表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
286/292

269-「マテリアルドライブ-1」

魔王に挑むは勇者とその仲間たち。

でも、相手が魔王で無いのであれば?


そんな気分でプロット通りに書くことが出来ました。

─ピキッ


何かが割れる音が誰もいない空間に響く。


─ピキピキッ


それまでは真っ暗で、何もなかった空間に再び音だけが響いた。


その後にも続けての音。


それはわずかな光を連れてきた。


いつしかその音はヒビを産み出した。


鳥の雛が卵を砕くような僅かなヒビ。


だが、何も、誰もいなかった場所にとっては確実な変化だった。


そのヒビがかなりの範囲に広がった時、

何もなかったはずの空間が地面と、空と、壁を備えた場所へと変化した。


わずかに漏れてきた光が照らしたのだろうか?


いや、そうではなかった。


何でもなかった場所が、そのように作られたのだ。


パリンと、薄く、それでいて硬そうな何かが砕かれるような音と共に

2つの影がその空間に飛び込んできた。








『グヌウウウウ!』


「ふんっ」


硬い、コンクリートでもなく、土でもない質感の地面に

巨体である竜が転がり、それをわずかに浮いたままの戦女神、アルフィミィが見下ろす。


不機嫌なのは、自身と同レベルの存在である黒の王である竜が、

まともに受身も取れずに転がったことにでは無かった。


本体ではなく、依代を介してとはいえ、一時的に呼び出された自分自身への不自由さであった。


「まあ、1000年ぶりかという召喚なのだ。気にすまい」


そういって、ふわりと天井に舞い上がるアルフィミィのいた場所には

1人の人間、ファクトが立っていた。


「ようやく……か」


ちらりと、上空のアルフィミィに視線を向けながらもすぐに目の前の相手に視線を戻す。


自身と、恐らく今となっては再入手の手段はないであろうレアアイテムを

戦女神召喚の依代とし、無茶を通してきた自覚があるだけにこの状況への感動はひとしおであった。


『愚かな。あの場の全員でかかれば可能性があったものを』


姿勢を整え、そうファクトへと言葉を継げる黒の王。


怒りにか赤く染まる瞳で睨み、

口元からはブレスでもないのに赤黒い炎が漏れる。


一対の巨大な翼、1本1本が長剣ほどにはある長さの鋭い爪先。


先ほどは戦女神に吹き飛ばされたとは信じがたい強靭そうな体躯。


誰がどう見ても最強最悪の竜。


それが今の黒の王の姿であった。


奇しくも、ゲームでのMDでの最終章におけるレイドボスと同じ姿であることには

VR化した後のMDの最後を知らないファクトは気が付かない。


「そうでもないさ。適材適所ってやつだな。呼ばれた俺が呼んだお前を止める。

 当然だろう? あのままじゃそうはいかなかった」


審判のように傍観者となるアルフィミィの気配を感じながら、

ファクトは黒の王と対峙する。


こうしているだけでも明らかなレベル差によるプレッシャーは

じわりと、ファクトに汗をかかせる。


『いつからだ?』


口にしながらも、黒の王はその答えを知っていた。


管理者不在のこの世界で、自身の目的を失いかけ、

救いを求めたのはほかならぬ、自分と空にいる女神なのだから。


「ユーミと……古の意志たちと接した頃からだろうな。自分がこの世界にどう生まれたのか。

 何が出来て何ができないのか。少し違うか……。何を求められているのか、かな」


この場に目撃者はほとんどいない。


元より最近は自重をしなくなってきたファクトであるが、

ここにきてアイテムボックスからはいくつかの武具が取り出され、

ゲーム時代のように瞬きの間に装備が入れ替わる。


ゲームでは必要ステータスに加え、様々な制約が当然のことながら武具に設定されている。


しかし、現実となったこの世界ではそのいくつかは制約の意味をなさない。


ナイフ1本、幼女ですら持とうと思えば持てる、そんな当然の世界なのだ。


「女神は人に祝福と試練を与え、黒の王は試練と、停滞しないという祝福を与える。

 ゲームらしいバランスってことだ。さあ、始めようか」


駆け出すファクトの手にはやや小ぶりな剣が2本。


世界が蓄えたレシピと、ファクトの身につけた秘術たちの合わせ技により

世に産み出された名も無き双剣、そして防具たち。


専用装備と化したそれらが決して高くないファクトの戦闘力を底上げし、

対黒の王としての術を与えていく。


『来るか……グヌッ』


呻いた黒の王、その腹のあたりに人の顔らしきものが湧き出たかと思うと、

煙の中から飛び出すようにその黒い何かがにじみ出し、人の形を取った。


その表情は怒りに染まっているようだったが、

全身が黒すぎて詳細はファクトにはわからない。


その身に帯びた殺気以外は。


「どうして、プレイヤーとして自分や、幾人かが呼ばれたのかはわからない。

 それでも、感謝してるのさ」


殺意を全身にみなぎらせた黒い人影の攻撃は無言のままだった。


この世界に降り立ったころのファクトならばあっさりと殺されそうな

