかしたのか? ゴミでも入ったか?」


3箱を手早く置き、俺は彼に聞いてみる。


「い、いや。結構力あるんだな。俺も持てなくは無いけど、腕が震えちゃうぜ」


「鍛えてるのさ」


さらりと言い、職人は一応納得したのか、作業に戻る。


木箱を改めて見れば、確かにそれなりに重そうだ。


……別に俺、怪力じゃあないよなあ?


職人が納得してくれた以上、まあ常識の範囲なのだろう。


他の届け先にも同じ様に運び込み、倉庫のような場所に戻ったところで

部屋の隅に、精霊がふわふわと集まっているのが見えた。


(ん? 何かあるのか?)


歩み寄っていくと、布がかぶされたうず高い一角に精霊が出入りしている。


布をどかすとたくさんの木箱。


在庫か何かか?と思ったが少し違う。


材料であったり、細かい雑貨であったり。


そんな中に少し周囲と比べて汚れた様子の木箱。


埋もれた様子で、どう見ても周囲の木箱と混ざっている。


横に何か書いたものが貼ってあるのが見えた。


「何々……おお?」


良く見ると、日付はすぐ先だ。


文言からして、何かの依頼のようだが……。


周囲には明らかに時期の違う箱、そしてこの期日。


他の木箱はこんな期日が書かれているものはない。


「……これ、まずいんじゃ?」




台車に木箱を乗せ、職人と話していたキロンを見つけると近寄る。


「おう、ファクト。終わったようだな、なかなか力持ちらしいじゃないか」


「ありがとう。ところで、倉庫でこんなの見つけたんだが」


台車に乗せた木箱を指差し、キロンも木箱に書かれた文字を読む。


「うげっ、なんだこりゃ。おい、これ誰が受けた奴だ!」


キロンが慌てて木箱にはってあった紙をはがし、職人達に見せる。


「俺じゃないっす。あー……あれじゃないですか、去年、貴族が無理やり押し込んできた大量の依頼の中の1つ」


職人の1人が放った言葉に、キロンの顔も凍る。


「あ、あいつか……確かにあいつの依頼は他もこんな字だったな」


「問題が?」


俺もキロンの手元にある紙を覗き込みながら聞いてみる。


聞く限りでも既に厄介そうだが……。


「ああ、物好きの貴族が他の町にいてな。時折結構珍しい素材で作ってくれってな形で依頼に来るんだ。金払いは上客なんだが、数が多いことが多くてな」


今回の依頼は、同封の素材によって同一の燭台を多数、ということらしい。


「悪いな、手伝ってくれるか?」


「勿論、とりあえず1個、作って教えてくれ」


形も統一しないといけない以上、スキルでいきなり作り上げるのも難しい。


まずはサンプルが欲しいところだ。


「当然だ! よし、近い依頼を持っていない奴を集めろ!」


キロンの指示の元、職人達があわただしく駆け出していく。

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