02「新しい生活へ-1」
※2011/07/08
銀塊描写を鉱石へ変更。
その他、微修正。
※鉱石類は現実的にはトンクラスからキロ単位の産出となるはずですが、
通常のもの~濃密度まであり、な
ファンタジー的鉱石類と解釈願います。
意識を飛ばしていた時間はどのぐらいだろうか?
「どうした? 大丈夫か?」
何かショックを受けたように口を開けたままの自分に呼びかけてくるガウディ。
実際にはかなり衝撃的な事件が起きているわけだが、
ここで焦るのもきっとマズイ。
「いや、あっさり答えてきたのは初めてだったからな、ちょっと驚いてて」
とっさの言い訳だったが、ガウディの言うとおりなら使われていない暦、それも1つ前、ってわけじゃないらしい。
なのに何故?
「なんてことはないさ、教会じゃ今も記録としてはマテリアル暦を使ってるからな、知ってる奴は知ってるんじゃないか?」
(教会というと、まだ金属精霊の信仰が残ってるのか?)
マテリアルドライブにも某宗教のような西洋的教会というか、信仰が設定上あった。
確か、万物には精霊が宿っていて、土の恵みも、鉄から作った武器の鋭さも、同化している精霊のおかげなのだという話。
どちらかというと日本の八百万な考えが混ざっていた記憶がある。
鉱脈探知で見つかる反応が精霊じゃないか、という話もここから来ているはずだ。ただ、ゲーム中でそれっぽいものに遭遇したという話は聞かなかった。
「なるほどな。ちなみに流行ってる訳じゃなく、俺の村の風習でね。暦といえばマテリアル暦だったんだが、会う人会う人、ガウディみたいに言うから話の種に良いかなと思ってね」
俺は小さな村の出身であることを装い、そうして色々話をしていると嘘をつき、最近の事件なんかを教えてくれるように頼み込む。
そう考えるとさっきまでの雑談で変な単語を出さず、積荷やその届け先あたりを聞くことに留めておいてよかったといえる。
「知らないとまずいことといえば、例えば今はグランド帝国、今の暦のグラン暦を作った帝国が分裂して小国が乱立していることと、モンスターが場所によって何故か活発になっていること、それによって戦争同然の紛争が各地で起きてることぐらいか」
ちなみにグラン暦だと124年らしい。
典型的な一代で成り上がり、二代目、三代目で維持できなくなってきたパターンだろうか。
庶民にゃ違いは税金の納め先の名前が変わったり、モンスターに注意して外出するぐらいなもんだ、とはガウディの弁。
「つまり、ガウディは忙しい立場ってことだな」
積荷は兵士用と思わしき武具だった。
質素な作りからして新兵用だろうか。
「ああ、そうだ。これを届けたらまたすぐに家に戻って続きを作る予定だ。ファクトがいなかったらそれも出来なかったところだがな!」
命の危機だったはずだというのに、豪快に笑うガウディ。
如何にも親方!といった性格のようだ。宴会でもやったら楽しそうだ。
「護衛も無しというのは物騒な気がするんだが、滅多に襲われない物なのか?」
「ああ、この街道自体はそのはずなんだ。街と街の距離も比較的近いし、互いの自警団が定期的に対処に行き来してる。今日は大荷物だから無理だったが、普段の荷物の量なら逃げれただろうしな」
肩をすくめて積荷を見るガウディになるほどと頷く。
確かに先ほどの追いかけっこでも、すぐに追いつかれるという状態ではなかった。
襲われたのに元気なのは、いざという時は積荷を投げてでも逃げるつもりだったのだろうか?
