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223-「戻らないという選択-7」

ちょっとSF的な。


15/01/06:元プレイヤー、記憶の有無に関して訂正しました。

申し訳ありません。

戻らないし、戻れない。


それが今のファクトの答えであった。


この世界で過ごした相手も出来た、という

ファクトの答えを聞いて、何やら考え込む戦女神。


胸の内にあふれる感情らしきもの。


それが何なのか、正確に戦女神は自覚できていなかった。


「貴方は……その……」


戦女神が言いよどむ理由。


それはファクト自身の状況にある。


戦女神は、彼以外に彼がいることを知っていた。


本人が言うように、戻れない存在であることを。


同時に存在する2人以上の自分。


それは転移、転送、そういった話の際に付きまとうある種の仮説だ。


AからBに転移したとして、果たして転移先は本人なのか、というものだ。


仮に全く同じ成分で出来た肉体が複数あったとして、

そこに意識という物はどう扱われるのか。


今のファクトと、現実の地球でのファクトとは肉体からして違う。


地球のファクトは岩を砕くなんてことはできないし、

何メートルも飛び上がるということも出来るわけがない。


それはつまり、地球でのファクトにとって、

今のファクトは本人ではない、というわけだ。


勿論、発達したVR機能による仮想世界では

誰もがそういったことをまるで実体験のように体感できる。


それでも、実体ではないし、再現には限界がある。


今のファクトは、そういったものと違い、血も出れば体温も感じる。


言ってしまえば受肉しているのだ。


実体……と思うしかない体に、完全な自意識。


そんな今のファクト。


であればそもそも、同じであると、元の世界に戻るといえるのだろうか。


仮に今の自意識が現実の体に戻ったとして、

この世界のファクトはどうなるのだろうか。


消えてしまうのか、抜け殻となるのか。


その答えは既にファクトの中にあった。


「いいのですか、それで」


戦女神はファクトの覚悟、そして彼が真実にたどり着いていることに

憐みにも似た感情を抱いて声をかける。


「既に俺はここにいる。であるならばどうしようもないだろう。

 地球の俺が本物で、ここの俺が偽物。そういった次元の話じゃないんだろう?

