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161「戦争の足音-5」

時間は少しさかのぼる。


ちょっとした理由から、

方法自体はすんなり教えられる

精霊銀の作成方法を職人たちに仕込み、

その作成と加工も順調に進んだある日。


ギルドで後のことに必要な人員を確保した後、

俺は一人空の上にいた。


式典が行われるという街に先行するためだ。


夜のうちに上空からジャルダンで近づき、近くの森に降りる。


後はなんでもない振りをして、冒険者として街の門をくぐる。


ちょっと依頼で夜になったといえば軽いものだ。


街の外からでもわかる、騒がしさと夜の灯り。


まだあちこちの酒場は賑わい、人々が騒いでいるのだろう。


この門は冒険者に向けられて主に開いている場所のようで、

見える範囲でもそれらしい人間がいくつもの集団で歩いている。


「ふうん……やっぱりか」


俺は誰かに言うでもなく、小さくつぶやいて通りを歩く。


その姿は、恐らくはただ単に一人で夜の街を歩く冒険者にしか見えないだろう。


だが実態は違う。


俺にしか見えていないであろう、半透明の景色。


ゲーム時代とは若干見た目が違うが、

機能は同じような物、マップ機能だ。


大まかな土地の起伏、建物の配置などが2次元の画面として虚空に浮かぶ。


そんな中、不定期に波紋のように何かが広がり、

いくつかのポイントがマップの中で目立つようになる。


もともとのマップには無い機能だ。


これは最近作った物が関係している。


名付けて異常検知君一号である。


俺はそっと、胸元にかけたメダリオンを撫でる。


魔力に相性の良い白金などをベースに、

魔法の発動、あるいは魔力を持ったモンスターなどに

強さや距離で大体反応するレーダーのようなものだ。


以前、ギルドの講習を受けた子に貸し出した、

モンスターの位置が大体わかるものとは似ているが、違う。


これは世に出す予定もないし、言うつもりも無い。


完全に俺のマップ機能用に調整した特別品だからだ。


(既に来ているであろう式典の参加者の防衛用の仕掛けもあるだろうが……)


今回参加するのはどの国にとってもいわゆるVIPな立場なのは間違いない。


となれば、護衛だってちゃんといるし、対魔法ということもあるだろう。


結界とまではいかなくても、その類の魔法使いや遺物の1つや2つ、

用意していても不思議ではない。


ただそれも、その波動のポイントは相応の場所になるはずだ。


でかい宿だったり、式典が行われる建物のそばの施設であったりだ。


そう、間違っても町外れの寂しい住宅街の中にあるものではない。


そして街中をたまに移動する小さなもの。


これは装備したマジックアイテムの、しかも周囲に何かしらを発するタイプのものだ。


例えば個人用の防御結界を作り出す奴だったりだ。


魔法剣のような、属性を帯びた魔法の装備は

その力を解放していない限りはこういった反応を出さない。


つまり、この波動の主は常にマジックアイテムを発動させ、

その効果が外に出ているということだ。


ちらりと、自然に見えるようにして視線を動かす。


通りを行く、そんな波動の1つの主を見る。


見た目はただの冒険者。


この地方にありがちな、西洋風の顔立ち。


元のゲームの世界であれば、やっぱ白人って鎧が似合うよな、

とでも感想の出そうな極普通の冒険者。


だが俺がちょっと精霊にお願いすると、

その姿がゆれるようになり、正体が見える。


ゲーム的に言えば、特定地域にいるNPCに特有の

アジア圏をモチーフにした顔だ。


西洋ファンタジーをベースに、エッセンスとして

東の土地や文化があるMDにおいて、この顔は間違いない。


ルミナスの人間である。


もちろん、商売や移住などでこちらに来ているルミナス人員もいるだろう。


だが、そんな人間がわざわざ姿を隠して、こんなところに歩いているだろうか?


(今はまだ泳がす……すぐに捕まえるがな)


俺は目的の酒場の看板を見つけ、そちらに意気揚々と向かう振りをしながら

暗がりに消えるその男の背中に、そう心でつぶやいた。





「来てくれると思っていたぞ」


今日は父親がそばにいないからか、歳相応の喋りであるフィル王子が

独特の色をした飲み物を手に、護衛の騎士が壁際に控えている部屋で迎えてくれた。


「ああも丁寧に手紙を出されたらな。こっちもちょうどよかった」


勧められるままに俺も席につき、用意されていた飲み物に手をつける。


やはりというかなんというか、軽いものだがアルコールだった。


「うむ。まずは今回の式典だが、ジェレミアからは私が、

 オブリーンからはシルヴィア王女とシルフィ王女が、

 西方諸国からは今期の代表が、他の小国からも代表がやってくる」


フィルの説明では、あわせて10国以上の代表者が集まるらしい。


それだけ本気の式典ということでもあり、

立ち向かう相手が強大と思っているということだ。


あわせて、西方諸国を除く各国では

王自体が同じような宣言を行うらしい。


(ずいぶんと本格的だな……これは……)


「何かあったのか? そうでなければ大げさすぎるような気もするんだが」


実際にボスモンスターでもダンジョンから出てきたりしているのだろうか?


