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205「人ならざる者、人足り得る者-5」

後半は若干想像するとエグいシーンはあります。

大陸の東に広がる大砂漠。


かつてそこにあったという伝説の都の名前をとり、

ガルガンティア砂漠と呼ばれる場所。


自然あふれる西側と違い、何かの影響を受けているのか

砂漠と、荒野ばかりが広がる無草地帯。


北に行けば山々と、森林にぶつかるが

そこは寒さとの戦いの場所となる。


雨量も少なく、何もなければ砂漠が広がりそうな境界で、

生き物が生き残れるか否かが大体決まってしまう。


名もなき雑草1つ見つけるのも大変な場所。


そこに生息する生き物といえば怪物ばかり。


怪物たちはどうやってその体を維持しているのか、

学者にも説明のつかない世界の謎の1つであった。


一言でいえば魔窟である。


旅路に選ぶには過酷な道のりであり、

住居を建てようにもそもそも、資源が少ない。


「であるのにこの規模、この人数を維持するとは……わからんな」


物見台の上から、見えない距離の敵をにらむフェルドナンド。


手元にあるのは幾度かの偵察による結果。


簡潔に記載されたその数字、記述は

怪物やルミナスと思われる軍勢の規模などだ。


目視での建物の大きさなども記載されている。


それによれば目標の建物は徐々に大きくなっており、

最新の確認では2000人規模の物になっているという。


かといって物資が運び込まれる様子はなく、

どう考えても、普通に生活するには物資が足りないはずであった。


勿論、偵察兵がたまたま補給の場面に出会っていないだけという

可能性も十分にあり、フェルドナンドらはその可能性を選ぶしかなかった。


陣地が維持されているというだけで異常である上に、

無補給と考えるのは無理がありすぎたのだ。


あれだけ怪物が闊歩する領域で、陣地を維持し、

さらに拡大させるなど並大抵の苦労では行えないと判断しているからだ。


だが、フェルドナンド、そしてファクトは知らない。


実は本来のルミナス軍が砂漠の進軍は放棄し、

草原と北の雪原に向かっていたことを。


砂漠には精鋭500人、そして同規模の一般兵が進軍し、

未帰還、つまりは全滅したと考えられていることを。


では今、彼らが調べているルミナスであろう軍勢はなんなのか。


草原はケンタウロスと長期戦となり、

北側はまだ未踏破、そして砂漠は全滅、と

事実上失敗しているように見えるルミナスの遠征。


だがそんな彼らがいまだに3方面全てで目撃される理由。


ファクトがそれを知るのはもう少し後になる。




「準備が終わりました。いつでもいけます」


「うむ。警戒は続けてくれたまえ」


フェルドナンドの号令があれば軍はすぐに動き出す。


頑強な防壁といったものを用意できないこの場所では、

如何に早く敵を発見し、迎撃態勢を整えるかが重要となる。


ファクトの手により多少ではあるが

城壁もどきが展開されてはいるが、それも正面をふさいだだけにすぎず、

守りが万全とはいいがたい状態であった。


町に迫る脅威。


その相手を虚空ににらみながら、フェルドナンドは思考に埋まる。


相手が生きている生身の人間と怪物であると

当たり前のように想定した場合、今の状況はありえない。


敵兵が屈強で、怪物たちをはねのけ、

さらに怪物を手懐ける秘策を持っていた、と仮定すれば

一時的な陣地構築は不可能ではないだろう。


だが、問題は食料などの物資である。


水とて、仮にオアシスを中心に建築したとしても

限界はあるといえる。


石材や木材はどこからやってきたのだろうか?


