22「北の地で-4」
4話目で区切りになりませんでした。
一応、次回でお話は区切り予定です。
9/30:フリーズ時に1部描写が消え去っていたのを確認、追加。
「……一応、姿は」
視線で追っていた様子を目撃されているので、
とぼけることは出来ないと判断し、肯定する。
「そうか。人間にしては珍しいことだ」
言ってドワーフは後ろを向き、俺たちについてくるように促した。
「これ、1つ1つに魔法がかかってる……すごい」
コーラルが途中、現実世界の街灯のように光を放つ何かを見つめた後、そうつぶやいた。
「精霊の生み出す力の残滓を集めるようになっておる。若いの、下手に触らないようにな。変に干渉すると消えるのでな」
ドワーフの言葉に、触ろうとしていたクレイがビクっとその手を止める。
「どこに連れて行ってくれるんだ?」
「ワシらの里じゃよ。ヒートダガーを持っている相手はもてなすのが礼儀じゃからの」
ジェームズの疑問にドワーフは足を止めて振り返る。
「お主ら、名前は?」
「俺はファクトだ。鍛冶職人兼冒険者ってとこか?」
俺に続いて、ジェームズ達も名前を名乗り、最後にドワーフが口を開く。
「ワシは人間風に言えば、グラントという。ドワーフにはドワーフ語とでもいうべき言語があっての。翻訳すると都合上、同じ様な名前が多いからの、わかりにくいかもしれん」
そう言ってドワーフ、グラントは歩き出してとある壁の前で止まる。
そして、聞きなれない言葉を数回喋ったかと思うと、壁が振動して開いていく。
通路を満たす日の光に目を細め、慣れるのを待つ。
「ふむ……ようこそ、人間よ。我等の里へ」
ドワーフの里は森と建築物が融合したバランスの取れた場所だった。
MDで訪れたことのある里達はゲームの演出なのか、
如何にも隠れ里、といった様相だったので想定外な光景だ。
建物の大きさは少し小さめだが、ドワーフにあわせたにしては大きすぎる。
「ドワーフは遥か昔から人間達、特にマテリアル教と付き合いがあっての。生活様式も我々が合わせとるんじゃよ」
疑問を口に出すと、グラントが答えてくれた。
歩みを止めたのはとある民家風の石造りな建物。
「来客用の建物になる。中で目的を聞こうかの。まさか観光に来ました、というわけではあるまい?」
からかうようなグラントに頷き返し、4人とも連れ立って建物に入る。
「俺は後にするとして、彼は色々な興味から、彼女はドワーフに伝わる魔法や、魔法使いの話を聞きたくて。ジェームズは……なんだっけか?」
「俺は特に無いぜ。敢えて言えばこうしてドワーフとコネができりゃ今後役に立つ、ぐらいなもんさ」
備え付けの椅子に座り、ジェームズはおどけた。
「なるほどの。で、ファクトだったかの、お主は鍛冶か、精霊の御し方でも聞きたいのか?」
「そうなるかな、一応コレも作ったんだけど」
今回、新しく装備していた赤いショートソードを取り出し、グラントに見せる。
名前は━ヒートセイバー━、これは、ヒートダガーを母体にして再強化とでもいうべき手順を経て作られる剣だ。
どういう理屈かはわからないが、MDではヒートダガーと違い、これだけでは里に入れない。
一度、ヒートダガーを入手したプレイヤーはどこかにフラグが保存されていたのか、ヒートダガーなしでも入ることは出来たのだが、ヒートダガーを手に入れたことが無い誰かにこのヒートセイバーを渡しても入れない。
なお、俺がこの剣をアイテムボックスに閉まったままだったのは偶然だ。
とはいえ、日本人のRPG等におけるアイテムの収集率や、なんとなく取っておくというのは長年培われてきた文化みたいなものだ。
他にもネタアイテムは色々放り込んだままである。
「ふむ。まるっきり知らないというわけではないんじゃな。いいじゃろう。そっちの3人はちょっと頼まれてくれんかの?」
曰く、今ドワーフの魔法使いは上級者は出払っており、しばらくしないと戻らないとのこと。
その間、必要な鉱石やらの採取依頼をやってみないか?ということだった。
「俺はかまわないぜ」
「ジェームズがそういうなら俺も!」
「私も良いですよ」
3人は快諾し、残された俺。
「ファクトはワシの元で修行じゃ」
修行?
