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29「男二人、剣二振り-2」

コーラルを所謂綾○タイプにしないようにしていたら、イマイチどんな子なのか伝わりにくい状態に。まだまだ作りこみが足りません。


クレイは一人、赤面していた。


今が夜であることが幸いし、近くにいなければ顔色まではわからないだろう。


だが、逆に言えば近くにいれば丸わかりの赤面具合であった。


「ん~? 恥ずかしいのかな~?」


「いやっ、そのっ、当たってっ」


自身の左腕にぶら下がり気味に体重を預けてくる少女に視線を向けることも出来ず、

クレイは途切れ途切れに抵抗を試みる。


「私はこれがお仕事だし、当ててるんだよ?」


クレイの耳をくすぐる甘い声。


(コーラルと同い年ぐらいのはずなのに全然違うっ)


今にもそんな心の叫びが口から出てきそうなクレイだったが、

何故コーラルがそこで出てきたのか、彼自身は自覚できていない。


ただ今は、自身に集まる視線を何とかしたいという考えばかりだった。


周囲からの視線が、まだまだ少女といえる相手にクレイがしている行為、にではなく、

慌てた様子のクレイの初々しい態度へのものだと彼が気がつくことはなかった。


何故クレイがこうした状況になっているか、は少し前にさかのぼる。





「なんでっ!?」


「お前も言ってただろ? 襲われてるのは女だってよ。だからさ」


いつの間に話をつけていたのか、ジェームズの後をついていった先には、

大人の魅力にあふれた女性と、元気の良さがどちらかといえば表面に出ている少女、

の2人がクレイたちを待っていた。


理由を聞けば、それぞれが今日のお相手、という形であちこちデートのように歩くのだという。


「いや……でも」


冒険者である彼も驚くような素早さで腕に体を絡みつかせてきた少女に、

驚きの表情を浮かべながらもクレイは言葉をつむぐが、自分を見つめる潤んだ瞳に口を閉じる。


「クレイ君は私みたいな子、好みじゃない?」


「いやいやいや、全然っ、可愛いよっ」


頭のどこかで、これは彼女の生きる術だとわかっていても、目の前の光景にクレイは自らの

敗北を悟ることになる。


「それにだ。彼女達が引き受けてくれなかったら、お前が女装する予定だったんだ」


ぽそりと、ジェームズの口から出てきた恐るべき計画にクレイは一人、冷や汗をかいていた。


結局、納得せざるを得ない状況にクレイはどこかもやもやとしながらも、夜の街に繰り出したのだった。





そして、現在。


「こうしてるのも楽しいな~」


少女はクレイに捕まりながら、砂糖菓子を口にしている。


色合いはリンゴのように真っ赤で、何かで着色しているだろうことがわかる。


夜だからこそ出ている屋台等を冷やかしながら、

4人は夜の街を練り歩く。


途中、先ほどのようなお菓子など、細かな買い物をしながら段々とクレイのテンションも上がっていく。


なんだかんだと男の子である。


隣に可愛い女の子がいて、しかも一緒に何かをしているとなれば

自然とテンションも上がろうというものだ。


ましてや、わざとであっても密着の具合が高ければなおさらである。


音が聞こえそうなほどに、クレイの腕にかかる力が強まれば小さな金属音が響く。


クレイがそちらに視線を向ければ、少女の胸元に光るネックレス。


細かな装飾がふんだんに施され、意識してみると歩くたびに小さく音を立てていた。


「ん? ああ、これ? 手持ちで一番派手なのを着けてくるように言われたんだよ~」


自慢するように胸元のネックレスを持ち上げる少女。

同時に胸元が強調される形となり、慌てて視線をそらしたクレイは頭の隅で別のことを考えていた。


彼にとってジェームズは冒険者としても人生としても先輩である。


恐らくはこの指示もジェームズからのものだ。


普段、今もおちゃらけてはいるが、押さえるべき箇所は押さえる彼のことだ。


この指示にも何か意味がある。


と、クレイはそう考えて視線は戻さないままに少女に頷きながらもジェームズを盗み見る。


連れ合いとなっている女性と腕を組みながら、ジェームズはふっと振り向くとウィンク1つ、クレイに答える。


見れば、ジェームズの隣にいる女性も明らかに装飾の多いネックレスをつけている。


(そっか……襲われた女性には共通点があるっ!)


