212-「機械仕掛けの神様-2」
会話が少ない。地の語りというか、説明が多いような気がします。
ファクトの現在の旅の目的は英雄を増やすこと、と言っていい。
ゲーム上のシナリオという目に見えない、
それでいて構成する要素であるモンスターや各種ダンジョンは
容赦なく人間、あるいはそれに関係する相手に脅威として降りかかる。
その力は小さい物から大きな物まで様々であるが、
普通の兵士、普通の冒険者では太刀打ちできない相手が
確実にいるということもまた、事実であった。
対するファクトは制限付ではあるがそれなりにそれに対処できると言っていいだろう。
各種武具やバフアイテム、覚えているスキルや魔法等々。
だがそれも有限であるし、ファクト自身がどうにか出来る範囲にも限りがある。
ファクトはこの世界での世間一般的には総合的に強い、これは間違いないだろう。
そうはいってもファクトがすべてをどうにかできるわけではないのだ。
その自覚もまた、本人は強く持っている。
実際、制作方面で没頭というレベルでプレイをしていたという自負が
自信にもなっているのだから当たり前と言えば当たり前のこと。
1人では手が足りない。
ではどうするか?
答えは簡単で、手数を増やせばいいのだ。
一人の英雄は100の戦場に立つことはできない。
では100人の英雄未満ならどうだろうか?
世界が人間に牙をむくなら、人も牙を持つべきであり、
その牙を与えてやればいいのだ。
そして今日も、ファクトの牙を与えるための1歩が動き出す。
「報告は上がってきていたが、直に聞くと違うものだな」
「俺としては既にこれだけ報告が来てるだけ驚きだよ」
オブリーンとジェレミアの国境に近いとある町。
フィル王子が行事のために来ているという話を酒場で聞き、
急ぎグリフォンで飛んできたファクトは
フィル王子と酒場の一室で密談のように対面していた。
すぐにある程度は知れ渡るとはいえ、
まだ秘密事項であることを話し合うためだ。
「管理された怪物の巣穴……ダンジョンというのか、を
訓練や生活に組み込む、か。確かに魅力的な案だな」
「実際、封印や制圧は無理なんだ。であるならば出入りを管理する方向に持っていった方がいい。
ここはまだ早い、あるいはそろそろ次でいいんじゃないか?などのようにな」
ファクトの知る地球での紙とは違う作り方、
和紙に近いが魔法が大きく絡むソレに概要が記された計画と
既に発見、確認されたダンジョンらを見比べて呟くフィル。
ファクトもまた、フィルの部下などが集めた新規のダンジョン情報を読み込んでいた。
そのほとんどは入り口すぐの様子しかないが、
未知のダンジョンを確認しようというのだ、仕方のないことだろう。
それでも入り口の様子や、なぜか洞窟の中に川がある、といったことや
何らかの転移の後、空気の違う森林の迷路にいた、など
断片的な情報だけでもファクトにとっては
ゲーム時代のダンジョン群を思い出すには十分だった。
「そうは言っても、こことここは立ち入りを禁止した方がいいな。
手記によればドラゴン種が何匹もいたらしい」
「ドラゴン……精霊戦争時代にはこんな世界を生き抜いていたというのか。
先祖たちには頭があがらないな、まったく」
簡易ではあるが地図に記されたダンジョン位置に、
ファクトは険しい表情で赤丸を付け、
フィルはその場所の報告を読みながらため息をつくようにつぶやいた。
図ったように各国の中心地から外に向かうほど、
段々とダンジョンの厄介さが上がっていくらしい、と
ファクトの見つけた……という形の精霊戦争時代の
冒険者による手記には記されていたからだ。
「これらが出てこない間はトゥリンクル砦みたいなのが散見されたぐらいなんだ。
人間が力を得る機会が増えたと喜ぶ面もあれば、
脅威が増えたということも出来る。悩ましいところだよ」
「トゥリンクル砦か……西方諸国にあるという砦跡だったな?
確かにアレと同じような物か。何、細かな調整や管理は
我々、国が行えばいい。ファクトは気にせず、動いてくれ。
これで多少変則的だがいつかの依頼は達成と言っていいだろうな」
さらさらと、各ダンジョンの注意事項などを
詳しすぎないように記していくファクトが懸念を口にするが、
対するフィルはある意味状況を楽観視した口調であった。
その口調に疑問を隠さず顔を上げたファクトだったが、
フィルはファクトに満足そうに頷く。
「この話はほかの国にも伝わるのだろう?
