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211-「機械仕掛けの神様-1」

序盤は特定の宗教だとかをどうこういうわけではありません。


会話少な目、長ったらしいかも。


ある時、力尽きた同胞を抱き、男は叫んだ。


神などいない。いるならばなぜ我々がこんな苦労をし、

滅びなければいけないのかと。



ある時、お告げに従って困難を乗り越えた男は呟いた。


神はいらっしゃる。だが神は試練を与える。

我々が甘えぬようにと。



そしてある男は言った。


神は間違いなくいる、と。

ただ……誰のための神様なのか、それが決まっていないだけだと。


自分以外、誰も立っていない地獄のような戦場で。



いるかどうかも定かではない、超常的な存在を時に曖昧に神と人は呼ぶ。


あるいは一部の存在だけがその相手を感じられる状況で

代弁者の口から神は語られる。



あるいはここに、とある箱庭がある。


箱庭の住人にとって箱庭の外は知ることのない世界。


箱庭の管理者、観察者は箱庭の住人にとっては神と呼ぶしかない存在であろう。


ただそれでも、箱庭で生きる1人1人にとっては

世界がどうであるかなどは……ましてや

神がどんな存在であるかどうかは関係がないのもまた、事実であった。







「これでファウンテン洞穴……ゴールか。記憶通りか」


重厚な扉を前に、男は1人、つぶやく。


男以外に、言葉を発する存在はいない。


元より、一人でここまで来たのだから仕方のないことだろう。


男が手にしたわずかな明かりに照らされ、

その足元で切り裂かれた異形が地面に溶け、一部だけを残して消えていく。


そんなつぶやきに答えたわけではないだろうが、

沸いたような気配に男の眉がわずかに上がり、この場から離脱すべく走り出した。


手早く地面に残った異形の一部、その牙を拾い上げて袋へと仕舞い込む。


走り出した先で現れるのはゴブリン、ゴブリン、ゴブリン。


体格の差、装備の差はあれどゴブリンの群れ。


まるで洞窟の闇からあふれ出るような数。


醜悪な姿は普通であれば恐怖を呼び起こす。


数だけは1人で相手をするのであれば脅威だが、

その強さそのものは町の大人であればこん棒で殴り倒すことも可能な程度であった。


であるならば、男の敵ではなかった。


「ちっ、武器生成C(クリエイトウェポン)!」


後で血をぬぐうのも、ゴブリンらをいちいち相手をするのも面倒と、

洞窟の地面と同じ色をしたショートソードをその手に産み出し、

邪魔になる相手だけを撃破し、走り抜ける。


男、ファクトの足ならばこのぐらいの深さのダンジョンなど逃げるだけなら1時間もかからない。


自身の感覚でいえば戦闘職ではないファクトだが、このぐらいの相手であれば危険性はほぼゼロだ。


たとえ遊び人やその類だとしてもレベル90もあれば

序盤のダンジョンで死にはしない


そんな理屈である。


「よし、まだ月が出てるな。こっそり帰るか」


月明かりと魔法の灯りで自身を照らし、

着替え程度で済むぐらいの汚れであることを確認し、

ファクトはジャルダンを呼び出して町へと飛ぶ。


ここはオブリーンの首都にほど近い、険しくも街道の整備された山の一角。


小さな町と、古いだけの遺跡が残る田舎そのもの。


その遺跡が聖女に関係があるらしいという噂を聞き、

探索のためにたまたまファクトは姉妹を連れてやってきていた。


運良く、そこにあった聖女と呼ぶには少々芸術的な姿の人物の像は、

確かに聖女のものであったようで、いつかのように祈りに答える力を持っていた。


ここもまた、この世界に生きる人にとって

新たな力を得るための場所となる。


そんな確信を得て町で休養をしていたファクトの耳に飛び込んできた話。


平和な、田舎の遺跡に突然現れた洞穴。


冒険者心をくすぐるあからさまな洞穴だという。


つい先日、ファクトらがそこを訪れた時にはなかった新しいダンジョンの入り口だ。


未知の場所に誰もが躊躇する中、ファクトは1人、

夜という時間に突入を行っていた。


キャニーらに言えば一緒についてくると言い出すのは間違いがなく、

何故一人で行ったかと問われればこう答えただろう。


腕試しがしたかったのだ、と。


確かにこの世界で今を生きる人間にとっては、と注釈がついてしまう場所だが

怪物が忽然と沸き、武器を手に襲い掛かってくる場所ということに違いはなかった。


ただそれも、強さとイコールではない。


ファクトにしてみれば序盤も序盤のダンジョン規模でしかなく、

何より覚えのある場所、名前、構成のダンジョンなのだ。


まさか、と最初は思った。


ゲーム時代の変わらない景色に現れた、見覚えのある遺跡。


外観はかなり痛み、

中にあったのはゲーム時代にはなかった家具や像であったが、

建物やその配置、付近の風景は慣れ親しんだものだった。


そんな場所に開いている、記憶を刺激する洞穴。


そこが記憶にあるダンジョンと同じであることに気が付いたとき、

一人、そのダンジョンへと向かう自分をファクトは抑えられなかった。


ゲーム時代の感情を思い出したからでもあるし、

改めて自分の力を確かめたかったのもある。


「昼間に普通に行けばいいのに、子供かってな……」


ジャルダンの背の上で、思わずつぶやいたファクトに

一声、短く答えてジャルダンは羽を大きく震わす。


グリフォンにとって、この距離は近所のコンビニへと買い物に行くようなものだ。


すぐさま、見張りなのか灯る人の手による灯りが見えてくる。


ゆっくりと、町から少し離れた場所で地面に降り立ち、

