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265-「舞い降りる光、昇る光-5」

じわりと戦況は変化し、倒れる人間の数となってその結果は産まれていく。


有利になっているのはジェレミア側。


しかし、被害が無いわけではない。


「今のうちに負傷者は後方へ! ポーションは大量にある!」


その声が誰の物か、泥まみれになっている前線の兵士達は気にしない。


彼らにとっては否定の声が重ならない以上、それは正しい命令なのだ。


走れる者は己の足で、走れない者は半ば這いずってでも後方へと移動する。


そのままいては足手まといになることを誰よりも知っているのは

戦っていた彼ら自身である。


そんな彼らが向かう先、命がぶつかり合う場所よりやや後方で、

前線とは別種の戦いは常に行われていた。






「おい、しっかりしろ! ええい、痛みで飛び起きるだろう」


片腕を失い、出血にか朦朧とした意識の中、

その兵士は必死に叫ぶ仲間の声になぜか笑みを浮かべる。


助けるためとはいえ、そいつは無いだろう……と。


その理由は数秒もしないうちにうめき声となって表れる。


失ったはずの片腕に振りかけられた液体。


改良を重ねられたとはいえ、その回復効果には

なぜか激痛が伴う部位欠損を回復するポーションが原因だった。


改良担当者曰く、そうでもしないと治せるからいいや、と人は油断するからとのことだった。


事実、あまりの痛みに誰かが抑えていないと転げまわるほど痛みはある上、

一時的にだが激しく疲労する。


それでも地面に座り込み、痛む腕を抱え込むようにする兵士。


痛みに頭がかき混ぜられるような感覚の中、失ったはずの腕に

体中から何かの力が集まっていくのを感じ取り、その効力を実感する。


痛かろうが疲れようが、治るのだ。


─即ち


「弓をよこせ。まだ戦える」


走るだけの力が無いのならば別の戦い方はある。


兵士はそう考えを切り替え、後方に積んである荷台から新たな武器を手に、

戦場へと歩き出す。






一方、戦力差では上回っているはずのルミナスも

ただ押されているわけではない。


陣の中で軍知である2人は顔を突き合わせ、苦渋の表情で次々に指示を飛ばしていた。


だが、決定打が足りない。


「思ったよりも鼓舞の力が届かないようだな、西の」


「ああ。魔法、であったか。その術は我らのそれと妙な干渉を起こすようだ」


状況を確認するように、2人共が己の掌を見つめながら

何事かを呟くとわずかに光が灯る。


青、そして灰色に近い白。


どちらも軍知の2人が生み出した力だ。


「北の転移も限界。私の竜砲も後1度か2度といったところだろう」


「厳しいな」


西の、と呼ばれた軍知、西方虎砲はそうつぶやいて

消えかけた己が発する光に力をこめ、再度光を産み出す。


物や人を転移させる北方玄女の秘術、竜の咆哮のごとく遠距離で敵を討つ東方龍騎の秘術。


そして全体に虎のように丹力を与える西方虎砲の秘術。


唯一、代償を条件に恵みをもたらす南方雀仙だけが戦いに向いていない秘術と言えよう。


既にルミナスの誇る軍知による札は1枚は使い切られ、

2枚目も数は少なく、3枚目は現在も実行中、というわけである。


実際にはほとんどの戦いにおいてはどれか1枚の札で決着がついていた。


3枚使う必要があり、さらにワイルドカードとしての

天帝さえいる状況は異常ですらあるといえる。


しかし、今はその万能の札である天帝の力は敵であるジェレミアにはほとんど向いていない。


「動けぬ天帝様に代わって世界を制する、か。不敬にもほどがある」


そう口にする東方龍騎だが、心のどこかでは少し違うことを考えていた。


そしてそれは、今の天帝とは違う何者か、に命を受けて

この地で戦ってきた西方虎砲も同じであった。


何故元々はルミナス側であったであろう謎の陣営、

黒の王、アンリは天帝を狙うのか。


実際には、天帝の変化した龍の中に、まだわずかながら

残ってしまっている黒の王としての力を回収するために襲い掛かっているのだが、

軍知達がその理由に思い当たることはなかった。


自分達に有利な要素ではないことは明白であり、

何か手を打つべきであった。


しかし、ルミナスとジェレミア、

正確には東方と西方の軍勢を比較した時に大きな違いがあり、

それが軍知の頭を悩ませていた。


それは魔法の存在。


ルミナスの支配地域には西方のような魔法はほとんど存在しないのだ。


何故かと言えば、ルミナスは天帝の国である。


正確には小国が寄り添った形ではあるが、

それらは東方の島にいる天帝を頂点とした組織の

一部の人員による代理の支配でしかない。


それらに世襲はなく、代表者が選ばれる。


それらも大陸を4つにわけた地域でそれぞれに行われるのだ。


その上で、彼らは常に口にする。


天帝様のおかげで今生があるのだ、と。


それは一種の洗脳であり、宗教であり、唯一の価値観と言えた。


祈る先は精霊ではなく、天帝となる。


となれば、精霊が力を貸してくれた結果である魔法が

天帝の支配下で発達する道理はなかった。


例外的に、軍知やその力を取り入れようとする一部の研究者のような

集まりだけがかなり遠回りながらも精霊へと意識を向け、

魔法的な力を引き出すことには成功しているが一般的とは言えない状況だった。


