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182「狭間の砦-7」

時間設定ってカレンダー作ってもすごい悩みます。

「整列! 前!」


ある晴天の日。


フォールヴァル砦の東口で野太い男の声が響く。


ジェレミア本国からの援軍、

その部隊長による号令であった。


地理への習熟、そして周辺地域の怪物との戦いのため、

砦に到着後、兵士たちは訓練の日々を過ごしていた。


その中身は戦闘訓練と称した狩を含んだ実戦のほか、

居住地域を拡大するための土木的な活動も含んでいる。


一定の割合で現地の部隊員を混ぜ込み、

交流と知識、経験の均一化を図る意図もそこにはあった。


第二王子であるフェンネルはそんな兵士たちの姿を見、

特に口出しをするでもなく満足そうにうなずいている。


時に、脈略なく訓練や実戦のための狩りに同行するあたり、

兵士たちの緊張感を保つためにわかってやっているのだろうと

ファクトは感じていた。


そんな生活の中、ファクトはアルフォードとともに

鍛冶の依頼をこなしながらもいくつかの問題点を洗っていた。


時間は過ぎ、多くが片付いていく中、

1つのことがファクトのみならず少なくない人間を悩ませていた。


それはもう春も終わり、

夏がそろそろ本気を出そうかというのに

目撃情報のないルミナスの軍勢のことがあった。


ファクトや、話をした軍上層部などは

同様にこの年に何らかの行動を仕掛けてくるだろうとみていた。


そのために、このフォールヴァル砦は元より

東の国境、第一王子の赴任している砂漠地帯、

正確にはその手前の緑地へも兵士の援軍と、

冒険者ギルドの設置などが進められている。


北側の雪原地帯にも、王国の連名で

雪の女王への使節団も向かっていた。


元々は静かな山村出会った場所も、

北側の要衝として大きくなっているはずであった。


だが、どこからもまだルミナス自体の情報は得られていない。


ファクトらがこれまで経験したように、

街中にもふとしたところにルミナスの手によるものと思われる

何かは点在している。


謎の露店販売であったり、雑貨に紛れ込む謎のアイテムたち。


どれもこれも、ルミナスの放っていた危険な種、

現地民として生活する、いうなれば草の手によるものであった。


長い年月の中、本来の目的が分かっている人間はほとんどない。


いつ作ったかも本人たちが把握していないような物品が、

今になって影響を与え始めていた。


その結果、現地に混乱を与えることはできても

それが東にはうまく伝わらないという状況を生み出していた。


そういった事情が、ファクトが彼らのことをどうにか洗おうとしても

すぐにつながりを途切れさせてしまうのであった。


そう、こうして世間を騒がすこと、それが彼らの目的となってしまっていたのだ。


いつ来るかもしれない、見知らぬ本国のために……。


不気味な沈黙。


言いようのない不安感、焦燥感を上層部は感じながら

対策の手は止められない。


仮にルミナスのことが無くても、怪物への対策は必要なことである。


ファクトらの手により、人の手の力は増大した。


黒の王の行動により人類に、正確には

西方を中心とした陣営に対して不利益となるようなイベントが起きるのと同じく、

偶然は西方に利益となるような発見を産む。


それらの利益はオブリーンやジェレミアら各国の

改革を推し進めた。


征服をするつもりはなくても、じり貧から拮抗へは持っていきたい。


どの土地においても、西方諸国ですらそれは共通の認識であり、

様々な思惑が飛び交う中、冒険者という物は

国家間の潤滑油となって動き出していた。


冒険者による活動場所も連続して発見される転送柱、門により

大きく広がり始める。


勿論、道中の怪物による襲撃や、

結局は直接目的地に行けるわけではないという状況からは

一般人にとっては転送行為は高嶺の花に違いなかった。


フォールヴァル砦においては

交易に必要な時間、リスクが大きく減少するということが

大きな影響を与えていた。


ファクトがいち早く対策を考えていたというのが大きかったようだ。


長い狩りで余り、備蓄されている各素材をもとに、

わかりやすく駐留兵士らの支給装備を作ってしまったのだ。


王子の許可を取り付け、国の予算で

堂々と武具一式をどんどんと作り上げ、素材を消費した。


その後も、職人たちと相談して作り上げたものはブランド。


フォールヴァル印の高品質武具、といったスタイルを構築したのだ。


事実、彼らは知る由もない無限ポップにより、

森林地帯のモンスターは尽きることなく、素材は狩り続ける限り

事実上、無限に供給される。


ただ、その分消費する面もある。


激しい戦いで全体を見ればあちこちで消耗し、紛失する素材、武具たち。


そして新しく素材が供給され、武具が作られる。


そんな流通が流れを大きくしていった。


同時に商人が買取を行える場所を、

質の維持のためという名目で

目立つ主市場のみを推奨して流通量に目を配らせたのだ。


高品質で安定した儲けと、国に目を付けられるかもしれない裏取引。


