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201「人ならざる者、人足り得る者-1」

色々修正

「ただいま戻りました……あれ?」


兵士である男が1人、息を切らせながら物見台に駆け上がってくる。


その場にいるはずの誰かを探し、部屋の隅々に視線を向けるが目的の相手はいないようだった。


「この時間ならここにいると読んだんだが……違ったか……わっ!?」


ため息をつき、他の場所を探すべく振り返ったところで

視界の上から伸びた手に驚かされる。


慌てて腰の剣に手をやったところで、手の主が誰なのかに気が付く兵士。


「王子、なんで上にいるんですか」


「上のほうが見通しがいいからなあ。具合はどうだ。

 といっても予想通りなのだろうが」


半ばあきれ気味に、部屋の窓、その枠の上から逆さまに部屋を覗き込む男、

王子へと兵士は声をかけ、緊張を解いて姿勢を正す。


本当なら一般兵の見張りがいるはずの物見台。


その屋根に上り、水面を覗き込むようにしゃべる背の高い男。


逆さまのまま器用な動きで屋根から降り、物見台の

普段であれば一番上である部屋に入る。


椅子に座るその姿は気品を感じさせ、装備も豪華そうだ。


あちこちが痛んでいることを除けば。


「はっ。やはり謎の建造物がありました。周囲には怪物と……人影が。

 遠目からですが間違いなく我々の土地の人間ではありません」


「そうか……」


風を受け、髪をなびかせる人影は一言でいえば美しかった。


親の血を引いた金髪とサファイアのような瞳。


一見、荒事の似合わなそうな優男風ではあるが、

鎧の中に隠された肉体が鍛え上げられた結果の、

余分な物が何もない物だと兵士はよく知っている。


鍛錬として相手をする1人は自分自身なのだから。


「気に入らんな」


椅子に座ったまま腕を組みそういって男、

ジェレミア王家第一王子、フェルドナンドがつぶやいた。


にらみつける先に広がるのは草原と砂漠。


主に砂漠の割合が多いこの土地にもルミナス軍の先兵はやってきていた。


だがこの夏、大方の予想に反してルミナス軍との

本格的な戦闘は起きなかった。


その代わりにあちこちで目撃はされるという状況。


町や軍の砦である場所は日々ピリピリとした緊張感に包まれていた。


そしてある日、ぴたりとやんだのであった。


最初はたまたまこちらに来ていないだけかと思われたが、

そうではなかった。


陣地である町から早馬でも数日はかかりそうな砂漠地帯。


その中にあるオアシスに、唐突に建物と呼ぶには大きな

砦が出来上がっていたのだ。


偵察に出かけた兵士は目を疑った。


なぜなら周囲は怪物のよく出る場所であり、

迂闊にテントでも設置をした夜には巨大ワーム、

あるいはサソリの軍団に即座に襲われるような場所であったからだ。


砂漠のオアシスはそれだけ貴重で、誰もが注目する場所である。


そんな危険のど真ん中にあるオアシスに建物を作り上げている。


正気ではない。


それが偵察した兵士、そして王子らの共通の考えであった。


怪物らと日々戦いながら建物を維持しているのかと考えられたが、

偵察した兵士の報告では襲われた様子はないという。


「そんな建造物がいつのまにかできていたというのも気に入らないが、

 ほとんど沈黙同然だというのもさらに気に入らない。

 しかも、建物のそばをスコーピオンどもが気にせず歩いていただと?

