表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/292

23「北の地で-5」

住んでいる土地、影響しあう場所、という点ではエルフもドワーフも大差が無い状態になっています。


感想などはお気軽にtwitterでもお待ちしております。

大気が震えていた。


正確には、3人にはそう感じられた、と言ったところだろうか。


「ちっ、こんなところでびびってちゃ、世話ねえな」


ジェームズは未知の相手に萎縮していた自分を叱咤し、全身にやる気をみなぎらせる。


そもそも、自らは新たな敵、未知なる相手を楽しみの1つにしていたのだから、と。


「ジェームズ?」


「そうだよな、逃げても逃げ切れないかもしれないし」


コーラルとクレイも、ジェームズに満ちる気迫を感じ取る。


食事を終え、空に向けて咆哮する熊もどき。


気配に敏感な野生の獣であり、モンスターでもある存在が

近くにいる気迫の満ちた相手に気がつかないはずは無い。


おもむろにジェームズらへと向き直り、大きく咆哮した。



「上等だ! こちとら腕一本で何でもこなす冒険野郎だ! 知らない相手に興味はあってもびびってちゃーいけねえよな!」


「おうよ! やってやる!」


「あ、私は女の子だし、魔法ですけどね?」


いつもどおり、ジェームズが前衛、クレイが中衛、コーラルが後衛、と陣形を取り、3人は迎撃の姿勢を取る。







――ドワーフの里にて


「どうじゃ、見えるじゃろう?」


「これが……そうなのか?」


木を削りだすための道具を手に取り、作成を始めた俺にグラントは様々な指摘をしてくれた。


ただ削るのではなく、精霊の好みそうな、通りやすそうなものを目指せと。


自然の造詣や、なんでもないような街中の形に妙に気を引かれたことはないだろうか?


ざっくり言えば、精霊の好む形というのはそういうことらしい。


こればかりは実際にそのとき作る精霊によるので、決まったものというのは無いそうだ。


ゆえに、自身のセンスだけではどうにもならない部分があるとのこと。


一般の鍛冶職人はもとより、ドワーフやエルフ等の種族でも一朝一夕にはいかないらしい。


「こうか……ああ、こっちのほうがいいんだな」


俺が彫ろうとする方向、深さ、その形。


様々に反応する精霊を見ながら、

使う人間、宿る精霊、どちらのことも考えてあれこれと試していく。


MDで新しい武具を作れるようになっていくときにも味わった高揚感。


自らの手で、自らの新しい扉が開いていく感覚。


俺は自分が笑みを浮かべていることにようやく気がついた。


作る楽しみ、出来る楽しみ、使ってもらえる楽しみ。


物を作るということは大事なことなのだ。


ゲームでも、ここでも簡単に作れるからと薄れていた感覚。


「うむ。いいぞ。そのまま赴くままに作っていけ」


グラントの声もどこか遠くに聞こえる。


聞こえているのに、聞こえないような……。


俺と石、杖の元となる木の周りを興味津々に精霊が舞っているのはわかるが、上手く認識できない。


彫り、削り、しならせ、整える。


段々とまさに魔法使い!という杖のような形となり、後は力の源となるであろう石がはめ込まれる部位がぽかんと大きく開いている。


「よし、はめ込むのだ!」


「……おいで」


なぜか、俺はそんなことをつぶやき、緑色の石をその穴にはめ、ふっと魔力を込めた。


周囲に舞っていた精霊が勢い良く杖と石に吸い込まれたかと思うと、

陽光や電気照明とも違う、そのものを覆うような光が杖からあふれ出る。


俺の加工により、杖となったそれ全体を覆う緑色の光は、しばらくすると杖の中に戻り、石だけが光を放つ。


「……終わった?」


「ああ、完成じゃ。どうじゃ、悪くない感覚じゃろ」


呆然とつぶやく俺に、グラントは静かに答える。


「うん。ありがとう、そんな感じだ」


どこか誇らしげな気持ちと共に、俺は出来上がったばかりの杖を掲げる。


眠れし森+1スリーピングフォレスト


(プラス1? 多分、強くなったんだろうけど、無粋といえば無粋だな)


出来上がりにそんな感想を抱きながら、自分では使えないことはわかっているので、

3人が戻ってきたらコーラルに渡そうと考え、一息つこうとした時、

杖から数匹(?)の精霊が出、外に飛び出していった。


「む? 3人が帰ってきたかの?」


「そうか!」


俺は杖を持ち、3人を迎えるべく家を飛び出る。



きょろきょろと辺りを見ると、里の入り口の1つに10人ほどの集団が見えた。


体格差から、3人はジェームズたちだろう。


となると他は?


