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266-「舞い降りる光、昇る光-6」

男は足元に体重をかけ、その1歩を踏みしめる。


「らぁっ!」


そしてそのまま、どこからか湧き上がる力に逆らわず、

装飾の少ない両手剣を思うがままに振り抜いた。


その結果は、思ったよりも重い衝撃と、

愉快な踊りでも踊っているかのように

武器を持ったままの手を後方にはじかれたルミナスの1兵士。


驚愕をその顔に張り付けたままの相手の顔をまともに見ず、

男は体をひねるようにして剣を逆方向へと再び振り抜いた。


わずかな手ごたえと、確実に何かを断ったと実感できる感覚。


明るいときであれば吐き気がやってくるだろう光景だが

薄暗い世界ゆえに、どこか現実味も無く世界にまた1つ、死が出来上がる。


首のない状態で足元に転がり、命尽きたルミナスの兵士。


それを成したジェレミアの兵はそれ以上見ることもせずに

己の手の中にある、フェンネル王子から自ら手渡された剣に視線を一度やり、

再び戦場へと身を躍らせる。


本来であれば味方と離れ、個別に行動するのは愚かなことである。


乱戦だとしても、1人より2人、2人より3人と集まっていることで

死角を減らし、不意を打たれることの無いようにすべきだからだ。


しかし、今は近くに味方はいるものの、

この兵士が1人で相手をするには本来であれば無謀でしかない配置だった。


「ぐっ……うっ」


右手に持った剣、その握った個所から伝わる力に

兵士は思わず呻き、ともすれば遠くなりそうな意識を繋ぎ止める。


兵士の手にした剣は見た目に反してやや特殊であった。


回避と命中にそれぞれ20パーセントの上昇補正というもの。


もっとも、それを提供した本人としては

この程度の性能しか用意できず、という感覚ではあるのだが……。


握るたび、斬るたびに剣が己の魔力を吸い出していくのを兵士は感じていた。


しかし、止まるわけにもいかない。


未だにジェレミア側よりもルミナスの兵士の数、

そして不気味な第三陣営の数のほうが多いのだから。


結果として、どこからか供給された強力な武具を頼りに、

各個撃破のような形で戦うこととなるのだ。


呻く兵士の声を好機ととらえたのか、

西側の物とは作りの違う槍を素早く突き出してくるルミナス兵。


だが、全身を何かの光でほのかに光らせているジェレミアの兵士は

ぎりぎりながらもそれを回避し、逆に突き出された槍の柄を切り落とす。


回避補正という効力はまるで予知のように

使用者にわずかながら未来予想を垣間見せ、

命中補正は攻撃を繰り出す際のなんとなくの軌道修正に現れる。


結果として、1つ1つの動作が結びついて

達人的な動きを使用者に与えるのだった。


槍だった物を手放すべきか数瞬、悩んだ様子のルミナス兵へと、

ジェレミア兵は腰に下げたスローイング用のダガーでもって答えた。


吸い込まれるように突き刺さるダガーの結果を見、

ジェレミア兵は次の相手へと向き直る。


国を背負う兵士としては、やや卑怯な手段の気もしないでもなかったが、

ジェレミアに置いてその感情は捨てるものではないが、

表に出すものではないと教わる。


「プライドで、敵は倒れてはくれぬ!」


既に汗なのか返り血なのかわからない全身のぬめりに不快そうに顔をゆがめつつ、

ジェレミア兵は叫ぶ。


戦場は徐々に、押し込まれるルミナス軍、という形を成していっていた。




一方、人であった者で構成されているであろう陣営もまた、

無言のまま刃を交わしていた。


斬られ、突かれ、首を落とされ、腹を切り裂かれても止まらない異形。


どこか歪な、ルミナス兵であろうと思われる

特徴のある武具を身につけた人影たちだが

その顔には表情は無く、むしろ人であろうと思われる何かしかない。


瞳の代わりに光る赤い何か。


もしも、明るい中でその姿をしっかりと観察できたのならば気が付いたであろう。


その手や足、身につけた武具が時折、靄のように黒い何かに溶け、

再び形作っていることに。


しかし、太陽が隠されたままの世界ではそれがわかる人間は皆無であった。


それでも迫る脅威を前に、

ジェレミアの兵士と冒険者達は各々、迎撃を続けていた。


幸いにも、知性ある連携のような物はほとんどなく、

いくつかの集団が全く同じセリフを叫びながら

同じような動きで迫ってくるだけ。


即席とはいえ、陣を組み、供給された武器を手にしたジェレミア側の迎撃は順調であった。


「ははは、燃えろぉ!」


思わず声を上げる冒険者。


手にした両手斧は魔力を糧にして生み出された炎の力に赤くぼんやりと光っている。


