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24「ガイストールの闇-1」

サスペンス劇場!……なことは多分無理そうです。


設定を含めればこれで30本目のようです。


薄暗い空間。


壁にいくつも備え付けられたランタンが広い空間をなんとか照らし出している。


部屋というより、何かの建物のホールといえそうな空間は、うず高く積み上げられた書籍や、何に使うのか一般人ではまったくわからないであろう物体たちで埋まっていた。


鈍く光を反射する金属、樹齢を感じさせる巨大な切り株、見るものが見れば元は良質であったと思われる武具たち。


いずれも見た者の感想は共通していることだろう。


どこか壊れている……と。


事実、金属は殆どが腐食し、切り株も朽ち果てている。


武具もその能力を完全に失っているようだった。


部屋の中央にあるテーブルには、ほのかに光る透明な球体が台に乗せられ、それを一人の男が見つめていた。


何かを黒板のようなものに一心不乱に書きとめ、消して、書いて、を繰り返す。


と、手を止めた男は球体の中で動く何かを見つめ、ほくそえむ。


「無駄だ。お前はここで私の礎となるのだ」


他に誰もいない空間に、そう大きくないはずの男の声は不気味に部屋の隅々へと響いた。









――ガイストール、門付近


「里も素朴でいいけど、やっぱこういう騒がしいほうが血が騒ぐな」


ジェームズが活気に満ちる周囲を見つめ、つぶやく。


ドワーフの里から教会跡へと抜け、ガイストールへの道中は平和そのもので、

ジェームズ達は道中の時間を、ドワーフの里で手に入れた武具になじむことに使っていた。


俺はといえば、特に装備も増えていないので主に見張りを担当していた。


本当はあの感覚を試し、より自分のものにしたいのだが、一人キャンプを発動させるわけにもいかない。


ガイストールともなれば、工房の1つや2つあるだろうし、

上手く借りることも出来るかもしれない。


まあ、いざとなったら宿の部屋でこっそりキャンプを発動し、皆には工房を借りれた、とでも言うしかないのだが……。


クレイとジェームズは、武器をジガン鉱石を使った物へと変更している。


ドワーフの手によって作られたそれらは、通常街に出回っている同じ素材を使ったものより、耐久性や重心のバランスなどで優れている。


実際に一度持たせてもらい、確かめたので間違いは無い。


コーラルに渡した眠れし森は、まだただ魔力増幅量の多い杖、という状態のようだ。


武具の真の実力は一体化してこそ、という里のドワーフの助言の通り、これからということなのだろう。


「ところで、教会ってやっぱり街の真ん中のほうにあるのか?」


「小さい村でも大体村長の家のそばだったり、真ん中にあるからそうだと思うぜ!」


俺の問いかけにクレイが元気よく答える。


「そうですね、多分、アレなんじゃないかと」


コーラルが指差す先には、教会跡と似たような、長く空に伸びた塔。


「なるほどな。俺はさっそく行こうかと思うけど、皆はどうする?」


「グラントに受けた依頼のついでに採取なんかは済ませたしな。俺は報酬受け取りつつ、次を探すつもりだったぜ。届け物はファクトが直接頼まれたものだしな」


俺の疑問にジェームズが答え、クレイも頷く。


当然、コーラルも2人についていくかと思ったのだが、返事は無かった。


「? コーラルはどうするんだ?」


「えっとですね、よければ私も教会に行きたいな、と」


遠慮した様子で言うコーラル。


視線をジェームズに向けると、「いいんじゃないか?」と帰ってきた。


「一応、理由を聞いても良いか? 珍しいなと思って」


彼ら3人はパーティーだ。


一人だった俺と違って、できるだけ同じ行動をしているのが冒険者のパーティーの務めというか、基本なのだ。


「はい。笑わないでくださいね? 杖が、行きたいって言ってる気がして……」


自分でも確証は無いようで、どこか恥ずかしそうな様子でコーラルがそんなことを言った。


(杖が? そうなると……魔法か精霊関係か?)