人間、共通の敵があれば喧嘩はしないものだ。
東のルミナス、そして怪物とダンジョン。どれも我らにとって敵だからな」
「利権を奪い合うことにならなきゃいいけどな。と言っても仕方ないか。
さて、次だが……」
ファクトはダンジョンの話はこれまで、と
新しい紙を数枚取り出す、テーブルに広げる。
「ふむ……ほう、なるほどな。戦力の底上げか……確かにルミナスとの戦いは長くなりそうだ」
ファクトが草案として持ち寄ったアイデアは
既存の組織らに、より明確な役目を持たせるという物だった。
国と軍は特色を生かしてそのままに、
有事の際の冒険者との連携のために報奨金や
参加義務、その代償などが本筋だ。
例えば国は軍を通し、冒険者とその立候補者に
講習や訓練といったものを提供し、
冒険者は依頼として国への物資確保や
戦力支援を行うという物である。
一例としてモンスターの大群の襲撃、あるいはそれに近い物に対して
これまでは任意の呼びかけと、それに答えるという物であった。
報酬もばらつきがあり、十分に報酬が約束できずに
被害を出すということもしばしば、見られた。
ゲーム的に言えば緊急依頼、などと分類されるようなカテゴリーを
作ってしまおうということであり、
その基本報酬と、参加条件を決めてしまおうということになる。
「このあたりは最近話に出ているギルドへの貯金などが関係してくるのだな。
危険に立ち向かう前にいざというときの分配を明確に出来るのはいいことだ。
出来れば死人は出てほしくないものだが……世の中そううまくもいかぬ」
報酬に、参加報酬(生死を問わず)のような文言を見、
フィルは為政者の目となって草案を読み込んでいく。
「ろくに準備もしないで外に出ても実入りは少ない。
であるならば多少は出費はあるかもしれないが、
何かが支援してやることでその冒険者は大きく利益を持って帰ってくる。
そんな世の中、よさそうじゃないか?」
今のように冒険者をただ放し飼いにしただけでは
成長し、利益を生み出すものは数少ない素養を多く持ち、
さらに運が良かった人物のみということになる。
冒険者になる若者が少なくないながらも、まだまだ
胡散臭い印象を持たれている側面があるのもこのあたりに理由がある。
要は親が喜ぶ職業、とは言い難いのであった。
せめて羽化し、独り立ちするまでは
帰る家、補助する何かがあってもいいのではないだろうか、
そうして大きくなれば多くの冒険者が相応の利益を
持ち帰ることが出来るだろう、ということになる。
悪く言えば、冒険者の養殖もどきということになるのだろうか。
もっとも、実際には命のやり取りが絡むわけなので
甘やかすというよりは不慮の事故を減らしましょう、となる。
「うむ。こちらとしても将来のためにやってもいいと思う話だ。
後は物の値段と流通か……確かに管理しきれないからと
商人任せのところはあったな。暮らしに必要な物は国も管理に乗り出すべきか」
草案に続けて書かれているのは薬草や日用品に使うような素材、
道具などの流通に関する物だった。
輸送に諸々問題のある地方を除き、そうでない場所では
民衆がある程度安定した値段で物資を手に入れる必要があるのではないか、という問題であった。
「問題としては手を出す品目を増やすほど、逆に商人を圧迫することになる。
儲けどころが減るわけだからな。だから産出が安定している鉱山資源あたりでいいような気もするな」
詳しい話は専門の人間達で話してみてくれ、と
ファクトは問題を丸投げし、草案を書き記した用紙をそのままフィルに渡す。
思いついたことを書き連ねたような状態の用紙だが、
同じ内容をいくつも持っているのであった。
「西方へはこちらに任せてくれ。オブリーンと共同で提案として持っていこう。
そのほうが話が速いだろうからな」
「商売という点では西の方が目ざとそうだ。とはいえ西にもここと…ここ、
探索の際には十分注意を。
特にここはやばいダンジョンがあるらしい。特に強く言っておいてほしい」
最初の話に戻るように、地図の一角を指さすファクト。
その表情は今までと比べ、特に真剣な物であり、
自然とフィルもその表情を硬くする。
だがその表情の硬さには別の理由もあった。
「そこは伝説の霊山ではないか? 女神と天使が祝福した山という……。
そこに、ダンジョンが出来ているというのか?」
「ああ……そうらしい、という話だがな。
試練……というべきだろうか。かつての英雄がその力を高めるために
登ったという場所。だがそこには強力な怪物たちが
無限のようにあふれているという話だ」
それらしく語るが、ファクトの知る限り最高難易度の
イベントダンジョンが出現した場所であり、
わずかないわゆる廃人層が踏破に成功したらしい、という話を聞くのみの
ほぼプレイヤーの間では未踏破のダンジョンであった。
突破できたものは英雄と言えるだけの力を持った存在であり、
逆説的に英雄としての力を得られた、と言える場所でもあった。
とはいえ、伝承っぽく言わなければ
誰も現実味を持つことができないだろうというファクトの配慮であり、
事実、フィルはファクトのいう試練のような物、という話に頷いている。
神の考えはそうでないものにはわからない。
これはこの世界でも共通の認識だったようで、
ファクトの思惑通りにフィルは考え始めていた。
神の手によるものならばそういうこともあるかもしれないな、と。
女神と天使、そして黒の王が機械仕掛けの神様であるというならば、
その神様を作った存在がいる。
であるならば、人間がそれに対抗する何かを
自分たちで作り上げていくことが出来ないと誰が決めたのか。
(信じているさ。いつだって人は、そうやって乗り越えて来たんだ)
心の中でファクトはつぶやき、
理不尽な不可視の力に抗うべく、決意を新たにするのであった。