04「新しい生活へ-3a」
今回は主人公はファクトではなく、武器を作った彼になります。
「よし、出発だ!」
隊長の声を合図に、先輩達も隊列を組んで歩き出す。
20名ほどの集団、グランモールの自警団が一斉に動き出す。
定期巡回、僕にとっては初陣となるかもしれない街の周囲で行う巡回だ。
街道や街道沿いのモンスター退治や街道の破損箇所を確認するために行われる。
今はまだ整備された道の感触を足裏に感じながら、
手元の武器、一月ほど前に鍛えてもらったばかりの剣の感触を確かめる。
前より軽いはずなのに、前より感じる重さ。
(大丈夫だ、やれるさ)
訓練も剣に無理をさせない、先輩が言うには
悪い癖が抜けたものが出来ている。
きっと何とかなる、と思いたい。
休憩を挟みながら、確実に街から離れる。
「トモ、大丈夫か?」
「はい、先輩! まだ行けます! モンスターにも出会ってませんし」
僕、トモ・ビビアより2年先輩に当たる方にはっきりと答える。
事実、まだ街道沿いなので大きな問題は発生していない。
問題はここからだと聞いている。
「よし、では我々はモンスターが集まってきているという丘に向かい、
事実を確かめ、そこに集まっているモンスターを殲滅する!」
力強く宣言する隊長に武器を掲げることで答え、僕達は丘に向かうべく、森に入った。
濃密な緑の臭い、そして木漏れ日。
何も無ければそれで良いし、戦いは無いほうが良い。
でもそれではモンスターが集まっているという噂を消すことは出来ない。
集まっていないことを証明することは誰にも出来ない。
何かで読んだ気がする。
「はぁはぁ……あれ?」
「どうした?」
思ったより急勾配の道に上がった息を必死で整え、ふと
手をついた木に違和感を感じ、声を上げるとすぐに先輩が近寄ってくる。
「いえ、これって、何の跡でしょう?」
僕の膝ぐらいにある何かをこすり付けたような跡を指差す。
「! 隊長! いますよ、奴ら!」
先輩が言うには、これはモンスター、ゴブリンやコボルトのような
比較的小柄な奴らが縄張りの主張をするように行う行為だということだ。
削れた跡がまだ乾いていないところを見ると、最近のものだろうと。
「各員、装備を確認しろ。戦闘は近いぞ。新人は陣の中央へ」
隊長の指示で伸びていた陣形がまとまる。
当然、経験の無い自分は守られる位置になる。
そこに悔しさを感じながら、生き残ることが大事なのだと思いなおす。
いつ襲い掛かってくるともしれない相手に神経を使いながら、
ゆっくりと歩を進める。
体力の消耗よりも先に緊張でだめになりそうだ。
やがて、差し込む日差しの量が増えた頃、
耳障りな叫び声が聞こえた。
「いたぞ! ゴブリンだ!」
丘の中ほどに、小屋と呼ぶのも不釣合いな木材の寄せ集めがあり、
その周囲に20匹ほどのゴブリンが見える。
訓練の時に絵で見たとおりの醜悪な姿だ。
陣形も何も無く、ばらばらに襲い掛かってくる。
もし、まとまって襲ってきていたら大変なことになっていただろう。
隊長や先輩達の武器と、ゴブリンのナイフのようなものが音を立てる。
「うわぁ!」
僕もそれに習うように、奴等の中でもさらに小柄な近寄ってきた1匹と斬り合い、
何合かの末に武器を弾き飛ばすことに成功する。
『ギッ!!』
それでもゴブリンの目はひるんでいない。
自分と人間が殺しあう仲、どちらかが死ぬしかないことを知っているのか。
どちらにしても、彼らの爪や牙はそれだけでも僕の肌を貫通し、首に刺さることだろう。
「来るなっ!」
叫び、恐怖を隠すように剣を振るい、そのゴブリンを倒す。
初陣、そして初の戦果。
それを実感する前に全身を満たす、生き残っているという安堵。
「皆は!?」
見渡せば、先輩達が押している。
見える範囲ではゴブリンは数えるほどに数を減らしている。
その時、森の奥からゴブリンの増援がやってくるのが見え、
僕はゴブリンや隊長達から吹いてくる風に乗ってくる血の臭いに
むせながら、合流しようと走り出す。
僕は夢中だった。
戦闘の興奮、そして増援への恐怖。
訓練どおりにやれば、なんとかなるという自信。
新しい武器への安心感。
全てが入り混じって、なんともいえない感情を生み出していた。
ゴブリンの数は思ったより多く、1匹1匹は思ったよりは強くなかった。
けど、終わらないという焦りが疲労を招く。
先輩の一人が背後から奇襲を受けようとしているのが目に入り、
滑り込むように剣を突き出す。
「先輩っ!」
かみ合う金属音、訓練どおりに止まる相手の勢い。
『ギギッ』
悔しそうな声、僕が押し返すより先に先輩が振り返り、一閃。
それだけでゴブリンは息をしなくなる。
「助かったぜ。やるじゃないか」
「まだまだですよ」
上がった息を誤魔化すように、強がりを言う。
「もう少しだ、行くぞ!」
「はいっ!」
その先輩と連れ立って隊長達が進んだはずの方向へと移動し、足が止まる。
隊長が、膝をついている。
あと少しのはずだった。
事実、ゴブリンは5匹程度に数を減らしている。
残ったそいつらだって、傷だらけだ。
なのに何故、隊長や先輩達がよろよろと後退しているのか。
そして、何故何名かは無残にも武器を生やして倒れているのか。
訳がわからなかった。
「逃げろっ、麻痺薬だっ!」
さすがは隊長というべきか、言葉の通りなら、
既に体の自由もおぼつかないはずなのに倒れこむことなく、
声を張り上げて僕たち、後続への指示を出す。
(逃げる? 皆を見捨てて?)
