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12「カワリモノ、二人-3」

攻撃先の描写や、仕方などはなかなかイメージが伝えにくい感じです。


後1か2話でこの節は終わり予定です。


見下ろし型のゲームと、FPSのようにプレイヤー視点のゲームとで、

一番プレイヤーが気にしなければいけないのは何であろうか?


それは、死角だと俺は考える。


(やっぱり、いたか!)


体を刺す殺気に目の前の相手ではなく、後ろを見た視線の先にはもう1匹。


目の前の1匹に注意をひきつけて、別の存在が奇襲する。


群れで行動する狼らしい流れだ。


「悪いが、ここで終わらせてもらう!」


棒高跳びの選手のように大きく後方へと飛び上がり、右にひねりながら長剣を迷うことなく振り下ろす。


手に伝わる、生々しい肉を切り裂く感覚。


だが、浅い。


『ギャゥッ!』


剣を振りぬいたままで着地し、俺、追加の1匹、最初の1匹、という順番になる。


相手も攻撃のために突撃してきていたので、

俺の攻撃は追加の1匹の背中を切っただけだったようだ。


麻痺効果は今の攻撃では発生しなかったようで、2匹とも攻撃の姿勢をとっている。


ゲームでは有り得ない、獣の息遣い、迫る殺気。

だが、先ほどはこの殺気が俺に奇襲を教えてくれた。


MDではモンスター側の攻撃はターゲットサイトのような円が該当箇所にやってくることで察知できる。


もちろん、相手が強ければそのターゲット速度も速い上に、わかっても防げない攻撃であることだってある。


ブレスのような範囲攻撃の場合、こちら全体が円に収まることもあるので、注意しないといけなかった。


だが、今は円は当然ながら、見えない。


(どちらが来る!? 前っ!)


迷う間に手前の1匹が、力強く跳躍し飛び掛ってくる。


その迫力は言うまでも無く、止まりそうになる足を叱咤し、感じたままに右へと回避する。


前の攻撃とは違い、服をかすりそうな距離でのぎりぎりの回避。


真横を通り過ぎた固体の毛皮がほほをなぜる。


堅い、それでいて柔軟さを感じる質感だった。


間髪いれず、あわせてきたもう1匹!


その口が回避先の俺を丁度口に入れるように開かれ、目の前に迫る。


「どうせならここだっ!」


俺は立ち止まらず、走ったままで剣を横にしてグレイウルフの牙に向けて繰り出す。


鈍いが、何かを砕く音。


グレイウルフの牙が想像より長いことに気がついた俺は、その牙に向けて剣を振るったのだ。


悲鳴を上げて転げまわる1匹。


牙を折っただけでは剣は止まらず、その口を半ばまで切り裂いていた。


(すまんな。楽にしてやる)


ぶらりと垂れ落ちそうな下顎に憐憫を隠せず、

もう1匹が動揺している間にベルトからナイフを取り出し、止めを刺すべく投げる。


丁度首の辺りに刺さり、痙攣をしたまま1匹は横たわる。


「さ、どうしようかね」


今回の目標は遺物の探索である。


余計な時間をとられないことに越したことは無いのだ。


間合いを取って離れた先にいる相手を威嚇するようにと剣を突き出し、願わくば逃げてくれれば、と考える。


だが、願いは通じず攻撃の構えを取ったその1匹が駆け出してくる。


合わせて走り出した俺と衝突するかと思う前に、グレイウルフが視界から消えた。


「しまった!?」


気配を感じるままに右を向けば、横に飛んだ勢いを利用して巨木を蹴り飛ばし、上空から襲い掛かってくるところだった。


俺は回避行動が出来ず、攻撃自体は受けなかったものの、その巨体はたやすく俺を組み伏した。






背中に感じる堅い地面の感触。


胸元に垂れるよだれと、赤い液体。


『ハッハッ』


視線の先には、巨大なグレイウルフの顔と、その後ろに突き出た剣の姿。


その牙は俺の手前で止まり、俺の右手はグレイウルフの喉元に半ばまで埋まっていた。


地面に叩きつけると同時に噛み付こうとした相手に、なんとかカウンターを合わせたのだ。

ゲームではない生身の俺だったら到底不可能な動き。


ここがゲームではないと思ってから、心のどこかで勝手にかけていたブレーキを解除できた気分だ。


―俺はステータス通りに、ある意味では人外な動きが出来る。


強さとしての頭打ちの前に来るのは、俺自身の理解というものだった。


急所は外れているのか、まだなんとか息のあるグレイウルフが体を震わせ、麻痺していることを感じた俺は手を横に動かし、その巨体をずらすことに成功する。


大きな音を立て、地面に倒れるグレイウルフ。


今はLv的には序盤も序盤と思われる相手でもこの体たらくである。


俺自身の身体的能力は無理が効く様だが、俺自身は鍛えなおす必要があるかもしれない。


体は無理を実行できても、意識がそれを実行しなければ追いつかない。


前衛タイプのような、岩砕きやら空中三回転なんかは多分無理だろうが、色々やれるかもしれない。


出来ないと思ったことは出来なくなってしまうのだ。


(ありがとう。そしてさよならだ)


もうすぐ息絶えるであろうグレイウルフに近寄り、自身の手で止めを刺す。


俺をにらむ瞳から光が消えるのを見、警戒を解く。


周囲に攻撃的な気配は無い。


「さて、イリス達を迎えに行かないと」


剣の血をぬぐい、鞘に収めて2匹を放置したまま街道に向かおうとする。


「なんだ、素材は剥がないのか?」


背中にかかる思っても見なかった声に緊張しながら振り向く。


見れば、逃げた男性を引き連れてイリスがやってきていた。


「剥がないのか?って言われてもな。どこが使えるんだ?」


ゲームの相手と同じなら、毛皮と牙だが…さて?


