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05「新しい生活へ-3b」

・用語説明

【遺物】

昔存在したという魔法やスキルといったものを限定的に再現、発動できる機械。機械といっても見た目は杖であったり、時計のようなものであったり、ブーツだったりと様々。所謂「マジックアイテム」に相当。


---

矛盾があったり、あいまいすぎないか?という部分もあるかと思います。


適宜整合性は取るようにいたしますが、まったりとごらんいただければ幸いです。


――夢を見ていた。


システム上の数字に一喜一憂し、はまっていたあの頃の夢を。




「朝、か」


まだすっきりしない起き抜けの思考を追いやるように、

口に出して確かめる。


今が、少なくとも自分の認識では現実であることを。


当たり前といえば当たり前だが、ゲームをしながら寝るプレイヤーはシステム上、いない。


ハード側でも寝ていると感知すれば大体は回線を切る。


旧世紀でも、一定時間以上操作がなければログアウトする仕様のゲームだってあったはずだ。


ましてや第二の現実ともいえる仮想空間でのゲームともなれば、

接続したまま寝てしまったとすれば、脳には寝ていながら

ログインしているゲーム上のデータは送られ続けるし、影響だって受ける。


寝たことにはならなくなるのだ。


マテリアルドライブでも、スリープはそのためにあった。



「怪我も生々しかったしな」


寝ぼけたままに、包丁でうっかり手のひらを切ってしまったときには、かなり勢い良く血が出てしまった。


ゲームのままであれば、もっとマイルドな描写になっていた記憶がある。


幸い、高レベルゆえの自然治癒からすぐに治ったが、突きつけられた現実は今更ながらに俺の意識を少なからず占めている。


「確実に残る、マテリアルドライブとしての痕跡。プレイヤースキルの残滓である道具達、か」


ゲーム時代の略称をMDとするなら、MD2とでも言おうか。上手い言い方がまだ無い。


いずれにせよ、どこの世界かは知らないが、まったく知らないというわけではない。


物語の数だけ世界があり、運命もある。


いざとなったら目が覚めて、胡蝶の夢だった、となるかもしれないがそれはそれだろう。


今は俺が俺のために出来ることを1つずつやっていくことにしよう。



「まずは食事だな」


普段着にしているこのあたりでも一般的な組み合わせの服に袖を通し、家である工房を出る。


服の元となる素材は確かめたことが無いが、現実の布とそう変わらない肌触りの服はまさに布の服、といった印象を受ける。


当たり前だが、装備的には防御性能は皆無に近い。



「いつものようにくれないか」


「よう! すぐに出来るぜ」


まだ日も高くないうちから、何人も屋台を出している区画へと向かい、長く利用しそうなとある店先に座る。


オープンカフェのようにテーブルと椅子、青空の下で食らいつけ!な感じである。


少し待ったところで、スープとパン、素朴な出来具合のベーコン、といったセットが用意される。


代金として銅貨を渡し、食事を始める。


早朝、ではないがまだ日は高くない時間ながら、人通りはそれなりにある。


彼らはNPCではない、人間なのだ。


彼らの姿や、そのやり取りを見ているとそう、感じる。


と、視界にランニングをする集団が目に入る。


同じような動き、違いはあれど武装された姿。


話に聞く自警団なのだろう。


(そういえば、彼は元気だろうか?)


1週間ほど前に武器を修理、作り直したと言ったほうが正しいかもしれない、そんな武器になった少年を思い出す。


見れば、集団の中に多分そうだろうという小柄な1人がいる。


集団は自分のほうへと進路を変え、不思議に思う間もなく、

屋台の主たちへと声をかけ、荷物運びや雑用を始めた。


「あっ! 貴方は!」


何をしているのか気になったままの俺へと、少年が駆け寄ってくる。


「元気そうで何よりだ」


「はいっ! おかげさまでまだ剣は無事です!」


まだ?……少し天然なのだろうか?


不安を覚える台詞ではあるが、導く先達もいるだろうし、この先鍛えられるのだろう。


「それにしても、新しい鍛冶職人の方が、さらに遺物持ちなんてのは驚きですね!」


聞けば、この前のスキルは遺物、アイテムのおかげだと思っているようだ。


金床か、ハンマーかはわからないけどすごいです!と力説された。


ごまかすためにも、道具は同じものを使うようにしておいたほうが良いかもしれない。


なんにしても、失われたスキルを使える人物が!と騒がれなかったのはいいことだ。



このまま、火炎弾を撃てる炎の杖を持ってますよ、のごとく振舞うのもひとつの手か。

と、その時。


「トモ! 何をやっている! 早く手伝わんか!」


少年、トモへとお叱りの声。


「いけない! 朝の奉仕の時間でした」


そう言って、俺の利用している店で何事かを手伝い始めるトモ。


街の何かを手伝うことで、街の事がわかるし、人同士のやり取りも密に出来る、とトモは教わったことを語ってくれた。


この後も、パトロール兼訓練として街中を走ったりして荷物運びをしたりするらしい。


「ではな、訓練頑張ってくれ」


食事を終えた俺はトモに声をかけてその場を立ち去る。





(自警団、か。冒険者時代も似たようなことをやっていた人がいたな)


