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267-「竜狩人フェンネル」

何話かエピローグ的に話を重ね、

決着と数話を上げて終わりとなります。



ジェレミア王国第二王子フェンネル。


兄弟の中でも別格の体格を持ち、

それを裏切らない武技を誇る武人であった。


口さがの無い噂ではオーガとの混血孤児なのではないか、

といったものまであった。


しかし、近くで彼と過ごし、あるいは仕えることが出来た人間にとっては

噂は噂、と言い切るだけの人柄であったと残されている。


普段は野鳥1匹にも気を使い、行軍の際には

森を荒らさぬよう、街道での移動と、

現地での狩りでは徹底したルールで行わせた。


討伐となれば、逃げようとする怪物を徹底して追い詰めるが、

襲ってこない動物の類には手は出さないような性格であった。


その名前が国外にも響いたのは、間違いなく竜討伐のためだろう。





「王子、ルミナスに動きが」


「そうか……。弟に、フィルへと伝令。異形共を抑えよと。

 陣を組みなおす! 竜狩りの時間だ!」


両方が見える位置で指揮をとっていたフェンネルは

部下の報告に考え込んだかと思うとすぐさま新たな指示を飛ばし、

自分自身は手にした剣から腰に下げたままの別の剣、

ファクトに借りたままのスカーレットホーンに持ち替える。


元々の才覚か、新たに手に入れたのか。


目を閉じれば力の気配をフェンネルは感じ取っていた。


強さ、距離、その気配の意識の先もだ。


確かに一度は後退しかかったルミナスの陣営から大きな力を感じ、

それらが流れとなって向かってきていることが感じ取れた。


「行くのか」


「ああ……2頭いた竜は1頭が消えた。あの光がなんとかしてくれた……と思うほかない。

 そして、残った1頭は、なんとかなる。いや、なんとかせねばなるまい」


一族を率いて戦場を駆けていたロスターが横に立つと確かめるように問いかける。


土と血など、駆け抜けたゆえに体中を汚しながらも

ロスターらケンタウロスはまるでその通りに彫刻家が

作り出したかのように絵になっていた。


フェンネルの返事を聞き、火照った体から汗を上記のように立ち上らせながらも

ロスターは強い力を込めてフェンネルを見、口を開く。


「正直、我々にとっては草原の平穏と白の王をお迎えすることが大事だ。

 穴を開けた分、後で手伝ってもらうとして、だ」


魔法で無数の穴、溝を開けたことを冗談のように避難しつつ、

その手にした槍の切っ先を上に、石突を地面へと突き立てる。


「王の墓標が近いこの場所は我々が引き受けよう。後ろヘは抜かせぬよ。

 お主は遠慮なく奴らの王首を取ってくるといい」


歩兵と騎兵ほどの体格差ではあったが、

こぶしを突き合わせ、両者は微笑みあった。


すぐに表情を引き締めるフェンネル。


その姿は兵士であり、強者であり、王族であった。


「誇りでは敵は倒れぬ。しかし、だ」


準備が整い、集まってきた兵士達の先頭に立ち、敵を見据える。


「この剣に我のすべてを込めよう。勝利の栄光を皆に!」


王子に従い、ルミナスの陣へと進む人数はジェレミア側全体でいえばそう多くは無い。


しかし、そのほとんどの手には何かしらの特別な武器があるのだった。





既に始まっている両軍の衝突の間を、山の谷間を濁流が流れるように突き進む集団があった。


言うまでも無く、フェンネルを先頭にした精鋭部隊だ。


それに気が付いたルミナスの兵士も棒立ちというわけではなく、

妨害に動き出すが追随する他の兵士達がそれを許さない。


実際には妨害しようと動き出したせいで

正面でぶつかっている相手にとっては無防備に横を見せるような物なので

自然な流れと言えるのかもしれなかった。


向かう先はただ1つ、ルミナスの陣の奥で

重い体をどうにか動かそうとしている黄金の龍。


目に見える状況だけでも、万全ではないであろうことは明白であった。


「天帝様のた、ぐはっ」


明らかに目立つ装備で先頭を行くフェンネルは

ルミナスの兵士からすればまさに的。


しかも大将首本人が最前線なのだ。


光に群がる虫のように、進むフェンネルらの前に兵士は現れる。


じっくりと観察したならば、その体が

ほのかに魔法のような力で光っており、

何かの影響を受けていることがわかるだろうが

実際の戦いの場ではわからない。


フェンネルや兵士が武器を振るう度にルミナス兵は倒れ、

その度に何かが飛び散っていく。


ルミナスの陣の奥で、力を振り絞り技を行使していた軍知の1人が

最終的には膝をついたことを知る者はその場にはいない。


「ぬっ!?」


走るまま、フェンネルは腰に下げたベルトからポーションの1つを手にし、飲み干す。


ファクトから提供された虎の子の増強ポーションである。


専門外の作成であることと、急増であるがゆえに

素材の割に量が出来なかった、とは言われているが今使う分には十分だ。


魔法使いではないフェンネルにもわかるほど、

自分の体に精霊とその力が満ちてくるのがわかる。


(なるほど、教会の者が聖水を飲ませるわけだ)


