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250-「廃棄王女の帰還-3」

2015/05/22

完成前のVerをUPしていたようで、

後半のファクトのシーンがまるまるなかったのを訂正。


ご迷惑おかけします。

「道中の遭遇はわずか。怪我人は少数。重傷者は無し、ですか。順調ですね」


「ええ、高品質の統一された武具とはこうも……贅沢な話です」


街道沿いに用意された簡易的な天幕の中、

守られるだけの立場から羽ばたいた少女が男と向かい合っていた。


もう数年もすれば、彼女を少女扱いする男は皆無となるだろう。


はかなさではなく、強さという美しさを持つ花として。


口調は穏やかながら、話す内容は物騒な物だ。


命のやり取りを行った結果の報告なのだから。


目指す場所までの行程では怪物との戦いは幾度もあると予想されていた。


だが、結果としてその被害はほとんどないといえる状況。


男は現状を、錬度ではなく、装備のおかげだと言い切った。


「貴方、自宅で料理などは?」


「は? いえ、家内に任せっきりですね。お恥ずかしい話です」


唐突な少女、シャルロッテからの問いかけに

副官として働いている男は戸惑いながらも答える。


男のように自分で家事の出来る男、というのは多くない。


従軍者である以上、最低限は出来るがそれは必要にかられるからなのだ。


「良い包丁というのはあるだけで違う物です。野菜を切るにしても、

 すっと切れるのであればそれに越したことはありません。

 その時、包丁を持つ者は良い包丁だな、とは思うでしょうが、それだけです」


何を言いたいのか、と男が疑問を顔に浮かべた時、

シャルロッテは自らの腰に下げられた長剣の柄をいじりながらその彫刻を確かめる。


「そう、どんな名のある職人がどんな思いを込めて作り上げた包丁か、などと

 考えて料理をする人間はまずいません。あるいは自分の手元に来る前に

 どんな料理に使われた包丁なのか、なんてことは。

 戦いとて、同じことです。まあ、包丁よりは意識する人間は多いかもしれませんね。

 私は戦いは最後には、積み上げた思いが勝たせてくれるものだと思っています。

 そう……武具に込められた思いすら、積み上げる物だと」


そこまで言われ、男は気が付く。


シャルロッテの腰にある剣の年季の入り具合に。


鞘にも装飾が施され、年月を感じる古ぼけた様子。


だがそこには、神木と言われる巨木が持つような

確かな芯の太さを感じられた。


同時に、彼女がその剣を抜くことは恐らくないだろうとも感じている。


戦うための強さという点ではもう1本の剣のほうがはるかに上だ。


であるのになぜ、邪魔になる危険性を増やしてまで2本帯剣しているのか。


「ご先祖のお気持ちも乗せるためにお持ちなのですね」


「そういうことです。剣に誓って、などとは言いませんが

 すぐそばで見られている。そう思えばやる気も出ようという物です」


その言葉と、天幕越しに空を見上げる姿に

男は目の前の彼女が王子の救出を待つ姫なのではなく、

飛び込んでいくような姫なのだと、感じたのだった。


そんな内心の気持ちを隠しきれないまま、

男はテーブルの上の地図をなぞる。


「後半日も進めば見えてきますのが敵の、厄介な拠点です」


「街道沿いの砦跡を怪物が占拠する。これまでもなくはなかったらしい案件ですが……。

 どうにもおかしいですね。ウィルはどう言っていますか」


シャルロッテはそういって、ここにいない弟と一緒にいるはずの

仲間の名前を口に出す。


「パッと見はいつもと同じ。だが、どうもきな臭い、と。

 偵察部隊を出す程度の知能はあるようですね」


「まったく。自分達だけでやらなくてもいいのに。

 男の子、ということでしょうか、ねえ?」


「それは……なんとも……ですが、弟君の魔法は多彩な才能を発揮しているようですよ」


姉の、シャルロッテの近くにいると出撃させてもらえない。