東方から、あるいは途中の自然のある場所から運び込んだ、

というのは考えにくかった。


かといって川を使って運ぶ、ということが出来る立地でもない。


砂漠のど真ん中であるからだ。


ではどこからであるか。


正体不明の敵の背景。


これまでは、それが攻撃を躊躇させる大きな原因であった。


「やはり遺跡……と考えるしかないか」


フェルドナンドはそんな疑問の答えを1つの仮定に求めていた。


それは建物が古代遺跡で、幻の都、あるいはそれに類するものではないか、と。


これは兵士からの目撃証言を聞いたファクトからの推測の1つである。


実際には未実装のイベントの中に、聞き取りからわかった建物の形や、

特徴といったものがあったような気がする、というレベルなのだが

まったく手がかりがない状況から比べれば、それは光明であった。


フェルドナンドも、幾度か聞いたことがある。


世の中には成長する遺跡がある、と。


ファクトはその話を聞き、仮定に仮定を重ねるが、

と前置いた上で建物に関してあたりを付けたのだ。


目撃されている建物もその1種で、ルミナス軍は

それを利用し、何らかの形で怪物の襲撃を防ぎ、

さらには共存しているのではないか、と。


原理は不明であっても、そういうものだと理解できる何かとなった場合、

人は恐怖を和らげることができる。


フェルドナンド以外の兵士や冒険者にとって、

ファクトのその推測はそうであった。


「準備は成った。一当て……やることにしよう」


偵察兵からは、敵がついには巡回のようなものを始めた……、

と報告を受けたフェルドナンドは近いうちに打って出ることを決めていた。


その時がやってきたということだ。


フェルドナンドは壁に立てかけていた両手剣を鞘ごと手に、

物見台を降りていく。


激しい戦いを好むジェレミアの血筋にふさわしく、

フェルドナンドの愛剣は肉厚の両手剣であった。


王の証である物とは別物だが、

かつて探索に出向いた遺跡で見つけた遺物としての力。


装飾は少ないながら、どんな戦場においても

気持ちはなえることなく、指揮官として必要な力を与えてくれる魔剣。


プレイヤーではないフェルドナンドには詳細はわからないが、

使える力、というだけで十分であった。


「進軍用意! 敵を打ち砕く!」


ある意味シンプルな号令のもと、

どこへ、と聞く兵士は1人もおらず準備が始まる。


町では話を聞きつけた冒険者も我先にと装備を身に帯び始めている。


(さて、青いやつらの相手は任せたぞ、ファクトよ)


