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28「男二人、剣二振り-1」

今回は短めに2話程度で終わる予定です。


時間はファクトたちが教会に向かうために

ジェームズらと別れた頃にさかのぼる。




「待たせたな。さて、行くぞ」


カウンターに依頼の完遂を報告するジェームズのかわりに、

次なる依頼を見繕っていたクレイが後ろを向けば、そこには満足そうな表情をしている本人。


「ジェームズ、終わり?」


「ああ、問題なく、な」


すぐさま酒場を出るジェームズの姿に、内心首をかしげながらも良くあることなのでついていくことにするクレイ。


クレイの視線の先ではどこか浮かれた様子のジェームズの姿があった。


「良い店の話を聞いたんだ。行こうぜ」


「良い店って……またぁ?」


あきれた声を出すクレイ。


それには理由がある。


基本的にはほとんど一緒に過ごすと言って良いジェームズ達3人だが、

コーラルの個人的な用事であったり、早く寝入ったときなどには

クレイはある方面へと良く誘われるのだった。


それは……10代にはまだ刺激が強いかもしれない色街方面であった。


とはいえ、ジェームズにもその辺りの自制はあったのか、

せいぜいが女性達の衣服が刺激的なもの、という方面である。


それでもクレイには十分刺激的であるし、いつの間にかジェームズだけどこかに消えていたことも多く、クレイはジェームズがどこで何をしているかを深く考えたことは無い。


まだ日も高いうちにもかかわらず、2人が歩く先は独特の空気をまとった空間となっていた。


ジェームズは店の概観で目当ての場所を見つけたのか、迷うことなくその店に入っていく。


クレイも慌てて追いかけるように入店するが、即座に足を止める。


目の前に広がる暗い中にも光る色とりどりの明りに驚きを隠せなかったからだ。


「わっ……すごいや」


「そうだろう? 酒場のおっちゃんの言うとおりだったな」


クレイの驚く様に、満足そうなジェームズ。


2人の視線の先では、わざと締め切った様子の暗い店内を

恐らくは魔法であろう明りが照らしていた。


しかし、その色は単純な白さではなく、赤や紫、の混ざったものだった。


光がそれらの色をしているのではなく、最初から色のついた透明な容器の中で、

魔法の光がともされているのだと2人は理解した。


ファクトが見れば一言「イルミネーションみたいだ」などと言ったかも知れない。


見るものが見れば無駄遣い過ぎる空間ではあるが、その意味では研究と経験の積み重ねにより、適した雰囲気作りに成功した例が2人の前に展開されていた。


「いらっしゃい。あら、こんな若い子、いいのかしら」


受付兼客の見定め役といった様子の女性が体をわざと揺らしながら2人に近寄る。


その男の中身を探るような動きにクレイは動揺を隠せず、顔を赤くするが

ジェームズは落ち着いたものだった。


そんな彼の姿に一瞬不思議そうな表情を浮かべた彼女だったが、すぐに仕事を思い出してさらに口を開こうとしたところでジェームズが手を軽く上げる。


「それも楽しみなんだがな、ほら、頼み事で来たのさ」


ジェームズの手のひらには、いつの間にか握られていたブローチ。


クレイには心当たりは無かったが、これは酒場でジェームズが依頼として受けた話の符丁のようなものだった。


「あら……ありがとう。そういうことならサービスしなくっちゃね! さ、上へ上がって」


ほころんだ笑顔で案内をする女性。


二階は少なくない客がいる一階のフロアと違い、ある程度小分けになっているのだと2人に言いながら、案内をしていく。




「ねえ、ジェームズ。帰っちゃ……ダメかな?」


「なあに言ってんだ! 経験だぜ、経験!」


二階に案内されて数刻。


既に出来上がって陽気に騒ぐジェームズに、どこか落ち着かない様子のクレイ。


理由は単純で、入れ替わり立ち代り様々な女性が自分に抱きついてくるからだった。


大人の魅力満載な妙齢の女性から、自分より年下に見える若い少女まで、

どこから来るのかいつの間にかそばにいて、いつの間にか触られていた。


触れる柔肌、すべすべとした指が自分の肌を撫でる感覚、

そういったものに正直に反応してしまうクレイ。


アルコールにまだまだなれることが出来ず、素面のままというのも自分が味わう感触に拍車をかけていた。


彼もこういったことが嫌いではない、嫌いではないのだが……素直に楽しむにはまだ若かった。


そんな新鮮な反応に、店の女性達はどこかくすぐられるのか、一人もてている様子だった。


「お連れさんはモテモテね。良いの?」


「俺があいつぐらいの頃は男っ気しかなかったからな。たまの遊びも下っ端だからってほとんどお預けでよう……若いうちに楽しみたかったと思ったもんさ」


ジェームズは隣に座る、どこか疲れた様子が隠せていない髪の長い女性に答えていた。


酒場での依頼から、彼女が依頼主だろうということはジェームズにもわかっていた。


「優しいのね。それで、依頼の件だけど……」


本題に入ろうとした彼女の口を自らの指で押さえるジェームズ。


そんな彼に女性が文句を言おうとした時、隣の区画から怒声が上がる。


「もういっぺん言ってみろ!」