そのことを感じ取っているホルンはことあるたびにウィルについて回り、

自然と冒険者として働き続けるウィルらの一員のように外で戦っているのだった。


本来であれば、血統を絶やす危険を減らすためにも

安全な場所にいてほしいという気持ちがシャルロッテには強いが、

多少なりとも経験を積み、生き残る力を高めるのも

逆に安全に近づくという考え方もあるとシャルロッテは感じている。


とはいえ、それを正面から認めるのも悔しく、

自覚あるやつあたりと言ったところか。


男もそれがわかっており、自分のちょっとした犠牲で

シャルロッテの指揮に陰りが出ないなら儲けもの、と割り切っているのだった。






──街道沿いの丘


「怪物が陣形を組むなんて……亜種がいるのかしら」


「らしき、ではありますが目撃されているようです。

 ただ、どうもおかしいですな」


シャルロッテの率いる、軍と冒険者の混成部隊は連戦連勝。


大した被害も出さず、初期の戦力を維持したまま目的地へと迫っていた。


そんな快進撃も、街道と街道沿いの砦跡を占拠する形の

怪物に邪魔をされる。


正確には、そこに攻め入ろうというのだから邪魔された、

というよりは連勝を阻まれそう、というところだろうか。


気が付けば空の太陽も半分ほどが黒く、闇に覆われている。


彼女にも、軍勢の誰もが経験のない、不気味な状況である。


唯一、途中で合流した他国からの使者からの言葉が

彼女らに情報を与える。


血で血を洗うような時代が来るのかもしれない、と。


気の重い話ではあったが、光明もある。


誰もが大きな力を発揮するということ。


そう、敵も味方も。


であるならば、世に出回る諸々が高品質になったと思えばいい。


シャルロッテはそう割り切り、目の前の問題に挑むのだった。


「……砦は建て直せばいい。少々乱暴でしょうか」


「休憩所にしては大げさという話もありますな」


遠回しなシャルロッテの確認と提案に、

男はその意味を悟りながらもこれまた迂回した言葉で返す。


「ホルンの魔法も威力が変だと言いますし、今後の指標にさせていただきましょうか」


シャルロッテの作戦はこうだ。


ひどく乱暴だが、威力の増大した魔法を中心に

遠距離から砦跡ごと爆砕。


出てきた怪物を各個撃破、と言葉にするとこれだけのことだ。


ゴブリンを数匹吹き飛ばすだけだった火球の魔法が、

今は大岩を砕ける、という報告さえなければ

シャルロッテも別の手を考えていたことだろう。


多少威力は落ちても超遠距離から。


後世にも伝わる集団戦、あるいは拠点に住む怪物への有効な一手。


その戦術が確立した瞬間であった。






「魔法部隊前へ、撃て!」


号令のもと、火球を中心に多くの攻撃魔法が人間側から放たれる。


魔法は全て精霊の力を借りた物であり、

発動前のそれそのものに火であるとか、風と言った属性は無い。


結果、として巻き起こる現象が魔法であり、属性なのだ。


そうして考えると、良い魔法使い、使える魔法の多い魔法使いという物は

イメージを作りやすく、物事を思い出す能力や想像力がたくましいということである。


事実、天候が穏やかな地方で魔法使いは育ちにくい、という話がある。


悪天候は攻撃魔法のいくつかの発動を手助けするのに非常に役に立つのだ。


あるいは恐ろしい技を、己の力のみで放つ怪物を知るほど、

その力を再現するかのような魔法やスキルを使う人間が増えていく。


ファクトの広めているスキルや魔法をまとめた書物の類が

一番浸透しているのはそうした激戦区なのだ。


「……これは……」


驚愕の男の声を合図にするかのように、

触ればはじける魔法の力が目的に着弾する。


轟音、そして炎。


街には対魔法の障壁や対策が必須になるな、という

幾人もの目撃者の感想の通りに、その力は発揮される。


「隠れていては魔法と、がれきに押しつぶされる。

 さあ、どうしますか」


そうつぶやくシャルロッテの視線の先で、