 ……一当てするか」


「お、おやめください!」


物腰は丁寧ながら、唐突につぶやかれた言葉に、

やはりこの人はジェレミアの血だ、と兵士は思いながらすがるように叫ぶ。


ただでさえ巨大ワームとスコーピオンは互角の領土争いをしており、

下手につつけばどうなるか、兵士は怖くて仕方がないのだ。


人間側の領土に両者が手を出してこないのは、

本能などからその隙をライバルに付け込まれると知っているからでしかないのだろうと。


「冗談だ。どうせやるなら徹底的にだ。依頼も出さねばならん」


兵士の制止に従ったように見えながら、

あっさりと増員を口にする王子に、兵士は思わず天を仰ぐのだった。


ただ……その願いが様々な要因を重ねて、意外に早く叶うことを本人は知る由も無かった。






「というわけで稼ぎたいと思う」


「大事な話だっていうからなんだと思ったら……新しい転送門がなかったら半年はかかってたよ」


「2人で修行してこいって急にいなくなったと思ったらこんな場所にいたんですね」


酒場の一角で、年季の入った木の椅子に座るジェームズの前には男女。


別れた時と比べ、ジェームズから見てかなりたくましくなったクレイとコーラルである。


また、この部屋にはいないが、彼らの知り合いという冒険者が多くこの町にやってきている。


ジェームズの言う儲け話に乗るために。


「それで、なんで俺たちを? そのさ。戦争とか触らないようにってやってくれてたじゃんか」


クレイは、ジェームズの気遣い、

若い2人が世に出たきっかけでもある人間同士の戦争、紛争へは

出来るだけ触れなくてすむように立ち回っていたことを知っていた。


敢えて口に出すのもどうかと思い、今日まで言わなかったのだ。


そんなジェームズが稼げるからこっちに来ないか、

怪物以外に東方の国と戦うらしいが、と添えてギルドでの魔法無線で誘ってきたのだ。


色々な意味で興味を惹かれ、2人と冒険者の集団は

馬と転送門を使い、この地にやってきたのだ。


フェルドナンド王子が駐留する東の砂の町、アスラエールへと。


「ああ……そろそろ子供扱いも良くねえなって思ってな。

 それによ、今回はどうもおかしい」


「……大きな遺跡でもありますか? ずっと向こうに、ここからでも何か感じますよ」


以前と比べれば格段に杖の力になじんできたコーラルが

臭いをかぐようにきょろきょろとしたかと思うとそんなことを呟く。


魔法使いの持つ魔力センサーともいうべきものには

周囲に漂うなんともいえない気配がひっかかっていた。


そんな彼女が指さした先はフェルドナンドが攻め込もうかと

冗談に口にしたオアシスと、建造物がある方向であった。


「実際はどうだかわからんがな。少なくともここらじゃ討伐依頼は尽きることがない。

 割もいいしな。ついてきたお仲間にもそういっておいてくれ」


「うん。わかった。どうせ今回は一緒にやる予定はなかったからね。

 別行動だって言ってくるよ」


ジェームズが視線を向けた先には、壁一面に貼られた依頼書。


ここがギルドの出張所のようになっていることは

入った時から感じていた2人は頷き、クレイは

既に依頼書の前にいる冒険者たちへと歩いていく。


「本当に急ですね。少し前まではこんなに人がいなかったんじゃないですか?」


ちらりと、椅子に座ったままのコーラルが

酒場の中や往来の人の姿を見ながらつぶやく。


「ああ……。内陸は国同士の同盟も順調だからな。

 荒くれは飯の食い上げってわけだ。

 西方諸国からも集まってきてるって話だぜ」


コーラルは何が、とは言わない。


だがジェームズはそれを問いかけることなく、

こちらも淡々と答える。


当人たちには自覚はないが、

冒険者の中堅処としてはかなりのハイペースで依頼を

こなしているコーラルは、儲け話の裏にある厄介な気配と、

逃すには惜しいであろうそのおいしさも感じ取っていた。


(ま、クレイには気にせず戦ってもらえればそれでいいんですけどね)


難しいことを考えることが苦手な相棒を視線で追い、

コーラルは1人ため息をついた。


「なんだ。ため息は女の魅力を減らすぜ?」


「誰がそうさせてるんですか、まったく……」


疲れたように答えながらも、コーラルに暗いところはない。


この町に来る前に聞いた話、そして

町で売っている物資の中に見知った気配を感じたからであった。


(あの人が、ファクトさんが後ろで支えてくれるならきっと大丈夫)