故に、ルミナスの兵士と言えば実際の筋力やそのほか、

体の能力でもって力とするほかないのであった。


魔法による補助がある側と、鍛えられたとはいえ肉体のみの側。


個々の質でもって、徐々に差が生じるのは致し方ないといえよう。


そして、切り札である軍知の秘術にも限界がある。


「む。あと1刻もしないうちに切れてしまうな」


「そうか……仕方ない、一度引こう。天帝様に呼びかける術がないのが問題だが……」


己の手の中の光が弱まり、兵士達の心を支えるのにも限界が見えてきたころ、

一時撤退を2人の軍知は決断する。


押しきれない、という不安と不満が兵士の心をむしばみ、

加速度的に西方虎砲の秘術の効果を薄めているのだろうという現状がそれを後押しした。


視線の先では、ぽっかりとそこだけ穴が開いたような広さの平原の上で

龍と竜がぶつかり続ける。


ひとまずはジェレミア側を叩いてから争ってくれればいいのに、

という思いはどちらにも通じず、ただただ周囲に争いによる余波をまき散らしながら

天帝と黒の王は戦い続けていた。





ぶつかり合う黒の竜と龍。


それはまるで映画の背景のようにファクトには感じられ、

次なる一手を考えるための材料でもあった。


(一方だけなら……何とかなるが残りは……)


一時的な物であろう後退を始めたルミナス軍に、

ジェレミア側は追撃自体は行うものの、

作り上げた陣を崩すようなことはせずにその場にとどまっていた。


次は別の手段を考えてくるであろうという予感の中、

今は補給と休養に力を注ぐジェレミア側。


そんな中、ファクトは半ば無意識にスキルを実行して

不足してきた武具を産み出し続ける。


全体から見れば補給可能な量は少ないが、

天使や女神の力、と言われなければ到底納得できない光景が

兵士やフェンネルの前で広がっているのは確かだった。


そんなファクトに2人、キャニーとミリーがそっと寄り添う。


「悩むことないんじゃない? やれることは全部やる。

 そうしたらきっと、なんとかなるんじゃないかしら」


ある意味能天気、と言われそうなキャニーの言葉。


ミリーも無言でそれに頷いている。


外から見ると怒られそうな根拠のない発言だが、

2人にとっては確信めいた予感からくる言葉であった。


かつて、レッドドラゴンの攻撃で瀕死の重傷を負ったファクト。


その傷を癒す際、キャニーたちは己をファクトと半ば同調させるようにしていた。


それは魂レベルでファクトに近づく行為ともいえ、

言い方を変えれば世界の住人からプレイヤーに近づく行為とも言える。


姉妹が驚くべきペースで成長し、様々なスキル群を

いつの間にか習得しているという事実がそれを証明していた。


そんな2人だからこそ、ファクトがまだやれることがあることを感じ取っているのだ。


「そうか……そうなのかな?」


答えるファクトもまた、どこか遠く、

今この場にいないかつての友や、世界と同化していった存在を思い返していた。


何よりも思い出されるのは、気の合う仲間のために

採算度外視で武具を作り上げ、それがボス撃破のポイントになったと

笑顔で報告を受けた時の充実感。


お前が作ってくれてよかった。


そう言われたときの感情はファクトの心の中に、

今も熱く、炎をともしていた。


「そうだ……な」


既に精霊銀をベースに、多くの武具を作り上げ、

ジェレミア軍や冒険者は力を増しているといえる。


それでも、それらはまだ伝説の武具とは呼べず、

その意味では本気ではない。


カチリと、ファクトの頭の中で何かが切り替わった音がした。


駆けこむのは臨時に用意された大きな天幕の中。


それを見たエルフやドワーフが発狂しそうなレベルで

誰も見たことがない素材がファクトのアイテムボックスから取り出されていく。


長剣なら10本しか打てない数しかない?


なら別の素材でさらに増やすまで!


気迫が熱気となり天幕の中に充満するのを

外で護衛する兵士や、それを見守るキャニーやミリーには感じられた。




後の世で、世間を騒がせるいわくつきの武具は数多い。


その性能も強弱様々だが、とにかく数が多いのだ。


伝説やおとぎ話の主役となりそうなものから、

研がなくていい包丁、といったレベルの物まで幅広い。


いずれにせよ、それらの登場は偶然なのか、時代がほぼ同じであった。


第二次精霊戦争。


各地で様々な規模の戦いが起きた戦争であるが、

不思議なことに戦争後期、そして戦争後に

世界には魔道具である武具が数多く登場していた。


各地の教会に天使が降臨し、人々に与えたという説や

封印が何らかの理由で一斉に解けたのだという説。


明らかに創作が混じっているであろう話が多い中、

目立った記述が共通している項目がある。


それは第二次精霊戦争の中の戦いの1つ。


竜狩人フェンネル王子の一節である。


いくつかの視点による記述があるフェンネル王子の戦いだが、

ほぼ共通した記載がある。


それは、王子率いる兵士のほとんどが魔剣や魔槍と呼べそうな

光り輝く武器を手に、黄金の龍を針山のように串刺しにしたという記載であった。




現実でもたまーにレイドボス撃破のために

メンバー全員驚くほどのレア装備で固めるとかやる時はあるので

その意味ではひどいとは言えない可能性が……あるのか?

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