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26「ガイストールの闇-3」

地下っていいですよね、怪しくて。


「どんな魔法、どんな儀式かはこれだけじゃはっきりしないけれども、良くない物なのは間違いないね」


クリスはそう言って、ここ一年ほどで起きている不可解な事件について語ってくれた。


訪れて来た魔法使いの原因不明の昏睡を始めとして、時折倒れる人間がいたらしい。


最近は落ち着いているようだが、一時期は数人まとめて倒れたので大騒ぎだったらしい。


今考えれば共通しているのは、魔力の運用に長けた人間だったということである。


水晶球は一度調べるから預かるということでクリスに手渡し、俺達は部屋に戻ることにした。



「どうしましょうね? どこかに犯人がいそうですけど」


「そうだな。外部の人間が仕込むには難しい状況下だろう」


わざわざあんな仕掛けまで施して隠していたぐらいだ。


確かに夜間は人の目がほとんど無いようだが、

それにしたって壁に穴を開けたりなどは難しいだろう。


どういった形にせよ、余程念入りに計画したに違いない。


(魔力運用か、俺やコーラルも適用されそう……だな)


魔法使いのコーラルはもとより、スキル的に魔力を消耗している自分も魔力を運用しているといって問題ないだろう。


ふと、コーラルに視線を向けてウィンドウが出てこないか試してみるが、無理だった。


やはりステータスが確認できるのは自分だけのようだった。


そんな自分の魔力はじわりと回復している。


ただ、平常時の半分の速度だとしてもやはり、微妙に遅い。


「コーラル、今も微妙にどこかに魔力を吸われてないか?」


「え? どうなんでしょう。……自覚できるほどには吸われていないようですけど」


言われて意識を集中した様子のコーラルだが、わかるほどには影響は無いようだった。


一つとはいえ、水晶球を排除できた結果なのか、元々そう強力でもないのか、

最近は倒れる人間がいないということだから、効力が薄まっているのかもしれない。


「とりあえず、歩き回って同じ様な反応が無いか、探りましょうか」


「そうだな、近くに行けばより反応がわかるかもしれない」


コーラルの提案に頷き、一応装備だけは整えて部屋を出る。



まずは夜に俺が襲われた場所に行ってみるが、特には何も無い。


周囲は信徒や教会関係者と思わしき人間で意外と人通りがある。


変な影がいた場所や、女性と思われる幽霊に遭遇した付近でも、特にこれといったものは無く、拍子抜けといったところだ。



「……ファクトさん、右の奥の通路に」


途中、くいっと俺の服を引っ張るコーラルがそんなことを言うので、メインの通路から外れた細い通路に入っていく。


雰囲気的には普段は使われていなさそうな感じのする、空気の動きが無い様子の場所だった。


突き当りには扉が見える。

その前にバケツのような入れ物があることから、物置か何かだろうか。


見た目は現実世界で言えば、白塗りの教会の一室、のような扉だ。


中央には手前に開くためのノブがある。


「あの中に水晶球から感じたものと近いものがあるみたいです」


「何?」


慌てて剣に手をやりながらこっそりとステータスを開くが、確かに増加量がかなり鈍くなっている。


俺ですらこれなのだ、コーラルも体で感じているのだろう。


「最初に見回ったときには特に感じなかったところからして、かなり巧妙なやり方だと思います。今は意識するとようやく、という感じですね」


いつの間にか魔力を吸われている、というわけか。


「見ないわけにはいかない、か。一応コーラルも警戒を頼む」


「はい、勿論。明るいうちですから大丈夫です!」


満面の笑みで眠れし森を構えて答えるコーラル。


(それは、大丈夫というんだろうか?)