なんとなく目に見える脅威として、そんなことでもおきてるのだろうかと

予想した俺だったが、フィルの口から出てきたのは予想外のことだった。


「まだ多くの者は知らない話だが、ある日、国の神官達がお告げを受けたのだ。

 マテリアル教の上層部が受けたお告げだ。信憑性は高い。

 その内容は、光と闇の復活。協力し合い、祈り、困難に立ち向かえという物だった」


具体的にクラウディーヴァの名前は出なかったが、

語られる内容は俺の知る彼女の伝説と同じだった。


事態を重く見た各国は、

使者を送りあい、そして式典が決まったということのようだった。


この世界でマテリアル教が、精霊や彼女の存在が

重要であることがその動きの早さからもわかる。


「なるほど……」


「できれば式典はそれにふさわしいものにしたいのだがね。

 どうにもこれという目玉が無いのが悩みなのだ。

 代表が未来を語る、それだけではどうもね」


手にしたグラスでアルコールを飲み、

フィルはそうつぶやいて渋面となる。


俺はそれに答えず、グラスの水面を見つめる。


確かに俺は、ここに例のブツたちを売り込めればと思っていた。


カリスマというか、象徴としてはばっちりだからだ。


だが予想外の都合のよさに、恐ろしさすら感じていた。


まるで想定されたシナリオどおりに、

イベントアイテムを集めてイベントを動かしているような、ゲームのような感覚。


(だが、やらないわけにはいかないか)


俺の作った武具や道具だって、見方を変えれば

今俺が感じた感情を人に与えているに違いないからだ。


そう思い直し、そっと懐から鈍く光るそれを取り出す。


職人たちに作ってもらった精霊銀、

それをさらに加工してみてもらったメダル。


胸元につけられるような仕組みも導入した、デザインは

どこにでもありそうなアクセサリーだ。


その材料を除いては。


「俺も実は同じようなことがあって、今こんなのを職人たちと作ってるんだ」


「これは? ずいぶんと軽い……どこかで見たような気がするな。

 最近? いや……かなり前に城のどこかで……まさかっ!?」


がたっと、勢いよく立ち上がるフィル。


信じられないという顔で俺と、手元のメダルを交互に見る。


「ああ、精霊銀だ。これも運命なのかもしれないな」


そううそぶいて、同じようにいくつかの試作品をテーブルに取り出す。


「これを式典で発表しようと思う。国の代表者が精霊銀の装飾具を身につける。

 そして貢献した冒険者には今後、与えることがあるとかどうだ?」


俺の言葉にフィルが身を乗り出すようにしてテーブルに手をつく。


「これが、まだ手に入るというのか? 本当か?」


さすがに信じきれないのだろう。


困惑の表情が張り付いたままのフィルに、

ゆっくりと俺はうなずく。


「材料が材料だから量産は効かないだろうけどな。

 希少性を維持するには十分なんじゃないだろうか」


純銀が結構いるんだという俺の言葉に、

フィルは勢い良くうなずいている。


他にも精霊銀は多く生み出しにくい理由がある。


下手にやると倒れるような膨大な魔力の注入、

同時に行われる加工、鍛錬。


何より常に必要とされるのは形に見えないエネルギー、

精霊への真摯な祈り。


実のところ、俺より元々この世界で

マテリアル教を信じている教徒である職人のほうが、

まっとうに精霊銀を作成できていた。


俺という例外を除き、いくつも条件を満たした職人が

協力し合って作業しなければ精霊銀は生み出されない。


作ろうと思えば大量に作れるのだろうが、

精霊銀の意味を知るほど、多くつくることが恐れ多いとすら感じるはずだ。


なにせ、偶像崇拝の対象になるようなレベルの伝説の金属なのだから。


「もうひとつ。狙いたいことがある」


「なんだ? どこかの重鎮にでもなりたいのか?」


俺にそんな気はないことはわかっているからか、

冗談を飛ばしてくるフィルにつぶやくように、俺は口を開く。


「ルミナスの人間をあぶりだす。これを餌にして」


テーブルの上に置いたままの精霊銀の腕輪をつつきながら俺がそういうと、

壁で待機していた騎士がざわめくのがわかる。


先ほどの精霊銀のことでも多少騒いだが、

今のルミナスという単語への反応はそれ以上だ。


どうやらジェレミアは精霊銀のことをある意味良くわかっているようである。


それは置いておくとしてだ。


「餌……そうか、奪えそうな隙を作るのか」


考え込むようなしぐさをしていたフィルだが、

すぐにどうすれば餌となるかを思いついたのか、

合点がいったようにすっきりした顔でこちらを向く。


むしろ、私はどこを担当したらいい? 戦闘の予定は?

ちょうど広さのある倉庫がこの辺りにあるのだが。


などと聞いてくるあたり、彼もジェレミアの人間である。


戦うのが、大好きなのだ。


他の代表者との打ち合わせもしないといけないことをフィルに伝え、

あーでもないこーでもないと、夜は更けていく。





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