僕の思いは先輩達も同じだったのか、
一緒にいた先輩達が隊長達を助けようと駆け出す。
ワンテンポ遅れた僕の視界に、肥料でも撒くかのように
僕らへと小袋から何かを振りまくゴブリンが見えた。
そう、なぜかこの戦いは最初から僕達は風下だった。
罠だったのだ。
思わず目を瞑って剣を突き出す。
うめき声、倒れる音。
目を開ければ、僕以外はほとんど地面に倒れ付し、じわじわと
後退するか、匍匐前進のように移動するのが精一杯の様子だった。
そんな皆を襲おうと、包囲しながら近寄ってくるゴブリンが僕を見る。
『ギ?』
自分だけが立っていることが不思議なのだろう。
僕だって不思議だ。
まだ消え去っていない麻痺薬の煙は周囲にうっすらと漂っている。
良く見れば、僕の周囲に空間があった。
偶然じゃ、無い。
(しっかりしろ! 僕は、戦える!! 皆を守るんだ!)
教え込まれた訓練の結果が、今を見逃すなと叫ぶ。
剣を握りなおし、駆け出す。
「そこだっ!」
一番重傷そうな1匹へと襲い掛かり、あっさりと葬り去る。
ゴブリンも重傷なのは間違いない。
(まずは1匹! 囲みを破った!)
まだ何が起きたかわかっていない様子の残り4匹に順繰りに切りかかる。
3匹目へと切りかかったところで、背後に気配を感じた。
素人でもわかりそうな明確な殺気。
(しまったっ! 最後の1匹がっ!)
3匹目に剣が食い込むのを感じたが、
当然剣は振り抜いているし、姿勢も崩れているっ!
『ギャッ!?』
悲鳴に恐る恐る振り返ると、その1匹は剣が刺さったまま、丘に倒れていた。
「対複数の時は気を配れと言っただろう」
ささやくような声にそちらを向けば、その剣を投げたらしい隊長の姿。
「だが、よくやった。奴等の懐をあされ。麻痺用の薬があるはずだ」
「は、はいっ!」
今にも倒れそうな隊長の姿に我に返り、慌ててゴブリン達の荷物を確認し、
小瓶に入った液体を何本か見つけ出す。
隊長の指示に従い、面々に少しずつそれらを飲ませていく。
結果、全快とはいえないものの、歩くことは出来るようになった自警団メンバー。
無事を確認しあい、被害も確認する。
犠牲は、少なくなかった。
5名、それもかなりの経験者だ。
隊長が言うには、強そうな装備、つまり鎧であったりとかが
立派な相手を重点的に狙ってきたらしい。
立派な鎧や兜も、動けなければ隙間を狙われておしまいだった。
隊長はそんな中でもなんとか自分の身は守っていたのだからすごい。
「帰ったら色々と考え直さなきゃいかん」
でも、弔いのために部下であった彼らの亡骸を周囲の木の枝や
衣服で簡単な担架を作って運び出すその姿には
生き残った誇らしさより、部下を失った悲しみのほうが強く出ていた。
(僕は、生き残れた。それはきっと良いことだ。でも……)
殺し殺されて、続く戦い。
どこから産まれるかもわからないモンスターが相手では、終わりも見えない。
「……それでも、守れるものはきっとある」
「ああ、そうだ。お前は明日を守ったよ」
心に産まれる恐怖に震えながらも、剣を抱きしめて
誓う声に前を行く先輩が答えてくれた。
世界なんて大それたことは言えない。
僕には、僕が守れる世界がきっとある。
それは、小さな兵士の約束の話。
街で鍛冶チートも書きたい!
でもフィールドでパーティー組んで戦いもしたい!
なら両方すれば良いじゃない!という気もしますが悩みどころ。