「何度だって言ってやるよ! 器が小さいってね!」


こういった場で起こる話には痴話げんかであることが多い。


ジェームズ達がいる区画の女性達もそれがわかっているのか、またか、といった様子で深刻な表情ではない。


ただ、まとめ役であろう何名かの女性だけは様子を見に行くべく、部屋を移動していくのをクレイも感じていた。


「ったく……陽気に楽しめんもんかね?」


「……色々あるものよ、色々ね」


ジェームズの行為が爆発寸前の隣の気配を感じたからだと悟った女性は、ため息をつくようにつぶやいた。


と、そのつぶやきに答えるわけでもないだろうが、瓶が投げられたのか壁に何かが当たって砕ける音がした。


少なからず上がる悲鳴。


「こんなことも日常なのか?」


「まったく無いってわけじゃないけど、そうは無いね」


ジェームズが周囲に問うと、帰ってくるのはそんな答え。


そんなもんだわな、とジェームズが内心つぶやいた時、

隣の区画から逃げてきたのか、乱れた服のままの女性が駆け込んでくる。


すぐさま怒声の主であろう男性が追いかけてくるのがその場にいた全員がわかった。


「クレイ、お前やれよ」


「えー? まあ、ジェームズは飲んでるからなあ……」


ジェームズのそんな言葉に、いやいやそうな返事をしながらもすぐさま立ち上がって表情を改めるクレイ。


そんな2人のやり取りに困惑した様子の女性陣を尻目に、クレイは駆け込んできた男の前に立ちふさがる。


「なんだぁ? どけガキが!」


「ダメだなあ、おじさん。楽しく過ごそうよ」


叫びと共に襲い掛かるアルコール臭い息に顔をしかめながら、クレイは殴りかかってきた男を体術のみであっさりと床にひっくり返す。


ほとんど音も無い動作に男性だけで無く、ジェームズ以外のその場の人間の動きが止まる。


冒険者としてはまだまだと思えるクレイだが、それでも命のやり取りを繰り返していることに変わりは無い。


そんじょそこらの相手に負けるようではモンスターに勝てはしないのである。


「なっ……」


床に仰向けにされたまま、ぱくぱくと言葉を失う男性。


何が起きたかがじわりと認識されていくたびに、恐怖も競りあがってくる。


「暴れちゃダメだよ、おじさん?」


クレイにとっては特に意識をしていない、しょうがないなあという微笑。


だが、仰向けにされた男性からしてみれば、

それはこれ以上何かするようならわかってるよね?という宣言でしかなかった。


「わ、わかった! は、払いはすぐして帰る」


何故男性がそこまでおびえているのかはわからないが、解決したならよし、と手を離すクレイ。


慌てた様子で支払いを済ませ、追い払われるように出て行く男性を女性陣はにらみつけ、その後にはクレイへと満面の笑みで迫ってくる。


「やるじゃない少年! いやー、スマートだね!」


「ほんとほんと! ねえ、彼女いるの?」


「いたっていいじゃない。いつでも遊びにおいでよ!」


「わわっ、ちょっ、ジェームズ!?」


「お、更にもてもてだな」


選り取り見取りといった様子で自分に抱きついてくる女性らに圧倒されながら、ジェームズに助けを求めるもスルーされてしまうクレイ。


しばらくの間、騒ぎは収まらなかった。




「うらやましい事じゃないか。で、依頼の件だが」


まだ何名もの女性に歓待を受けているクレイを見やりながら、ジェームズが本題を切り出す。


「ええ、実は……」


女性が語るところではこうだった。


仕事帰りや用事の後、街中を歩いていると路地に何かが光る。


ふと路地に入ると何かに飛び掛られ、アクセサリーを奪われたり、

ちょっとした怪我をするということが続いているらしい。


最初はただの猫かと思ったが、動きやその姿がどうにも違うということだった。


ただ、モンスターにして軽微な被害しかないので大事にもしにくいということだった。


「へぇ……そりゃあ、不気味だな」


「そうなのよ。その……さ、立ってる子も場所がね」


ジェームズの短いつぶやきに対抗するかのように言葉少なに答える依頼主の女性。


「心配すんな。すぐ何とかしてやるよ」


安請け合いとも取れるジェームズの台詞だが、

女性は元気をもらった様子で被害にあった女性達の特徴や時間などを語っていく。






「で? どうするのさ」


「どうもこうもねえよ。歩く、調べる、それだけだ」


すっかり更けた夜。一度宿屋に2人が戻るとファクトからの知らせが届いており、

ジェームズはその内容にさっさと返事を書くと、宿の主人にそれを託す。


街をうろつくのに不自然でなく、それでいて必要な装備はしっかりと。


主に武器はナイフや短剣等、目立たないものにといった装備を整え、

2人は改めて夜の街に歩き出す。


「相手は女の人を襲ってるんでしょ? 俺達でどうするのさ?」


「簡単さ、適当に夜の街を楽しみながらちょくちょく路地に入ってりゃ、勝手に見つかるだろ」


そんな単純なことがあるのか?とクレイは疑問を覚えるが、

1時間も経たないうちに自分に襲い掛かる恥ずかしさと、

その後見つかる糸口に驚くことは想像できないでいたのだった。


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