特定の街で過ごし、周囲で定期的に戦闘する。


そうすることでゲーム上、その街での治安というか、モンスターの脅威は減るということが起きた。


貢献度のように街ごとに表示されるそのランキングに従い、その街の中ではアイテムが安くなったりと中々面白いシステムだった覚えがある。


実際に遭遇するモンスターは変わらないし、エンカウントしなくなるわけではないのでプレイ上の自己満足の1つではあったが。


確か、自分を登録するためのギルドのようなものがあったはずだ。


まだまだ知らないことの多い街を探索すべく、適当に歩き出す。


目指すは酒場なんかの多い活気のありそうな区画だ。







「結構賑わってるな」


すっかり日も高くなり、もうすぐ昼かというところで恐らくは目的地であろう建物が目に入る。


【白兎亭】と看板のある、酒場のような建物。


カウンターに10席ほどのテーブル、といった具合だ。


壁には何枚ものポスターのような紙が貼られ、様々な装備をした男女が歓談している。


彼らは皆、冒険者なのだろう。


気を引き過ぎない程度に観察しながらカウンターに向かう。


「マスター、エール1杯」


「あいよ。ん? 見ない顔だな。最近街に来たのか?」


手早く出されたエールの対価に銅貨を渡し、答える。


「ああ、一応鍛冶職人としてな。近場なら冒険も出来なくは無いが」


マスターは納得が言ったように頷き、笑顔になる。


「そうか、あんたがそうか。名前だけは聞いてるぜ、ファクトだったか」


「ああ、そうだ。出来れば冒険者について少し聞きたいんだが」


情報量代わりに、と食べ物も頼み、MDのような組織だった何かがあるかを探ろうとする。


周囲の喧騒に紛れ込むようなマスターの語るところによれば、

大小問わず、街ごとに登録用の酒場であったり、建物があるらしい。

自然と依頼なんかもそこに集約されるそうだ。


ただ、この街のように自警団がある程度設けられている街では、長居する冒険者は少ないとのこと。


それは当然で、自警団が活動していれば街は安全になり、冒険者が出張るような事件なんかは減るからだ。


安全に稼ぎたい時には良いが、危険を味わいたい奴らは安全ではない街に向かったり、拠点はここにして、遠征をする、といった具合らしい。


MD時代にあった、貢献者への優遇はまだあるらしい。


例えば宿泊代が割り引かれたりといったことのようだが、また1つの痕跡が見つかる。


「ありがとう。勉強になった」


マスターからの登録の誘いには1度断りを入れる。

まだこの世界どころか、当たり前の常識が不足している状態では何が足元をすくうかわからない。


もっと学んでからにしようと思ったのだ。


いつかは俺自体、この街、工房を拠点として臨時にパーティーに加わる、といったことをしても面白いかもしれない。


また来ると言い残し、酒場を出る。


ちなみに壁に貼られたポスターは冒険者向けの依頼のようだった。


鉱山跡に潜む影、という文言が気になったが、今日は辞めておこう。



その後も、何日も様々に情報収集をしたり、酒場の冒険者と語り合うなどして、

自分の立ち位置、今後の身の振り方といったことに思考をめぐらす。


近所の依頼を受け、他愛ない会話をしながらも、今の常識を吸収することを忘れない。


生活にも慣れた頃、気がつけばほぼ一ヶ月が立っていた。


街のどこでもとまでは言わなくても、大体行けるようになったし、知り合いも増えた。


そうなれば、狩になるか、探索になるかはその時次第だろうが不定期に冒険をしてみたい欲求が沸いてきた。


今後の動きに少し悩んだそんな折、自警団が定期巡回の際に、最近噂の真相を確かめに遠征に行くことを聞いた。


なんでも、隣の街へと向かう街道から外れた丘にモンスターが集まっているらしい。


今は街道沿いで行方不明者が出た、といった具合のようだがひどくならないとも限らないということらしい。


もし、モンスターがいて戦いとなれば自分にも修理なんかの依頼が来ることだろう。






結論から言えば、俺の予想は半分外れた。


「君がトモの武器を手配してくれた鍛冶職人だな? 事務所まで付き合って欲しい」


自警団が戻ってきたという話から、今か今かと待ち構えていた

俺にやってきたのは依頼ではなく、目的不明の呼び出しだった。


後ろに少年―トモを従えて尋ねてきたのは、以前トモを叱っていた男性。流れからしてそれなりの立場なのだろう。


「事務所までって、別にそれはどこからか盗んだわけじゃないんだけどな?」


「ああ、トモから目の前で鍛えなおしてくれたということは聞いている」


男性の視線は俺の後ろの仕事場に向かっている。


遺物で作ったんだろう?と言いたいのだろうか。


「お茶ぐらいは出るよな?」


「おかわり自由だ。出がらしになるがな」


堅いだけじゃない、ユニークな1面もあるようだ。


個人的にも気に入ったので、誘われるままに行くことにしよう。


火を落とし、出かける準備をする。



冒険に出る。


そんな目的があっさりと叶う事になるとは俺はその時、考えていなかった。


いや、工房を構えようとしたり、自分を売り込むようなことをしていたのも、きっかけが欲しかったのではないだろうか。


自分が、MDのゲームプレイヤーであるファクトではなく、

この世界に生きる、一人の人間としての【力を持つ者】としてのファクトとして生きる覚悟を決めるためのきっかけを……。



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