砂煙をあげ、街中を兵士や冒険者が駆けまわる中、

フェルドナンドはこの場にいない相手に思いをはせていた。









一方、ファクトは砂漠とある岩場に来ていた。


選ばれた20名ほどの兵士と、キャニー、ミリーの姉妹。


そして今回のジュエルスコーピオンの話をたまたま知っていた、

年老いた魔法使いと元冒険者たちと共にだ。


「休憩は必要かしら」


「何、これでも昔は主な狩場がこの砂漠じゃった。

 疲れにくいような動きは熟知しておるよ」


月明かりだけが一行を照らす夜。


キャニーは横を歩く老人を気遣うが、

魔法使いである老人はなんでもないように答え、

砂に足を取られることなく歩き続ける。


逆に、進軍に慣れていない一部の兵士のほうが疲労は多そうだった。


「じいさんは昔からなんで魔法使いをやってるのか不思議なぐらいだったからな。

 お、あの岩だ。あそこから北にさらに2刻もいけば目当ての湖の跡があるぜ」


そう口にするのはしばらく使っていなかったと思わしき、

年季の入った革鎧を着こんだ老人手前といった様子の冒険者。


ジュエルスコーピオンのことを知っている1人としてついてきたのだ。


「そうか。それにしてもどこであんな方法を知ったんだ?」


「どこでってもなあ。有名っていえば有名な話だからな。

 ただ、ほとんどは与太話だって口にする奴もめっきり減ったな……」


ファクトが聞いたのは、この元冒険者がスコーピオンに襲われた町から

逃げてきた一般人や冒険者にやったことだった。


それは驚きの内容であった。


彼は逃げてきた人々から話の内容、青い瞳のスコーピオンに襲われたという話を聞くや

この老魔法使いに、彼らに向けて魔法を浴びせるように指示したのだ


「魔法はなんでもいいんだがな、戦いの際に魔法に巻き込まれた奴はそのままで、

 無傷だった奴ほど狙われたって話があってな。

 青い瞳には手を出すな。もし出したら自分を吹き飛ばせ、ってな

 ものすごくわかりにくい警告だけは伝わってるんだ。だからじいさんに

 適当に死なないような魔法を使ってもらったのさ」


「いきなり魔法を放ったと思ったら人々が気絶していくんだ。

 もう少しで犯罪者としてとらえるところだったぞ」


おどけた様子で応える元冒険者に、

同行していた兵士の1人がつぶやき、そりゃそうだと元冒険者も笑う。


結果として、その魔法により人々にわずかに残っていた

ジュエルスコーピオンの卵から出る魔力は消し飛んでいたため、

避難した先で襲われるということはなくなったのであった。


「今回の話がなんとかなったらよ、また伝えていかなきゃならねえ。

 砂漠は美味いが危ないってな。期待してるぜ、ファクトさんよ」


「まあな。別に相打ち覚悟じゃないからな……荷物を運ぶには十分で、

 あまり大人数にならない程度の編制だ。

 実際、町にはもう奴らはいなかった。俺の推測と知っている話があってるってことだ」


にやりとする元冒険者に頷き、ファクトはそんなことを答える。


事実、既に彼らはジュエルスコーピオンに襲われたという町にたどり着いており、

そこが誰も、何もいないゴーストタウンとなっていることを確認していた。


あちこちに、ジュエルスコーピオンが付けたと思わしき傷跡や

砂漠の乾燥具合により干からび始めた遺体や、

遺体らしきものが散らばる町を、だ。


「出来ればしっかりと埋葬したかったわ……」


「うん……。でも、人だった物、が多すぎたのかな」


一行の中で、沈んだ気配をまとう一番の人間はキャニーら2人であった。


彼女らは町での時間に一番疲弊していたといってよかった。


幸いにも、とはふさわしくないのだろうが、

女性や子供はほとんど犠牲者におらず、

そのほとんどが男、そして宝石を触った人間か

スコーピオンに歯向かった人間、であったために

悲壮感自体は戦場ほどではなかったと2人は感じていた。


だが、今となっては理由は卵を探していたため、とわかるが

執拗に切り裂かれた遺体は人とは考えにくい状態となっていたものも少なくはなかった。


それらを1人1人、正確に振り分けることは不可能で、

結局町はずれに大きく穴を掘り、そこにまとめて火葬つつ埋葬したのだ。


出来るだけ人が横たわるように並べれただけ、野ざらしよりマシといえよう。


ファクトの取り出した地割れのように地面を揺らす斧が無ければ

それ自体、不可能だったといえる。


「結局は人の業が別の生き物である奴らの怒りに触れた、ということですかな」


「ああ。相手にしてみれば家族をいきなり奪われ、別の場所で離れ離れにされたあげく

 その命が失われようとしていたんだ。それは必死になって探し、取り返すだろうさ」


兵士らのリーダーを務める男が何かを悟るようにつぶやき、

ファクトもそれに低い声で答える。


既に彼らの意識に、怪物ごときが、といったことや

復讐心という物はほとんどなかった。


生きる者同士がその住処を隣接し、時には

接触するのであればそれはもう、無理のないことなのだと。


相手を理解して戦う、とはそういうことであったのだ。


その後は黙々と進む一行の前に、一段下がった広間のような場所が広がる。


砂漠の中、大きく広がる岩場のさらに中央。


かつて巨大な湖であったという話のある場所にファクトらは来ていた。


「あれだな。かつて、あの穴から流星が空に昇ったという話がある」


「よし、ゆっくり行こう。ジュエルスコーピオンの女王の元に」


全員が見つめる先。


湖跡の脇にある岩山に、ぽっかりと大きな穴が開いていた。


何の変哲もなさそうな洞穴。


何十年かに一度、砂漠の夜空をを昇る流星が出るという噂のある場所に

一行は静かに近づいていくのであった。






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