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247-「力には力を」

短いです。


なんか打ち切りシーンみたいですが続きます。

空の上とも、大地の奥深くともわからない場所で、

音も無く彼はうごめく。


依代のようにしていた相手とのつながりが弱くなった今、

その不確定さ具合は顕著であった。


本当は性別のない存在だが、あえて彼と呼ぶとすると

決まった体を持たず、意識と力のみの今の姿は

見方を変えれば弱っているようにも見えた。


世界のあちこちから、黒い光、波となって

集まる力も今は振るう先が無い。


黒の王と時に呼ばれ、災厄を産み出すように

言い伝えられているが依代を通さない方法は、推奨されていないからだ。


今日もまた、もどかしさを抱えながら

今とも、昔とも区別がつかない時間を揺らぐように過ごす。


彼にとっては世界は大きな大きな水槽のような物。


多くの生き物が、大地が、空や木々までも。


混在となって生きていく。


静かであることに越したことはないが、

彼は動かないわけにはいかない。


この世界は刺激がなければいつか息がきれてしまうことを知っているから。


己自身のように、依代のように彼らに宿り、

世界をかき混ぜたり、泡のように刺激を産むことが彼の役目。


怒りと、憎しみを名を呼ばれる度に感じることもあるが、

そのことに後悔や苦しみは無い。


自分以外にはやれるもののいない、自分だけの役目なのだから。


(でも……ああ……叶うのならば)


何度も接した人間の思考というものに干渉を受けたのか、

寒さに体を震わすように揺れる。


彼にとって、世界をかき混ぜること自体は慣れ親しんだものだ。


世界に生きる者たちは誰しもが、光と闇を抱く。


ちょっとそれを触ってあげれば、誰もがそれに応える。


そう、この星に届く空の光さえも。


そんな彼だからこそ、思うことがある。


(いつまで……私は眠れないのか、教えてくれないか)


夢うつつ、のようになることはあっても

眠る、ということは彼に経験がなかった。


生き物は眠る。


これは彼がこれまで依代らと接し、

世界をかき混ぜた時に覚えたことだった。


それでも彼は今日も刺激という名の泡を

エアレーションのように吐き出し続ける。


ファクトがいつか山の上で見た、

天使等とは違う形の精霊の力を行使して……。







彼女にとって世界は大きな大きな水槽のような物。


そんな世界を星の上から見守る彼女にとって、

それはうっかり触ったら壊れそうな、

それでも時には見守り、時には手を入れなければいけないもの。


彼女自身は星を渡ったことは無く、

遠い光を眺めながら眠ってしまったり、

何かにつつかれるようにして起き、世界を見つめる日々。


基本的に世界は、彼女が何もしなくても時を過ごせる。


生き物が生きる時、困難を自力で乗り越え、

未来に生きていく力は既に持っているからだ。


彼女が手を貸さないといけないような出来事は多いとは言えない。


その上で、彼女が手を出すということは世界が揺らぐということ。


なみなみと水でいっぱいになった水槽に

手を入れる時、どうしてもあふれてしまう水がある。


あるいは、そのつもりは無くても手を動かしたことで水が動き、

水槽の中身が動いてしまうこともある。


それは少しの揺れかもしれないし、意外と大きな……

水槽の中身からしたら世界が変わってしまったかのような変化かもしれない。


それでも彼女は手を入れないわけにはいかない。


起こされたということは、手を出してくれという合図なのだか。


(ああ…人よ、今日もまた、試練を乗り越えるのです)


