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194「聖剣、名剣、その答え-2」

ドワーフは鍛冶技術に優れる。


その原典となる話は古く、ゲームとしてのMDが世に出る頃には

様々な後付設定を経て、多くの人間は亜種というべき情報しか知らない時代であった。


ファクトの知るソレも後世に肉付けされたさまざまな

ファンタジー作品によるものでしかない。


そんなファクトの視点から見ても、

グランドバの街並みはある種、懐かしさすら感じるものであった。


つまりはただひたすら、ドワーフっぽかった、というべきだろうか。


豪快ながらも技術を感じる岩と木材の家、

所々立ち上る炉であろう物の煙。


あちこちにつみあがる薪、あるいは鉱石。


行き交う男女も全てドワーフだ。


男は硬そうな髭が大きく伸び、

女性側も生半可な男では太刀打ちできないであろう筋肉質の体をしている。


ファクトも見慣れた人間側と比べると、どうも平均的に

身長が低い気がするのが気になるところだろうか。


時折広場のような場所にいるのは子供たちであろう。


見た目はかわいらしい人間の子供と同じ姿だが、

よく見ると男は毛深いし、女側も

ほっそりとはいいがたい。


幼いころから既にドワーフらしさという物があるといえるだろう。


得意な産業のある田舎町。


ファクトが思ったのはそんな表現であった。


耳に届く喧騒と、鼻に届く何かが燃えているであろう臭い、

そして……。


「なんかあちこちから赤ちゃんの声が聞こえない?」


「あ、お姉ちゃんも? なんだろう、たまたまこのあたりに多いのかな?」


馬車から身を乗り出すように、キャニーとミリーが周囲を見渡す。


2人が言うように、喧騒に混じって明らかに赤ん坊の泣き声が響いている。


しかも1つや2つではない。


ファクトがふと見れば、街を歩く面々も言われてみれば赤ん坊を抱えた母親が多い。


大人に対する未成年らしいドワーフの数はそう驚くほどでもない。


よくある街の割合のようだが、井戸端会議のように集まっている

10人ほどのドワーフの女性が全員赤ん坊を背負うか、

前に抱っこしている光景というのは少々不自然に思えた。


「ここ半年は恵まれていてな。毎日夜泣きで大変なのだよ」


御者を務めるドワーフの1人が、振り返りもせずにそう嬉しそうに言う。


疲れてはいるが、子供は宝。


そんなことが言外に3人には感じられた。


(種が絶えないというのはいいことだが……なんだ? 何か違和感が……)


ファクトはそんなドワーフの言葉と、

街の光景に何とも言い難い物を感じていた。


明確な答えは見つからないが、何か順番がおかしい、

そういう類の違和感だ。


「そら、長がいるのはあの建物だ。ダガーを持って挨拶に行くといい」


「助かる。冒険者ギルドもない場所だからな」


大岩をくりぬいたような建物の前で馬車は止まり、

ファクトたちはドワーフに礼を言って扉をくぐる。


いくつもの大きな窓からは太陽の光が十分降り注ぎ、

灯りが無くても室内は見渡せた。


いくつもの棚が壁に立ち並んでいる。


1つの棚には何かの薬品が入っているらしいビンが並び、

遠目に見ただけでもファクトに力を感じさせた。


「なんか、高そう」


「う、うん……あれって魔石だよね」


きゅっと、ファクトの服の裾を握るキャニーに答えるように、

ミリーが指さす先にあるのは

無造作に籠に入っているいくつもの色のついた石。


手の取るまでもなくファクトにはわかる。


あの青い石が水属性の力を秘めたものだと。


しばらく観察を続けたが、部屋の主どころか

誰も出てこないことにファクトは気が付いた。


よく見ると部屋の奥、その扉の手前に呼び鈴のようなものが置かれていた。


ゆっくりと、まさか爆発はしまい、とファクトがそのボタン部分を押し込む。


予想したベルの音の代わりに、懐かしさすら覚える

ビープ音、そして電子的なオルゴールのような音が部屋に響き渡った。


聞きなれていないキャニーとミリーは何が起こるのか、

と半ばパニックである。


だが、ファクトは突然の音に驚きながらも恐怖はしない。


その姿に姉妹は落ち着きを取り戻し、音が気が付けば音階を結び、

音楽のようになっていることに気が付く。


「これって……」


「呼び出しのためみたいだな。随分と手間がかかっているというか、

 贅沢なような気もするが……ん?」


扉の向こう側で何かが動くのをファクトは感じた。


(音? しかも下から……上がってくる。これは!)