「え? いきなり教えてくれるのか?」
思わず聞き返してしまう。
というのも、MDではゲームの性質上、技術とは無関係な採取などのクエストをこなす形で自動的にスキルなり、様々なものが開放、もしくは取得されたからだ。
フリだったとしても何か修行をした記憶は無い。
「詳しい話は後でな。よし、3人への依頼詳細だが……」
部屋に飾ってあった近隣と思われる地図にマーキングし、
採取先などを説明するグラント。
準備をした上で、3人はすぐに旅立っていった。
「さてと、ファクト。何か作って見せよ」
「作ってって、すぐには出来ないって」
持ったままの袋から鉱石、街の酒場でも見たジガン石を投げ渡してきたグラントに、
一瞬、何か知ってるのかと思ったが、気を取り直して答える。
「何を言っておる。精霊が見えるのだろう? ならば、普通の鍛冶のやり方などしなくてもよかろう」
(どういうことだ? ドワーフは各種スキルがまだ使えるというのか?)
内心の動揺をよそに、まだ武器生成が封じられている身としては、
何が無難かと考え、小手にすることにした。
使うスキルは防具生成、だ。
小手や指輪、各種装備に分化するとスキルが無駄になるとMDの運営は考えたのか、
鎧や盾以外はこのスキルに集約されている。
「防具生成-金属C-」
つぶやいた瞬間、予想していない量の精霊が石から噴出し、一瞬視界をふさぐ。
慌てて精霊に言い聞かせ、おとなしくなってもらい、作成に戻る。
時間にして5分もたっていないだろう時間の後、小手が無事に完成する。
「どうです?」
「……ふん。出来はまあまあといいたいが、お主には致命的な問題がある」
グラントの言葉に緊張する俺。
まさか、武器生成が使えないことがわかるのだろうか?
「今のお主はせっかくの精霊を無駄にしておる。大方、精霊が好き勝手にやるとすぐ物は出来るし、調整が効かんのだろう?」
予想外の指摘では合ったが、その意味では的確すぎるグラントの指摘に、俺は頷くしかない。
「そうじゃろうな。それだけの精霊が出てくる作り手はドワーフにもそうはいまい。簡単に言えば魔力の出力過多で魔法を使おうとするような物。かといって下手に抑制すると今のお主のようになる」
グラントはそう言って、作ったばかりの小手を手に取り、眺めたかと思うと気合とともに小さなトンカチで軽く叩く。
何を、と思う間に目の前で小手がぱかりと割れる。
(は? いやいや、なんだあれ)
仮にも作ったばかりの新品だし、ステータス上も問題なかった。
一体何が……
「ほれ、精霊のつなぎが弱い。ただ使うなら能力は十分発揮するだろうが、ワシのようにわかってるものからすればいざという時には危ないぞ」
人間同士や、普通のモンスター相手なら問題はないがの、とグラントは加える。
俺の脳裏にはこれまでに売ったり作った武器、いつぞやの自警団の少年らが浮かんだが、いきなり武器が壊れる!ということはなさそうで安心した。
曰く、ドワーフには秘伝に近い形で各種作成のような技術が伝わっているらしい。
精霊の恵みが豊富な材料の他、条件を満たした場所でなくては使えないし、
様々な制限があるらしいとの事だが。
ドワーフが里を作って住んでいるのはその場所は
その技術に適しているかららしい。
「まずは精霊を正しく認識せよ。その上で必要なだけの協力を請うのだ。今のように、ただ拒否をするのではなく、な」
(正しく、ね。さて?)
考え込んだところで、外套のポケット部分に入れたままだった壊れた眠れし森を思い出す。
テーブルの上に石を置き、眺めてみる。
いつぞやと同じ、深い緑の光が見える。
「丁度いいの。それにそっと魔力を込めてみよ」
「魔力を?」
言われ、スポイトでそっと水滴を落とすかのように、わずかに魔力を込めてみる。
思えば、MDでもスキルと魔法は同じゲージを消耗していた。
俺の各種生成もそうだ。
となると、根源は一緒なのだろうか?
そんなことをが一瞬頭をよぎった時、手ごたえと共に石から見覚えのある色の精霊が浮かび上がる。
何かを探しているかのように、きょろきょろとあたりを見渡して、俺のほうを見たかと思うと、ふわりと浮かび上がって来た。
「精霊はの、喋らん。厳密には生き物ではないからの。万物に宿り、こうしてそれに宿った力や、何かしらの魔力に惹かれて動くのじゃ」
試しに注ぐのをとめてみろというので、言われるがままに止めると、しばらくした後、精霊は石の中に戻っていった。
「何も大きなものの中に大量の精霊がいるわけではない。小さくとも、力ある武具であったり、由緒ある物品には自然と多くの精霊が宿る」
グラントは続けてジガン石をテーブルの上に置く。
「さっきはそのジガン石からもすごい出てきたんだが……」
「そう、恵みの証でもある。見た目は同じ素材かもしれんが、別の土地ではまったく違うのじゃ」
ジガン石をつついても今は何も起こらない。
少量ならともかく、大量となると魔力を込める、俺で言えばスキルを使うなどが必要らしい。
その上でも、先ほどのような量はこの土地ならではなのだという。
「大切に受け継がれた家宝が、不思議な力を持つといわれることが多いのは精霊のおかげなのだ。長く、接してきた相手の魔力を少しずつ取り込み、精霊は増えていく」
「じゃあ、何かしらいつも身に着けておいたほうが良いってことに?」
俺の言葉にグラントは深く頷く。
「ここのような恵まれた土地の資源であったり、お主のような例外を除けば、特別に気に入られるような相性の良い状態でなければ精霊は多くは答えてくれぬ。そばに置き、信頼を得るようなものじゃの」
ドワーフはそのために、自宅に大量の鉱石を常に保管し、生活を共にするのだという。
アイテムボックスに仕舞い込んでいる鉱石類だと妙に精霊が出てきたことを考えると、
逆に言えば、MDの頃と比べて今の土地はやせているということになるのだろうか?