元々の両手斧としての威力に加え、炎の力はぶつかった武器や防具ごと、

それを溶かすようにして切り裂いていく。


思わず力に飲み込まれそうになる冒険者の男だったが、

事前に聞かされていた武器に関する注意と、

目の前の光景に顔をしかめる。


その原因は、切り札として供給された様々な武器たちはおおよそ半日は効力を発揮するが、

それ以降はただの良質な武器に戻るだろうということが1つ。


そして、何よりも倒し続けているはずの敵の後方に

どこに隠れていたのか新手が現れるのを目にしてしまった事だった。


「ちくしょうが!」


悪態をつきながらも、両手斧を振り回し10人近い異形を吹き飛ばす冒険者。


わずかに空いた隙間に再び敵がやってくるまでの間に、

思わず上空に目をやる冒険者。


なんとなくのカンではあったが、

空で暴れる竜の1頭がこの原因の気がしてならなかったからだ。


人間と、人間らしい者たちが入り乱れる中、

上空ではなおも竜と龍がぶつかり合っていた。






場面場面で見たならば、比較的優位になり始めたジェレミア側であったが、

楽観できる状況ではないことも確かだった。


「俺も戦争自体に口を出せることは無いんだよな……正直」


呼び出したままのジャルダンにキャニーとミリーの3人で

掴まっては飛び立ち、その力を振るっていたファクト。


作戦といったものには手が出せない以上、遊撃を繰り返すことで

各方面の負担を減らし、相手を引っ掻き回すことに重点を置いた行動をとっていた。


まだまだ戦意の衰えないルミナス、そして異形の集団。


終わりの見えない状況に、次は何をどうしようか、と

後方に戻りながらつぶやく。


事実、ファクトの供給する武具により質では上回り始めたジェレミア側だが

長く戦うほど、戦いの行方は混沌としていく。


ケンタウロス達も多くの場所でその力を発揮しているが、

引くことのできない敵、というのは厄介だということを実感し始めているところだった。


定石でいえば、引けない理由そのものを除去することになるのだが

ファクトには果たして、ルミナスの頭である天帝さえいなくなればいいのか、

判断が付かないところであった。


現に、天帝と思われる存在は龍となって黒の王と争い続けているのだから

指揮をとる者、諸々の判断をする人材が他にいることは明白であった。


ルミナスにおける軍知というものを知らないジェレミア側にとっては

完全に撃退する以外にゴールが見えない状況と言えた。


が、事態は思わぬところから動き出す。


「っ!? 爆発!?」


急激な風さえ伴って、戦場を爆音が駆け抜ける。


誰もが、正確には生きている者の多くが

その方向を向き、驚く。


互角に争っているように見えた竜と龍。


だが多くの視線の先で、龍、つまりは天帝と思われる側が大きく吹き飛ばされていたのだ。


上空に残る竜、いつの間にかその体の輪郭がやや怪しくなっていた側の

口元には黒い球。


それは天帝の変化した姿である応龍が手にしていたはずの物であり、

地上から見上げる兵士達の目から見ても特別そうな何かの塊であった。


その塊を何かに捧げるように、空へと顔を上げた竜は、

躊躇なくそれを……飲み込んだ。


後に、その時のことを日記や報告書に残した面々はおおよそ、同じようなことを記している。


─その瞬間、どこからかあの竜を倒さねば自分たちが滅ぶだろうと言われた気がした、と。


先ほどのような爆風とは違う、物理的な力のない衝撃が戦場を走る。


多くの者がその不可思議な力に驚き、謎の胸騒ぎに気をとられる中、

2つの存在はそれ以外の行動をとっていた。


1つは龍。


吹き飛ばされた側の立場のはずの龍の姿はいつの間にか黒さが消えていた。


恐らくはこれが本来の姿なのだろう、と思わせる黄金の龍。


その瞳に明確な意思を宿しながらルミナスの本陣の上空へと動き、

ゆらゆらと揺れながら軟着陸を果たした。


そしてもう1つ。


ファクトは全身の毛が逆立つような感覚に逆らわず、

虚空のアイテムボックスからかねてより考えていた手段を取るべく

いくつもの素材らしきもの、何に使うかもわからないような布きれなどを取り出し始める。


「ファクト?」


「あれは、止めないといけない」


天使の分身たる戦女神と戦ったファクトだからこそわかる。


あれは、完全になった黒の王だと。


天使や女神が主に人間や他の生きる者をフォローするように設定されているように、

クリエイターとライターにより設定された、世界に生きる者、

特に人間に対して憎悪とは違う感情を向ける者。


見方を変えれば、その生き方をするように決められた哀れな存在ともいえる。