俺自身は直接は強い魔法を使えない。


せいぜいがいつぞや使ったような光源用の魔法か、各種補助や初級魔法だ。


それも精度の問題から、滅多に使うつもりは無い。


どこに飛んでいくかもわからない火魔法など、危険すぎる。


ともあれ、コーラルは魔法使いとしての素質か、武器の導きで何かを感じているのかもしれない。


「よし、じゃあ一緒に行くか! ジェームズ、集合場所はあの宿でいいんだな?」


「おう。帰ってこないようなら教会に突撃するからな」


ジェームズのボケに、笑いながら俺はコーラルと共に目的の教会と思われる建物に向かう。







――塔のある建物前にて


「あのー、すいません」


「ん? 新顔だな。祈りにでも来たのか? だったらまっすぐ行けばすぐに礼拝堂があるぞ」


俺が話しかけたのは、教会らしき建物の入り口を守っている2人の男の片割れだった。


こういう人間がいるということは、意外と荒くれ共がいちゃもんでもつけにくるのかもしれない。


「ああ、そういうんじゃないんだ。この人、いるかな? 頼まれ物を持ってきたんだけど」


グラントの渡してきたメモのうち、名前のところが見えるように折って見せる。


すると、男の表情が驚きに変わり、「待ってろ」とだけ言い残して1人が奥へと走っていった。


どうやら俺が思っているより大物のようだ。


「ファクトさん……」


「ま、いきなり捕縛、なんてことはないだろ」


心配そうなコーラルに俺は笑って答える。


数分後、駆けて行った男が戻り、案内を受けることになった。


「くれぐれも失礼の無いようにな」


案内された先で、俺達はそんなことを言われた。


男がドアをノックし、中から男性の答える声が聞こえる。


「客人です。届け物があるそうです」


男の手によって開かれたドアの向こう、

即座に目に入ったのは書物、書物、書物。


一瞬、図書館にでも来たかと思ったが、そうではなかった。


いくつも壁に備え付けられたランタンのような何かが

部屋を十分に光で満たしている。


書物の量の割りに、清潔感あふれる空間は、知的な雰囲気を感じさせる。


「ん? 見ない顔だね、君は誰だい?」


部屋の奥、壁際にあるテーブルで書類を整理している様子の男性が俺たちを見、声をかけてくる。


「初めまして、だな。俺の名前はファクト、こっちはコーラル。ドワーフのグラントから頼まれ物を持ってきた」


言って、背負ったままのキラースピアを布ごと右手に持ち、前に突き出した。


「おお! それはありがたい。ああ、君は行って良いよ」


ドアのそばに立ったままの男に男性は声をかけ、俺達が残されることになった。


男性は立ち上がり、大きなテーブルを迂回して俺の前に来ると、キラースピアを受け取って布を解くと、手に持って穂先までをじっくりと眺める。


聖職者然とした姿の割りに、かなり様になっている。

見た目は30代後半、この世界としては結構な歳に思える。


(この男性、意外とやる……?)


「そうそう、私の名前は知っているかな? ……ふむ、そちらのお嬢さんは知らないようだ。私の名前はクリスだ。本当はもっと長いんだが、本当に長いのでね、クリスでいい」


人のよさそうな笑みを浮かべ、クリスはそう言ってキラースピアに布を巻きなおす。


「用事はこれで終わりってことでいいか?」


グラントからは特に代金をもらってこいとは言われていないので、後はお好きなように、というところだろう。


「この槍の件はそうなるね。ただ、グラントではなく、新顔の君が私のところに来たということは、君が何か問題を抱えていて、それは精霊がらみなんだろう?」


鋭い一言に、俺は内心うめきながらも、自身の状況と、打開策を探していることを問題の無い範囲で口に出していた。


「……なるほど、それはまさに奇跡としか説明がつかないね。今は使えるのかい?」


「いや、今はどうやっても無理な感じだ。夢中だったからな」


何かを探るような視線にボロを出さないように注意しながら、俺は誤魔化すように言う。


「ふーん。ま、いいかな。精霊様も嫌っていないみたいだし」


「貴方、いえ、クリスさんは精霊が見えるんですか?」


クリスの発言に、コーラルが驚いた様子で問いかける。


「いや? この街のマテリアル教の幹部としては残念なことに、なんとなーく、光っぽく見えるだけさ。その人が好かれていれば輪郭をぼんやりと明るく覆うし、逆に嫌われていると暗いか、まったく光らないから便利だけどね」