マテリアル教の教会では儀式を経た水を聖水として

一部では提供を始めたという話に、信ぴょう性を感じ取るフェンネル。


力の大小は別として、飲めば効果がある、というのはとんでもない話だ。


「スカーレットぉおお……ホーンっ!」


感じ取ったまま、フェンネルが剣であるスカーレットホーンを振るのと、

ルミナスから青い光が伸びてくるのとは同じだった。


開戦時のようにぶつかる光と光。


今回は引き分けと行かず、フェンネルがやや押しきった。


光の周囲に吹き荒れる力の暴風。


ゲームでも市販されていないレベルのバフ用ポーションにより

フェンネルの筋力は一時的に大幅に増強され、

スキルの威力が大きく上昇したためであった。


ある程度吹き散らされたとはいえ、

それでも当たれば人間にとっては致命傷となるスキルの余波。


奇跡に切り裂かれた海のように広がる正面の道。


戸惑うルミナス兵、同じく己の主が起こした結果に驚くジェレミア兵。


「進めぇぇええ!」


そんな中を、張本人の叫びを合図に走り出す。


その時、既に応龍との距離は短距離走よりはやや長い、と言ったレベルに至っていた。


その大きさ、鋭そうな爪や牙、

鱗で覆われた体などが良く見える。


その瞳が憎々しげにフェンネルらを見ているかと思いきや、

どこか達観した物であった。


子供を親がしかりつけるかのように、上から振り降ろされる龍の腕。


避けるでもなくその落下地点に立ちはだかるフェンネル。


そして、轟音。


もっとも、地面に龍の腕が叩きつけられたにしては小さな音だった。


「王子、さすがに勘弁してくださいよ」


「なあに、お前たちなら一緒に来るであろう?」


大人4人でようやく囲めそうなほどの腕の下、

フェンネルは数名の兵士と共に生きていた。


幾本もの武器が掲げられ、龍の腕を止めていた。


そう、いつのかにか上空で激戦を続けていた応龍はその姿を小さくしていたのだった。


主の危機に周囲から集まるルミナス兵達であったが、

やはり追いついてきたジェレミア兵がその刃でもって食い止めることとなる。


「さあ、邪魔者はいない。お相手願おうか、東の王よ」


『グルウ……ルミナスは我であり、我はルミナスである。そうはいっても詮無いことか』


人間の言葉が返ってきたことに内心、軽くない驚きを覚えるものの、

フェンネルは獰猛な笑みを浮かべ、龍と打ち合い始めた。


それは象に犬猫が襲い掛かるような物。


それでもフェンネルと兵士は自分たちが勝つことをあきらめず、

信じて疑わなかった。


そうでなくては勝てるものも勝てない、という考えでもあった。


対するルミナスの王である天帝、応龍もまたそれに答える。


しかし、その姿は狩られる側ではなかった。


かといって獲物を狩る猛獣でもなかった。


あるがまま、今この瞬間を生きている、そんな姿。


戦いは穴の開く地面、飛び散る鱗、

吹き飛ばされる兵士で構成されていく。


だが、兵士達の持つ武器は確実に応龍に通じていた。


当たれば斬れ、突けば刺さる。


ルミナスでは伝承の存在、不可侵とも言われる応龍が傷つき、

その咆哮が戦場に響く。


「さらばだ!」


自爆覚悟で放たれる近距離でのブレスを、

こちらも武器たちの範囲攻撃で相殺しきり、

息切れした姿を目の前に捕らえたフェンネルたち。


全身に兵士達の振るう武器が突き刺さり、

その喉元へはスカーレットホーンが突き出され、

逆鱗ごと貫き通された結果、応龍は沈黙する。


戦場に勝どきの声が響き渡り、第二次精霊戦争期の中でも

大規模とされる戦いの1つが終わりを告げる。








戦後、フェンネルは自らが王を継ぐことは無いことを宣言し、

ずっと王国の剣であることに専念した。


国内に存在する、人間を襲う竜種を

生涯において10頭以上討伐しつつも彼は満足することが無かった。


竜狩りフェンネルと称され、国内外の大物の怪物討伐にはよく顔を出していたという。


「自分の力だけで竜狩りを行えなければあの日を超えたとは言えぬ……」


引退間際まで、そう度々口にして己を鼓舞していたのだった。

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