ファクトはジャルダンを送還してそのまま静かに走り出す。


既にその身には隠れるための外套は装備済みだ。


動物避けの柵を器用に飛び越え、見張りのいる門を

悠々と通過し、町の通りに出る。


魔法使いが専用の探知魔法でも使っていれば別だろうが、

目視で見る限り、隠れたファクトを見つけるのは難しい。


今後、そんなファクトがこっそりと供給を続ける

偵察や探索に便利なアイテムが普及するとこうもいかないであろうが、

今はこうして、出はいりは自由であった。


「さて、あと何時間寝れるかな。むしろ寝られなかった、とかいって

 酒でも飲んでようか……」


静かな町の通りを歩き、泊まっている宿屋へと向かった足が止まる。


視線の先では、無言で腕を組み、怒った様子の女性が2人。


キャニーとミリー、ファクトの旅の仲間に違いなかった。


2人の怒りながらも、自分の考えを尊重したがゆえに

宿の前で待つという選択をしてくれた……という状況に感謝しながら、

ファクトは先ほどのダンジョンのことを思い出していた。





ゲームとして覚えのあるダンジョン。


果たして……道中の罠や敵の強さ、宝箱や採取ポイント、

そのドロップまでもがゲーム時代のそれと酷似していると気が付いたとき、

思わず笑い出したことを誰も責められないだろう。


他に誰もいない空間であったことも幸いした。


ゲーム時代と同じ戦い方で、ゲーム時代と同じ実入りが期待できる。


これは転じて、この世界の人間の効率の良い訓練メニューであったり、

金銭的な供給源が増えたという意味でもある。


牙や毛皮といった怪物の素材であったり、自然の恵みである素材であったり。


それだけなら喜ばしいことと言える。


だが、ファクトのゲーマーとしての記憶はメリットだけを思い出したわけではない。


人間の味方であるとされる女神、そして天使。


実際問題として、彼女らの提供するクエストは十分な見返りを誇る。


メインシナリオを構成するクエストとして。


そして、ことあるごとにプレイヤーに大きな試練と補助を与える。


ゲームとしては当たり前の負荷。


ゲームバランスというべきものだ。


ゲームマスター、GMも運営者すらいないはずのこの世界で、

そのバランスに何の意味があるかもわからないまま、

それだけの力を持つ存在がいることをファクトは明確に感じていた。


そうでなければ、何の理由があってわざわざ昔のはずの

ダンジョンを再現するというのか。


人の、あるいは亜人や怪物たちの生き方、未来に干渉する超越者。


それは文字だけを見れば東方から黒い手を伸ばしてくる

黒の王のことを言っているようにも聞こえる。


黒の王もその1つではあるとファクトは考えている。


だが、こうも考えている。


味方とされている女神、天使すら、

何かを強制するという点では黒の王となんら変わりがないのだ、と。


試練として、人間に何かしらをしかけてくる日も、いつかくる。


あるいはその日はもう目の前なのかもしれない。


冒険者ギルドで聞いた噂、とある山の噂を聞いたときに

ファクトはそれを確信していた。




「だけど、それでもいいじゃないか」


姉妹をなだめ、ちょっと眠れないから一人にさせてくれ、と

宿の一角、日中は食堂にもなる部屋の一角で

窓辺から身を乗り出すようにしてファクトは空を眺め、呟いた。


その手の中でスキル未満の力がわずかに光を放って消える。


ゲーム時代の、そしてこの世界で手に入れた

そのゲーム時代を超えた力。


同時に覚えているこの世界では遥か昔の知識。


それは今、力となる。


ファクトは思う。


人の手に余る何者かが、人に試練を課そうというのなら、

自分はそれに対抗する術を与えようと。


あるいは、人が自分の力で選択肢を選べるようにと。


脅威を退け、味方と手を取り合い、あるいは敵だった者と

握手をくみかわすという選択肢のために。


この世界はこの世界に生きるそれぞれの物だ、と。


それはある意味、女神や黒の王と同じ、観察者の領域に

いるに存在としての傲慢な感覚なのかもしれない。


「それでも、俺は俺の物だ。好きなようにやるさ」


小さくつぶやき、ファクトは2人の眠るベッドへと戻った。


起こさないように、と気を付けたつもりだったが

ファクトのことを気にしていた2人には無駄だったようだ。


そっとベッドに身を沈めたファクトに、

2人がほぼ同時に体を絡めてくる。


「起きてたのか」


「……ファクト?」


「心配事?」


言葉少なに、2人そろって自分のことを

気遣ってくれている。


そのことにファクトは言葉で言い表しにくい感動を味わっていた。


「ん? ああ……いや……心配することはないさ」


ファクトのごまかしに、姉妹は不満そうではあったが

それ以上追及することなく、腕を絡めたまま目を閉じた。


ファクトもまた、2人のその姿に安心感を感じながら目を閉じる。


何のことはない。


2人の問いかけに他人事のように答えた時、

重大なことに気が付いたのだ。


誰でも無い、自分自身も今はもう、この世界の住人であるのだから

何を遠慮することがあるのか、と。


ありが象に挑むような物かもしれない、と薄れる意識の中ファクトは思う。


ドラゴン1つ、倒しきれない自分が何を出来るのか、と。


ぐるぐると、眠りにつく直前特有の混沌とした思考の中、

あることだけは確信めいてファクトの中にあった。


生き物が機械仕掛けに負けてなるものか、と。

熱い平和が始まります。

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