細かい部分はともかく、主だった商人がどちらを選ぶかは明白であった。


一攫千金を狙う商人が素材の直接買い付けを狙うこと自体は

否定せず、大きな制限はかけなかったが

売る側としても計算のできる儲けというのは重要であり、

直接の取引はあまり一般的なものとならなかった。


ファクトの狙い、人間側の戦力底上げは

緩やかながら、確実にその成果を上げていた。


1人の英雄では10の戦場は同時に支えられない。


ワンマンの強者がすべてではないことを

ゲームプレイヤーであったファクトは強く感じていたのだ。


勿論、そんな中でも目を引く英雄候補に気を配るのも忘れない。


防壁を作る工事を見学しながら、

兵士たちと世間話に興じるファクト。


こいつ人一倍資材を運ぶんだ、

などと話題になる兵士と会話をしながら、

さりげなくちょっと強いアクセサリーなどを売りつける。


時には痛んだ武具をただ直すふりをしながら一般の兵士では

見えないような特殊能力を武具につける。


冒険者の狩に鉱石が欲しいからとついていっては

野営の食事にドーピング材料を投入する等。


ゲーム時代に積み重ねた現金、アイテム類を

微妙に減らし続けながらファクトは春を過ごしていた。


ファクトのいる場所以外でも、翻訳したという設定の

手記や手引書が作られるものや訓練を徐々に変質させていく。


素質ある冒険者がスキルを繰り出し、

腕のいい職人の作る武具には結構な確率で

特殊能力が付与されていく。


最初の町で、青い塊に互角だった勇者が

どくろにのる黒いカラスに勝てるようになるような変化。


明確に意識できる人間は少なかったが、

人類は変化していた。


その変化を……変化した結果をもし

マテリアルドライブのプレイヤーたちが

見たとしたらこう思うだろう。


あ、ゲームの強NPCらしくなってきた、と。


いうなれば頼りがいが出て来たということである。


女神と、天使の干渉が薄れていた時代と比べ、

人類は精霊戦争の時代に近くなっていっていた。


それが良いことなのか、悪いことなのかは

この時代の人間には判断できないことだ。


そして、もう朝の涼しい時間も

だいぶ短くなってきたと誰しもが感じる中、

平和な水に不穏の墨汁が一滴、広がるようにとある報告がフォールヴァル砦を揺らす。


「人馬だ。ケンタウロスの群れが近づいてくるぞーーー!!」


それは新設された物見台からの叫びだった。


ファクトが供与した望遠鏡の遺物にもよく似た遠見用のアイテムを使い、

草原を見張っていた兵士が第一発見者となったのだ。


予定とは相手も、時期も違う。


困惑の中、それでも兵士と冒険者は迎撃のために動き出す。


いつのまにか集団の中央にいる第二王子の号令を待つように、

東側に集中した人類側。


そうして、陽炎を伴い、土煙を上げながら影が近づいてくる。


人馬、ケンタウロス。


ファンタジーではポピュラーな、上半身は人間という種族。


特徴は下半身である馬の体による高速戦闘と、

上半身の人間らしい手、知能による巧妙な戦技術だ。


その実力は高く、いうなれば熟練した騎馬兵と同様の実力は

一対一では勝負にならないことも多い。


そんな相手が群れで迫る。


それは十分な訓練や実戦経験を積んだ兵士、冒険者ですら

緊張を強いられる状況であった。


そうして、肉眼でも相手が確認できるようになったころ、

その困惑も広がり始める。


「武器を構えていない……?」


「それに、あの旗はなんだ! 奴らは種族の名乗りはしても

 実際には素性は明かさず、一撃離脱が主のはず……」


規律を感じさせる陣形のまま、ケンタウロスの軍団は

普通の弓などの射程の外で停止する。


今にも緊張がはじけ、どちらが先に手を出してもおかしくなさそうな

空気の中、人間側が誰も暴発しなかったのは奇跡的と言っていいだろう。


要因は人間側の陣の中央で、手を出すなと一喝した第二王子のカリスマであった。


今も、ケンタウロスの集団の先頭にいるひときわ目立つ一個体を見たままだ。


そうして、その一個体を中心に

10名(?)ほどのケンタウロスがゆっくりと歩みだす。


攻めるには不似合いな、ゆっくりとした動き。


それには礼節と、緊張が感じられたと後にファクトは振り返った。


家紋のような刺繍がほどこされた巨大な旗を従えながら、

ケンタウロスの一個体は砦に近づいてくる。


互いの顔もわかりそうな距離、

防壁の外で歩兵の集団の中にいたフェンネル王子は初めて眉を動かした。


『人の子よ! 我は偉大なる草原の祖を継ぐ者が一人、ロスター!

 会談を希望する! もう一度いう、我らと対話の場を設けてもらいたい!』


異種族ゆえに伝わらないことを懸念してか、魔法による補助を感じる叫びが、

外にいた王子、歩兵のみならず防壁の上で弓を準備していた兵士や、

防壁の中で待機していた面々の耳にも届いた。


そうして、第二次精霊戦争の始まりとも

一部で称される人と、ケンタウロスの対話がその日、始まったのであった。


外伝を少しはさむかもしれません。

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