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191-寄り道「選ばれた者」

相当短いです。

半分ぐらい。


本当は後半にエピローグ的につなげようと思いましたが、

雰囲気が違いすぎるなと思ったのでここだけ上げます。


その分、エピローグ分は増やす形で行きたいと思います。

──???


「うふ……くふ……」


笑いとも嬌声ともとれる静かな声が暗闇に響く。


新月の夜ほどではないが、手を伸ばした先も見えるか微妙なほどの闇。


魔法の明かりを使わず、獣脂を主とした

揺らめく灯りがわずかに角で部屋を照らしていた。


何かのリズムをとるようにゆらゆらと、手が動き、顔が揺れる。


まるで顔と手だけが闇に浮いているようなわずかな光の中で。


その部屋の主は男とも女とも、子供とも老人ともわからない

奇妙な姿をしていた。


少なくとも、直接見たことのある人間は手の指で足りる程度だというのだから

その特異性は際立っている。


笑い、声が漏れ、踊るように手が動く。


そこに何かがいるかのように。


「ああ……」


漏れる声は吐息のようだった。


部屋の主は楽しくて仕方がなかった。


遠い土地で、無数の命が自分の目的のためにあがいていることを知っているからだ。


それは命令を受け、怪物との無謀な戦いを繰り広げる兵士達。


それは命令を受けた覚えはないのに、最終的に自身に不利な行動をとる一般人たち。


ある冒険者は報酬のために危険度の高い相手を選び、

ある男はギャンブルに興じる。


大きな利益を手にする者もいるが、逆のほうが当然ながら多い。


少しずつ、平穏が薄れていく。


と、その光景に心を躍らせていた部屋の主の動きが止まる。


そして苦々しい表情となり、虚空を見つめる。


それは西の方角。


自身の力があまり及ばない、天敵の祝福が濃い地方。


直接出会ったことはないがなぜかある記憶の中で、

憎たらしい笑みで光り輝く天使を思い出し、手を握りしめる。


ふと、部屋に近づく気配に部屋の主は姿勢はそのままで

元のふわふわとした楽しそうな様子に戻っていく。


木の床をこするようなわずかな音とともに

気配は部屋の前で止まり、声も漏れない。


だが部屋の主は気配が誰であるか知っている。


知っているからこそ機嫌が戻るのだ。


部屋の前にいるのは人間が2人だと知っているのだ。


2人は男女であった。


この地方には珍しく、銀髪の男と金髪の女。


2人ともよく鍛え上げられた体をしており、

元は何か戦いを主にするか、自然を相手にしていたであろうことがよくわかる。


今の服装は他の人間と同じだが、どこか着慣れない様子が見て取れる。


膝をつき、服従の姿勢をとる男女は

その姿からは意外なことに、この屋敷にいる

他の面々と共通した部分を持っていた。


それはうつろな瞳と緩やかな動き。


他の人間が時折なるその状態に、男女は常になっていた。


それらは2人とも正常でないことを示している。


沈黙の後、音もなく部屋の一角、

外からの視線を防いでいた布が上へと持ち上がり、

部屋の主と気配の2人との間の壁をなくす。


ゆっくりとした動きで、男が何かを差し出すように

部屋の台の上へと乗せる。


それは部屋の暗さから言っても黒く、

どこかよどみのある物だった。


「出来ました……」


「うむ。下がってよいぞ」


呟くような声と、差し出された物品に頷き、

部屋の主は満足そうな笑みを浮かべる。


無言で手を動かすと、男女はどこかへと歩き出し、

また布が降りて部屋は主1人になる。


いとおしそうにその差し出された物品を手に取り、

主は笑みを浮かべる。


そして思う。


大きな力を持った自分ではあるが、

出来ないことはやはりあるな、と。


出来ないこととの一つが先ほどの男女が行っていることであった。


それは物を作ること。


ただ作るのではない。


部屋の主、ルミナスの天帝からして、秘術だと感じる物。


今回台の上に乗せられた球体は占いに使うような物であった。


透明でありながら黒い光を含むという不思議な物。


一般的には呪われているといわれる部類の物だ。


これを所持し、わずかながら魔力を注いで人生を過ごせば

莫大な富を約束するが死に際は悲惨な物になるという逸品。


「もっとも、そう書物にあるだけ……」


瞬間、先ほどまでのふわふわとした雰囲気はどこかに行き、

男女すら不確かだった姿も今は少年の物になっていた。


脱力し、床には手から零れ落ちた黒い球が転がる。


力のない瞳でその球を追いながら天帝は思いをはせる。


男女が行う一定の条件が整えば、不思議な物を作り出す術。


国の中にも多少は近い能力を持つ人間がいるが、

2人の能力は際立っていた。


それは素質の問題か、知識の問題か。


天帝が聞き出したところによれば、本人たちは

そういった技術があることは知っていても作ったことはないという。


そして、その経験も持っていなかった。


即ち、素人同然。


経験がないゆえに国の人間が出来るようなことはできず、

だが特殊な、書物にだけ登場するような物をあっさりと作り上げる能力。


出来上がるのは国に作り方は伝わるものの、

作り出すものは誰もいなかったものたち。


それは国の宝ともいえるが、天帝にとってはどうでもいいことだった。


少し、目的の達成が早まる程度の物だからだ。


そう、天帝にとってはどうでもいいことである。


男女が……どこから来たか、などということは。


力を感じ、抵抗する2人に従属させる術、

国に伝わる禁術を用いたがそれはいつだったか、と思い出せないほどだ。


「選んだからにはもう戻れない。それが責任という物……」


呟かれるのは、苦しさが含まれた物。


なおも呟こうとする少年が球体に手を伸ばした時、

部屋の闇が濃さを増す。


「くふ……」


部屋に闇と声が残る。


その声は笑いとも嬌声ともとれる静かな声だった。



目の前の何かに危険を感じきれなかったことが悪いのか、

選ばれたことに舞い上がったのが悪いのか。


怖さを察しきれずに受け入れてしまったことは罪になるのか、

そんなことが伝わればいいんですが。


こういったメタ部分はすごい悩みます。

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