煙を上げる砦跡のあちこちから、うごめく影が現れる。


「そう、討って出てくるしかない。なまじ頭が働くがゆえに、

 無様に逃げ出すという選択をとれない。

 逃げ出した後の事を考えてしまうから……」


つぶやく彼女の顔に浮かぶのは憐みか、

己の号令で皆を命の危険にさらすが故の後悔か。


それを知る者はおらず、戦場に高らかに号令が響き渡る。






「いない? それはどういうことですか」


「い、いえ……その、食事にお呼びするために部屋にいったところ、

 本人はおらず……これだけが……その」


戦いを終え街に戻ったシャルロッテを迎えたのは、

冷や汗で干からびるのではないかと思うほど恐縮しきった屋敷の人間であった。


報告とお礼を、とファクトを訪ねたシャルロッテであったが、

そこにファクトはいなかったのだ。


「手紙……ですか」


代わりに部屋のテーブルに乗せられていたのは変哲のない手紙。


ご丁寧に何かの封印が施されている。


宛先であるシャルロッテ以外は開封できないように、ということのようだった。


人払いをし、1人となったところで手紙を開くシャルロッテ。


「……不思議な方、ですね」


書かれていることは彼女にとって、

納得の行くものであり、それでいて謎の残る物だった。


「あれは精霊の力を借りて現れたファクト様の現身?

 そういえば天使様は肉体を持たないと聞きますけど……」


指先で手紙の文面を追いながら、シャルロッテは呟く。


疑問はあるだろうが、自分がファクト本人ではないこと。


だがファクト本人と何ら変わりないこと。


役目を終えたので立ち去ること。


等といった事が書かれていた。


「あら、これは薬包?」


手紙の裏に、張り付くように添えられていた小さな紙の包み。


それを見つけたシャルロッテは思わず包みを解く。


紙片ほどしか入らなそうな小さな小さな包み。


だが、それは予想に反し、明らかに大きさのおかしい物が入っていた。


現れたのは手鏡。


薬包にしか見えない包みは、使い捨てのアイテム袋だったのだ。


手鏡を手にしたシャルロッテは、添えられていたもう一枚の手紙に

目を通し、微笑む。


「どうしても困った時は鏡に向けて願え。やれるだけのことはやる、ですか。

 ええ、このお人よし具合はファクト様らしいですね」


ウィルたちから聞いたファクトの話を思いだし、

シャルロッテは1人、部屋でころころと笑う。


その時、彼女は戦う乙女から少女に戻っていた。




第二次精霊戦争期、大陸の西側では

対人の戦争はほとんどなかったとされている。


そのほとんどが、対怪物、特に組織だった亜人亜種らによる集団と

ダンジョンからの大量の怪物らの進撃である。


そんな大きな戦いにいつの間にか参加し、

勝利を収めることになるシャルロッテ。


彼女が戦いに導かれたのか、戦いが彼女に導かれたのか。


戦いに赴く彼女の手には、多くの場合、光り輝く宝剣があったという。


彼女の残した宝剣、エクセリアには謎が多い。


記録の序盤では装飾は見事だが古く、実用性は皆無だったという話だが、

いつしか抜いたとき、彼女は白銀の鎧に包まれ、

放つ斬撃は浄化の力を持った不可視の刃を繰り出したという話になっている。


同じ名前を付けた別の剣であるという説が有力だが、

とある学者は気になる話を耳にしていた。


とある戦いの後、彼女が数日、行方不明となったのち、

戻ってきた時には剣は変わっていたのだと。


気が付いた側近の問いかけに、彼女は軽く答えたという。


「約定に従い、お願いしたら一晩でやってくれました」

と。


前々から準備されていたのか、

伝説の天使に出会ったのか。


謎は深まるばかりであったが、真実が全て楽しい話とも限らないことを

学者は知っており、己だけで細々と研究することにしたのだった。



シャルロッテメインはこれで終わりです。

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