「で、ファクトはどうするんだ、旅を続けるのか?」
ふと、ガウディが聞いてくる。
下心無しに純粋に気にしている雰囲気が伝わってきたので、俺も答えることにする。
実は高Lvの変な存在です、ということは隠しつつ。
「いや、自分も実は鍛冶職人のようなことを村でやっていたんだ。金属製の食器作りや包丁なんかの手直し、初級武器の作成や武具の簡単な修理なら出来る。村を飛び出したものの、上手くいかなくってな」
言葉を区切り、少し落ち込む演技をする。
「出来ればどこかの街にでも小さな金物屋でも開ければと思ってるんだが、なかなかな。そんな訳で気長に散歩しながら気の向くままに一人旅の途中さ」
実際には包丁どころか使い古された武具が新品同様になるぐらいのことは多分出来るのだが、出身地的にはこのぐらいが妥当だろうと決めた設定を語る。
ここがどんな世界で状況にせよ、それを把握して今後のことを考える上で、拠点となる場所は必須だ。
現地のお金を稼ぎつつ、情報を集める。そのためにソロで戦闘することが回避できるなら言うまでも無い。
Lvだけなら恐らく圧倒的だろうが、戦闘能力に比例していない以上、無理は出来ない。
「そうか、何をやるにしても金は要る。先立つ物は、あるのか?」
俺の身なりを見たガウディの言葉に内心うめく俺。
一応、ゲームとしての通貨は少なからず表示されているし、多分取り出せるが、今の通貨が不明だ。
金塊やらを出しても怪しさ大爆発であろう。
「田舎だからな、金はほとんど無い。これが換金できれば一番なんだが」
そう言って、アイテムボックス(ガウディからは大きな布袋にしか見えないだろう)から素材として持っていたサスペンスで凶器になりそうな大きさの銀鉱石をいくつか取り出す。
「……それはどうやって?」
「? 村の山を掘っていたらたまたま銀鉱脈に当たってね。何か問題でも? あ、銀って今、あまり価値が無いのか? だったらまだあるけど」
銀はゲームじゃどこでもとは言わないが、結構な場所で作成できる素材の1つのはずだ。
その分、その鉱石も大量に出回っているのかもしれない。
こういった素材がダメなら多少不自然でも在庫として持っている武具を売るしかないか?と考えているとガウディは銀鉱石を隠すように片手をかぶせ、ささやく。
「逆だ。ファクトの出身地がどこかは知らないが、街中でウチの山から出ました、っていうんじゃないぞ。すぐに自警団どころか、貴族の兵が飛んでくる。そして、山ごと堀尽くされるぞ」
ガウディが言うには、長い人類同士やモンスターとの争いで資源は湯水のごとく消費され、今となってはモンスターの多い山の中や洞窟なんかにいかないとまとまった量の鉱脈は見つからないらしい。
ましてや、通貨の1つである銀貨を作るのに必須な銀は、金同様、高騰を続ける素材の1つなのだそうだ。
全部銀製の武器や装飾品なんかは上等の贈り物になるらしい。
今の銀貨数枚で庶民が一ヶ月一応、食べていけるらしい。
そりゃ貴重なわけだ。
(資源不足か。さっきのロングソードがすぐ消えたのはそのせいか)
道理で鉱脈探知を使った時の手ごたえというか、気配が薄く感じたわけだ。
「それは良かった。無駄に重いし、なんとかしたかったんだ」
「街で馴染みの無いファクトじゃ換金できない可能性が高い。嫌じゃなければ俺に預けないか?」
ガウディの提案は渡りに船である。
そもそも、換金手段もはっきりしないわけで、それが解決するのだ。
「むしろ、お願いしたいぐらいだ。ついでに空き家を探したりするのも手伝ってくれるとありがたいんだが」
「おう、これだけすぐにわかるほどの銀鉱石なら良い値段で売れるだろう。ファクトのことは仕事で知り合った奴の息子ってことにしておこうじゃないか」
ガウディに釣られて視線を向けると、いつのまにか街の外壁と思わしき壁が見えてきた。
10mほどはあるだろうか?