コーラルにとって、ファクトは不思議な存在であった。


全身、魔法の灯りをまとっているように見えたまぶしい相手でもある。


途中から力の使い方を覚えたのか、そうまぶしくなくなったのも印象的であった。


そんなファクトが作った、あるいは手にしている何かは

まるで目印であるかのようにコーラルの目には違って見えた。


それは魔法使い特有の鍛え上げられた感覚がとらえた

精霊の気配でもある。


この町についたとき、ほぼ同時に運び込まれた商人の馬車に、

そんななじみのある気配を感じ、コーラルはこの町で戦う決心を固めていたのだった。





「いいか、魔法の媒体になる矢じりはこうやって遠慮なく一発で終わらせるんだ。

 何回も触ると魔力の通しが悪いんだそうだ」


建物に男の声が響く。


その声に若い声が答え、金属音がいくつも響いた。


「不思議なもんだな。こんな風に作るのか。

 ファクトがいるだけでだいぶ違うもんだ」


その様子を、少し頭の茂みが寂しくなってきた男が眺め、呟いた。


「まあ、俺のやり方だから合ってるかどうかはわからんけどな。

 出来てるんだからいいだろう」


そういってファクトは眺めていた男、ガウディへと向き直る。


ドワーフの里から出、王家への報告を済ませた3人は

続けて東側の状況を聞き、支援のために移動をしていた。


目的地はファクトが最初に訪れた町、グランモール。


近くで偶然にも、東方への転送門がある遺跡が発見されたということだった。


各地で発見される転送門とその遺跡に、

どこか操り人形の糸が伸びているかのような感覚を

ファクトは感じていたのだが、それを確かめる術もなければ

利用しないという手もまた、無かった。


実際、グリフォンで休みなく飛んですら

やはり世界は広いのだ。


メンテナンスの点で不安は残るが、

1000年の時を経て、なおも健在な遺跡が

そう簡単に壊れることもないだろうという希望的観測でもある。


覚えているゲーム時代の転送門の位置や、

その設置された状況を出来るだけ思い出し、

紙にそれらしく書き出してギルドに流すことで

遺跡のありそうな場所を冒険者が依頼ついでに

探索することを誘導することも忘れない。


時々、ダンジョン化している場所への転送門となっており、

冒険者がひどい目にあって帰ってくる場合もあるのもご愛嬌である。


バブルのようににぎわうグランモールへ戻ってきたファクトだったが、

一応警戒していた貴族からのちょっかいはなく、

それどころか工房が増えており、周囲のいくつかの建物を

全てガウディが主導で増やしたと聞いて驚くこととなった。


そんな工房群の1つで、ファクトは需要が増えているという

魔法矢の制作を若い職人たちに教え込んでいるのだった。


「にしても、急に需要が増えたんだよな。少し前まで魔法矢なんて

 使えるのはごく僅かだったのによ。要は魔法使い未満だが

 魔法もどきが使えるやつが増えたってことなんだが……。

 ファクト、心当たりないか?」


「なんで俺に聞くのかはわからんが……さあなあ。

 あっ、キャニー、ミリー、どうだった?」


ガウディのさりげない追及に、落ち着かない様子のファクトは

姉妹が工房の入り口にやってきたところでわざとらしく駆け寄っていく。


結果、部屋にはガウディと教えをもとに

一心不乱に魔法矢用の矢じりを作る職人たちが残った。


「まぁ……なんでもいいんだけどよ」


呟いたガウディの声色は明るかった。


要は彼自身も、新しい技術、新しい流れにわくわくしている一人だったのだ。


そんなガウディも、ファクトでさえも気が付いていない。


静かに、世界はまた変革への1歩を踏み出していた。

タイトルの意味がわかるのは後半予定です。

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