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243-「旧き者、新しい者-4」

「これも、こっちもか……」


オブリーン王都、冒険者ギルドそばの宿の一室にて。


いくつもの羊皮紙、あるいはわら半紙のような紙に

細かく書かれた内容を読みふけるファクト。


その内容1つ1つが、ファクトの考えを補強しつつも打ち消していく。


「どうしたの、持ってきたのが違った?」


「いや、合ってる。合ってる、はずだ」


自分が運んできた物が想い人を混乱させている。


その状況に不安になったキャニーへと

ファクトは紙に落としていた視線を上げ、

しっかりと顔を見て頷く。


「じゃあ、何が問題なのかな?」


そんなファクトのキャニーへの気遣いを感じ、

密かに高鳴る胸の様子を隠しながらミリーは次の資料を手に問いかける。


「何が問題なのか、それが何とも言えないんだが……」


ファクトの知る、現代知識としての常識からは

ありえない内容に、ファクトは困惑が隠せないがそれを口にしたとしても

理解できる人間はほかにいない。


資料の内容は、フィルに収集をお願いしていた過去の歴史。


防衛すべき町が襲われた、など一部の話は

現地の防衛担当者にとっては苦い思い出、といった物も含まれるだろう。


かと思えば、たまたま数が多かっただけ、

というようなはずれの情報まで。


条件を絞り切らなかった分、思ったよりも数多く集まったその情報たちの中には、

ファクトの予想する問題のある事象がいくつか含まれていた。


前後して、特に怪物の襲撃が起きる前に

確認されたという不思議な出来事。


空に浮かぶ太陽が唐突に黒くなり、闇に包まれたという話。


真っ暗になったという話もあれば、黒い光でかろうじて見渡せたという物まで。


描写はそれぞれ違えど、空に黒い太陽が浮かんでいたという話は共通していた。


つまるところ、日食である。


太陽が闇に食べられていった。


闇の衣に覆われた。


などと描写されていることから、実際にファクトの知る

皆既日食、金環日食と同じような現象が起きていることに間違いはなかった。


その後、何かしらの影響によって怪物が活性化し、

まるで津波のように時に押し寄せるということも。


かつての精霊戦争や、500年ほど前の戦いの際も

それは人間同士の戦争だけでなく、怪物との戦いが

激しくなり、国同士が不安定となったゆえに起きた戦いでもある。


もっとも、精霊戦争時代は英雄と呼ばれる者たちも多く、

対怪物が主であったというが記録は曖昧である。


(きっと、プレイヤーの自覚のない元プレイヤーが多かったんだろうな)


ここにきて、ファクトはこの世界には思ったよりも多くの

元プレイヤーだった存在がいたであろうと考えていた。


世界の成り立ちなど、考えても仕方のないことであるが

状況的に、このゲームのMDに似た世界は

中の存在ごとゲームと同様に誕生し、そして独自の方向性に生きているのだろうと。


何かがきっかけとなり、世界は分岐した。


神の上の神の喪失。


箱庭が管理者不在となり、ある意味では野放しとなった結果、

規格外であるプレイヤーたちの分身もまた、世界の一員となっていったのだと。


自覚のある一部の存在と違い、

そうではない者たちは最初からそうである記憶と共に、

英雄として世界を生き抜いていく。


だが、彼らは不死ではなく、人間以外ではなかった。


寿命もあれば恋もし、子孫が残されていく。


その後の世界で、時に力を持った存在が活躍するのは

そういった血が蘇った結果。


かつて、エルフの里で垣間見た戦いやその歴史から

ファクトは今、そう結論付けている。


その上で、今見ている資料からは困惑があふれ出てくる。


(日食が1週間や2週間、最大で一か月続くなんて、ありえない。

 月も太陽も動いてるはずだ……)


苦い表情のまま、資料の一部にある太陽が黒かった日付、その日数を睨むファクト。


そう、日数である。


通常、正確にはファクトの知る知識からいっても、

太陽が黒くなるのは欠けている、という状況を含めて数時間。


完全に夜のような食の状態から金環日食の場合も含めてとはいえ、

問題が起きた日食の際には最低でも半日は丸く黒い太陽が目撃されている、

ということを地球の学者たちが知れば誰も信じないことだろう。


「逆にすぐに明るくなったのはこの辺か……」


「みたいね。魔法の実験中に暴走した、とか一緒になってるのが多いけど」


資料の中には、ファクトの考える通常の日食の場合も含まれており、

曰く、攻撃用の魔法の威力が10倍になった、

制御が効かなかった、といったことが記されている。


謎は多く残るが、日食がこの世界において

魔法、つまりは魔力、さらには精霊に影響を与えているのは疑いようがなかった。


通常の日食であれば、その時間は限定的であり

対策もまた、不可能ではない。


正確な時間が見れるファクトが、この世界にもいるであろう

星詠みをする人員から話を聞けば済むことだ。


だが、半日以上夜のように暗い、

などといった現象には理由が付けられない。


ファクトの知識からいえば、

月が太陽に覆いかぶさるように重なった後、

月が速度を落として太陽と同じ動きをする、

という必要があるからだ。


その上、場合によってそれが何日も続く。


黒い太陽が沈み、黒い太陽が昇るのだ。


「待てよ……そうなると」


ふと、ファクトは気が付く。


起きていることが自分の知っている物に近いからと、

理由も同じか近いとは限らないのではないか、と。


自然現象ではありえないのであれば、次は人や何者かの手によるもの。


それこそ、神様であれば何でもありではないだろうか。


太陽が西から昇って東に沈むことだって、出来なくはない、と。


(正確には……そう見せるだけでいい)


