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233-外伝「世界は祝福と謎に満ちている」

お茶濁しです。すいません。


お話は全く動きません。


次をどこから書き出すかちょっと悩んでおります。

「最近、祈る冒険者が増えたな」


「確かにな。ま、そりゃそうだろうさ。そういうお前さんだって祈った帰りだろ」


夜も更ける頃、常連客でにぎわう酒場の一角で、

腰にロングソードだけを下げ、冒険者が一人カウンターでエールを飲んでいた。


カウンターの内側で、透明な器を磨きながら酒場のマスターであろう男が

そんな冒険者のつぶやきに答える。


食堂兼用の酒場故か、あちこちのテーブルは騒がしく、

その間を給仕のスタッフが忙しそうに行き交う。


カウンターにも思い思いの注文をする冒険者と、

それに対応するバーテンらが数名いるあたり、

この酒場が周辺の街の物と比べ、大きいという証明となるだろう。


「それもそうだな……。若い奴らが生き残ってるのはいいことだが、

 教会が騒がしくていかん」


愚痴るように言って、エールをあおる冒険者は

青年と呼ぶには少々年齢を重ねていた。


ふと、男の脳裏にはまだ幼いと言っていい頃に村を飛び出し、

苦労しながら生き抜いた少年時代の思い出が浮かんでは消える。


(あの頃は、毎日が必死だった……教会にいたのだって宿代がなかったからだったな)