仕組みは別として、起きていることを理解して

ファクトは姉妹ごと後ろに下がる。


何かが下からエレベーターのように上がってきているのだと気が付いて。


鍵のかかるような音とともに、3人の前で扉が動いた。


「ふう。む、人間がこんなところに? お前たちが久しぶりの客人で間違いないか?」


ずんぐりむっくりとした巨体。


とはいえ身長としては150㎝程度だろうか。


その筋肉質な体格が巨体、と感じさせる。


室内ゆえにか、服装は人間の町でも見かけそうな布によるゆったりとしたもの。


あちこちは汚れているあたり、作業着なのかもしれなかった。


日焼けか、炉の炎による焼けか。


赤黒い肌に、親しみを感じさせる瞳。


いかつさよりも頼りがいを感じる姿がそこにはあった。


「ああ、俺はファクト。これを作った本人だ。2人は連れ、キャニーとミリー。

 よかったら話を聞かせてくれないか?」


「話か……とりあえず座れ。茶ぐらい出させろ」


ドワーフは部屋の隅にある椅子とテーブルを指さし、座るように促す。


大きく、囲んで食事をしたならば随分とたくさんの料理が

乗りそうなテーブルに手をつきながら3人は座り、

ドワーフを見つめる。


ファクトはヒートダガーを取り出し、

専用の鞘ごとドワーフの前に滑らす。


そんなダガーを手に取ったドワーフの髪は茶色をメインに、どこか光沢があり

3人の予想よりドワーフの身だしなみが清潔であることを示していた。


これぞ髭!と自己主張しそうな髭も

手入れがされていることを感じさせるきれいな物だった。


ただ、一言でいえば身綺麗なテンプレートなドワーフ、であった。


斧でも持たせれば完璧である。


だが、目の前のドワーフは斧の代わりに懐から小さな筒と、

手のひら大の何かを取り出した。


「どうれ……見るだけでも十分だが、これは心が躍るな」


見定めされている、そう姉妹は感じた。


ファクトもそう思いながら、別のことで驚いてそれどころではなかった。


ドワーフが取り出したもの。


それは紛れもないレンズを利用したいわゆるルーペであった。


透明なその板越しの景色がゆがんでいることからも間違いない。


しかもパッと見でも複数枚を組み合わせた拡大率の高い物だった。


そして筒状の物は恐らく顕微鏡とルーペの合いの子のような物だと

見た目の意匠から感じ取っていた。


(MDにルーペなんてなかった……レンズだってほとんどあってないようなものだ)


漫画風に言うのであれば、その時ファクトは

冷や汗のように大きな汗を1つ、たらしていたことだろう。


ルーペに使えるような精度のレンズがあるということは、

他にもいろいろと応用がきくということだ。


遺物扱いの双眼鏡もどきですら、目の前のレンズを

上手く使うだけですぐに再現できる。


そこに魔法を少し加えるだけでも戦場は変わる。


ドワーフが外に出てくることはあっても

中に職人以外が入り込むことはできない。


そんな閉鎖的な状況の理由をファクトはその時、実感していた。


「素材の使い方、形、性能……うむ、素晴らしい。里の若い者にも見習わせたいな」


「ドワーフにそういってもらえるのであれば光栄だ。

 そうだ、名前を聞いていなかった」


ドワーフの賞賛に、本音を返しながらも問いかけるファクト。


その顔が少し緩んでいることに姉妹は気が付いていた。


そう、ファクトもわかる相手で嬉しいのだと。


「うむ、我が名はマルディン。この里の長をしている。

 ファクト……だったな、して用件は……」


名残惜しそうにヒートダガーをファクトに返し、

いつの間にかやってきた女性のドワーフが用意した

お茶に口をつけ、職人から為政者の顔になり、マルディンが問いかける。


「書状がここに。力を、貸してほしい」


マルディンはフェンネルからの、正確には

オブリーンやジェレミアの王族連名の協力要請、打診が

書かれた書状に目を通していた。


「言葉とは、便利な物だ」


なんのことだ、とファクトは一瞬思ったが、

場を考えればこの後に来るのは大事なことだと気が付く。


「甘く、時にしびれるように人を動かす。それがどれだけ愚かな道でもな」


「俺たちが愚かな選択をしていると?」


見つめられながらのつぶやきに、ファクトは思わず反論してしまう。


ファクト自身は王の血筋というわけでもない。


訓練を受けたこともないわけで、交渉のプロというわけでもなかった。


それでも役目を受けたのは自身の特異性と、

それが生み出す状況が何かしらの打破になると期待されているからだと

ファクト自身は理解している。


ゆえに、思わず飛び出た言葉に自分自身で失敗だったかと感じていた。


だが、マルディンはそれを責めるでもなく、

笑顔で首を振った。


「そうではない。頼れるものは頼るのが生きるものということだ」


くるくると、書状を丸めて紐を縛りながらマルディンは幾度もうなずく。


「噂は聞いているぞ。各地のドワーフが時折里帰りをしてくるが、

 東の面々はほとんどが戻ってきている。口々に『東はもうだめだ』といっている。

 どこまでが本当かはともかく、ドワーフを道具のように扱っているのは確かだ」


じゃあ、と色めきだつキャニーとミリーにやさしく視線をやり、

マルディンは頷く。


「里を解放するわけにはいかんが、人が人でいられるように協力はしよう。

 ただし、やれるのは互角に持っていくまでだ。切り開くは人の力、よいな」


「十分だ。ドワーフの秘術、それが一端でも見ることができるなら

 きっと大きなことになる」


真面目な空気が部屋に広がり、盛り上がってきたところに

刺さるような泣き声。


赤ん坊の物だ。


ファクトが見れば、先ほどお茶を運んできた女性ドワーフの背には

赤ん坊がいた。


「そういえば、随分子だくさんというか、同時に産まれたんだな。

 町もあちこちで聞こえたが……」


「去年まではそうでもなかったのだがな。

 今年は人数が多い。先月も20人ほど親が決まったばかりだ」


(親が決まった?)


マルディンの答えに、ファクトは引っ掛かりを感じた。


「決まったって、ドワーフって人間みたいにその……男女ですることして産まれるんじゃないの?」


「あれ、でも妊婦さんもいたから普通に、なんじゃないのかな……」


ファクトが口にする前に、姉妹が代弁をし、疑問が口に出される。


「ん? おお……無論、ドワーフも男女の愛の結果、産まれる形もあるぞ。

 そうでないものもあるということだ。……見てみるか?」


思い出した、と言わんばかりに手を打ち鳴らすマルディンの提案に、

驚きながらも3人は頷くのだった。


案内された先にあったのは、地下に延びる洞窟の入り口だった。

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