防御に十分なのかはわからないが、ぐるっと街を囲んでいる様子からしてかなりの規模だ。
馬車が縦に2台は入りそうな高さの門に門番が2人。
「ようガウディ。ご苦労さん」
「ああ、今回は大荷物さ。運ぶ苦労も考えて欲しいぜ」
顔馴染みなのだろう、気さくに門番達とガウディは挨拶を交わしている。
「こいつは知り合いの息子のファクトだ。鍛冶職人でな。俺の話を親から聞いたのか、村から出てきたんだよ。手ごろな武器作りや生活用品の簡単な修理とかなら出来るらしい。ここで修行がてら金物屋でもやりたいらしいんだ」
門番の探るような視線に気がついたガウディが打ち合わせどおりに語る。
「そいつは朗報だ。今は街に一人もいない鍛冶職人! いくらいても足りないし、この街に一人でも鍛冶職人がいることになればガウディだって武具作りに少しでも専念できるじゃないか」
笑う門番の言葉から、この街の置かれた状況がなんとなく見えてきた気がした。
それは戦いが多いということだ。戦争なのか、モンスター相手なのかはわからないが。
ガウディは修理も行っていたのだろう。
何故一人もいないのかは後で聞くとしよう。
「そういうこった。よろしく頼むぜ」
「ファクト君、君の未来が明るいことを祈るよ。ようこそ、グランモールへ!」
引き締まった顔になった門番から挨拶を受け、俺も丁寧に返す。
グランモールの街に入ると、石畳の道がかなりの範囲で丁寧に広がっているのがわかった。
少し進むと広場のような場所に出る。
馬車や人が行き交い、道の脇には露店が立ち並ぶ。
食料品や衣服、雑貨が主なようだ。
武具を扱っている店は見たところ無いようだ。
ガウディにそれを問うと真面目な顔のままである方向を指差した。
「武器を売る奴がいないわけじゃない。すぐに売れちまうのさ」
視線の先には片付け中の店。
看板には
【ナイフ、ショートソードあります。長剣在庫少!!】
とある。
「需要は多いが、作るための金属を手に入れるには街から離れるしかないからな。世間じゃ鍋に穴が開いたってなんとか使ってらぁ!」
そう笑うガウディの声を聞きながら、俺は1つの事実に気がつく。
つまり、その中でもガウディにこれだけの武具を依頼できるほどの経済力を持った人間がいて、戦力を整える必要がある状況がどこかにあるということ。
どうやら街に入る前に感じた懸念は気のせいどころか、思ったより火種は大きそうだ。
それでも平和すぎるよりは動きがあったほうが何かと便利だと思うことにする。
その後、ガウディの依頼先だという大きなお屋敷(結構な貴族らしい)まで付き合い、荷降ろしを手伝う。
ガウディはその場で、銀鉱石をツテで手に入れたと何でもないように言い放ち、その貴族の関係者と思わしき相手に売りつけていた。
屋敷からやってきた担当者と思わしき人間が、
鉱石を受け取って屋敷に戻っていく。
門番の人は鍛冶職人が1人もいないと言っていた。
にもかかわらず、何かを作る依頼はガウディに来ていない。
ということは別の何かに使うのか、
どこかに集めることにしているのか。
「大丈夫なのか?」
遠くなるお屋敷に視線を向けながら、口を開く。
「なあに、あちらとは長い付き合いだからな。売った事も1度じゃない。そんなこともあると思ってくれるさ」
担当者が戻ってくるまで小声で聞いてみると、
自信有り気な答えが返ってくる。
(そういえば、どうやって鉱石の値段を決めるんだ?)
疑問をそのまま口に出すと、明確な答えが返ってきた。
「むかーしむかし、すげえ技を持った冒険者やその支援者がいてな。
その頃の魔法や技を限定的に再現できる機械があるんだ。
結界を作る水晶球だったり、炎の玉が出る杖だったり、
今回みたいに、鉱石の良し悪しがわかる秤だったりな」
マテリアル暦が普通に使われていた時代からの骨董品だというから、
プレイヤー達のスキルなんかがこういった形で少しだが
伝わっているということになるのだろう。
と、屋敷から布袋を持った人間がやってきて、
ガウディに袋を差し出す。
「銀貨で200枚だそうだ。大分良い感じだったみたいだな。どうする?」
「任せるさ」
即答。当然である。
ガウディがグルになって……という可能性も無いわけではないが、
そこまでは気にしていられない。
銀貨の元になるものを売って、銀貨が手に入るというのも不思議な気分だが、
渡された代金の入った袋は想像より重かった。
恐らくだが銀以外にも混ぜ物をすることで銀貨としているのだろう。
屋敷から離れる馬車の上で1枚取り出して眺めてみる。
(お? これは、まさか?)
明らかに見覚えのある模様。
さりげなく懐から取り出したように装いながら、所持金からゲーム内でいうと1ゴルド、いうなれば1ギル、最低な単価だったはずの銀色の1枚を取り出す。
見比べるとまったく一緒だ。
重さは違うようだから、銀の含有量を減らして増産したんじゃないだろうか?
