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264-「舞い降りる光、昇る光-4」

剣と魔法の世界。


地球のそれと比べ、この世界での戦いで

一番大きな違いはなんだろうか。


様々にあるだろうが、魔法を上げる人が多いに違いない。


何もないところから何らかの代償はあれど、

火を産み出し、風を呼び、水を湧き立たせ、土を盛る。


あるいは光を放つかもしれない。


不思議な、それでいて既に不可欠となった力。


剣や槍、弓などの物理的な武装を扱う人間と比べれば

魔法を使える人間は多いとは言えない。


やはり、才能という物が立ちはだかるからだった。


それでも、ジェレミアやオブリーン、

西方の各国にとっては魔法自体は身近な物。


頼もしくもあり、互いに向け合ったとなれば厄介な力。


「どういうことだ?」


この瞬間も命のやり取りが続く戦場で、

ジェレミアの兵士の1人が呟く。


視線の先では、乱戦同様に切り合う両陣営。


上空を飛ぶ矢は時折、通り雨のように通り過ぎるが

ジェレミア側ではあらぬ方向へと吹き飛ばされ、刺さることなく落ちていく。


そう、ジェレミア側だけが。


ルミナスの人間、そして不気味な第三陣営もほとんど、

皆無と言ってもいいほどに魔法が使われないことに

兵士も、冒険者も徐々に気が付いていく。


困惑も生じるが、好機であることに間違いはなかった。


「後方に叩き込め! 何でもいい、何でもだ!」


味方を巻き込む恐れのある中央では使いにくい魔法も、

敵しかいないとなれば遠慮は無い。


局地的に見れば、一方的と言える攻撃が続くが、

前線が受ける圧迫に大きな変化はない。


じわりと、消耗していることをフェンネルは肌で感じていた。


「いつあの青い攻撃が来るともしれん……」


「うむ。ぶつかり合ったままの竜もどうなることやら」


陣の中央で、状況を見据えながら指示を出すフェンネルとロスター。


その視線の先では、ジェレミア側のことなど眼中にないかのように

絡み合うようにぶつかりあう竜と龍。


次はどの手を打つか。


思案している2人の横で、

周囲の警戒を続けていた魔法使いの1人があることに気が付く。


「誰だ、こんな強い魔力……竜? いや、方向が……」


戦場のあちこちで高まる魔力の波動。


気配を感じるかのように、その増大と放出、

つまりは魔法の行使を一定の力量以上の魔法使いは感じ取ることが出来る。


戦いの場所であれば良く感じる物。


だが、今それを感じた場所は熟練した魔法使いをして、

勘違いではないか、と思わせるものだった。


感じた場所は、はるか上空。


暗い空に、魔法使いはその影を見ることはできなかったが、

確かに感じたのだ。


強い、力を。


もしも、空に雲があればそこを突き抜けてくる何かを

目撃することが出来たかもしれない。


暗いが、雲1つ無い今の空ではそれは叶わず、

特定の人間だけは飛来するそれらを、力の気配として感じ取った。


空から飛来する何十本もの力。


何人もの視線を集めるそれはあっという間に地面へと到着し、

地上で花火がさく裂したかのように荒れ狂った。


ある場所では炎が吹き荒れ、ある場所では突風が周囲のルミナス兵をなぎ倒す。


またある場所では巨大な氷の彫像が無数に出来上がり、

別の場所では石のつぶてに全身を打たれ、沈黙した。


それらは全て、ルミナスと第三陣営へとつきささる。


「あれは……味方か!」


ここにきて、フェンネルらにも空から何かが飛んできたかと思うと

敵である相手の陣営に届き、それが攻撃であることがわかる。


空を何かの鳴き声が振るわせる。


それは特定の人間にとってはなじみがあり、

多くの人間にとっては初耳の鳴き声だった。


「この声はグリフォン! ファクト、来たのね!」


乱戦の最中、キャニーとミリーが見上げる空に、

いくつもの影が飛んでいた。







「敵陣営に投擲完了!」


「次を作る。3……2……1!」


全ての陣営を見下ろす高さで、何十人もの人間が密集して飛んでいた。


グリフォン、そしてヒポグリフの背に乗って。


その中央で、グリフォン─ジャルダンの背に乗ったまま

ファクトは虚空へとその力を解放する。


鍛冶設備を用いないスキルによる直接の作成。


ストックされているアイテムボックス内の素材を使うそれは、

本来であれば自分自身の手の中に産み出すことが限界。


ゲームバランスからいってもそれは必然であった。


だが、今その制限は通用しない。


暗い世界に、光が産まれる。


燐光のような淡い光はいつしか力強い物となり、

共に空を飛ぶそれぞれの手の中に力を産む。


フランベルジュ、アイスブランド、ウィングレット、アースシンカー。


非常にカラフルな剣、そして槍や斧。


どれもがこの世界でも、あるいは地球でも有名な

おとぎ話にあるような武器であり、ゲーム設定上、相応の強さを持った物。


その名前を正しく知る者はファクト以外に誰もいない。


誰もが手の中に生じた力に驚きながら、

その力を正しく行使するべく敵を見据える。


使い捨て、力を発動したらすぐに崩壊するように設定されたがゆえに

いつもよりその力を増大させた武器達。


「放て!」


魔法によるものか、あるいは魔道具なのか。


武器を手にした全ての面々に青年の声が届き、

それは命令となって力は地上へ向け、放たれる。


ファクトは、映像でだけ見たことのある航空機による爆撃のようだな、

と感想を覚えながら視線を前に向ける。


(片方は黒の王に間違いない。もう片方は……東洋龍? なら……ルミナスか!)