だからこそ、妥協は無い。


超常的な存在故、例え地上に降りていても普通に傷をつけるといった事は不可能であった。


いくつかの例外事項を除けば無敵の存在。


「ちょっと天使様に力を借りてきたんだ。アレを止めるためにさ」


喋りながら、なおもファクトは周囲に様々な材料を取り出していく。


まるで草むしりをしてくるといわんばかりの口調。


「一緒にじゃ……駄目なの?」


戸惑うキャニー。


ファクトに近寄ろうとし、立ち止まる。


本当は抱き付き、あるいは一緒についていきたい。


しかし体の内から沸き起こる何かの訴え、

わずかでも魂を共鳴させたが故の気づきがあれを放っておくわけには行かないことを

理屈を超えて納得させていた。


ミリーはそんな姉の手を取り、そしてファクトに向き直り、頷いた。


本当は姉と同じように引き留めたい気持ちもあるが、

何かがそれを止めたのだ。


瞬間、周囲で湧き立つ声。


見れば後詰めとして残されていたジェレミアの兵士と冒険者らが

声を上げながら、異形の集団の方向へと走っていく。


フェンネルらには何が起きているのかはわからない。


ただ、放っておくわけには行かないということだけは確かなのか、

異形の集団へと再び攻め込むことにしたためだった。


「子供の名前、考えておいてね。戻ったら、家族を増やさないと」


どこかでミリーは気が付いていたのか、

はたまた偶然か。


戦場の喧騒が再び聞こえる中、そんなことを言った。


「ははっ、そうだな。そのためにもなんとかしなきゃな」


材料の取り出しが終わり、いくつかをファクトは手にし始める。


自然と、ファクトの周囲から人が消える。


戦場が移っていったともいえるが、思わず場所を広げたというのが正解だろうか。


トクンと、ファクトの鼓動に合わせるかのようにその手から

素材へと魔力が伝わる。


「セット、ソウルフルシード」


呟かれる力ある言葉。


エルフの秘術がファクトの手にした素材、

見るからにそうとわかる様々な属性の魔石達の輝きを高める。


色の付いたランタンのように光るそれらが地面に置かれ、

いつしかそれらから伸びる光が複雑な魔法陣となり、その基点となる。


中心にはファクト。


地面からのその光に照らされながら、

その体をうごめかせている空の黒い相手を睨む。


「手の上に巡るは精霊の願い。生きる者に光の導きを。

 顕現せよ!」


ファクトの声に答え、魔法陣を作っていた光が波打ち、

渦を巻くように動き始める。


その中央でファクトは人形を手にしていた。


キリングドールが遺した、その素体。


ファクトは神の器を作ることはできない。


その権限があるのはクリエイターや管理者だけだからだ。


しかし、作られた者と同じ次元の器であれば、別であった。


歴史の上で産まれた多くのレシピと、

ドワーフの秘術により組まれる専用の召喚陣。


「ヴァルキリー・アルフィミィ!」


その名前を知る者は、ファクト以外には

女神と天使、黒の王、そして当の本人ぐらいだっただろう。


ファクト自身も体験したことはなく、目撃したことも無い特殊能力を持つ存在。


いわゆるGM操作キャラとして時折世界に現れ、

対象者を専用の空間へと強制的に転移させてしまう存在、

それがアルフィミィであった。


人形素体と、それを握ったままのファクトを中心に現れたのは

ファクトの戦った戦女神に似た雰囲気の装備を身につけた藍色の長髪の女性。


背丈はおおよそ3メートル。


出現の仕方からすると、まるでファクトが大きな着ぐるみを着こんだかのようなサイズだった。


それでも空にうごめく黒の王と比べれば小柄過ぎると言わざるを得ない。


しかし、そのサイズ差、距離を感じさせない動きで上空に飛び上がり、

光の帯を引き連れて飛翔した。


向かう先は、黒の王。


呆然とキャニーやミリー、あるいは気が付いた人間が見上げる中、

風船が破裂したような音だけを残し、アルフィミィは消え去った。


ぶつかった相手である黒の王と共に。


愛する相手が見たことの無い存在に変化したかと思うと、

瞬きの間に消えてしまったことに

キャニーは深い悲しみに襲われるも涙をこらえ、

まだ続く戦いの最前線を見る。


「行きましょう。ファクトが……戻ってこれる場所を作らないと」


「うんっ、そうだねっ」


そして2人は再び戦場へと舞い戻る。


そんな中、誰もが気が付いていなかった。


空の闇。


暗い太陽が徐々にその明るさを取り戻していることに。

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