鋭く、力のこもった攻撃。


それを、ゲーム時代に目に焼き付けた最前線の前衛プレイヤーや

この世界での強者の動きを思い浮かべながら拙くも模倣し、受け流していくファクト。


切り合う相手が、どんな人生を送ってきたのか、

どんな感情で生きてきたのか。


場所特有の効果のせいか、あるいは相手がそれを周囲に発してしまっているのか。


切り合う度、相手の心の叫びらしきものがファクトに届く。


長年の間、黒の王の影響下にあることに疑問を抱かず、

ただひたすらに、クエストのために犠牲となってきた

自分達の存在意義を恨み、ぶつける相手を求めて暴走しかかっている感情。


それは哀れですらあった。


「辛いだろうが、それで殺されるわけには行かない」


ひときわ大きな、ファクトにとっていつか戦った覚えのある姿の人影。


その影が振るう斧らしき黒い物体を剣で大きくはじき、間合いを取り、叫ぶ。


「武器生成A……フレイムタンっ!」


手品師のようにアイテムボックスから材料となる魔石などを指先に取りだし、

滑らかなスキル発動と共に炎剣が複数産み出され、

斬るためではなく火属性の使い捨て道具として投擲される。


各種アイテムにより増強されたファクトのSTRにより、

放たれた矢のように剣は突き進み、人影にぶつかると爆炎を産み出す。


そう広いでもない、狭いとも言えないコロシアムのような空間を

炎が灯りとしててらし、互いの姿を影による濃淡が彩ろう。


もしも、消費した素材や武具の価値がカウンターとして表示されたとしたら、

ゲーム時代のプレイヤー、あるいは知り合い等は顔を青くすることだろう。


『オオオオ』


嘆きのような、悲しみのような黒の王の声。


その声に答えるかのように、黒の王から黒い人影は無数に出てくる。


それらの正体は黒の王の力に惹かれ、飲まれてしまった男達だ。


最近の者から、既に何世紀も前らしい姿もある。


生前の事をどこかで覚えているのか、

動きは熟練者のそれであり、至近距離であるのに

ファクトからは消えたように見えるような動きをすることも度々だ。


「速いが……やれないほどじゃない!」


どこの成金か、と言われそうなほどにあちこちに身につけた装飾品が

常時ファクトのステータスを向上させているがゆえにの状況。


周囲を黒い人影に囲まれつつありながらもファクトは焦りを表に出さずに

手札を切っていく。


「武器生成A……アイシクル・ランサー!」


また一振り、伝承に伝わる武器が産まれ、力を放つ。


空気中の水分を凍らせる勢いで冷気が吹き荒れ、

幾人かの影を凍り付かせ、そのまま砕け散る。


1人、1人と影は力尽きていく。


時にはファクトにたどり着き、浅くない傷を負わせるも

一人用にため込まれたポーションでそれも回復させられることになる。


そしていつしか、周囲には伝説の武器だった物の残骸と、

人のように見える何かの塊、

向かい合う竜とファクトだけが残った。


唯一の例外は、既に上空で傍観者と化したアルフィミィだろうか。


何もしていないような彼女だが、

彼女が終わりと判断したらこの空間は閉じてしまう。


執行者ではない、独特の立場が彼女だ。




光源も不明な、人工的な空間に剣劇の音が響く。


そして、無音。


「弾切れ、か。随分ときれいになったじゃないか」


『礼を言わねばならん』


いつしか、獣じみた声から滑らかな人の声になった黒の王から

ファクトの思っていない言葉が飛び出す。


見れば、その体も荒々しさよりも規則性を感じる

鋭角なものとなっていた。


鱗で作られた鎧を着こんだかのようなセンスさえ感じる姿の竜がそこにはいた。


『問おう。選ばれた勇者という訳でもなく、もてはやされる英雄でもなく、

 恵まれた強者でもないのに、なぜだ?』


肝心の問いが抜けた問いかけ。


「確かに、俺は英雄でも勇者でもないさ。でもだからこそ、さ」


既にポーションで回復しきれないほどに、

ファクトの体そのものは疲労している。


重い足を叱るように駆け出し、

無謀にも至近距離での戦闘を仕掛けるファクト。


かつて自分の腹を貫いたレッドドラゴンの一撃よりも早く、

当たればひどいことになりそうな爪の一撃をぎりぎりで回避し、

横から伸びきった爪先へと両手の剣を

ほぼ同時に打ち込む。


断ち切るには至らず、かけさせただけに終わったことに舌打ちしつつも離脱するファクト。


だが、実験結果は良好だった。


虚空のメニューでは、とあるゲージがわずかにだが確実に動いているのだ。


覚悟を決め、剣を腰のベルトに戻し、右手と左手へとそれぞれに

別々の素材を取り出し、構える。


「武器生成多重A……カリバーン、デュランダル!」


剣って元ネタある物が多いな、と

とりとめも無く考えながら、2本の剣を産まれるや否や

手加減なしで投擲し、その威力を解放する。


『光と闇の属性武器を同時に作る。スキル上限でも不可能な設定のはず……』


鱗をまとめて吹き飛ばし、その肉が見えている状況でも

黒の王は落ち着いた声を出す。