「おお、皆も戻ったようだな。あれは……モンスターか」


集団の後ろに荷台が引かれており、そこには巨大なモンスターの死骸らしきものが乗っていた。






「3人とも、無事だったか!」


「よう! まー、すんなりとは行かなかったがよ、無事さ」


答えるジェームズと、クレイ、コーラルまでがその防具を汚し、いくつかの傷を負っている。


それにしても、依頼の場所は半日程度とは言え、そうすぐには戻れないはずだが……。


「そうそう! ファクト、ドワーフってすごいんだな! 森が勝手に動くんだ!」


森が、動く?


「こら、クレイ。そんなんじゃ誰もわからないわよ。えっとですね……」


コーラルが語るところではこうだった。




――森の一角にて


「はぁはぁ……やるじゃねえか」


ジェームズの声にも疲れが見えていた。


相対する熊もどき。


元から体力のありそうな姿に見合う体力がモンスターには備わっていた。


幸い、まだ3人には大怪我は無い。


だが、かする爪1つとっても勢いが乗った一撃であり、

モンスターにとっては小さな体躯である人間にはダメージの元であった。


(世の中には少人数で空を舞うドラゴンと戦える奴らがいるってんだから、まだまだ俺も甘いぜ)


「ジェームズ!」


刹那の思考、その瞬間を狙う攻撃をクレイの声に知らされてジェームズが回避する。


互いに致命傷には遠く、時間だけが過ぎていく。


素早い動きにコーラルの魔法も手持ちの中では決定打を欠いていた。


「攻撃魔法そのものでも、何かを使う拘束タイプも間に合わない……!」


(雷の魔法であれば当たる? いや、でも回避されやすい!)


自分の手札の少なさに歯がゆさを感じるコーラル。


誰かが決定打のために囮にならなければならないか、

そう冒険者らしくどこかで考えた時、3人の耳に聞きなれない声が届く。


いや、響きそのものであれば3人は聞いた記憶があった。


それも、ごく最近に。


叫ぶような声、その瞬間に熊もどきの足元が大きく陥没する。


ピンポイントに熊もどきの移動先を狙った見事な穴開けの魔法。


胸元まで一気に落下した熊もどきに、ジェームズは声を張り上げる。


「今だ! コーラル、電撃! クレイ、行くぜ!」


「はいっ! 轟く雲間の怒り! 雷の射線!(サンダー・スプリット)