 どちらも俺だと、精霊が教えてくれている」


納得し、達観したような姿。


自身の正体に改めて確証を得た形のファクトが、

大丈夫そうに見えてもその事実に内心動揺していることが

超常的な能力を持った戦女神にはどうしてもわかってしまう。


精霊は宿る生き物の感情をも受け取り、それを反映した姿をとるのだ。


ファクトに宿る精霊は、その宿主の感情を正確に表していた。


そんな精霊を見、彼女は恨みにも似た感情を抱いた。


自分の思考はなぜ、こうも人間と近い物なのかと。


自分の立場のせいで、彼を元気づけることすら難しいのはなぜかと。


両親が子を成した結果ではなく、

最初からそうある形でこの世界に誕生したファクトを

正しく導けない自分はなんなのだと。


精霊はすべてに宿り、善悪関係なく力を貸す。


そのある一面、人間側に味方する1人として、

もどかしさに叫び出してしまいそうですらあった。


「大丈夫さ。ショックではあるけどな。エルフや、

 他のみんなもその上で生きている。だから、大丈夫だ」


「そうですか……手助けすべき人間に助けられるようではいけませんね。

 ファクトよ、大いなる古き人の子よ。これまでの彼ら、

 貴方と同じ子らがこの世界になぜ誕生したかはわかりません。

 ですが、皆……自分を肯定し、生き抜きました」


─泣きわめくようなガキでもない。


そう付け加えながらファクトが戦女神を慰めるようにつぶやき、

それを聞いて憂いのある表情ながら、きっぱりと言い切る戦女神。


「何人かは上手く力が使えず、嘆きもしましたが

 それも人生、ということでしょうか。貴方以外にわずかにですが

 この世界の住人ではないという自覚を持っていた者もいました。

 貴方と同じように作ることに力を注いでいた老人も

 数百年の時の末、力尽きる時でさえ帰りたいとは口にしませんでした」


遠い記録を読み返しているように戦女神は続ける。


ファクトはそれを聞きながら、老人の心当たり、

古老の庵のことを思いだし、真剣な表情でうなずく。


戦争に飲まれ、自身の力が英雄を貶めた結果そのものは後悔しても、

この世界に生きたこと自体は否定していなかった彼のことを思うファクト。


何故、全員ではなくファクトや古老の庵など

わずかな人員だけがプレイヤーの自覚を持っていたのか。


たまたまかもしれないし、重大な何かが隠されているかもしれない。


だが、答えのよくわからないことを追い求める気もファクトにはなかった。


大事なのは、今と未来をどう生きるかだ、と。


「この先も、きっとなんとかなる。そうなるように頑張るさ」


「わかりました。あの子には私からはそれとなく伝えましょう。

 子供を立たせるのはいいが、自分で立つことも大事だと」


そのぐらいでいい、とファクトは戦女神の言葉に笑い、席を立つ。


背後にはいつのまにか扉が出現しており、

その気配をファクトは感じたからだ。


「貴方に精霊の加護があらんことを。古の意志はすぐそばにいますよ」


声と共に自らの中に何かが入り込んでくるのをファクトは感じた。


嫌な気分ではないそれを受け入れつつ、

戦女神のやわらかな声にファクトは振り返ることなく

手を振って答え、扉をくぐった。












「おかえりなさい!」


まぶしさに目を細めるファクトにかけられた声はキャニーの物だった。


右手に飛びつく彼女に続けて、ミリーも反対側に抱き付いてくる。


「ああ、ただいま。なんとか戻れた」


見た目の怪我はないが、どこか疲れた様子のファクトに気が付き、

姉妹は左右から心配そうな表情で抱き付いた手に力を込める。


そのぬくもりを感じながらも、己の中に水が湧き出るように

新たな知識、詠唱が浮かぶのをファクトは感じていた。


戦女神からの報酬、新たなる力。


「ご無事で何よりです。ファクト様がいなくなってしまえば世界はどうなるかと」


「大げさだな。俺は俺だし、ただの1人の人間さ」


肩をすくめてシンシアに答えるファクトだが、

彼女にとって今のファクトは太陽のような物であった。


予言のような言葉で彼にここへと来てもらったのは、

ここからのためだとシンシアは確信を持った。


どんな手を使ったのか、シンシアやある程度以上魔法の使える存在であれば

目をふさぎたくなるほどの輝き。


戦女神という、精霊の圧縮されたような存在と

時間を共に過ごしたせいだろうか。


今のファクトは彼自身が光そのものであるかのように輝いて見えた。


そんな感想が伝わったのかは不明だが、

ファクトは抱き付いている2人を引きはがすと、

懐に手を入れたかと思うと何かを取り出し始めた。


「もしかして、純銀貨……ですか?」


ファクトの帰還を祝うためにそばに来ていた兵士の1人が問いかけると、

ファクトは笑みを浮かべ、頷きながらもなおも純銀貨を取り出す。


「ちょっと大きな魔法?みたいなのをやろうと思ってな。戦女神から教えてもらったんだ」


取り出した銀貨を手渡し、この辺に置いてくれ、などと指示を出すファクト。


疑問を抱きながらも、きっとすごいことが起きるに違いないと

好奇心も手伝い、兵士や冒険者の手によって銀貨が地面に置かれていく。


戦女神は既に姿を消しており、白い広場とファクト達だけがそこに存在していた。


そして、価値を考えると王族ですらやすやすとは用意できないだけの

銀貨が地面に置かれ、何かを形作る。


「魔法陣……ですね。一体?」


「ちょっと離れててくれ」


そういってファクトは1人、魔法陣の中央へと歩いて行く。


その背中に、一瞬どこかにファクトが行ってしまうような

言いようのない恐怖を感じたキャニーだったが、言葉にはできなかった。


隣にいる妹の手を握り、じっとファクトを見つめるにとどまる。


皆の視線の先で、ファクトは何かを確かめるように手を閉じては開き、

深呼吸をし、言葉を紡ぐ。


「廻る精霊の恵み……制限解放・秘具生成!(マテリアルドライブ)


水のたっぷり入った容器を逆さまにしたかのような濃密な気配。


ファクトを中心に周囲に広がった物はそういった力だった。


力ある言葉に従い、ファクトの足元に力強い輝きの魔法陣が1つ、産まれる。


制限を解除したのは秘具生成。


普段であればイベント用アイテムなどを作るためのスキルで、

使われることの多くないスキル。


その中にある作成可能な物の中には、

ペットになるようなモンスターをテイムするためのアイテムもあり、

同じような物の中にサポートキャラを召喚する物も含まれる。


ゲームでの性能としては微妙で、あくまでもサポートであるし、

特定のイベントでしか使われることのほとんどない物。


だが、マテリアルドライブの効力は

ほとんどの制限を撤廃し、効力を発揮させる。


それは貴重なアイテムを素材とする場合に、素材が無くても構わないということであったり、

多大な体力や魔力を消耗する技であってもその消耗が無いことになったり。


そして今、本来であれば大した力を持たないような存在しか

呼び出せない召喚魔法陣がその制限を撤廃される。


「集え、現れよ。昔から今に至り、明日も続く者よ!」


力強いファクトの声が響き渡る。


実際には叫び自体は既に詠唱でも何でもない。


ただの呼びかけである。


言葉は何でもよかった。


魔法陣がファクトの言葉に力を与え、場の法則がゆがむ。


「あ……緑? 赤もいる」


「お姉ちゃん、あれって……」


呆然とした様子の姉妹の声が他の面々の感想を代弁していた。


言葉も無く、シンシアやアルスも目の前の光景に見入っている。


どこからか、まだ真昼のように明るい中だというのに

色の付いた光の玉が現れる。


1つ、2つ、と数を増やし、いつしかそれは雪の舞う吹雪のように

ファクトの立つ広間を満たしていくように集結し始めていた。


「綺麗……」


誰かのつぶやきのように幻想的というしかない光景だが、冒険者の中にいる魔法を使う面々は

気を保つのが精いっぱいと言えるような状況であった。


一通り色の付いた光の玉、精霊達が躍るように舞ったかと思うと、

その中でも強く光るいくつかが代表してファクトへと吸い込まれ、

すぐさま体から飛び出てくる。


シンシアにはそれでファクトとその光の間に

何かしらの絆が産まれたことを感じ取っていた。


そして、この強い光が噂に聞く古の意志なのだろうと。


頷くファクトを合図にしたように、精霊たちは一斉に飛び去っていく。


瞬きの間にその姿はほとんどいなくなり、

わずかに出遅れたように少しの光が後を追うように飛んでいくだけであった。


「終わりましたか?」


「ああ。これでまた忙しくなる。王女、国の仕事が増えるぞ」


そう大きくないはずのシンシアの声はファクトへと届き、

それに返すファクトの声もまた、全員に届いた。


戻ってくるなり何が起きたかと問う姉妹へ、ファクトは答える。


一家に一人、精霊の時代が来るのだと。





精霊の力を使った力の測定装置や、

ランク付け、レベルという概念が生まれたのはこの時代だったと

後世の人間は各地で記していた。

近いのはサン○イズ英雄譚。


コピーといえばコピーですが、

何を持って本物というのか……そんなお話。

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