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185「青の盾、赤の槍-2」

フォールヴァル砦の外側ではられた天幕の中、

魔法の明かりの元で人影が絡み合う。


多い側は人間、少ない方である1人はケンタウロスであった。


「もうちょっときつくする?」


「そうですね。あと少し……このぐらいで」


その1人の声に答え、人影は手の中で紐を少し引いた。


灯りに照らされ、反射光が天幕の中を踊る。


首元から丘を越え、グラデーションを描くように

素材が光を反射する。


「こっちはこのぐらいかな。ちょっと左右に動いてみてよ」


3人目の声が1人の後方からし、

ケンタウロスは上半身ごとひねるように体を動かし、

後方にいる少女を見る。


「どう?」


「音も少ないし、動いても邪魔じゃない。すごいですね」


そう笑うのはケンタウロスの女性体だ。


顔立ちは人間でいえば若いように感じるが、

実際一族の中では若手も若手だった。


人間でいえば10代後半から20代前半だろう。


だがケンタウロスは比較的長命である。


ファクトが知っているようなファンタジーの長命種族の特徴に漏れず、

ケンタウロスもその成熟具合は寿命に連動し、

人間と比べて加齢による変化はゆるやかなようだった。


事実、彼女も数えで30は超えていると笑いながら2人に告げた。


笑いとともに揺れる体が身に帯びるものは皮素材の服のような防具から、

金属部品を随所に使った装備へと切り替わっている。


前掛け部分を調整していた1人、キャニーはそんな相手を

ある種なんともいえない感情とともに見る。


見つめる先は胸元。


もしも防具無しに走れば邪魔だろうと彼女が感じる程度には、

そこには膨らみがあった。


今はファクトが調整した胸当てがその輪郭を覆うようにし、

双丘が光を反射するのみだがその大きさが

誇張ではなく、事実に沿ったものだというのだから

その視覚的衝撃はキャニーにとっては強烈な魔法攻撃にも等しく感じられた。


装着を手伝う前には実際に中身を確認している以上、

みせかけの大きさということはないことは彼女にもわかっている。


(逃れられない家系なのかしら? 母さんも……)


内心のため息を隠しながら、片づけをこなすキャニー。


その横を、同じように身支度に立候補した

砦勤めの女性兵士らが通り過ぎ、髪飾りを

あれこれと取り換えては確かめている。


武具を揃え、さらに着飾ることで

ケンタウロスの少女は完成していく。


どんな種族でも、女は女ということだろうか。


意見を言い合う人間とケンタウロスに違いはなく、天幕の中は

騒がしさで満たされていくのだった。


「あっちもそろそろ終わりかな?」


ミリーが見るのは隣の天幕の方向。


そちらでは男性体のケンタウロスが同様に

装備の提供を受けているはずなのだ。





「この短期間にこうも仕上げるとは」


「何、上は俺たち、下は……こういっちゃなんだが

 軍馬用の防具を流用したんだ」


物珍しさと、最初からあつらえたように自らにフィットする

装備を繁々と見るケンタウロスと、言葉を選びながら答えるファクト。


実際には、話が出たときにファクトがアルフォードと協力して

一から作り上げたのだがそれはケンタウロスの常識からは考えられないことだ。


上手く体格に合ったものを備蓄から選んできたのだとケンタウロスは自分を納得させていた。


同時に、ファクトの言葉に混じる遠慮に苦笑を隠さなかった。


「我々の半身が馬と同じなのは事実だ。

 貶すものでなければそう気にすることでもないぞ」


「そういってくれると助かる。で、どうだ?