少しの不安を胸に、俺はゆっくりと扉に近づき、開く。


見た目は綺麗な状態のノブは見た目どおり、素直に動いてくれた。


小さな音を立て、開いていく扉。


中から何かが飛び出してくるだとか、淀んだ空気が、ということは無かった。


「む? 特に何もなし……か」


一度扉から離れ、開いた隙間から中をうかがうが散らかった様子も無く、

妙な光があるというようでもない。


警戒を続けながら中に入ると、整頓された物置、という状態で

各所にクローゼットのようなものから、壷、棚などが置かれていた。


「うーん、近すぎてちょっとわからないですね」


続けて入ってきたコーラルが意識を集中してみるが、特定は出来ないようだった。


「コーラル、明り用の魔法を適当に上に向けて投げてくれないか?」


以前、俺は鉱山跡を探索する際に使用した光源用の魔法は照明弾のように、ある程度飛ばしたりもできる。


俺の予想が正しければこの場所で使えば……


「え? あ、やってみます」


コーラルが小さくつぶやき、すぐさま光が生まれ、天井際まで飛んでいく。


「あ!」


「やはりか……魔力をそのまま持っていってるな」


天井際まで浮かんだ明りが、とある物へとゆっくりと吸い寄せられるように動いていった。


ビール樽ほどもありそうな壷、既に大きな水がめのようなそれに近寄り、覗き込むとそこには何かの粉。


「汚れ落しに使う磨き粉ですね、これ」


塩や洗剤というわけではなく、研磨剤のようなものらしい。


袖をまくり、中に手を突っ込んでみると、底の方に木の板らしき物があった。


外から確かめると、明らかに上げ底だ。


周囲を見渡し、同じ大きさの物を見つけるとそちらに中身を移す。


思ったより重かったが、なんとかなったようだった。


そして、見えてきたのは少し古くなった様子の木の板。


適当にシルバーソードで端の方をつつくと、上手くめり込んだので引き抜くことにする。


小気味良い音を立てて取れた板の向こうにあったのは鈍く光る水晶球。


「当たりだな」


「それです、すぐ仕舞いましょう!」


コーラルが昨日も使っていた布を懐から取り出し、俺に乗せるように促す。


木の枠で固定された水晶球を取り外し、眺めてみるがこれ単体ではまがまがしさは特には無い。


そっと布の上に乗せ、コーラルがそれを包むと少し空気が軽くなった気がした。


どうやら、感じていないところでも影響は受けていたようだ。


「これも届けてきますか?」


「そうだな、行こう」


部屋を出、通路を進むと男性の信徒がきょろきょろとしながら歩いてくるのが見えた。


「貴方がファクトさんですよね? クリスさんが探してましたよ」


俺の姿を見つけると、駆け寄ってきてそう伝言してくれた後、どこかに行ってしまった。


「なんだろうな? もう詳細がわかったとは考えにくいし……」


コーラルと顔を見合わせながらも、クリスがいつもいる部屋へと向かう。



途中、何人かから視線を向けられた気がしたが、はてさて?


入室のために、ノックをしようかという段階で中に何人も人がいることが気配でわかる。


(ん? 1人じゃないのか……入って良い……よなあ?)


「失礼します」


念のため、口調を改めて入室する。


一応、今回の目的というか流れは敬虔なる信徒が、なのでそれっぽくだ。


ドアを開ければ相変わらずの棚、棚。


そして、クリス以外に見覚えの無い男性が3名ほど部屋にいた。


全員の視線が一斉に俺たちに集まる。


「ああ、来たね。そこにでも座ってくれないか。ん、それはアレかい?」


語りかけてきたクリスがコーラルの持っている包みを見るや、反応してきた。


「ええ、そうです。今朝のアレと同じようです」


コーラルから包みを受け取り、こちらに歩み寄ってきたクリスに渡す。


気のせいか、他3名の態度が変わった気がする。


「なるほど、それっぽいね。いやー、良い仕事するね」


笑顔のクリスの真意は読めないまま、俺達は改めて促されて椅子に座る。


目の前にはテーブルがある。


形としては普通の四角いテーブルで、大きさはかなりある。


正面にクリスともう一人、左右に一人ずつ、俺達は手前に、といった具合だ。


「2人に紹介しておこう。彼らは私と同じ、この教会の幹部さ。幹部といっても、儀式を仕切ったり式典に出たり、とかまあ、4人ともある意味雑用だよね」


簡単な自己紹介を受けた後、そのうちの一人が口を開く。


「それで、彼らが見つけたというのは本当なのかね?」


ロマンスグレーの髪の毛をふさふさ生やした壮年の男性が疑わしい、という態度で俺たちを向きながら言う。


「本当でしょう。現に今だってもう1個持ってきたではないですか」


答えたのはもう一人の金髪の若者。クリスより若く、20台前半といったところか。


「誰がというのはどうでも良い。本題は何のために誰がこれを設置して行っているかだ」


最後に話を切ったのはくたびれた研究者然とした男性。


イマイチ年齢がわからないが、若くはなさそうである。


「確かに、今の場では誰が、はたいした問題ではないよね。ただ、これまでの不可解な事件の原因であろう物を彼、彼らが持ってきてくれたのは間違いはないよね?」


クリスの言葉に、3人は頷く。


不承不承だったり、明確にであったりと違いはあったが。


「先ほどの2つ目とあわせて考えれば間違いない。設置者は精霊をゆがめている」


(ゆがめている……?)