反応の鈍いクレイに気がつき、再び体を絡めてくる少女にクレイは先ほどとは違う、どこか落ち着いた様子で自然と手を握り返した。


クレイの変化を少女は敏感に感じ取ると、嬉しそうに腕を自身の成長途中の胸元に挟みこむようにするが、それが彼をより赤面させることになる。


「ええとっ……っ!?」


話題を探そうと頭をめぐらせていたクレイの視界に、何かが引っかかった。


4人からはまだ20メートルほども離れた場所にある路地。


丁度露店と露店の間にある空白地帯。


何かが、彼の視界をよぎったのだった。


「ジェームズ。右前方、何かがいた」


「? おう、行くか」


ジェームズはクレイの報告に顔を引き締め、ちゃんと守れよと言って先導するように前を歩く。


自然な様子で路地に近づく4人。


そして、これからお楽しみだと言わんばかりの様子で先頭を行く2人はクレイと少女を置き去りに先に路地に入っていった。


追いかけるべきか、他から見たときの不自然さを考え、他の行動を取るべきか悩んでいる間に、クレイの腕を少女が引っ張る。


「ねえ、あれ……」


「え? あれは!」


少女が指差す先には別の路地、そして猫のような何か。


首元にはまがまがしい雰囲気を感じる首輪をつけている。


2人の視線に気がつくと、その影は素早く路地に引っ込んだ。


「行きましょ」


「え、ちょっ」


守るべき対象が駆け出したのでは追いかけるしかない。


クレイは慌てて少女を追いかけ、路地に身を躍らせる。




「下がって……」


路地に入ってすぐ、クレイは相手の異様さを感じ取り、ナイフを素早く抜き放つ。


左手で少女をかばうように下がらせ、路地の奥、何かの樽の上に座る猫のような何か、猫もどきに視線を向ける。


目は赤く輝き、どこかその体も倍に膨らみそうな気配さえ漂っている。


毛並みや、ほとんどの部分は通常見かける猫と大差が無い。


だが、何故だか彼の耳に先ほどまで聞こえていたはずの喧騒がどこか遠くに聞こえていた。


「あ、あれ! 大家さんとこの猫だ!」


それを疑問に思うまもなくクレイの背後で、猫もどきを見ていた少女が叫ぶ。


「間違いないの?」


「ええ、この辺にあの毛並みは1匹しかいないわ。でももう1匹、別の毛並みの子がいるはずなのよね」


視線を相手に向けたままのクレイの質問によどみなく答える少女。


警戒を続けながら、クレイは思考をめぐらせる。


これまでの経験や、ジェームズから聞いた話、酒場の冒険者の経験談。


そしてファクトから聞き出した不思議な道具達の噂話。


導き出された結論は、相手はモンスターではなさそうだということ。


(あの猫もどきがこの子の言ってる猫なら、斬っちゃまずいな)


クレイから相手への殺意が消えたのがわかったのか、勢い良く猫もどきは体をしならせて素早く2人に飛び掛る。


「攻撃が軽いんだよっ!」


「きゃっ」


左腕で少女を抱えるように横に飛んだクレイは、右手に持ったナイフの腹部分で相手を薙ぎ払うようにたたきつける。


見た目どおりの体重なのか、クレイの攻撃に猫もどきは体制を崩し、2人から距離をとった。


威嚇のつもりなのか、2人の耳に届く小さな声。


確かに猫のようだが、どこか違う。


(いつからこうだったんだ? 正体を隠していただけで最初から? いや、それだと今更な意味がわからない)