ファクトが思い浮かべるのは、液晶スクリーンへの投影。


そうだとわからない状態で、現実と見まごうばかりに

精密な映像を見せられた時、生き物は錯覚を起こす物だ。


それが世界規模で、さらには空全体だとしたらどうであろうか。


(この考えは危険だ。なんでもそれで解決できてしまう)


超常存在による無理やりな一手。


それ自体はありえなくはないが、それを考え始めてしまうと

あらゆることが【神様だから】などと

思考停止になってしまうことの恐怖もファクトは感じていた。


だが、ファクトにとってはゲームであるMDという、

日常をどうにもできてしまう存在のいる世界、

という前例がある。


世界の当たり前を変えてしまう、

それが可能な存在は1つではない。


1つは、天使クラウディーヴァや戦女神たち。


そしてもう1つは、ファクトにとってラスボスである黒の王。


イメージ通りの役柄や権限を持つことが多いMDにおいて、

当然、日食のイベントを取り仕切るのは設定上、黒の王であった。


もし、ファクトの考えている通りのことであれば、

謎の日食は黒の王が起こしていることになり、

その対策は非常に困難である。


なにせ、相手は空の上なのだ。


だが、何もできないわけではない。


少なくともファクトはそう考えていた。


ただ、それにはいくつも手札が必要だった。


「キャニー、ミリー。悪いがこの後、フィルのところへは

2人で行ってくれないか? 俺は、重要な用事がある」


「……いいけど、帰ってきてよ? 後、教えて」


「そうそう。男の秘密はいいことが起きないものっていうしね」


超常には超常、その考えにファクトが到達するのはごく自然なことだった。


そのためにはフィルとは違う場所に行く必要があるし、

恐らくは自分一人だけでないといけないとファクトは考えていた。


姉妹は突然のファクトの言葉にも頷き、了承の意志を返すも

そのまま行ってもらっては困る、と口にする。


「そうだ……な。それは大事なことだな」


今にも駆け出そうとしていた姿勢から座り直し、

ファクトはそばに姉妹を抱き寄せた。


ただ抱き合うだけ。


戦闘用の装備は身に着けておらず、

部屋着用の薄着同士で密着すると

当然、相手の体温も感じることが出来る。


何度も体を重ね、互いの存在を実感している3人にとって、

それは安心する行為でもあるし、後の事を予想させ、高揚する行為でもあった。


「明日から俺がしようとすることは、誰かに出来るかもしれないし、

 俺にしかできないことかもしれない。他に出来る人が今のところいない以上、

 俺は、やってみたいと思う」


両肩に感じる姉妹の体温を感じながら、

ファクトは2人に己の考えを伝えていく。


これから起こるであろう大きな災厄といえる出来事。


その黒幕と強大さ。


対して自分たちが出来ること、対面するであろう戦い。


それら大陸全体を巻き込むであろう大きな戦いの話。


「大苦戦待ったなしってことね」


「その上、相手は元気盛りだくさん……か」


「ああ。上手くやらないと倒しても倒しても、横やりが続く」


起きるであろう世界が闇に包まれる状況と、

それに乗じて攻めてくるであろうルミナスとの戦い。


それ以外の場所でも、怪物が今以上に襲い掛かってくるであろうということ。


各国に送るための書簡へとまとめつつ、

ファクトの予想という名の説明が続く。


「かつて……俺の生きていた時代ではひどい物だった」


ファクトが思い浮かべるのはジョークも含んでいたとはいえ、

ありえないことの目白押しであったゲーム時代のMDでの日食時のイベント。


とある町では不定期にダンジョンボスクラスがなぜか召喚され、

プレイヤーたちと死闘を繰り広げた。


かと思えば、多人数で挑むダンジョンの最深部では

ボーナスタイムのように敵が無抵抗に躍り続けるという謎の場合もあった。


いずれにせよ、これまで安全、あるいは危険の少ない土地でも

強大な相手が出てくるかもしれないというだけでも厄介な話だ。


デメリットだけを考えると、街にいて物を作ることの多い

職人プレイヤーにとっては危ういイベントであったといえる。


イベント日だけの出来事であったことが救いであろう。


「でもそれを回避するために、頑張るのよね」


「そのつもりだ」


「じゃあ、しょうがないね。ミリーたちも、頑張るよ」


これで納得した、と言わんばかりにその言葉を最後に

ミリーがファクトへと体重をかけ、

その手が撫でるようにファクトの体を滑る。





そして、夜明け。


どこにいてもわかるように、と

姉妹とパーティーを組み、マップでも

その方向がわかることを確認してファクトは1人、ジャルダンにまたがる。


キャニーとミリーは、宿の横にある広間で、見送るために出てきていた。


「一か月後には合流する」


「うん。頑張ってね」


「遅刻したら承知しないんだからね」


2人の声を聞き、本当に他に方法はないだろうか、

などと心に浮かぶ考えを押し込み、ファクトはジャルダンに飛翔の合図を送る。


風の魔法を併用し、音も少なく舞い上がるジャルダン。


それを見送る姉妹に、涙は無かった。


必ず、戻ってくるとファクトがいったことを信じているからだった。


離れていくジャルダンとファクトの姿を追いながら、

特にキャニーは落ち着きつつも、どこからか沸き立つ感情に燃えていた。


生き残って、ファクトにまた会わないといけない、と。


ファクトとキャニーとミリー。


3人のうち誰も気が付いていないが、

もしもファクトがマップを拡大し、精度を上げていれば気が付けたであろう。


キャニーとほぼ重なるように、もう1つのメンバーの光点があったことに。


プロット的にこの先からの駆け足感がやや強い気がします。


でも、終わらせないのも問題ですもんね。


頑張ります。

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