「駄目だよ。わかるように言ってあげないとね。万物に精霊はある。魔法も、剣も、川も風も火山ですらそうだ。それはファクト君たちも知っているだろう?」


年齢不詳の男性の言葉をクリスが引き継ぎ、それに俺は頷く。


「そう、魔力が精霊と同一視されることもあるのはこの所為なんだ。実際、精霊によって魔力が生まれるのか、精霊そのものが力の塊なのか、わかってないけどね」


「今回のこれは、精霊のあり方をゆがめて、何かを収集している、そう言いたいのか?」


壮年の男性が信じられないという様子でつぶやく。


「我々としては許しがたい暴挙ですね」


最後に若者が苦々しい表情で言い、クリスの手元の水晶球を眺めている。


「そ、私たちはこれを止めなければいけない。ファクト君、今後も頼めるかな? 奇跡を起こした君だ、大丈夫でしょ?」


「ご期待に添えれるよう、祈りとともに精進いたします」


クリスの言葉に恭しく頭を下げ、申し出を受ける。


元々、そういう依頼なのだから何の問題も無い。


壮年の男性は、いきなりやってきた部外者に近い俺たちに任せるのが不満な様子で、若者は興味深そうにどちらもちらちらと視線を向けてきていた。


「話は終わりか? 私は研究に戻る」


年齢不詳の男性は興味がなさそうな態度で、そう言って部屋を出て行った。


「うーん、ミスト君は愛嬌が無いのが残念だね」


クリスのそんな評価とともに、集まりは終わりを告げた。








――部屋にて


「今日も夜、動くんですか?」


「ああ……今夜はコーラルも来て欲しい。2個目みたいに場所を探して欲しいんだ」


俺には魔法の才能は無いようで、コーラルが感じたような感覚は味わえなかった。


ステータスを開きながらという手もあるにはあるが、それでは不安である。


「うっ……わ、わかりました……」


コーラルはうなだれた様子でベッドに座ったまま下を向いている。


可愛い姿ではあるが、それはそれ、である。


その後は適当に他の信徒の話を聞いたりして時間をすごし、夜。





「さて……今日はこっちで」


俺が進むのはメインではない様々な迂回用の通路。


ここは各人の部屋があったり、ただただ通路がつながっていたりする。


何かの儀式に使うのかもしれないし、改築を続けたゆがみなのかもしれない。


1時間ほどあちこちと歩き、壁を調べたりとで思ったより移動していないことに

内心嫌気が差してきた頃、コーラルが歩みを止める。


「? ファクトさん、そこ怪しくないですか?」


「む? これは……水?」


とある壁際に、水たまりがあった。


壁と床のぎりぎりなのだが、壁には水がついた様子が無い。


まるで、目玉焼きをコテで二つにするように、壁が降りてきたかのようだ。


そして、その例え通りに周囲を調べると壁が動かせる仕掛けが見つかった。


開き戸になっている様子の壁をゆっくりと開いていくと、空間。


月明かりが地下へと続く階段があることを照らし出していた。


「大分深そうだな……閉めていこうか」


「そうですね、何かがここから外に出て行ったり、誰かが中に入ってしまっても大変です」


光源魔法を少し先に投げてみるが、ゴールは見えない。


覚悟を決め、2人で中に入り、壁を元に戻す。


「さあ、鬼が出るか蛇が出るかってな」


「それ、なんです?」


コーラルが俺のつぶやきに疑問を浮かべる。


その構えた杖の先には小さな光源魔法。


狙いも付けられるし一石二鳥な使い方だ。


「俺の故郷の格言さ。どんな厄介ごとが出てくるかってね」


適当に誤魔化して、階段を下りていく。


小さく、俺たちの足音が空間に響いていた……。




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