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270-「マテリアルドライブ-2」

考えていた通りとはいえ、身も蓋もないというか大味すぎるというか。


てへっって感じになりました。

─マテリアルドライブ


ゲーム自身の名前を冠したそのスキルは、

特定のクエストを突破することでどのキャラクターでも覚えることが出来た特殊な物だ。


駆け出しのプレイヤーも、熟練のプレイヤーも

各自が1回は切ることのできるまさに切り札。


一般的にゲーム上のスキルを使うために必要な魔力などの消費、

アイテム、そのほかの必要条件を全てスルーし、

かつリキャストもゼロにする切り札である。


その時点での魔力を全て消費し、その量に応じた効果時間が過ぎれば

マテリアルドライブ実行中に産み出された諸々は消え去ってしまう。


しかし、繰り出したスキルで砕いた岩は戻らず、

何よりも倒した敵が生き返っては来ないように

結果として行われたことは失われないのだ。


例え、武器を産み出した後に、技を繰り出した後に倒されても

武器は時間内は刺さったままだし、技は消えたりせず効力を発揮する。


「ファストブレイク!」


「ペッカーインパクト!」


「パワースラッシュ!」


全く同じ声。


まるで多重録音再生でもしたかのように

戦場に声が響き渡る。


鍛冶メインとはいえ、ファクトも高レベル者。


何もできないわけではない。


全部コピーされたファクト達は各々の懐から様々なバフアイテムを取り出しては

連続使用し、発動の光をまといながらスキルを繰り出していく。


1つ1つはまさに微々たるもの。


巨像にただのアリが挑むような物だった。


事実、咆哮と共に避けきれずに幾人かのファクトが尻尾に吹き飛ばされ、光となって四散する。


『ふはははは、これでどうする。最後にはお前の時間は尽きる。そうだろう。

 そういう設定の……はずだ!』


鱗と、血肉を周囲にまき散らしながらも勝ち誇った声の黒の王。


事実、ダメージ自体は与えているが回復のペースも早く、

マテリアルドライブの効果時間が終わり、ファクト達が消えてしまえば

それで終わり、かに見えた。


作られたファクトの奥にいる本体のファクトは、それでも表情は高揚したままだった。


黒の王は気が付いていなかった。


致命傷を負ったファクト達が四散したのは決してその被害によるものではない。


もう無理だなと冷静に判断した者たちが自ら役目を終えただけなのだ。


「答える義理は無いと言えばないが、答えよう。全部、俺さ。

 そう、全部な」


言いながら、ファクトはいつか味わった昂揚感に全身を包まれていた。


考え、準備し、それが1つ1つ、効果を発揮していく瞬間。


高揚するテンションに、武器を握る手も力を増す。


明らかに目減りしたアイテムボックス内の素材群。


それらの残量を気にしながらもファクトは、

残っている武具達を投擲するのはやめない。


群がる羽虫のようなうっとおしさを感じながらも

黒の王はそれらをはじいては周囲のファクト達を再びなぎ倒す。


その数もかなり減っており、黒の王の言うようにこのままではじり貧であった。


ファクトの様子を、人間らしい強がりだろうと判断した黒の王。


『だというのにっ』


思わず口に出すほどに背中を走る悪寒。


(人類の……生きる者すべての天敵と設定された自分が寒気?)