その後も、丁寧な講義を受けるように、確実に精霊との関係についてグラントは教えてくれた。
自然と、俺も精霊の出てくる量を調整することに成功する。
今までのように、あふれ出てくるでもなく、かといってなんとなくいる、という形でもない。
「何かを作るときに、中に込められた精霊の量とその込め方で色々と変わるのだ。ほれ、野菜でも同じ様に見えるのに美味しいのやら、そうでないのがあるだろう?」
わかったようなわからないような……。
ゲームで言うと、+1や+2みたいな感じだろうか?
「ただ中に入れるのではなく、浸透してもらうようにするといい。その宝石は杖用じゃろ? 近くの森で伐採してきた良い木材がある。精霊の好みを確認しながら作ってみよ」
本来は薪にでもするためにあるのじゃがな、と言うグラント。
随分と贅沢な薪だが、そのぐらいはこの辺りでは当たり前のようだ。
ただ、作ってみよ、といわれても今の俺は武器生成を使えない。
どうしたものかと悩んでいると、グラントは苦笑しながら部屋の隅にあった木材を手に、笑う。
「ファクトよ、硬い硬い鉱石ならともかく、木材程度は削ればよかろう?」
「はっ!? た、確かに……」
もっともな指摘に、俺は恥ずかしさに縮こまりながら、グラントが持ち歩いているらしい工具一式を借り、杖を持つ相手、魔法少女(?)コーラルを思い出しながら長さなどを調整していく。
「石をはめ込んだら杖部分と両方に魔力を通してみよ。後は精霊が助けてくれる」
グラントの助言を耳にしながら、俺は久方ぶりの彫刻という行為に没頭していた。
―森の奥
「やべえな、あいつは」
「山羊もどきがいなかったらどうなってたか……コーラル、大丈夫か?」
「うん。私は大丈夫」
森の中、目的地に程近い場所でジェームズたち3人は身を潜めていた。
依頼どおりの鉱石や草花を採取した後、帰路の途中で強烈なプレッシャーを感じたのだ。
とっさに森に駆け込めたのは偶然といって良い。
さらにはそのプレッシャーの源、山肌を駆ける熊の姿をしたモンスターが逃げ惑っていた山羊もどきを襲い、食事となることで動きが止まったのも幸いし、3人は退避の時間を得たのだ。
「あいつら、この辺りを逃げ回ってたのか?」
「みたいだな。あの1匹は逃げ切れなかったようだが。随分と混乱した様子だったな」
出かけているというドワーフの魔法使い達がこの熊もどきに襲われた可能性をジェームズは考えたが、思いなおす。
仮にもこの土地に生きるドワーフがむざむざとやられることはないだろうと考えたからだ。
(この熊もどきはイレギュラーに違いない)
ジェームズの脳裏には、これまでにこの森で出会った動物達が浮かんでいた。
どこか人間の世界のそれとは違うが、基本的な部分は同じという相手ばかりで、
この熊もどきが当たり前にいるとは思えなかったのだ。
動物としての熊も相応に巨大だが、目に見える相手は動物のそれとはいろいろと異なっていた。
目に見えるほどのオーラというべきか、何かをまとっており、その効果は不明だ。
(強さそのものはなんとかなりそうだが、一発の重さと速さがやべえな)
手に持つ武器の重さに気を取り直し、2人にジェームズは向き直る。
「いいか? このままゆっくりと下がるぞ。下手に交戦する必要は無い」
初心者に近いといえど、2人も冒険者である。
ジェームズの言葉に頷き、静かに下がっていく。
(このまま戻ってあいつが里にやってきてもやばいな。どこかで倒さないとまずいか?)
相手から漂う気配、そして自分達との位置関係を確かめながら、
ジェームズは迎撃のための覚悟を決め始めていた。