コーラルの杖から、ホースほどの太さの電撃が走り、熊もどきの胸元に直撃する。


速度はあるが、魔法の判定そのものは小さく、素早く動く相手に直撃させるには

技術がいる、そういう魔法である。


「よしっ! そこだっ!」


勢い良く走りこんだクレイと、振りかぶったジェームズの攻撃がほぼ同時に決まり、

急所に近い位置を攻められた熊もどきはその体力を大幅に減少させ、勝負は決まった。




「今のは、ドワーフ……ですよね?」


「だと思うんだがな」


コーラルの疑問に、ジェームズも自信無さ気に答える。


一人、クレイだけは目を輝かせていた。


「絶対そうだって! グラントのおっちゃんと同じだったもん!」


騒ぐクレイの声が聞こえたのか、最初から姿を現すつもりだったのか、

森の一角から何名ものドワーフが出てくる。


「人間よ、無事だったようだな。グラントの名を知っているということは客人か」


代表者と思われる1名が前に出、3人に語りかける。


「ああ、俺たちともう1人で、ほんの少し前に世話になり始めたばかりさ」


熊もどきが絶命しているのを確認し、ジェームズは答える。


「なるほど。その様子だと里に戻るところなのだろう? 我等と共に行くと良い」


先頭のドワーフが3人に提案し、返事を待つまもなく片手を挙げ、何事かをつぶやく。


すると、3人とドワーフ達の目の前で、森の一角が音も無く新たな道を作った。


「我等はこの土地と共に生きる者。互いに融通しあうのだよ」


目の前の光景に言葉を失う3人に、ドワーフは何でも無いように言い、

時には、移動の要望にこたえて直接土を掘って木々を移動するのだと3人に教えてくれた。




――ドワーフの里、現在


「という感じで、かなり距離を短縮できたんです」


「そうか、もう少し早ければこれが間に合ったかな?」


コーラルに、出来たばかりの例の杖を見せる。


「あ! 新しい杖じゃん! すげー!」


クレイが俺の手元に駆け寄ってくる。


自分は装備できないというのにこの喜びよう。

男の子、ということだろうか。


かという俺自身も、真に新しい武器、に内心興奮しっぱなしだ。


「ほっほ。まずは体を休めたらどうじゃ? 色々と聴きたいこともあるのじゃろう?」


グラントの提案に、3人も頷き、今日は里に泊まることになった。



里の憩いの場であろう酒場のような空間に、

俺たち4人以外にグラントや何十人ものドワーフが入り乱れていた。


冒険談であったり、土地独特の話であったり、貴重な鉱石の話であったり。


コーラルはどこかのテーブルに1人、話を聞きに出かけている。


ジェームズやクレイも、ドワーフ自慢の武器達に目を輝かせ、

話が盛り上がってはとあるドワーフがふらりと席を立ったかと思うと、近くの

自分の工房から新しい武器を持ってきてはさらに盛り上がる、を繰り返している。


ドワーフは必要以上に儲けるつもりはないようで、

聞こえてくる範囲でもその要求してくる金額はお得なものだった。


互いの技術を確かめ、語り合うのが楽しいようで

2人が実際に買わなかった武具の製作者達も、特に不機嫌な様子は無い。


「彼らは好みの武器を見つけられたようじゃの」


「そうみたいだ。ありがたい。本当は俺が作れれば話が早いんだけどな」


そんな2人を眺めていた俺にグラントが話しかけてくる。


「ふむ……お主、普通の人間ではないのかの」


「モンスターでも、ないさ」


どう答えたものか悩んだ挙句、変な答え方をしてしまう。


「いや、言い方が悪かったの。あれだけ精霊に愛されているのだ。上手く付き合わねばいかんぞ、ということよ」


グラントはそういって、エールのような飲み物を一息に飲み干す。


「お主とてわかっておろう。大きな力、都合の良い何か、は容易に様々なものを引き寄せる」


「ああ、だからここに来たようなものだしな」


俺も手元のグラスからアルコールの強いそれを一口飲み、息を吐く。


「ただ、道を曲げてはいかん。自分を信じ、進むようにな」


グラントはその言葉を最後に、後はちびちびと追加の飲み物を飲んでいく。


俺も無言で答え、静かに夜が過ぎていく。




翌朝、出発の準備をして里を出るべく先に3人が家を出たとき、

グラントが俺を呼び止めた。


「ファクトよ、これを持って戻ってみんかの」


渡される1本の槍。


特別な属性は感じず、純粋に貫く力だけを特化した感覚を受ける。


受け取って出てきたウィンドウには、━キラースピア━とある。


どうやら命中の他、所謂クリティカル確率に補正があるようだ。


「これをどうすれば?」


「ガイストールにとある有力者がおる。教会の関係者じゃがの。その者に渡して欲しい。お前さんがどんな状況かはわからんが、力になってくれるじゃろう」


手渡されたメモには相手の情報が書いてあった。


そこまでしてもらうわけにはいかないと、

咄嗟に返そうと顔を上げると、深い感情をグラントの瞳に見つけ、動きを止める。


「遠慮せんと、受け取っておけ。なあに、ワシはこれでも200歳は超えておる。

若いもんを導くのも仕事よ」


それでも何かを口にしようとした俺を遮る様に、グラントはそう言って、何も聞かないでくれた。


「ありがとう。それしか言えないが……」


「ファクトよ、ワシにはお主が誰で、どんな物を背負っているか、全てはわからん。だが、世界は、精霊はいつもお主のそばにおる。耳を傾けるのを忘れぬようにな」


最後にグラントはそんなことを言って、俺の背中を勢い良くたたいて送り出してくれた。





「ファクト、それ何?」


「街にいったら教会のお偉いさんに届けてくれだってさ。クレイも行くか?」


布に包まれた明らかな長物にクレイがさっそく声をかけてきた。


「んー、俺はパス! だって教会って真面目すぎる!」


ある意味予想通りの答えに、俺は一人微笑んでいた。


「上手くいきゃ、後ろ盾が出来てファクトも堂々と色々できるってわけだ」


「そう願いたいね」


「きっと、大丈夫ですよ」


昨晩、ドワーフの魔法使いに様々な魔法を口伝してもらったようで、

どこか上機嫌のコーラルはそんなことを言って、可愛く笑う。


俺も良い天気の空を見上げ、先を疑いがちな気持ちを切り替えるように、

大きく息を吸うことにした。



何がこの先にまっているかはわからないが、やれることをやるだけだ……!



次回はどろどろした組織裏模様?……かもしれません。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ご覧いただきありがとうございます。その1アクセス、あるいは評価やブックマーク1つ1つが糧になります。
○他にも同時に連載中です。よかったらどうぞ
続編:マテリアルドライブ2~僕の切り札はご先祖様~:http://ncode.syosetu.com/n3658cy/
完結済み:兄馬鹿勇者は妹魔王と静かに暮らしたい~シスコンは治す薬がありません~:http://ncode.syosetu.com/n8526dn/
ムーンリヴァイヴ~元英雄は過去と未来を取り戻す~:http://ncode.syosetu.com/n8787ea/
宝石娘(幼)達と行く異世界チートライフ!~聖剣を少女に挿し込むのが最終手段です~:http://ncode.syosetu.com/n1254dp/
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