巡り巡って、教会専属のような冒険活動をしている今の自分を

昔の自分が見たらどう思うだろうか。


そんなことを考えながらも、視線の先にいる

若い冒険者たち、それが笑顔であることに男は満足そうに頷く。


「祈れば己の経験を聖女や天使様が見てくれている。

 祝福、というべきなんだろうな」


「それしかないな。随分と俗物的な話だが、それ以外説明が出来ん」


おかわりを男のジョッキに注いでいうマスターの言葉に

男も頷き返し、酒代をカウンターに置く。


2人が言っているのは教会や、特定の遺跡にあるという聖女像のことであった。


特定の遺跡で見つかった聖女をかたどった像は、

その出来の良し悪しは別として、特別な力を持つことが判明した。


不思議なことではあるが、祈ればそれまでの戦いや経験から、

祈った人間に能力の向上が見られたのだ。


力自慢の男が祈ればより強靭に、

魔法使いの女性が祈れば今まで以上に魔力が強くなる。


夢のような話ではあったが、もちろん制限もあった。


「祈りと祈りの間に何かをしていなければ成長も無い。

 一番わかりやすいのは、依頼なりで討伐をし、十分経験を積んだという時に

 祈ると祝福が与えられやすいというぐらいなもんだ」


「その上で上限らしきものもある……か」


いくら経験を積み、何度祈ったところで強くなった実感を得られない場合もあったのだ。


それはある意味当然といえるパターンで、

肉体的に鍛えていない魔法使いが筋力の向上を狙ってもあまり上手くいかず、

まともに学んでいない戦士系が魔力を上げようとしてもあまり上がらない、

といったパターンであった。


プレイヤーとしてのファクトであれば、すぐにそのことにたどり着いたであろうし、

仕様だ、と考えたことであろう。


長所は良く伸び、短所は埋めるぐらいしかできないという

ゲームとしてのMDの仕様がこんなところにも生きていたのだった。


合わせて、ゲームの世界と違い、長所であってもその上昇には限界があった。


「素質ってもんはどうしようもねえさ。得手不得手なんてなんにでもある」


「確かにな。幸い、俺はまだ強くなれそうだぜ。昨日もちょっと足が速くなった」


自慢げに己の脚を叩く冒険者に、マスターも笑みを浮かべて頷き、

思い出したように髭を撫でて口を開く。


「依頼に出、戻ってきて清算をして休憩と同時に祈りに行き、

 日々を終える。まあ、順調にいけば、か」


マスターの視線の先にあるのは座る人間のいない空いた席。


冒険者の男も、どこか遠くを見るような瞳で隣の席を見る。


短くない冒険者生活の末、男の街に来た当時の仲間はいない。


引退した者もいれば、冒険者の背負う常として、帰ってこれなかった者もいたのだ。


「あいつらには出来るだけそんな思いはしてほしくないが、仕方がないな」


入り口付近で今日の依頼のお祝いなのか、元気に騒ぐ若い冒険者らを見、

男は様々な思いを込めて呟く。


「そうだな。なんだかんだと怪物を退治し続けなければ人が住む場所は少ない。

 王国だ帝国だと言っても、怪物の出ない土地というのはないからな」


この世界において、怪物、モンスターを退治するのは

物騒ではあるが庭の雑草を定期的に抜かなければいけないようなものであった。


大きな街以外にも、村や開拓を行う集落等は存在するが、

それらは常に大小の脅威にさらされていた。


野生の動物、狼からコボルト、ゴブリン、あるいはオークなど。


住み着いていた者は退治されていけば

数を減らしていくが、どこからかまた、彼らは現れるのだ。


オブリーンやジェレミア、西方諸国やルミナスでさえ、

日々何かしらの戦力で領土内の怪物を退治していなければ

いつしか、街と街の間は怪物で遮られ、村は飲み込まれてしまう。


昔から、軍と冒険者はそうして日々を過ごしてきたのだ。


知識と経験の蓄積の結果、人間は多くの怪物に

打ち勝つことが出来るようになっていった。


時には地竜のように、被害を減らすぐらいしか考えられないような

強大な相手もいないわけではないが、その対処法、

必要な戦力の把握などは確実に蓄積され、活かされていた。


お金や物を報酬に、人間同士で依頼という物が成り立つ程度には

人間は勝利の鍵をいつもその手に握りしめているのだ。


「あいつら、どこからこん棒だとか持ってくるんだろうな。

 ゴブリンの鍛冶職人でもいるんだろうか?」


「さあなあ。ほとんどは人間から奪ったもんだろうが……

 それにしちゃあ大きさが変な奴もいるな」


いつしか男とマスターの会話は怪物に移っていく。


酒場の常連の中でも、熟練の冒険者である男の言葉に、

近くのテーブルで飲み交わしていた冒険者達が

いつしか聞き耳を立てている。


「俺、この前鍛冶職人兼冒険者ってやつに会ったのさ。名前はなんだったかな……まあいい。

 そいつ曰く、怪物たちの武器は……最初からそう産まれるんだそうだ」


「……どういうことだ?」


男のジョッキに注がれる4杯目のエール。


そのアルコールが男の口を滑らかにするのか、

どこか芝居がかったように男は口を開いた。


「怪物には2種類いるんだと。俺達みたいに子供から育つ場合。

 そして、最初からそうある場合、だそうだ。

 最初は何を馬鹿なって思ったさ。でも、確かに不思議なんだ。

 コボルトなんかはまだいい。けど……オークの子供って話を聞いたことあるか?

 俺はほとんどない。その割に依頼にはよく出てくる。んで、冒険者に倒される。

 そのくせ、いつの間にか湧いて出てきやがる」


いつかの戦いを思い出したのか、男は腰に下げた剣を

わずかに抜いては閉じてを繰り返し、苦々しく言葉を口にする。


普段から偵察という形で怪物の様子を確かめることはよくあることである。


ただ、それらは現場の数や状況を把握するための物で、

決してこの地域に子供のコボルトが何匹いる、などといった物ではない。


調査をすれば、人間のように子供を儲け、子育てをし、増えていく……

そんな怪物がほとんどいないことに

気が付けるのかもしれないが、そんな研究をする学者もいなければ、

現地調査など夢のまた夢と言える。


「仮に全部子供から育って、武器なんかも何かしらで得てるとすると、

 例えば武器を持った冒険者が大量にやられてなきゃいけないし、

 あるいは商隊なんかが頻繁に襲われなきゃいかねえ。

 そして、大中小、とオークがいつもいなきゃいかんがそんなやつらはほとんど見ねえ。

 つまり、ソイツの言う2種類。育っていくやつらと、最初からそうである奴の2種類ってことだ」


「最初からでかいオークがこん棒込でどうやって出てくるのか……謎だな」


男の呟くような言葉に、マスターも考え込むようにして唸る。


確かに冒険者、あるいは冒険者を知る物であれば時折浮かぶ疑問であったが、

1つの正解があっさりと提示されたことにマスターも戸惑いを隠せない。


「俺だってさっぱりさ。だけど、そうでもしなきゃ……ゴーレムが持つような

 巨大な剣なんざ、そうそうあってたまるかって感じじゃないか?」


だがそんな戸惑いも、男の出した例えにあっさりと霧散する。


近くで聞いていた冒険者も、言われてみれば……と己の経験からくる

怪物の謎に満ちた装備を振り返る。


依頼のために森へ、山へ、洞窟へと出向き、

そこにいる粗末であることが多いが、武器を構える亜人を倒す。


冒険者の依頼で多いのはそうした異形との戦いだ。


時には男の言うような、ゴーレムら魔法生物と戦うこともあるが

そのサイズ、手にする道具の大きさも様々だ。


全て人間から奪ったものと考えるには無理がある物ばかりであった。


「こうしてる今も、どこかでオークが1匹、最初からでかいこん棒を手に産まれている。

 精霊は人間も怪物もある意味区別しないんだ。そういうことがあってもおかしくない」


「ってことは何か? どこかで人間もいきなり産まれてるのか?」


教会を定宿にし、時には神父代わりに教えを説けるほどに

マテリアル教を深く信じる冒険者の、妙に確信めいた言葉。


マスターは思わず、という口調でそんなことを口にした。


「だとしても区別がつかん。俺たちに怪物の区別がつかんようにな。

 ただまあ……世の中には祝福みたいな不思議なことや、

 憎らしい怪物達みたいな謎が多いってことだ」


そうしていつしか、酒場の一角は冒険の中での

不思議な怪物の話や、疑問を口にしあう場となっていった。


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