そう黒の王が思った時、あれほど必死に

黒の王へと迫っていたファクト達の半分以上が間合いを取った。


そして、アイテムボックスから何かを取り出すように一斉に虚空に手を入れる。


何度も見た光景。


遠距離の攻撃でもするのか、と黒の王は考えたが違った。


取り出されたのは、高そうには見えない布袋。


が、その膨らみと、中身に黒の王、そしてアルフィミの顔が引きつる。


「「「「「廻る精霊の恵み! 巡れ廻れ回れ! 制限開放・生成!(マテリアルドライブ)」」」」」


無数の金属音と共に再び、世界の改編の声が響く。


マテリアルドライブは多くの使用条件、必要な素材などを無効化し、

使用できるスキルや魔法類を実行可能とする力だ。


そして、生み出される結果は最後には消えるかもしれないが、

本来の物に劣ることは無い。


そう、ため込んだ銀貨をまだ所持したままのファクトという本物に劣るわけではないのだ。


既に黒の王からは周囲の壁は見えない。


見えるのはファクト、ファクト、ファクト。


装備が異なり、見た目は違うと言えば違うが

全て、ファクトだった。


大穴に水が吸い込まれるように無数のファクトが黒の王へと迫る。


全身が、爪の先からしっぽの先までが衝撃が襲う。


最初に尻尾が飛ばされた。


アイテムと判定されたか、虚空に消える。


次に翼が飛ばされる。


そして爪先、足、と徐々に被害は増えていく。


『舐めるなぁ!』


黒の王が叫ぶ。


それは強者のはずの自分への怒りか。


あるいは立ちふさがるように設定された自分の設定への自信か。


はたまた、倒れるわけにはいかないというプライドか。


暴風のように黒の王を中心に力が吹き荒れ、

最強のレイドボスの設定に相応しい威力で

周囲のファクトを襲う。


元々、前衛用プレイヤーたちを想定した範囲攻撃だ。


範囲内の多くのファクトが吹き飛ばされ、致死ダメージとなり、ファクトらの意志で光となる。


『フー、ググッ』


再生能力が己の体を癒そうとするのを感じる黒の王だったが、

回復には相応の時間がかかるだろうとも思っていた。


そう簡単に治ってしまってはゲームがクリア不可能になってしまうのだから当然と言えば当然か。


力を行使した結果として、ファクトの数は大きく減らした。


しかも吹き飛んだのは後に呼び出された方だった。


『ふははは。やり方を間違えたな』


叫びながら、黒の王も切り札の1つを切る。


それはユニークスキルの1つ、輪廻蘇生。


体の年齢という代償と引き換えに、自身を一気に回復するスキルである。


設定上、最後のボスである黒の王は多段階の撃破を必要とする設定だった。


つまり、輪廻蘇生を何度も使わせ、尽きさせるのが攻略の流れなのだ。


やや小さくなったような姿ながら、最初とほぼ同じ力を取り戻し、

希望を見出した黒の王。


が、その体に突き刺さる視線。


視線の主であるファクト本人は、最初と変わらない。


(いや……まさかまさか!)


「俺も最初は出来るかどうか微妙だったけどな。そりゃあ、運営もデスペナのある世界で

 確実に死ぬであろうボス相手に攻撃判定による経験でレベリング、なんて想定外だったんだろうさ」


つぶやくファクトの体が光る。


そしてあふれ出るように白い光が立ち上り、

見覚えのある女性のような姿となり、それは消えていく。


黒の王には覚えがあった。


忌まわしき、という言葉はふさわしくないが常に争う相手、女神。


「マテリアルドライブの再使用条件は2つ。1つは2週間の経過。

 もう1つは……レベルアップだ」


ファクトのレベルが高いとは言っても、黒の王のレベルには遠く及ばない。


そのレベル差は、討伐していない状態での攻防、

一撃与えた際のちょっとした経験入手、ということにも当てはまっていた。


とはいえ、ゲームでは仮に1000の経験を入手しても

ボスに倒され、10000失いました、となるので意味のない行為だ。


しかし、生み出されたファクト達はファクトである。


無数のファクトたちの一撃はわずかな経験となってファクト本体に還元され、

やられるときには作られた道具として果てる。


即ち……。


「次だ。卑怯とは言わせないぜ? そのぐらいないとな、勝てないんだからさ」


三度、ファクト達は増えた。






『見事、というべきか悩むが、敗北は敗北だ。滅ぼすがいい」


幼体となって子犬ほどになってしまった黒の王。


設定以上の回数の輪廻蘇生を使用したが故の姿であった。


あれから幾度もファクト達を吹き飛ばすも、

その度に増えるファクト達に徐々に押されていったのだった。


倒れ伏し、弱弱しい視線をファクトに向けている。


既にファクトの、決して強いとは言えない攻撃ですら

十分致命傷となりそうな強さとなってしまっていたのだった。


「何言ってるんだ。俺は殺す気はないぞ?」


『なんだと?』


ファクトは黒の王に答えず、どこからか椅子を取り出して座ると

呼吸を整えるようにしている上空のアルフィミィに目をやり、

そして黒の王に戻す。


「聞いてる限りだと、ずっと休んでないんだろ?

 そりゃあ、誰でも何年も休息なしじゃ疲れるだろう」


ファクトの言っているのは、女神と黒の王のそれぞれの立場と現状だった。


上空、恐らくは大気圏外でほとんど眠っている女神と比べ、

多少強弱はありながらも地上とその地下でほとんど活動し続けていた黒の王。


「女神は恵みと導きを。黒の王は試練と刺激を。

 どっちも大事ってことじゃないのかねえ」


『そのためにわざわざ……馬鹿な男だ』


人間の身で、あれだけの無茶をしたのだ、どんな副作用が出ることか、と

ファクトの身を案じる言葉を口にしながら、黒の王は目を閉じる。


その日、力の強いいくつかの種族はそれを感じた。


いつもどこかで動いていた黒い気配が、小さくなっていくことを。


黒の王は、何年かぶりの眠りについたのだった。

例えるならボス1人にプレイヤーが1万人つっこんでいくような謎すぎるシーン。

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○他にも同時に連載中です。よかったらどうぞ
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