 腰回りは適当に見繕ってみたんだが」


上半身は普通に騎馬兵用の鎧を、

下半身には軍馬用のかぶせるような物を。


腰回りには帷子をばらして、適当につないだものをファクトは用意していた。


手には元々使っていた槍を持ち、

威風堂々とした様子のケンタウロス。


ケンタウロスが人馬一体と称される戦い方をする証拠がそこにはあった。


広い天幕の中、試すようにケンタウロスは体をひねり、

腕を伸ばし、満足そうにうなずく。


ケンタウロスの体の構成はやや特殊だ。


上半身、人間でいうへその真上あたりまで、

つまりは胃までは人間だ。


この世界の人間は知らず、ファクトも解剖をしたわけではないので

それに確信は持てていないようだった。


だが実際に目の前で接して、疑問は確信へと変わった。


呼吸のたびに動く胸元、その大きさ。


合間に水を飲む際の体の動き。


それらが1つ1つを証明していく。


人間でいう胃のあたりから下腹部に相当する、

腸やそのほかの臓器回りが馬のような下半身の前足直前まであり、

馬の体に相当する部分は男の場合、多くが筋肉になる。


馬であれば内臓がある部分はほとんどは筋肉、

あるいは腸であり……性差の違いが存在する。


それでも馬と比べ、主要な臓器が人間型の

上半身に集中しているために強力な下半身というわけだ。


馬であれば下側にある胸やお腹といった部分も、

上半身にその部位があるためか、馬と比べると

妙に平らな印象を与えることだろう。


女性側は子供を儲ける必要があるため、

男と比べて馬力は低い傾向にあるようだ。


外見上は馬そのものだが、

心臓の強靭さ、肺の性能といった

中身は若干異なる、それがケンタウロスだ。


「問題ない。我々は確かに青の部族だが、

 これで赤の部族とも戦えそうだ」


力強く、とはいかないようだが

自信をかき集めるようにうなずくケンタウロス。


頷きとともに青い鬣が揺れた。


彼の言葉通り、部族によりケンタウロスの戦い方、

素質という物は大きく違うようだった。


着替えをしながらの話では、

どれもあくまでも彼らの中では平均的に

扱えるようだが、部族ごとの色に対する技術は

群を抜くとのこと。


赤の部族が単純に武器による攻撃に強いのに対し、

青の部族は武器を使った防御、受け流し等の

戦闘遅延、防衛に強みがあるようだった。


となれば、青と赤がぶつかれば負けることはなくても

押し返す、迎撃するというのは

余り相性はよくないようだ。


盾の隙間をぬけられていったら負けになることが多いのが世の中なのだから。


「俺の調べたことがある記録からは、全体の半分以上は

 未所属、正確には王に従うケンタウロスで

 王がいない時期は結構好き勝手にやってるとあったんだが」


「その通りだ。それぞれの部族に協力する者もいれば、

 己の考えで日和見となる者、襲撃する者、さまざまだろうな。

 場合によっては我々や他の部族を王の遺志をないがしろにしている、として

 襲ってくるかもしれん。そのためにもこれを」


ケンタウロスを正面から見ながら、気になっていたことを

口にするファクトに対し、ケンタウロスは頷き、

忘れ物を思い出したような仕草で

乾草のように束になった青い髪の束を差し出した。


「これは……鬣?」


「ああ。ロスター様から提供するように言われている。我々の鬣だ」







「えっほ、えっほ」


「目標まで後20周!」


太陽がまだ登りきらない時間。


フォールヴァル砦の周囲にはそんな声がいくつか響いていた。


声の主は砦の兵士たち。


10人ほどの集団となり、戦闘を念頭に置いた武装でなぜかランニングをしていた。


常日頃鍛えられている兵士達にとっては、

それでも何周かする程度であれば日常である。


狩りに出、長距離を歩くことはよくあることだからだ。


それでも今の彼らの姿は、昨日までの彼ら自身にとって、異常だった。


「はぁはぁ。これが、ケンタウロスの秘術か」


「ふー、ああ。すごいな。魔力の消耗による倦怠感が

 そのうち来るだろうことは怖いが、体力がここまで残せるとは」


2列になって走りながらの途中、兵士2人はそう語り合う。


そう、ケンタウロスから提供された鬣は魔道具、マジックアイテムと

同じような効力を発揮した。


身に帯びて魔力を通すことを意識すると、

あらゆるシーンにおいて体力の消耗が抑えられるという物だった。


勿論、普段魔法など使わない一般の兵士にとっては

その魔力の消費はそれなりの物だったが、

例えば500メートルを全力で走って何の変化もない、

となればその効果は強力な物として扱われた。


そうして、既に彼らは夜明けと同時に砦の周囲を

訓練として走っているのだ。


今のところ、脱落者はいないという事実とともに。


ケンタウロスが広大な草原を走り、

勢力下に置いている秘密がそこにあった。


「これならなんとかなる……か?

 統率されているケンタウロスとの戦いは我々は行ったことがない。

 不安は残るか」


「恐ろしく熟練な騎馬兵と戦うと思うしかないだろう。

 騎馬兵の割に両手が空いているだろうという凶悪さだけどな」


その訓練の様子を砦の壁の上から見ながら、

フェンネルはまだ見ぬ戦いを思い浮かべながらつぶやく。


その隣で、いくつかの透明な板のようなものを

手でいじくりながらファクトが答える。


ファクトが手に持つのは鬣を封入したアクリル板のような物だった。


実際の素材はたとえば水晶などの鉱石類が多く、

破損防止に植物由来の素材を混ぜ込んでいる。


本来はポーション瓶の元となる中間の素材だが、

加工を途中で止め、その中に鬣を入れたのだった。


これにより、鎖などを通して装備品のように

身に着けることができるようになるのだ。


古くからの風習通り、髪を身に帯びるように

布で巻き、体に押し付けている兵士たちの姿を見、

この方法を思いついたのだった。


勿論、この形状の板などはゲームにはない。


ゲームレシピを改良、もっといえばレシピからの

制作にこだわらない作成結果ということになる。


「確かにそうか……む? 妙な気配がする気がするぞ」


唐突に、きょろきょろと辺りを見渡したフェンネルは、

最終的には砦の正面、つまりは

広がる草原の方向を向いて止まった。


そして、慌てた様子で内側へと飛び降り、駆け出す。


「戦いの準備だ! 色なしがやってくるぞ!」


「!? あれは……グレーの鬣?」


魔法によるものか、マジックアイテムによるものか。


拡声器のように響き渡るフェンネルの声に

砦がにわかにあわただしくなる。


それは兵士の準備であり、

一般人の避難の開始である。


ファクトはそんな叫びを聞きながら、

慌てて遺物でフェンネルの見ていた方向を見る。


そこに映し出されたのは……土煙を上げ、

草原をひた走るグレーの鬣を持ったケンタウロスの集団であった。

なお、ケンタウロスの子作りは馬と同様の感じで。


そして搾乳は人間と同じ場所、

上半身の胸で行われます。


生まれた直後は抱っこひもを使うように

毛皮などで胸元で抱えて育てます。


生物の進化的にはどこかに道具を使うといったことがなく、

搾乳に苦労するタイミングがあるはずですが

ゲームの種族としてある日、今のまま誕生した彼らには

その歴史が存在しない……というちょっと悲しい設定です。

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