ゆらゆらと、大きすぎる救いの手が今日もまた、世界を揺らす。





ファクトにとってはこの世界は大きな大きな水槽のような物。


ゲーム世界という作られた空間で、

リソースという有限の水を揺蕩えた水槽。


その中でクリエイターたちの考えた世界が、

作り出された水槽の中身のように揺らめく。


今の彼はその水槽だった物に似た世界の中にいる。


有限であると知っているはずの世界ですら、

無限の広さを持つように感じていた。


事実、星の海に漕ぎ出せば無限なのかもしれないが、

彼にそれを確かめる術はない。


今の彼にとっては、水槽は世界そのもの。


最初からその中にいたような彼にとっては、

動いてもその意味では水が大きく揺らぐということは無い。


その中で生きるということを知っており、

その存在も大きい、とは言い難い物だからだ。


本来で、あれば。


彼はこの水槽が水槽であることを知っている。


水槽の内外から手を入れることが出来る力が

確かにあることもまた、知っている。


本当であればルール違反であるのかもしれない、

問答無用の力。


自身が英雄としては、一騎当千とはいかない現状。


その自覚があるからこそか、ファクトはそれを求めていた。






「さて、行くか」


朝靄の中、そびえる大きな山。


再びの霊山であった。


山を見上げるのはファクト1人。


装備は隠す相手もいないため、思いつく限りの全力装備。


それでも戦闘に向かないファクト1人では

霊山を昇るのは大変なように思える。


が、実際には逆。


登るだけ、行くだけであれば遠慮しないで良い分1人のほうが気楽なのだ。


ネットゲームにおいて、無理という攻略にはいくつか理由がある。


1つは単純な力量不足。


あるいは手数としての人員不足。


この2つは他人と交流するためのゲームであるからこそ産まれる、

他人同士で協力することでなんとかなる一番顕著な物だ。


それ以外にも理由はいくつかありうるが、

そのうちの1つに、その後も続けるゲームだからこそ、という理由がある。


採算が全く合わない、ということだ。


報酬が100に対して、出費が200となるようでは

何かメリットが無い限り、その手段をとるプレイヤーは数少ないだろう。


だが、今はそんなことは関係ない。


レアドロップや、フラグ立てのためではない。


通い続けるわけではないからこそできる手段。


1人、駆け出したファクトを霊山の怪物が……スルーする。


今はまだ、隠れるためのマントが効力を発揮しているのだ。


そうして数時間。


隠れていても見つかるようになった場所をファクトは駆け抜ける。


ため込んであった回復アイテムや、各種補助アイテムを

遠慮なく使い、手傷を負いながらも倒すことなく走り抜ける。


ゲームの設定を引き継いでいるのか、

一定距離を走り抜ければその怪物たちはファクトを追ってこなかった。


時には回避し、時には武具生成スキルを、

ゲームではできなかった相手の開いた口の空間に産み出す、

といった仕様外の使い方を駆使しながら突き進む。


途中、いくつもの分かれ道に遭遇するが、

迷うことなくファクトは走り続ける。


(こっちか……)


胸の奥、自身の体を満たす精霊の声なき声に従い、

上がった体温を本来は砂漠などでの行動を補助するようなアイテムで無理やり冷やし、

減った体力をポーション類で回復させながらその足を止めない。


戦女神は言っていた。


古の意志が意外と近くにいる、と。


思えば、あまりにも都合よく行く先々で事件や

出会いがあったとファクトは感じている。


偶然かもしれないが、その中のいくつかは

今、心に浮かぶ予感がこっちだと訴えかけていたのではないだろうか、

と考えているのだ。


それは世界となったユーミや知り合いのNPCたちかもしれない。


真実はわからないまま、ファクトは最後の別れ道を

まっすぐに突き進む。


途端、視界が切り替わる。


広大な、ドーム。


石材で出来たと思われる真っ白な空間。


足元は磨き上げられた滑らかな石による床。


しかし、滑りやすいかと言えばそうでもない。


見た目に反し、しっかりと足場を感じることにファクトはなぜか安堵の息を漏らしていた。


「来ましたか……」


「ああ……」


自分以外に何かがいるであろうと確信していた場所で、

ある意味では予想通りの声が響く。


ここはゲームでは外れの場所。


シナリオがまだ準備できていない、あるいはアップデート前だからこそ

存在した予告編と言えるような特殊な場所。


「ここに来た以上は、試練を与えねばいけません」


響く声は、今のファクトならば戦女神だとわかる。


しかし、ファクトがゲームでここを味わった時には

何がどうなって相手が誰なのか、全く分からなかった。


名前は【???】であるし、姿も輪郭はなんとなくわかるが、

光そのもので詳細はうかがえなかった。


そして、一定時間がたつと理不尽なまでの

攻撃が飛び交い、10分も立たずにどんなパーティーですら全滅した。


いわゆる負けイベントとしての場所なのだ。


シナリオが進み、解放されることで

改めて、以前通ったルートに行くことが出来るようになり、

戦った相手がわかるといった具合になる。


ゆえに、ここに来るプレイヤーは初見の、

シナリオを味わいたいだけのプレイヤーに限る。


その他にはその理不尽さを味わいに行く特殊な陣営が多少いる程度。


その割に、報酬は全くなく、旨みはゼロ。


そんな場所に、ファクトは立っていた。


「ああ、わかってるさ。借りに来た」


ファクトは力強く、そう言い切る。


もらいに来た、とは言わない。


それが出来ないことは無言のまま、精霊が教えてくれている。


ここに目的の物があることは教えてくれている。


しかし、どうやったらいいのか、までは教えてくれない。


とはいえ、とりうる手段、行われることは決まっている。


「では始めましょう」


「ああ、GM権限の宿った遺物、無利子で貸してもらおうか!」


理不尽な力には理不尽な力で。


ファクトが剣を抜いたのは、

ルミナス兵が転移を完了する数日前の事であった。

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