無言で、地上での戦果を確認することなく

さらなる素材をアイテムボックスから取り出し、スキルを実行する。


高レベルとはいえ、割合消費であるスキル群は

ファクトには多くの魔力消費を要求していた。


それらをポーション類で半ば無理矢理に補てんし、

ファクトはスキルを実行し続ける。


後に残らない、言ってしまえば消え物への投資。


ゲームであればバフアイテムに湯水のようにお金を注ぐ行為だった。


ゲーム当時、最前線用の武器1つに使う費用が1M(100万)だとすると、

投げつけられた武器たちは3~5Mクラスのコストがかかっている。


本来であれば決戦兵器として扱われるであろう物が

一時的にとはいえ、与える影響は小さくない。


ルミナス、そしてジェレミアの中にも

かつてあったという戦いでの禁断の秘術を思い浮かべた者がいた。


精霊を犠牲に、強力な力を産み出す魔法。


しかし、すぐさまそれは間違いだとも気が付く。


力がさく裂した個所で、精霊が増大していることを魔法使いたちは感じたからだ。


当然と言えば当然で、その力に竜2頭は気が付かないはずがない。


絡み合うように戦っていた2頭の竜は、

唐突に、その口をファクトらのいる空へ向けた。





「ファクト!」


空を切り裂く黒い光。


2重のブレスは全てを溶かすようにすら彼女には感じられた。


空気を震わせた暴力が通り過ぎた後、

恐る恐る視線を向けた彼女の視線の先には、

上空に飛んだままのグリフォンらの集団があった。


前面に位置する10名ほどが、

不可視の盾を構えるようにしてブレスを防いでいるようだった。


「よかった……。生きてる」


「お姉ちゃん、こっちに来るよ!」


空を飛ぶ影達は、皆が見守る中、

分散して戦場に降り立つ。


姉妹はその中でも覚えのある気配が

やや後方、フェンネルらのいる場所に近づくのを感じ、

思わずという形で戦線を移動した。


ジェレミアの兵士達が警戒する中、

空から巨体が舞い降りる。


フェンネルは思わずロスターの背から降り、

その場に駆け寄ると驚愕する。


一緒に降りてきたグリフォンから、見覚えのある相手が降りてきたからだ。


「兄上!」


「馬鹿者、なぜ来たフィルよ!」


見るからに強さを感じる武具に身を包みながら、

兄であるフェンネルへと駆け寄るその弟の姿に、

フェンネルは再会の喜びを味わう前に怒りの声を口にする。


ジェレミア王家の王子は3人。


長男であるフェルドナンド、そして次男である自分も最前線にいる。


比較的平和な内地で父の補佐を務めさせ、

今回もまだ後方と言える場所にいるはずの弟が

何故最前線にやってくるのか。


その驚きと、万一を考えれば怒りの声も仕方がないと言えよう。


「今は、そういうときでしょう」


「……ふんっ。死ぬことは許されんぞ」


そこまで言って、フェンネルは周囲の戦線での空気が

少し変わったことを敏感に感じ取っていた。


「これの犯人は……言うまでもないか」


「それはそれでひどい話だ」


駆け寄ってきた姉妹を抱き留めながらも、

何かを操作するように虚空に指を躍らせるファクト。


戸惑いの視線の中、あちこちの地面に

不足し始めた矢が店舗で売っているかのように整えられた状態で光と共に現れる。


まさに魔法。


常識は戦場では通用しないとは言う物の、

ここまで常識が逃げ出すような光景をフェンネルは味わったことが無かった。


「天使様に力を借りた帰りに、拾ってくれって頼まれてな。

 こっちとしても人手が欲しかったからグリフォンたちにお願いして、飛んできた」


元々はここに直接飛んでくる予定だったんだ、

と何でもないように言うファクトに

近くでその言葉を聞いた兵士が視線を向けるが、

戦場はそれを許さない。


「増援! 敵後方よりさらなる増援です!」


「なんだと! あれだけの攻撃の後にか……」


あせった声を出すフェンネルだが、ファクトはそんなフェンネルの肩を叩き、

前線の方面を指さす。


「何とかなるさ。ほら」


誰もがそちらに視線を向けると、

いくつも撃ち出された魔法の光。


その光で銀色に輝く装備を空に掲げている集団があちこちにいた。


そして、彼らを中心にジェレミア側の気勢が膨らむのがわかる。


「精霊銀をベースに実用的な性能の武具へと引き上げた特別装備。

 個々の力はそう突出した物がないが、

 その特殊効果には力を入れたぞ」


ファクトのつぶやきが聞こえたかのように、

前線の兵士や冒険者達は不思議と湧き立つ力に、

手にした武器を再度、握りなおして敵へと挑みかかった。


ゲームでのユニーク装備の設定をベースに、

この世界での武具として進化させた特殊装備群。


それらの特徴はパーティメンバーの能力引き上げ。


最大の特徴は、能力の重複が無効とされないことであった。


互いを信じ、精霊を共に信仰することでその力は高まる。


相互干渉する力たちが、流れを産む。


ほのかな光を身にまとい、ジェレミアの兵士、冒険者達は

1つの力となって両陣営を押し出し始めていた。


「大変、自重くんが息をしてないの!」


言葉にするとこんな感じでしょうか。


報酬が5Mなのに10M使うような馬鹿なことは

逆にゲームだとできない気もしないではないですね。

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