クリスはそう言い、コーラルも好かれているほうだ、と教えてくれる。


「それで、どうにかできそうなのか?」


「勿論。私を含めた幹部に認められば晴れて君も奇跡を行使したものの一員さ。何よりこの街じゃ、武具の精霊は大事にされている。一気に街の仲間入りも可能!ってわけさ」


俺の疑問に、少々大げさに身振りと共に答えるクリス。


「見てないのに、認めることが出来るものなんですか?」


コーラルのもっともな疑問に、クリスの動きが止まる。


「そこなんだよねえ。話自体は、私のところにも来てるんだよ。こういうことがあったけど、アレは教会の奇跡なのか?ってね。だからあらましというか、起きたことは何人も目撃している以上、奇跡の状況証拠は十分なのさ」


話を区切り、クリスは俺の前に立つ。


「後は、君が、ファクトがそういう人間である、ということを何かしら示せば良い」


「どうやって? 同じことをやれっていうのは無茶だぞ?」


少なくとも後1週間と少しは武器がスキルで作れない。


「簡単なことさ。君が奇跡を起こしうる、信仰を持っている人間だと示せれば良い。というわけで、何日か泊まってくれ」


「え? 教会にですか?」


思考の止まった俺の変わりにコーラルが質問を飛ばしてくれた。


「そうそう、ここでちょっとした調査をやってもらいたいのさ」


クリス曰く、ここ1週間ほど、教会のいろいろな場所で変な声を聞いたり、暗い何かの塊が目撃されているらしい。


実害はないそうだが、亡霊の仕業か!などと騒動の元らしい。


「そこで、君に泊り込んでもらい、解決してもらう。そうすれば教会のために身を呈す信仰心ある若者の一丁上がり!ってわけさ。話の材料さえあれば後は私がなんとかできる」


そういって胸を張るクリス。


それはありがたいのだが……。


「何でそこまでしてくれるんだ? クリスにはメリットがないだろう?」


「なあに、マテリアル教は来るもの全てに手をってね。ま、本音は面白そうだからなんだけどさ」


笑うクリスからは俺の思い描く聖職者の気配は微塵も無い。


不真面目そうだが、そうでは幹部だという地位にはいまい。


やることはやる人物、ということか。


「さらに本当のところを言えば、このまま自分達でやるとただの不備というか、浄化をさぼってるからだ、ってなるのさ。そこに颯爽と現れる青年! その信仰心で事件は解決! なんという前途ある青年だ!ってね。ま、そこまで上手くはいかないだろうけど、多少は上書きできそうでしょ?」


にやりと良い笑みを浮かべるクリス。


これは、逆に付き合いやすい相手だ。


何せ、メリットデメリット、要求することがはっきりしているのだから。


「了解した。どこに泊まれば良い?」


「ああ、右手の奥に部屋があるよ。1部屋だけど。君も一緒で良いよね?」


後でジェームズに伝えに行くか、使いを頼まないとなと思っていると、クリスが聞き捨てならない一言を言った。


「私も、いいんですか?」


コーラルはコーラルで、なぜか乗ってきた。


「いやいやいや、男女同衾はいかん!」


俺が1人叫ぶと、2人は疑問を浮かべた顔でこちらを向く。


「何か問題でも? まさか、聖なる教会の中で不埒なことに挑もうとでも?」


「え? そうなんですか?」


2人の追撃に、俺は慌てて首を横に振る。


「じゃあ問題ないよね。宿はどこだい? 使いを出すよ」


クリスは近くにあった鈴を手に取り、静かにそれを鳴らす。


しばらくして、信徒の1人と思われる女性が1人、部屋にやってきた。


ジェームズとクレイがいるはずの宿の名前と場所を伝え、伝言を頼むことにする。





1時間ほどして、「俺達は修行でもしている」とシンプルに返事が返ってきたのには驚いた。



そんなこんなで、俺の、正しくは俺とコーラルの奇妙な教会での数日が始まるのだった。

次回は家○婦はみた!……みたいになるといいなあとか

思ったりなんかして。


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