「餞別代りの虎の子の1枚がちゃんとしたお金で助かった気分だ」
「田舎じゃ銀貨1枚も大金だからな、良い村じゃないか」
何か言われる前にごまかすように言ってみたが、これは発見の上に驚きだ。
俺の銀貨は明らかに純銀に近い。
所持金をそのままか、素材としておおっぴらに使い始めたらこの街の経済がやばいことになる。
こそこそ使うことにしよう。
馬車はその間にも結構な距離を移動し、中心からは外れた、建物の建てられ方がずいぶんと散らかった感じのする街角へと到着した。
「ここに知り合いがいるんだ。確か工房に使えそうな広さの建物を持っていたはずだ。建てたはいいが、住むには向かないからって別の場所に住んでるがな」
そういってガウディは傍の建物に入って行った。するとすぐになにやら話す声がする。
音を立て、扉が開くとガウディと同年代に見える男。
俺とガウディを交互に見ながら、笑顔で話している。
「銀貨50枚で売ってくれるとさ。どうする?」
問うガウディにうなずき、先ほどの売却金から50枚を取り出す。
銀貨の価値を考えると、借りるならともかく、家を売るとなると安いような気がする。
念のためにガウディに確認する。
「掃除もしてないし、かなり古くなってるらしいぞ」
「そうか、気ままな1人暮らしならそのぐらいでいいさ」
築XX年のアパートのようなものだろうか?
4分の1ほど減った売却金の重さを感じながら、ガウディの案内で目的の建物に向かう。
先ほどの場所から少し進んだところにその建物はあった。
「確かに、古いなこりゃ」
扉を開け、中を見た途端に思わずつぶやき、立ち尽くす。
簡単に言えば吹き抜け構造の居間を中心に寝室他を接続しました、とい感じだ。
大きな暖炉のある部屋の周囲に小部屋となっている。
「でもこれなら暖炉を溶鉱炉に交換するのもすぐじゃないか?」
暖炉を確かめたガウディの言うように、暖炉周りは無駄に立派な作りで、溶鉱炉に変えても問題はなさそうだ。
「確かに。さっきの代金で色々買いこんで揃えてみるさ」
窓に降り積もった埃を指で撫でながら、苦笑する。
「頑張れよ。俺はもう戻らないと日が暮れちまうからな、すまん」
「とんでもない。何から何まで助かったよ。また今度寄ってくれ」
太陽の高さに焦った様子のガウディに別れの挨拶を言う。
「さて……掃除の前に確かめるか」
建物の周囲に誰もいないことを確認し、中に入る。
そして、キャンプを起動。
すぐさま馴染みの空間に自分はいた。
「いざとなったらここで本格的に作業することも出来そうだが、止めた方がいいな。アイテム類は無事、後は作成スキルがどうなるか、か」
アイテムボックスから普通の鉄素材を取り出す。
ゴブリン相手にも使った、武器生成-近距離C-《クリエイト・ウェポン》で作れるロングソードをちゃんと作ってみようと考えた。
理屈はわからないが、なぜか火の入ったままの溶鉱炉と金床の傍に向かい、準備をする。
ゲームでの仕様変更にあわせ、実際に素材を熱し、それを鍛えるべくハンマーを手に持つ。
ゲームだとここから何度も叩き、整え、徐々に形にしていく必要がある。
その面倒臭さは、作成スキルの意味があるのかと本気で運営に問いかけたレベルだ。
赤く色を変えた鉄素材だったソレを金床に乗せ、ハンマーを振り上げる。
(ロングソード……シンプルでありながら実直な力の象徴!)
ゲーム中、意味はないのだが、俺はいつも作る武具のイメージを浮かべ、脳内でつぶやきながら叩く癖があった。
最初の1発目を振り下ろす瞬間、何かふわりとしたものが腕にまとわりついてきた気がした。
疑問に思うまもなく、響く快音。
まずは1回目、と考えたその時、ただの鉄素材だったはずのソレが光に包まれる。
「へ???」
思わず手を止め、見つめる俺。
光が収まったそこには、新品のロングソードが一振り、いきなり出来上がっていた。
おまけに、何か小さい半透明の人影が何匹も剣にまとわりついて、笑っている。
と思ったら消えた。
「なんだ今の……アレが精霊?」
ロングソードを手にとって見るが、カウント表示は無し。変に脆そうな感じもしない。どの程度かはすぐにはわからないが、かなり上質の一振りのようだ。
なにやらほのかに金属以外の光で包まれているような気さえする。
頭を疑問でいっぱいにしながらもキャンプから出、
元の建物の中で剣を眺めてみるが変化は無い。
微妙に光っているのは目の錯覚ではないようだ。
「……掃除して生活する準備をするか」
考えるのを止め、とにもかくにも掃除だと自分をごまかすことにする。
後はひたすらに掃除の時間だった。
なんとか寝る場所を整え、疲れた俺は適当に毛布を出して寝転がる。
恐らくは俺の異世界での一日目、そしてこの世界で祝福の武器などと呼ばれるようになる武具達の一日目でもある夜が過ぎていく。
基本的には1つの依頼ごとにショートショートのように小話として作っていく予定です。