それもそのはずで、瞬きの間にじゅくじゅくと音を立てるように

怪我がふさがっていくのだ。


「やっぱりか……一発……がいるのか」


今、この世界で誰もが到達できない領域。


既にファクトには、精霊たちが生み出す力の流れが

そうと意識しなくても見えていた。


素材を使う度、それからあふれ出る

ある意味古い時代の精霊達。


その手で生み出されるのは英雄が振るうにふさわしい武具の数々。


しかし、それでも黒の王に致命傷とはいかない。


では最初に相手が言ったように無数の兵士に持たせ、挑ませるべきだったかと言えば

そううまくも行かない。


あくまでも武器は一定ラインを超えていないと

威力を発揮しないだけであり、そもそもの資格の問題なのだ。


─ボスはプレイヤーでないと倒せない


これはゲーム時代、NPCの強弱はともあれ、

ボスがNPCに倒されては困る、という設定が

今もなお、世界に生きているのだ。


故に、可能性があるのはプレイヤー、あるいはその血縁となるのかもしれないが、

血縁者を探して編成するのは時間があまりにもなさ過ぎた。


『良いのか? このまま負ければ何もかも無駄なのだろう?』


「お心遣いありがとう。でもな、勝ち誇るには……早い!」


黒の王の言葉に、ファクトは答えながらアイテムボックスに手を突っ込む。


次は何が飛び出すか。


やや身構えた黒の王の先で取り出されたのは、巨大な布袋。


困惑のまま、黒の王の視線の先で無数の金属音がこだまする。


「出し惜しみは無しだ! ため込んだ俺の全財産の強さを見るがいい!」


音の正体は純銀貨。


世界に衝撃を与えた銀貨の数よりもはるかに多い枚数。


数えるのも馬鹿らしいほどの純銀貨が地面を埋め尽くし、そして精霊へと戻った。


それにあせったのは上空にいるアルフィミィである。


要は限られた容器の中で急に炭酸が圧力を増すような物だ。


濃密なという言葉も馬鹿らしいほどの精霊に自身の世界が壊されないように必死である。


その視線の先で、2つの存在の戦いが再び始まろうとしていた。


『精霊があふれたからと言って!』


咆哮する黒の王。


どこか楽しげな声色になっていることには誰も気が付かない。


そして、黒の王の言うように精霊がその場に増えたからといって

ファクトに戦う手段が増えたわけではない。


魔法の威力は上がり、スキルも効果を高めるがそれだけだ。


「確かにな……でもさ、俺は神の器は作れないがそれなりにやれる。

 神様みたいなのが呼び出せたんだ。人間1人、呼ぶのは楽勝だとは思わないか?」


繰り出される爪やブレスを、威力が極大化した

己のスキル、魔法で相殺していきながら

ファクトはそう、苦笑するように問いかけた。


ぴたっと、黒の王の動きが止まる。


『馬鹿な。そんなことをしたらお前がお前で無くなるだろう。それがわからない人間では、あるまい!』


「さっき、そっちが言ったんだろ。ここで負けたら……ってさ」


増えた威力に任せ、ノックバック効果のある

遠距離攻撃を連射し続けるファクト。


その間、ファクトの脳裏にはレシピがいくつも展開する。


作るべきは知性ある武具、インテリジェンスアイテム。


しかも、独立した動きが可能なタイプだ。


モデルとして模倣すべきは……。


「確かに俺の強さじゃ体力1万に対して、1しか与えられないようなもんさ。

 でも、ゼロじゃない。だったら増やせばいい」


『そこまでして……』


呆然とした様子の黒の王。


その声を聞きながら、ファクトは歌い上げる。


「廻る精霊の恵み! 巡れ廻れ回れ! 制限開放・生成!(マテリアルドライブ)


瞬間、世界の法則がある種、乱れた。


スキル種類を指定せず、純粋に生成スキルそのものをファクトは対象とした。




『愚かな、いや……それでこそ人、か』


つぶやく黒の王を、無数の人間が取り囲んでいた。


全て同じ力の、同じ姿。


「「「「「さあ、最後までおつきあい願おうか!」」」」」


武器だけはそれぞれに違うファクト達が、ほぼ同時に黒の王へと襲い掛かった。


全部俺!ってやつですね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ご覧いただきありがとうございます。その1アクセス、あるいは評価やブックマーク1つ1つが糧になります。
○他にも同時に連載中です。よかったらどうぞ
続編:マテリアルドライブ2~僕の切り札はご先祖様~:http://ncode.syosetu.com/n3658cy/
完結済み:兄馬鹿勇者は妹魔王と静かに暮らしたい~シスコンは治す薬がありません~:http://ncode.syosetu.com/n8526dn/
ムーンリヴァイヴ~元英雄は過去と未来を取り戻す~:http://ncode.syosetu.com/n8787ea/
宝石娘(幼)達と行く異世界チートライフ!~聖剣を少女に挿し込むのが最終手段です~:http://ncode.syosetu.com/n1254dp/
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