クレイは視線を猫もどきに向けながら、腕の中の少女の無事を確かめる。


密着、という言葉が似合う状況に少女の頬がどこか赤いことに、

そちらを向くことが出来ないクレイは気がつけないままに猫もどきの攻撃が再開される。


「またっ!? くっ!!」


今度は建物を足場にするように、アクロバティックな動きで斜めから猫もどきは2人に襲い掛かり、それをクレイが迎撃する。


思わず声が漏れたのにはわけがあった。


クレイ自身ではなく、少女のほうに猫もどきが向かったからだ。


弱そうなほうを狙う知能があるのか、それとも、とクレイが疑いを持った時、

彼の脳裏に1つの回答が浮かぶ。


「それ、投げてみて」


クレイは唐突に振り向き、少女の胸元に視線を向けて声をかける。


「え? これ? わかったわっ!」


少女がその意味を悟り、首もとのネックレスを猫もどきに投げつけた時、

猫もどきはそのネックレスへと無防備に飛び掛ったのだ。


「今だっ!」


クレイは叫び、少女をその場に置いて無防備な猫もどきへと飛び掛り、その小さな体を押さえつける。


反撃を待つこともなく、手際よくその首輪と体の間にナイフを滑り込ませ、バンドの部分を切断することに成功する。


ハラリと落ちる首輪。


そして、クレイは手の中の猫もどきからプレッシャーが消えるのを感じていた。


「……終わったの?」


「みたいだ。これ、何かのマジックアイテムじゃないかなあ? 呪い的な」


大人しくなった猫もどき、もとい猫を外套で抱えたクレイが少女に答える。


幸いにも、先ほどまでのクレイからの攻撃は今の姿にはダメージを残していないようだった。


ナイフを仕舞い、あいているほうの手で首輪だったものを持ち上げるクレイの視線の先に、

力を失ったのか光が鈍くなった首輪についた石部分がある。


「へー……高いの?」


「いや、つけた相手がこんなんになるんじゃ、結構限られるんじゃない?」


路地から露店の立ち並ぶ空間へと戻ると喧騒が2人を覆う。


どうやら簡単な結界のような効力も発揮していたようで、道端の彼らが先ほどの戦いを気にしている様子も無い。


手近な店にあった籠を買い求めたクレイはそれに猫を入れる。


バスケットのようなそれは、猫も気に入ったようで顔だけを出して大人しくしている。


「かわいいー! あっ、あっちも帰ってきたよ!」


少女の声にクレイが視線を向ければ、ジェームズと女性も路地から出てくるところだった。


と、女性の手元には1匹の猫。


どうやらあちらも同じだったようだと思いながらクレイが手を振ると、ジェームズは笑顔でそれに答えた。


「無事だったか。なんだ、お前のほうも猫か」


「うん。知り合いの猫らしいんだけど」


「ええ、3つ目の角を曲がったところの猫ですよ」


少女だけでなく、女性側も猫の飼い主のことを知っており、そう言ってクレイの持つ籠へともう1匹も入れる。


仲が良いのか、飛び出すことも無く2匹の猫は籠の中でご機嫌そうであった。


ジェームズとクレイは2人の案内でその家へと向かう。







「変な露店で安かったから買った~?」


「う、うん」


猫を見るなり笑顔で飛び出してきた女性の語る内容に、ジェームズはあきれたように叫ぶ。


「明らかに変なマジックアイテムだぜ、これ。今回はアクセサリを狙うだけですんだけど、ちゃんとしたのを買ってやれよ?」


特別強い言葉というわけではなかったが、実際に被害が出ているという事実が女性を十分後悔させたようだった。


ぶんぶんと縦に首を振る女性にそれ以上の追求はせず、2人は宿に戻ることになった。


女性と少女に別れを告げ、のんびりと宿に戻る2人。


「なあクレイ。脈がありそうじゃないか」


「な、何言ってるんだよっ! あの子だって商売だろ?」


慌てたクレイの言葉に、ジェームズはにやりと笑ってその背中を勢い良くたたいて続ける。


「俺は何もあの子との仲が、なんて言ってないぜ? そっかそっか。いいことだ」


「だからっ……もういいよ……」


反論しても無駄だと悟ったクレイは力なく肩を落とし、とぼとぼと歩く。





その後、ファクトとコーラルが帰ってくるまではしばしの休息を楽しみ、

数日後に戻ってきた2人と連れ立って次なる依頼を探しに酒場へと向かう。


「へー、そんなのが売ってたのか。危ないな」


「まったくだ。人騒がせにも程があるぜ」


肩をすくめてファクトに答えるジェームズの視界に、何人もの少女が走ってくるのが見えた。


ジェームズはそちらを見るなり全てを理解したようににやりと笑い、クレイが目立つようにさりげなく立ち位置を変える。


「ん? どうしたのジェームズ……うわわっ!?」


急に動きを変えたジェームズに振り向いたクレイだったが、

その背中に数名の少女が体当たり気味にぶつかってくることで倒れそうになる。


「いたーーー!! 探したんだからね!」


叫ぶのはあの日、クレイと出かけた少女。


「え、なんで?」


何故彼女がここにいるのか、その上何人も連れ合いがいるのか。


それらがクレイの思考能力を奪う。


「なんでって、みんながお礼を言いたいって言うから」


少女は向き直り、そういって一緒に走ってきた面々を紹介する。


口々にお礼を述べてくる少女達に、クレイはどう答えたものやらと苦慮しながら応対し、ある意味微妙な空気を生み出していた。


「本当にありがとう! じゃ、これお礼ねっ」


手ぶらのはずの彼女にそう言われ、何が出てくるかと考えたクレイを裏切る形で、少女がクレイの胸元に飛び込んでくると同時に彼の頬にやわらかく暖かな何かが触れる。


それが何かを正しく理解する前に、他の少女もクレイに駆け寄り、彼の両頬に続けて同じ様な感触が襲う。


「えっ……今のっ」


「えへへ~、じゃね!」


周囲の視線がさすがに気になったのか、顔を赤くした少女はそういって仲間とともに店のほうへと走り去っていく。


後に残されるのは、4人と周囲の面々。


状況を楽しんでいるジェームズと、理由はわからないが面白そうなことになっていると考えるファクト。


そして……。


「何よ、クレイってばずっと女の子と遊んでたの?……不潔」


小さな少女の呟きが少年をえぐり、大人2人の笑いを誘う。


色々と不穏な気配はあるが、今日、この瞬間はおおむね平和だった。

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