「グレイウルフの毛皮と牙、後爪は高いぜ」


馬上で簡単な治療を終えたのか、男性は赤らんだ顔でそういった。


「なるほどな。じゃあ俺はコイツを剥ぐから、二人はあっちを頼む」


指差した先にもう1匹倒れてることを知った2人が、なぜか動きを止める。


「……1人でグレイウルフを2匹仕留めたのか?」


「ああ。ちょっとミスして、見事に汚れてるけどな」


イリスに答え、涎と血でまみれた服を苦笑しながらつまみ、後で着替えを出そうと心に決めた。


グレイウルフがこの辺りでは遭遇したら終わり、な脅威であることを知ったのは少し先だった。




死骸特有のにおいを我慢しつつ、必要な採取を終えて改めて男性に向き直る。


「俺の名前はファクト。あっちはイリス。この先に用があるんだが、どうする?」


グレイウルフがこれで片がついたとしても、他にも何かいるかもしれない。


(このまま歩いて行け、というのはさすがに……なあ?)


「本当は街まで着いてきてくれるとありがたいんだが、そうもいかないだろう?」


「簡単なことさ。私がファクトの後ろに乗って、私の分の馬で街に向かえばいい」


イリスが何でも無いように言い、自分の分の手綱を男性に渡してしまう。


確かに、速度は下がるが、2人何とか乗れるだろう。


「いいのか? 助かったよ!」


俺とイリスの手を取り、ぶんぶんと振る男性。


「馬は自警団に預けておいてくれ。さ、行こうか」


イリスに促され、俺は馬に乗り、イリスの手を取って後ろに乗せる。


1人の時と比べてゆっくりと、だが確実に馬は歩みを始めた。


見えなくなるまでこちらに手を振る男性に答えながら、街道を再び進むことになった。






(うーん、出来れば日が暮れるまでにもう少し進みたいところだな)


今は休憩中。泉を見つけた俺達は交代で足を洗うなどしていた。


俺は服の汚れを落とし、予備の服に着替えることが出来た。

今はイリスの番であり、俺は少し離れた場所で周囲を警戒しながら馬の様子を見ている。


男性と別れてからの、のんびりとした馬の歩みにわずかな危機感を感じた俺は、

こっそりと馬にある布をマフラーのようにかける。


驚いた様子の馬をなだめていると、その効果を感じたのか馬もおとなしくなる。


本来は自然回復用のアクセサリー、リジェネーションシートとかいう布である。

バンダナのように装備したり、腕にくくりつけたりして使うのだ。


初心者用のクエストで手に入った、微々たる効果のものである。


それでもないよりはマシだし、馬もその効果を馬なりに感じているようだ。


心なしか機嫌もよさそうである。


その結果に満足した俺は、鞍の隙間にそれを差込、常備装備のようにしてしまう。


これで馬も元気に進んでくれるはずだ。


「お待たせした。行こうか」

「ああ、夕日になったらキャンプの準備をしないといけないしな」


どこかさっぱりした様子のイリスを乗せ、再び進む。





―夕暮れ


「良い岩場があったな、これは楽だ」


「焚き火の跡もあるとこからして、冒険者も良く使ってるようだな」


予定通りの夕暮れ。


街道沿いゆえに、点在するキャンプ跡の1つに陣取り、野営の準備をする。


川も傍にあり、背後は大きな岩、囲むように小さな椅子代わりの石、と

それなりの人数がキャンプした跡が残っていたので、それを使わせてもらっている。


イリスも旅に慣れているのか、俺が薪を集め終わる頃にはしっかりと火を起こしていた。


干し肉などをあぶりながら口にし、一時の休息を得る。


「見張りは俺がするから、先に寝てもらってかまわない」


片づけを終え、自分から見張りを申し出る。


夜中にポップするレアモンスターを相手にした頃を脳裏に浮かべながら言うと、イリスは待ってましたとばかりに荷物から、鶏のような置物を取り出す。


「ふふふ、コイツはな、近くにある程度大きい何かが近づいてくると鳴くんだ。便利だぞ。原理はわからんし、動力もわからんがな」


どうやらスイッチはあるらしく、小さなレバーが左右に動くことで切り替えられるようだ。


「弱点は、起動した時に範囲内にいる相手は反応しないから、既に傍にいたら無意味、ってとこだな」


「いいじゃないか。早速使おうぜ」


街中だと、使いにくそうではある。


焚き火の傍に鶏もどきを置き、

黄色い鶏のような何かは焚き火の傍に置き、夜を過ごすことにする。



明日は、順調に行けば現地入りとなるはずだ。


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